魔術師殺しの魔術
「一つ常識の確認をしよう。炎に最適効率で勝つには何をぶつければ良い?」
「規模にもよるだろうが水が確実だろう、小さな火種程度なら風でも吹き消せるが……」
「うん、水だね。じゃあその常識を実際にやってみようか……」
オーリンは先が尖った帽子を被った女性と杖が五本の二枚の紙を取り出す。
そしてその二枚が赤に染まる。
「『魔術師・杖の5』」
「っ!……『ウォーター・アローズ』!」
水の矢達が炎とぶつかり、テント内が蒸気で満ちる。
何とか相殺出来たようだ。
「……俺は水魔術はそこまで得意じゃない」
「でも相殺できた。君は事前に察知出来るから。あとはこれを相手が不完全な状態で魔術を撃たざるをえないくらい速くするだけ」
「爆炎には文字通り水を差してやれ、流水なんて埋めてしまえ、土の壁など雷閃で穿て、雷鳴は暴風で狂わせろ。全ての魔術で先手を打てば、君は魔術師殺しになれる。僕の世界、太古の時代での魔法使い殺しの活動を文字って『魔術狩り』とでも名付けようか」
とんでもない理想論だ、と吐き捨てることは簡単だ。
だが、ユウマにはそれは出来なかった。
少しでも強くなるべく、やれることは全てやるつもりだ。
そのためなら……
「相手を手伝ってくれ」
「勿論さ。提唱した僕が手伝わないでむしろ誰がやる?」
帝国派を相手するまでの方針が決まった。
昼間はオーリンにも色々あるため、セレスティアの相手やその他雑務をこなす。
夜間だけ共に魔術狩りを会得するための授業、といった感じになった。
その日は夜も既に遅くなっていたためすぐに解散し、次の日の活動に備えることにした。
◇◇◇
「セレスティア、体調は大丈夫か?」
「は、はい!心配をかけてすいませんです」
昨日、兵士達の前で挨拶した後、体調が優れなかったのかすぐにテントへと引っ込んでしまったセレスティア。
だが朝から普通に外にいることから大分良くなったのだろう。
「あ、あの……ユウマさん?」
「さんは付けなくてもいい。何だ?」
「ユウマさんは私を疑わないんですか?」
だからさん付けしなくてもいいと……疑い?
「なぜ疑う必要がある?」
「……これだけピリピリした空気の中得体のしれない女が紛れ込んだんです、直接態度に出してる人は少ないですけど私を怪しんでる人は多いと思うんです」
……自覚があるのか
彼女は今のところ敵だ、だが同時に被害者でもあることをユウマはオーリンから聞いている。
ただ何も聞いてない兵士達はユウマを含め、セレスティアを…外部の人間を片っ端から疑わざるを得ない。
戦火の跡がないこの森も穏やかではない、また戦争中なのだ。
「……一つは俺も外部の人間だから。君の事も知らないし、例え君に似た人物がここにいる人達に被害を与えていたとしても俺は知らない」
被害、の部分でビクッとセレスティアの肩が少し反応する。
(……例え侵入者だとしてもこれは分かりすぎやしないか?)
敵の考えてることが分からない、バレることは想定内で見捨てられたか?
はたまたバレていようがいまいがすぐに壊滅的被害を引き起こせるほどの使い手なのか?
結論は出ないが次に行く。
「二つ目、見たところ君はこの戦争の被害者にしか見えない……外部の人間である俺から見たらな」
「私が…被害者?」
ユウマは頷き、話を続ける。
「戦争は二つ以上の正義のぶつかりあいだと俺は思っている。だが、どちらの正義にも属さない人間も少なくない筈、俺はセレスティアをそういう枠の人間だと思ってる、巻き込まれた側のな」
当事者ではないユウマには『罪は無かった』とは言えない。
だがすぐに『死をもって償え』なんて無慈悲なことはさせたくないしさせない。
彼女も戦争の被害者の一人なのだろうから……。
「ま、怪しまれてる者同士仲良くしよう。一緒にいた方が彼らもあちこちに気を回さずに済むだろうし」
「……そうですね。短い間かもしれませんがよろしくお願いしますです」
軽く頭を下げながらセレスティアは言う。
◇◇◇
『アハァ、セレス~、貴女何考えてるの?』
うるさい、でてきちゃダメ
『今は貴女がやってることに興味があるから出ないわよ♪』
……どうせ私の感情は全部流れるから分かるくせに
『それはそれ。もう少し様子見して……貴女の感情が最高潮に至った時、壊してあげる』
結局、私の身体を手に入れたいだけなのね
『当然でしょう?折角身体を手に入れたのに自由になれないなんて……ゼロの物好きみたいに中で見守ってるだけじゃなくワタシも外に関わりたいのよ』
私はそう簡単に折れたりしない
『貴女との生活も楽しいけど、もっと刺激が欲しいのよ、ワタシは』
お願い、誰か私の中の悪魔を……快楽主義の堕天使を……止めて……