炎と炎の戦い
(くっ……、まだこんな火力を残してたのかっ!!)
目の前が赤黒い炎に包まれ、自身の腕から放たれる炎はそれに飲み込まれつつあった。
既にリュートは纏った下位精霊の力を使って限界まで『烈炎』の威力を上げていた。
この『烈炎』、最上級魔術とは違い、リュートが『魔力を使わずに魔術の威力を上げる方法』を試行錯誤し、完成したものだった。
そして誰にもその方法を教えていない、よって『烈炎』は彼の代表的な魔術になり、そこから二つ名『烈炎の支配者』が生まれた。
それをもってしても現在敵の炎によって避けられない死を突きつけられてる状況にあったのだった。
(これ以上威力を上げるにはあれしか……だがまだ……っ!)
その先に至る方法は思い付いていた。
だがリュート自身成功した事がなく、リスクも大きいものだった。
(いや、ここでやらなきゃ死ぬだけだっ!生き残れるならリスクは承知の上!)
しかし、このまま燃やされまいという意思でその方法を実行することにした。
それは生き残るために
父親を取り戻すために
弟を守るために
「来い!炎の上位精霊!イフリート!!」
その訴えと同時に背後に以前聖騎士王ヘクトと戦った時と同じ姿のイフリートが現れる。
それなりに長い月日を過ごしてきた彼が相手でもこれを成功させるのは至難の技だ。
「……『精霊纏い』か。上手く俺の魔力に適応出来なければこの場で灰になるぞ?」
そう、その方法とは炎の上位精霊イフリートとの『精霊纏い』だった。
自身の魔力を精霊と同調させ、その属性の魔術の性能を無理矢理上げる行為だ。
「ああ、軽く同調させるだけでかなりの火傷を負ったな。だがこの状況下でそんな事言ってられないんだよ」
ただ、リュートが現在『精霊纏い』を行っているのは名も無き下位精霊、対して今から行うのは上位精霊イフリート。
そもそも精霊は魔力の塊のようなもの、下位でも『精霊纏い』を行うのはかなり難しい。
これを一ヶ月程度で習得したリュートがおかしいのだった。
それが上位になると纏う魔力は下位精霊の数十倍。
力は大きくなるがその分コントロールの難易度は跳ね上がり、一時でも油断すればその魔力の猛威の前に人の体は数秒も待たずに消え去る。
「……分かった。俺も全力を尽くそう……願わくばまだ共に戦いたいからな」
「俺もだよ……行くぜ?『精霊纏い』!!」
イフリートの姿が魔力となって散り、リュートの体を覆った。
「ぐっ、がぁぁぁぁっ!!」
途端に右腕が重度の火傷を負う。
内蔵にも影響が出ているのか喉の奥から血が溢れ、それを唾を吐くように地面に吐き捨てる。
「……負けるかよ……、まだ俺は死にたくねぇんだよ!!イフリートォォ!!」
その咆哮が届いたのか、右腕の火傷が首元を焼いて顔に到達する前に止まる。
「行くぞ!……『烈炎・劫』!!」
炎の上位精霊イフリートの力と合わさったそれは世界を焼き尽くす炎に匹敵する力を持ち、次第に怒りの炎を押し返し始めた。
(……まずいな)
だが、それでは駄目な事をリュートは理解していた。
この炎を自由にさせれば再び自身の身は焼かれ、弟やチームメンバーを含めギルドに残る人々も焼くことになるだろう。
少し強すぎたのだ。
「そのまま続けろ、必要な分だけ残して俺が受け止める」
「イフリート!……大丈夫なのか?」
「主の生命力や魔力が混じってるとは言え大半は俺の魔力、吸収してみせるさ」
「分かった、任せたぞ!」
やり取りの末、後始末の必要が無くなったリュートは怒りの炎を吹き飛ばし、周囲の視界が晴れた。
そこには何やら半透明な膜で覆われたリュウマを魔術や武器で攻撃するシュバルとクロード、そしてレーヴァテインが纏う炎を黒く変化させて力を溜めてる様子のユウマが居た。
「ユウマァァ!!合わせろ!」
「っ!!あぁ!」
ユウマに大声で呼び掛け、それをずっと待ってたかのように返事を返してくる。
(あいつ、俺が勝つのを当然のように思ってたな?)
そんな事で少し嬉しく思い、笑みが溢れそうになるが抑える。
「『烈炎斬』!」
「『黒炎斬り』!」
右からユウマ、左からリュートがリュウマを覆う膜に斬りかかった。
そしてそれは五秒も待たずにひび割れ、次の瞬間砕け散った。
ご察しの人も居るだろうから言うがリュートの『烈炎』は法外魔術である