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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
五章 運命の紡ぎ手と太陽の覚醒
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森の中で

 

「……ユウマくん、僕は大抵の物なら好き嫌いせずに食べるけどさぁ……流石にこれは無い」

「食い物を探していた……だけどこれは放ってはおけないだろう?」

「まぁね……冗談はさておき、驚いたのはホントだよ、まさかお持ち帰りしてくるとはね」

 昨日同様、向かい合って座る二人、テントの中にあるベッドには『THE町娘』と言った感じの質素な服装で銀髪ショートカットの少女が転がっていた。


 時間は少し遡る……。




 ◇◇◇




「おはよう、今日はちょっと周辺の散歩にでも行ってもらおうかな」

 オーリンの弁では、『いくら王の客人とはいえどこの誰だか知らない人物を戦いが始まるまで一切外に出さないのはどうかと』と言った兵士達の声を押さえるためにある程度働いてもらうことになる、とのこと。


「周辺の木々にたまに果実がなってるしその辺の動物を見つけて狩ってくるのでもいい。何かしらの食材を調達してきて欲しい」

「わかった」

 こうしてユウマは単身、森の中へと足を運んだ。

 無論、帰り道が分かるように木々に印を付けながらだ。


(……生き物の気配が全くしない?)

 数十分は森の中を歩いた、しかし食われた果実やら動物の物だろう足跡はあっても動物本体が見つからない、それどころか気配すら感じられなかった。


(狩り尽くされた?いや、オーリン達がこの森に拠点を置いたのは市街に出なくても食料調達が出来るからの筈)

 そしてそれから数分後、事態は急変する。

 生臭い腐った死肉の匂いや血の匂いが鼻に刺さった。

 それを感じ取ったユウマはその匂いの方向へと駆け、途中で出会ってしまった。


 その少女に。




 ◇◇◇




「んー……まぁ方角は教えてもらったから今少数の兵士をそっちに回してるよ。本音を言えば確認してもらいたかったんだけど……」

「目の前にある人命を優先した」

「なんとなーく、君の根幹にある思想が分かってきたよ」

 やれやれ、といった感じに肩を竦めてオーリンは言う。

 目線は少女に向く。


「君が連れてきた子だけど……今は何とも言えないね」

「俺にやったみたいに運命魔術は使えないのか?」

「あれの使用条件は対象が覚醒状態…最低限意識がある状態じゃないと駄目なんだよね。欲を言えば本人に『過去を見て良いか?』とか聞きたいんだけど多分彼女はこの大陸の人、不用意に僕の手の内をバラして帝国派の密偵だったりしたら困るしね」

 最悪グサリとされちゃうよ、と握った拳をナイフを持ってる状態に見立てて腹を叩く。


「だからとりあえず起きたら君が応対してね?その間にこっそり僕が『見る』から」

 ユウマに使ったときは分かりやすく魔道具を使った。

 だが元々過去を少し見る程度なら魔道具無し、変な発光も無しで見れるらしい。


(……これは隠し事は一切出来ないな)

 恐らく兵士も全て過去を洗ってあるのだろう。

 少しでも帝国派の密偵の疑いがあれば処分するなどして。


「……んん、」

 と、考え事をしている間に少女に反応があった。

 閉じていた瞳を擦りながら起き上がる。


「ここは……」

「ここは森の訓練場だよ、お嬢さん。彼が森の中で倒れていた君を助けてくれたんだ」

 ユウマが何か言う前にオーリンが偽の説明をした。


「もしかして……」

「どうかしたか?」

「い、いえ!何でもないです……助けていただきありがとうございます……?」

 消え入りそうなほど小さな声で礼を言う少女。

 まだ状況を把握しきれていないのだろう。


「ユウマ・エクスベルクだ。君の名前は聞かせてもらえるか?」

「セレスはセレスティア・デュオフィール、です」

「……僕はフレイだよ」

 名乗りに答えてくれたセレスティア。オーリンは一応なのか偽名を名乗った。


「君に帰る場所があるなら俺が送ろう。遠慮はしなくて良い」

 ユウマは助けたからには責任を持って帰るべき場所へと送る、例え他にやることがあろうとそれくらいはやる意思がある。


「帰る……場所……」

「急がないならここに暫く居ても良いよ、お嬢さん。一人くらい女の子が増えても支障無いだろうし」

 過去を見終わり、安全と判断したのかオーリンが滞在許可を出す。


「……ごめんなさい、少しだけ居させて貰いたい、です」

「うん、じゃあ皆に紹介しよっか!こっち来て、僕が全部説明するから君は横にいるだけで良いよ」

「は、はい!よろしくお願いします、です」

 セレスティアを連れてテントの外に出る。

 すれ違う一瞬に彼女に聞こえないようにか小さな声でユウマの耳元に囁いた。


「今夜僕のテントに来て、伝えたいことがあるから」

 敵ではないものの敵の情報を知っていた、とかその辺の事だろうと判断したユウマはそれに頷き、自分に用意されたテントへと移動して夜まで小規模の魔術を利用して魔術のコントロール精度を鍛えたり未来の自分に言われた『魔力眼』のオンオフの切り替えの仕方を模索した。


(……なかなか上手くいかないな)

 自分の手に集まる赤い魔力……つまり火魔術になる前の魔力を見つめながら考える。

 どうやら意識の有無だけでは足りないようだ。


(そろそろ向かうか)

 すっかり日が落ちていた。

 待たせているかもしれない、と少し駆け足でオーリンの元へと向かう。

 見張りの兵が居たが話は通っているのか一瞬見られるだけで引き留められたりはしなかった。


「やぁ、待たせたね。僕もちょっと情報整理したかったし人気がない方が都合が良い話でね」

「こっちも修業に夢中になっていたから輝にしなくて良い」

「ふぅん?ちなみにどういう修業だい?」

 先ほどやっていたことを正直に全て話す。


「へぇ?魔力眼かぁ。やっぱりそういう特殊な眼ってあるんだね」

「元居た世界には無かったのか?」

「無い無い。創作物の世界の話だよ。そもそも魔力ってものが一般に周知されてないんだから」

 オーリンの世界では魔力は存在しないとされている。

 人間の想像の範囲外の出来事は魔法みたい、と称されたりするものの後日ただの自然現象で説明できてしまったり……とユウマからしてみれば信じられない事ばかりだった。


「その代わり科学ってのが発展しててね。うーん、こっちで言う薬学みたいなものかなぁ……」

 魔術無しで雷を産み出したり馬などの動物や魔力を使わない高速の移動手段もあるようだ。


「っと、僕の世界の話は置いといて……まずは本題を終わらせよっか」

 お喋り大好きだからついつい話しすぎちゃうんだよね、と加えて話を本筋に戻した。


「内容は勿論、お嬢さんの事だよ」

「……敵なのか?味方なのか?」

 その質問にオーリンはすぐ答えない。

 どう答えるべきか悩んでいるのだろうか。


「逆に君に聞こう、ユウマくん」

 質問を質問で返すオーリン。

 だが悩んだ末の、この対応なら必要なことなのだろう。

 彼は運命が見える男なのだから。


「敵だとしても、何か事情があるなら許すべきだと思うか?彼女も被害者ならば例え君の前に立ちはだかるとしても再び仲間に戻れると思うか?」




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