小さな王
大変お待たせしました
二作目が一段落ついたのでこっち進めます
「このテントで話そっか。大丈夫、僕は君の味方さ」
初対面なのにやたらフレンドリーな子供に連れられ、来たのは一番大きなテント。
中は質素だが機能性を重視してあるのか多くの魔道具らしきものがあった。
「ごめんね?今国内がゴタゴタしてるからさぁ~、こんな間に合わせしか用意できないけど許してね」
そう言うと子供は懐から一枚の長方形の紙を取り出した。
「『世界・杖の3』……はい、どうぞ。簡単な茶菓子と粗茶だけど」
紙に宿っていたのは灰色の魔力、空間魔術の力だった。
その紙はテーブルの上の空間に穴を開け、皿に乗せられた茶色い円盤のような食べ物が数枚と陶器のカップが二客落ちてきた。
「?どうしたの?座りなよ。あ、そういえばこっちにはこれ無いんだった……中央大陸にもやっぱり無い?煎餅って食べ物なんだけど……」
「っ!どうして俺が中央大陸から来たと分かった?」
質問を無視し、別の質問で返したが少年は気分を悪くすることもなく、テントの頂点を見ながら数秒考え、名案が思い付いたのか指を鳴らして笑顔になる。
「それにはまず僕の出自と固有魔術から話そっか。ほら、座って座って。焦っても良い運命は巡ってこないよ?」
「……」
特に着席を断る理由もなし、目の前の少年はそこまで裏表があるような人物にも見えない。
ひとまず言うことを聞き、座った。
◇◇◇
「まず、僕の名前はオーリン・ヴァルフレイ。一応ギリスロンドの王さまだね。そして僕の固有魔術だけど……」
サラッと王であることを告げ、それは些細なことのように流してオーリンと名乗る子供は手のひら大の厚紙の束を懐から取り出す。
「君は占いって信じてる?」
「占い?」
占い……主に星の流れや『気』と呼ばれる魔力とはまた違った力によって人の未来を見たり、恋人との進展度合いを見たりするもの……らしいがユウマはあまり興味がなかった。
ギル・フレイヤにも黒い天幕の中で魔道具らしき透明な球を前に出して座り、ローブと仮面で顔を隠すいかにも怪しい占い師などが居たが正直胡散臭いとしか思えない印象だ。
「まぁ大抵の占い師は客商売って性質上それっぽいことを言ってこれを買えば『運勢が上がる!』とか言って何の価値もない物品を買わせて収入を得てる……所謂ニセモノだね。だけど僕は本物さ」
そして自信満々に本物の占い師を名乗る子供。
ユウマが中央大陸から来た、というのもかまをかけただけかもしれないので今のところ信じるには値しない。
「僕の固有魔術は運命魔術。無数にある運命を見ることが出来る魔術だ。試しに一つ君の過去に辿ってきた運命を見てみようか?」
「そんな事が出来るのか?」
「目の前に対象がいるならわりと正確に読める」
オーリンは紙束を混ぜ始める。
剣が複数本描かれていたり魔術師風の女性が描かれたもの、太陽や月、と言う感じに様々な紙があった。
「行くよ……『ラスト・メモリー』……随分と波乱万丈な人生だね」
「そんなにすぐに見えるのか?」
「このカードはただの魔道具だからこれが占いの結果ってわけじゃない。でも僕の頭の中には君の旅路の一部が浮かんできたよ」
魔術を使った瞬間、全ての紙が光を帯びたがすぐにそれは収まる。
それからと言うもの、先日のヤマの国による襲撃、魔物となった聖騎士王との戦い、ギル・フレイヤでの天使との遭遇などここ最近の出来事を全て言い当てられた。
「……とまぁこんな感じなわけで、少しは信じてもらえたかな?」
「信じるしかないだろう……こんなのその場にいたか頭の中を読むかくらいしないと分かるはずもない」
「よかったよかった。他人の記憶を見るのはあまり良い気はしなくてねぇ、これでも納得してもらえない時もあるのだからもう堪ったもんじゃないよね」
オーリンは肩を竦め、カップに紅茶を息で少し冷ましてから啜る。
「じゃあ本題に入る前に……今のギリスロンドの情勢について話そっか」
こうして小さな王との会話は始まった。