命の選択
「ここでもう一度死んで息子を生き返らせるか。生き恥を晒してこれからもこの世に居座るか。二つに一つだ」
リュートにとってかけ替えの無い物が二つ並べられ、どちらかしか生き残れない事を告げられた。
「俺が遅れたのもあるがユウマ・エクスベルクを蘇生するには時が足りなかった。リュウマ・イガミ、お前の持つアマテラスならその壁を越えて蘇生が出来る筈だ」
「……確かにその方法はある、だがあれは」
「使用者の命を糧に、しかもその場で生き返るわけではなく肉体、精神全てを引き継いだ上での『転生』という形……だったな」
「なっ!?何故ヤマの国の最高機密に等しいアマテラスの権能を!?」
「?……出身がヤマの国だから、では理由にならないか?」
それならリュートも知っててもおかしくない、だがリュートはそもそも魔剣はアマテラスとは別の一振しかヤマの国には存在しないと思っていた。
「貴様、いくら調べてもヤマの国出身ということだけしか分からない。しかし、誰からも生まれた記録が残っていない。だから勧誘もしなかった、貴様は一体何者なんだ!?」
「……少し魔剣や神代器械に詳しいだけだ。こんな問答をしてる間に時間は減っていくぞ?」
「くっ、だが私には償いが残って」
「てめぇ!息子の命より大事な物があるのか!?」
リュートがリュウマの胸ぐらを掴む。
残酷だがリュートにとって最優先はユウマだった。
そのためなら実の父に犠牲になることを強いるまでに……。
「良いか聞け!龍翔。『蘇生』ではなく『転生』だぞ?この場で生き返るのではなく何処かに『転』じて『生』を成す技法だ。その先が安全である保障はない!ならば生きて償いの道を歩むのが…」
「『日輪の加護』で一ヵ月は死なない。その間に何とかすればいい話だ」
「だから貴様は何故そんな事が分かる!?これが過去に使われた事は確かにあった。だが誰一人として国へ帰って来たという記述はない!龍翔、二人で生き延びよう!勇真の分まで」
「分かった……」
「そうか、ぐあっ!?龍翔、何を!」
リュートはリュウマを突き放し、落ちていたその剣、アマテラスだけを自分の手元に残す。
「親父がやらねぇなら俺がやる。構わないですよね?ソウジさん」
「ああ、それの使用条件はわりと緩いから大丈夫だろう」
「龍翔!?待て、早まるな!!」
「うるせぇ!クソ親父!」
リュートは折れた自身の剣をリュウマへ向けて近づけさせないようにする。
「俺は自分が死んでも何処かでユウマが生きていればそれでいい。あいつがいないなら死んだ方がマシだ!」
「それほどまでに……お前が勇真をそこまで生かしたい理由は何なんだ!?」
「自分よりも弟を優先する兄が居て何が不思議だ!?てめぇはもう黙ってろ!クソ親父!」
リュートがアマテラスに魔力を注ぎ出すと、刀身が陽光を反射し光り輝く。
「ソウジさん、ここからどうすればいい?」
「魔力でそれを覆ったら後は自分の血を刃に流して蘇生対象に刺すだけだ。その時に刃に流していた血の持ち主が死ぬ」
それを聞いてリュートは躊躇無く手首を切り、上から刃に血を滴らせる。
「じゃあな、クソ親父。生きる気があるんならユウマを探せよ?」
そしてその刃が地に横たわるユウマへと降ろされた。