外伝 愚者の旅路2
とりあえずこれでリュート回は終了
また適当な時期にやるかも
「初めて会ったときは、魔人は敵だ。という意志が強かったからつい斬りかかってしまったよ。うん、あれは我ながら冷静ではなかった。仲間の命の恩人に対してな」
苦笑しながらついこの前の出来事のように語りはじめた。
「その頃から黒髪は魔人の特徴だったのか?」
「あぁ、私は黒髪が見えるや否や敵扱いした。しかし、よく見れば肌の色は紫ではなく人間と一緒、魔人や獣人への偏見たっぷりの肌色という色だ」
「……ガルド・リベレイは魔人ではなかったのか?」
「いや、正真正銘魔人らしい。ただ私にも教えなかった両親の話を聞けば人間の血が混じっていたのかもしれないがな」
私の予想ではどちらかの親が人間だ。と付け加えて言う。
確かに、突然変異にしては異様すぎる。
まるで、俺達ヤマの国の人間のよう……俺達と同じ?
「ということは俺みたいな姿だったということか?」
「そうだ。もしかしたら遠い先祖なのかもしれないな」
実際そうだろう。
あのヴィルマ・アルファリアとか言う狂人の話を聞いた後だと特にそんな予感がする。
「今のヤマの国とか言う地域はガルドの一撃で地が割れ、分かれた場所だ。私とあの男が出会ったのもその地域だった。西の端が人間の集落がギリギリあった場所だ。それ以北は完全に魔人の領地で人間が入れば生きて帰れないとまで言われていた」
実際の生き証人が語るのだからあの狂人は正しいことを言っていたのだろう。
ゼウスブルートにはこの事が書いてある資料でもあるのだろうか……。
「その集落の近くで出会った黄金の髪の女性に若い私は恋をしてしまった。彼女が魔人王の娘だと知らずに」
「なっ!ガルド・リベレイは魔人王の血縁ではなかったのか!?」
「あぁ、あの男はその娘と婚約して魔人王となった。初代との血の繋がりは私の知る限りない」
娘しか産まれなかった苦渋の選択だったのだろう。
ただ王族というのは血を重要視するのがリュートの常識だったため、それが異様に思えた。
「その時代の魔人王は強さを重視するタイプだったらしく闘技大会を開いて勝ち残った者を選んだらしい。私もここからは又聞きだが」
聞けばそれぞれが王に匹敵する権力を手に入れて友好条約を結ぼうと企んだらしい。
魔人王の娘もヘクトに恋をし、それを望んでいた。
「婚姻関係にあるだけで一度も同じ床に入ったことがなかったらしい。律儀な男だったよ。あいつは」
「……子孫は残っていないということか?」
「私の知る限りは、な。だが、たとえあの二人の子が居たとしても私は友を恨まんよ。それが正統な物ならな」
そう言いながらもヘクトは少し肩を落とす。
本音を言えば友といえど恋人を寝取られる気分は良くはないだろう。
「ここから私の記憶はない。意識が戻ったのは全てが終わった後だ」
「何が起こった?」
「私の精神は天使に侵された。そして知らぬ間に友が好いた人間の村…私の故郷であり友と私とフローライト……魔人王の娘が出会った最初の場所を焼き払ったんだよ。私の皮を被った天使がな」
ヘクトの手が震えている。
未だに怒りは強く残っているのだろうか。
「断片的な記憶しか残っていないが気づいた時には私は友に貫かれていた。しかし、貫かれたのがあの禍々しい刀で無かったことが幸運だった。あれには全ての生命を絶つ呪いがこめられている。あれに貫かれていたら今頃私はこの場に居なかっただろう」
完全な死に損ないだな、と苦笑する。
「そこからは友ととある約束をし、天使に私の肉体が回収され、この有り様だ。どうやら天使は魔人の作り方を心得ているらしい」
ヘクトの今の種族としての名は特殊らしい。
頭部からアンデッド、ゴースト系の特徴も見れるし肌の紫色から魔人とも取れる。
しかし、元々は人間だった、何と言えば良いのか分からない複雑な状態だった。
「さて、話は終わりだ。君はこれからどうするつもりだ?」
「俺は……とりあえず母親に会いに行ってそれから火の最上位精霊を探す」
「居場所の心当たりはあるのか?」
「……」
全くもって無かった。
二ヶ月で準備しろ、と言われたがユウマも探してるとあっという間に過ぎていく。
力か弟か、どちらかを諦める必要があるかもしれない。
「良かったら私が同行しようか?幸い、そういう力の根源がありそうな場所は色々知ってる」
「俺はまだあんたを信用してない」
「警戒心が強いのは良いことだ。だが時には大きな流れに身を任せて見るのもありではないか?」
一理ある。
千年前には人間側で最強を誇った人物ともなれば戦力的にも心強い。
「それに、君についていけば懐かしい連中に会える気がする」
「本当はそれが目的だろう」
「はは、否定はしない」
数秒の思考の後、リュートは手を差し出した。
「今回は頼らせて貰いたい」
「承知した。青年……そういえば名前を聞いていなかったな?」
「リュート・エクスベルクだ。あんたの事はフェムトって呼んだ方が良いか?」
「助かる。どうやら私はそれなりに有名人らしいからな」
二人が握手をし、小屋から出ると村長が出迎えた。
その横には黒い鎧が置かれていた。
「村長、これはどういう……?」
「行くんだろう?フェムトさんにはフェムトさんのやりたいことがある筈。こっそり村の皆で鎧を直してたんだよ」
その鎧は新品同然、とまではいかないがソウジによってつけられた傷の大半が直っていた。
「木を斬り倒すのは力が無きゃ出来ないが土魔術の心得があれば鉱物はいじれる。村の土魔術師を総動員して直したよ」
そう村長が言うと周りの家から広場へ人が流れ込んできた。
「フェムトさん立派な家をありがとう!」
「いってらっしゃい!」
「またいつか帰ってきてね~!」
「皆……感謝する!」
慣れた手付きで鎧を身に付け、小屋に立て掛けた剣を背負う。
「フェムトさん、今度帰ってくるときこの村にはちゃんと名前が付いてるだろう。楽しみにしておいて欲しい」
「あぁ、また必ず帰ってくる」
そうして二人は村を出た。
その村は数年後、フェムト街としてラミティ山に登る者達が必ずと言って良いほど宿泊する人気の街となる。
残り7125
何の数字?さぁ……ね