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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
四章 ヤマの争乱
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憤怒に勝れ

 

「……『ブリザード・アローズ』」

「どおりゃぁ!!」

 二人と共にリュウマを囲う膜を破壊しようと画策していたが纏う炎に氷の魔術は威力を落とされ、物理系の攻撃も全く歯が立たない。


(兄さんは……まだ時間がかかりそうだ)

 炎に隠され、リュートの姿はユウマの側からは見えない。

 だが必ず勝つと信じている。


『二人とも、兄さんが来るまで二人で時間を稼いで欲しい』

『あ?策はあるのか?』

『あぁ』

『勝算は?それによっては話が変わる』

 たった今思い付いた策を実行するには少し時間がかかる上にリュートの存在が必要不可欠。

 はっきり言って勝算は低かった。


『百パーセント。必ず成功させる』

『……正気か?』

『ぷっ……アッハッハッハ!こいつは傑作だ!やっぱりお前はうちのリーダーの弟だ!』

 強がりで『必ず』成功する、と伝えて返ってきたのは疑う声と大笑いだった。


『俺は乗るぜ。あれを倒せるんだったら俺の命、くれてやるよ』

『……はぁ、分かった。信じて耐え凌いでやる、だから必ず成功させろよ』

 二人の記憶には似たような事が前にもあった。

 突如報告になかった神格種によってその場の全員が死を覚悟した時、同じように成功率百パーセントの策がある、と言った者が居た。

 無論、今のような通信石を用いた念話ではないため声に焦りがあり、表情も苦し気だった。

 だが彼は百パーセントを持ち出してきた。


 みんなどうせ死ぬなら、とその策を実行してみれば得たのは神格種討伐という結果だった。

 それが二人が所属するチームのリーダー、リュート・エクスベルクだ。


「おおおおぁぁ!!!」

「……何も考えず特攻か、愚かなっ!」

 シュバルがリュウマに向けて渾身の力を振り絞って武器を振り抜くも、その前に空間収納から新たに出した刀で腹部を突き刺した。


「もう少し賢ければしななかったものを……む?」

「ッハ!かかったな!?…『アース・バインド』!」

 リュウマが突き刺した刀を引き抜き、完全に息の根を止めようとするがいくら引こうと刀は抜けなかった。

 シュバルはわざと重傷を覚悟で特攻し、鍛え上げた腹筋と得意の土魔術によってリュウマの動きを止めたのだった。


「ならば焼き尽くすまでだ」

「そうはいかない、……『メガ・ブリザード』!!」

 周囲を漂う炎がシュバルを包む前にその炎を消し去るが如く勢いの吹雪が訪れる。


「っ!馬鹿な!我の炎が上級魔術ごときに!?」

「死ぬ前に気づいて良かったぜ。リュートが言っていた事はこういうことだったんだな、って」

 二人は無意識のうちに自身の命を削って魔術を行使していた、法外魔術へと至るほどに。


 それが残された二人に準備の時間を与えた。


(強欲の魔人!俺にあの炎を越えるための力をよこせ!!)

『……求めるなら代償を。と言いたい所だったがあの炎と意思統制の煙を撒き散らすだけの阿呆相手なら手助けはしてやろう』

 代償を要求されようと無理矢理理由をつけて突っぱねようと考えていたユウマは拍子抜けして少し無言になってしまった。


『……なんだ?力が欲しいんじゃないのか?』

(前と違って随分とあっさりだと思って驚いただけだ)

『……同じ親から産まれても他の『九罪の魔人(兄弟)』に嫌悪感がゼロなんて事はありえない。現に我は嫉妬インウィディア色欲ルクスアリアに嫌われている。貴様も気を付けろ』

(なんの話だ?)

『貴様の兄から若干だが嫉妬インウィディアと同じ匂いがする。それで奴の炎を越える方法だが』

 少し気にかかる事を言われたがその後にはキチンと手助けをしてくれた。

 彼曰く、これとお前の兄の精霊魔術があれば余裕で勝てる、らしい。


『精霊魔術は原初の時代に魔術師と呼ばれていた者達が使っていたもの、だが強力ゆえにリスクも無視できないレベルのものだった……神が産み出した魔力生命体の力を無理矢理引きずり出して行使するようなものだからな。そこで自らの魔力で魔術を扱うために研究者に近い形で生まれたのが魔導師だ』

『……そのリスクが排除出来たから今も使われているのか?』

『完全に排除出来たわけではない。出来ているなら何故貴様の兄は上位精霊と『精霊纏い』を行わない?』

『……なるほど』

『まぁ、貴様の兄はそのリスクを侵して上位精霊との『精霊纏い』を行うようだがな』

『なっ!?』

 思わず剣に集中させていた魔力を散らしそうになったがギリギリの所で暴走させずに維持した。


『何を慌てている?貴様は兄を信じているのではなかったのか?』

『……あぁ、兄さんなら成功させる。必ずな』

『まぁ我の見立てだと良くて片腕全体の大火傷、悪ければ死ぬな』

『……そんな言葉ではもう俺は揺らがない』

『ふっ、そうか。ちなみに実は時の精霊によって貴様に『マインド・アクセル』……要は思考を加速させる魔術を掛けてあるから時間は気にするな。現実の一秒は我らの百秒だ』

『いつの間にそんな魔術を使っていたのか……』

 話を聞くに前回ギル・フレイヤで話した時も初めから使っていたようだ。


『さて、出来たな?闇と火を合わせた魔人族にとって基本とも言える複合魔術、黒炎魔術だ。今は人間も使っているようだがな』

 我が王の最も得意な魔術だった、と過去の思い出に耽るように言う。

 ユウマの目の前には黒い炎を纏うレーヴァテインの姿があった。


『ただ闇魔術をこめただけの紛い物とは違う我の魔力もこめられた物だ。上位精霊には劣るが下位精霊の炎よりは強い。それに加えてレーヴァテインの『破滅の炎の呪い』で……いや、これは言うべきではないな』

『おい、今何か重要なことを!』

『思考加速を切る。今はその時じゃあない』

 逃げるように強欲の魔人はユウマの思考の中から消え去っていった。


 現実の眼を向けると既にシュバルの腹から刀は抜かれ、クロードもあちこちに切り傷、火傷を負うギリギリの状況だった。


(……まだか、兄さん!!)

 こちらに顔を向けて眉を潜めるリュウマを尻目に心の中でリュートを急かす。


 その時、その声に答えるかのように禍々しい炎が晴れ、鮮やかな赤の炎を身に纏ってリュートが現れた。

 片腕は焼かれ、苦し気な表情だがリュウマが立つ方向へと駆けながら大声をあげる。


「ユウマァァ!!合わせろ!」

「っ!!あぁ!」

 勢い良く距離を詰めるリュートにユウマも合わせて疾走する。


「『烈炎斬』!」

「『黒炎斬り』!」

 右からユウマ、左からリュートがリュウマを覆う膜に斬りかかった。


「ぬぅっ!!?……人間風情が……この我を上回るなどあり得ん!?」

「斬れろぉぉ!!」

「目を覚ましやがれ!クソ親父!!」

「がぁぁぁっ!!」

 ついに膜はひび割れ砕け散り、対の剣閃がリュウマの身に刻まれた。




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