ヤマ国侵略事件 顛末2 魔人の王城にて
ここはノーザネスの中心にある城、魔人達の本拠地。
禍々しい装飾が施されている玉座に座る女性とその近くの椅子に足を組んで座る男がいた。
「ちっ、逃げ足が早い奴だ……」
「まぁまぁ、手傷は負わせたし良い落とし所だったでしょう?」
イラつくインウィディアをルクスアリアが窘める。
「でもガルド様、結局帰ってこないのね」
「あれはソウジ・クロスヴェルドと体を共有してる。人間の体に魔人の魔力という矛盾した存在だ。……中にはあのいけ好かない堕天使と怠惰も居るから問題はないだろう」
「一つの体に幾つもの自我があるって……ふふっ、やっぱりガルド様は面白いわね?」
「……この世の生き物は皆そうだ。感情という複数の自我で出来ている」
爪を噛もうとするが帰還した時にルクスアリアに綺麗に切り揃えられのを思い出し、その手を下ろす。
「俺達にはその『当たり前』がない。根絶されている訳ではないが単一の感情を元に形成された人格で永遠を過ごす」
テミスがインウィディアを人形と称した。
実際その通りなのだ。
王によって分けられた感情を元にし、人格を創られた。
子供の人形遊びの発展形だ。
事前に設定された感情を元に動かされてる。
全て、あの男の手の上だ。
だから、あの男に嫉妬し、解答を求めた。
何故俺にこれしか感情を与えなかったのか
何故一番醜く、他人の持ち物を羨ましがる事しかできない俺が最強なのか
返された答えは簡単だった。
『それは俺がとある男を羨むあまり、嫉妬に狂いかけた事があったからだ。俺にとって一番強い感情だった。だからお前が筆頭でお前が一番強くなったんだろうな』
この頃の王はまだ笑顔があった。
だが、同時に寂しそうでもあった。
嫉妬という感情が欠落したという事は一番その感情を向けていたその男への感情も欠落していく。
自身の人間性が失われていっているのを認識したからだろう。
「ねぇ、インウィディアはガルド様に感情が戻って欲しい?」
「……分からないな。だが」
「だが?」
「……何故かあいつの寂しそうな笑顔を思い出した。それだけだ」
純粋な魔人ではなかった王。
先代の娘の婚約者兼、次代の魔人王を決める闘技大会で勝ち残り、自身の力を証明したが、この王城での居心地は最悪だっただろう。
(しかも王女は……フローライト・ルイン・フェクターの心は別の方向に向いていた)
それも王が嫉妬していた人物……強さ以外勝てる点が見つからなかった人間に。
一つだけ手に入れた女の心も人間に焼き払われた。
ただ魔人の目撃証言があっただけで、村ごと。
それも友が率いる軍に。
そして女を求める色欲も捨てた。
その結果出来た人格が彼女と生き写しの姿の色欲だ。
元々王から産まれた俺は彼女の事も知っており、度々公務を俺に押し付けてお忍びで会いに行ってた。
フローライトと比べると劣るが、傍目から見ても美人の部類には入っていた。
突然そっくりの女が配下に加わった。
それで何が起こったのか察した俺は、『やはり人間は救いようがない。』と斬りに行こうとしたが王本人に止められた。
『ちっ、なんでだ?あんたは怒りまでは捨ててないだろ?フローライトに気を遣う必要はない』
『待つんだ。俺はまだ……アイツを……友を信じたい』
その頃の九罪はまだ四人、嫉妬、傲慢、暴食、そして新しく加わった色欲のみだった。
初めて全員の意志が一致したと感じた。
『ここまで王が苦しみながらも信じる王の友は何を成した人物だ?』と。
王の記憶は微量ながらも全員継承している。
たった二人で世界を変えることを誓い、約束通り王は魔人王となり、友は新たに生まれた役職、聖騎士の王となった。
だがそれから世界は何も変わらない。戦場で出会い、戦いを何度も繰り返すだけで魔人の根絶、亜人の迫害を目標に今日も協会勢力は猛威を振るっている。
王から聞く印象と実際に出会った時の印象も大分違く感じた。
人情深く、義理堅いという話が戦場では冷酷かつ他種族迫害の意志が普通の聖騎士以上に強かった。
『何かの間違いだ』『俺は最後まで親友を信じる』
『きっと水面下では和平の……』
そうして王はついに壊れた。
感情も消え、九罪の魔人が揃った。
それからは歴史をなぞるのみ。
天使も悪魔も何柱も降臨した全面戦争へ突入し、聖騎士王と魔人王は消えた。
「……俺はあいつの道を切り開く刃になるのみだ。『九罪の魔人』筆頭らしく、な」
「ふふふ、何だかんだ言ってもインウィディアもガルド様が好きなのね」
「好き?そんな感情があるのはお前だけだ。ルクスアリア」
俺達は俺達の名に従って行動する。
いつでも俺の行動理由の根幹にあるのは『嫉妬心』だ。