小王は問い、答えは
「敵だとしても、何か事情があるなら許すべきだと思うか?彼女も被害者ならば例え君の前に立ちはだかるとしても再び仲間に戻れると思うか?」
敵だとしても、という前提から言って彼女は敵なのだろう。
だがオーリンの言い方が気になる、詳しく聞いても彼は全ては答えないだろう。
恐らくは彼女の生死の分岐点はここ。
ここでの俺の選択で殆ど決まりだろう。
なら俺の答えは……
「戻れるに決まってるだろ」
「……この質問の重要度が分かってない、わけではないよね、君は」
そう、俺が彼女を救うと決めたなら彼ら王国派は彼女から受け取っていた被害を許し、仲間として扱えということを言ってるのと一緒だ。
今まで無関係だったユウマが軽く決めて良い事ではない。
「その被害は彼女が望んだことではないんだな?」
「……それは認めるよ、だが彼女は帝国派が台頭したとき、僕達の座を脅かした人物だ」
「だが、じゃあ何故誰も彼女の姿を見て恐れない?怒りに震えない?」
そう、敵だとしたらこれはおかしいのだ。
顔が見えない状態?だがあの銀髪はどう頑張っても完全には隠しきれず目立つだろうし印象に残る筈。
後方支援の一人?ギル・フレイヤの魔術師部隊のような者の一員だったとしたらまぁ被害を受けた、と判断するのも容易いだろう。
「それは……、はぁ……あぁ!もういいよ」
緊迫した空気が一気に霧散する。
「こう詰問する体勢は性に合わないしこれ以上話すと魔法で見た内容を吐きそうで怖い。出来ることなら今のうちに処分したかったけど虎の尾を踏みそうなのと君が思った以上に理性的に攻めてきた、それが僕の敗因かな」
どうやら彼女に対する判断はユウマに一任してくれるらしい。
「魔法内容を話してはいけない縛りでもあるのか?」
「いーや、これは僕の信条。こんな反則じみた方法で得た情報、教えたら確実に魔法だとバレるしそれが原因で運命が大きく動くことがある。今のところ良い感じに進んでるから崩したくないんだよね、僕は」
未来を話せばわざとその通りに動かない人もいる。
オーリンはそれを防止したいから殆ど話さないようだ。
「んー、じゃあ最後に一つだけ助言しとくね。……絶対に彼女を離すな、ってところかな」
「分かった」
目を離すな、という意味か?と解釈し、頷く。
オーリンはこれで重大事項は終了、と言わんばかりに肩の力を抜き、次に興味津々の顔でユウマへと目を向けた。
「ねぇねぇ、魔力眼ってさこういうのもちゃんと魔力属性分かるの?」
そう言うとオーリンは一枚の紙を取り出す、女性が描かれたそれは灰色の魔力を纏っていた。
「空間魔術だな」
「おー、正解。『世界』のカードは空間魔術系統を司ってるんだ」
それから二十枚ほどのそれぞれ違った絵が書かれた紙と十三枚ずつある剣と杖の紙がテーブルに並べられた。
「僕の魔法は大体この絵のカードと剣か杖のカードの二枚を使って発動させてるんだ。例えばだけど昨日は世界と杖が3本書かれたカードで超小規模の空間魔術を使ったね」
大きい数字になる度に出力が上がるらしい。
「例外としては1のカードは強いってところかな」
が、実際は13よりも1の方が強い、そして一日に三度しか使えない。
「ふーん、じゃあ君には僕の『何やってるか分からない』を利用した初見殺し魔法は使えないわけだ」
「属性が分かるだけで対応できるとは限らないぞ?」
その答えにオーリンは何故か目を丸くしてよく回る口が止まった。
「え、マジか。魔術の起動阻止ってもう常識じゃなくなったのか……」
「?何をボソボソ喋って」
「いやぁ、ね。ちょっとものは相談なんだけど……その魔力眼を使えば面白いことが出来るかもしれない、すぐには出来ないかもだけどやってみない?」
オーリンはニヤリと悪巧みをするような笑みを浮かべた。
皆が寝静まった夜中に王と青年が新たな技術を得るための特訓を始めた。