憤怒に抗う3
「……来い、『天照』!!」
その言葉と同時に炎に包まれたリュウマは次に姿を表したとき左の腰にそれが納められていたであろう鞘と右手に太陽の輝きを連想する鮮やかな赤色の刀身の刀があった。
「ユウマ、気づいたか?」
そう問いかけられ、一瞬何の事だ?と思考した後、答えを出す。
「私って言ったな。さっき」
「ああ、ユウマは覚えてないかもしれないが親父の一人称は私だった。つまり……」
「あれは父さんとは別の意思で動いてる」
「親父の中に別の人格がある」
最後の言葉は重なったものの言葉は違う。
しかし、考えてることはほぼ同じだった。
「ならやることは一つだ」
「表に出てる奴を殴って親父を引きずりだすぞ!」
それを聞いていたリュウマ……とは別の何かの口元が歪んだ。
「ハハ、それが分かったからと言って貴様らが勝てるとでも?この『憤怒の魔人』にっ!」
その声と同時に赤黒い炎が撒き散らされるが全てリュートの炎で相殺される。
「聞いてもいないのに正体をバラしてくれて助かるよ、憤怒の魔人。この『烈炎の支配者』と炎の力比べと行こうか?」
『ユウマ、お前は隙を見て斬りにいけ。サポートは任せろ』
(分かった)
リュートは挑発しつつユウマへと指示を出す。
そして憤怒の魔人は迷わずその挑発に乗ってきた。
「良いだろう。我が憤怒の炎で貴様を燃やし尽くしてやる。もう微かに残っていた奴の感情も消えた。息子だろうが容赦はしない」
リュートとリュウマ、それぞれの左手に纏う赤い炎と赤黒い炎が徐々に肥大化していき、十秒後それはお互いに向けられた。
「精霊纏い……『烈炎』!!」
「『憤怒の禍つ炎』!!」
そしてユウマはその炎に紛れ、リュウマへと斬りかかろうとした。
しかし……
「まぁもう一人はそう来るだろうな、予想通りだ」
「……あの炎は」
「いや、幻術でもなんでもない本物だ。ただかなり魔力を多めに注いだから俺が触れてなくてもあの男を焼き尽くすくらいの威力はある。後は、貴様を刀で葬れば良い話だ」
背後を取ったつもりがリュウマは炎に背を向け刀を構えていた。
「兄さんが炎で負けるはずがない」
「どうかな、我の炎は魔人の中でも随一の威力。確かに人間にしては中々の火の扱いだがさっきまでの小手調べとは次元が違う。下位精霊の手助け程度ではなにも変わらぬよ。それと貴様は人の事を気に掛ける余裕があるのか?」
振り下ろされた刀をレーヴァテインで弾くが何度も振るわれる内に徐々に自分が押されてるのを理解し、距離をとる。
「口程にもない。防戦一方ではないか」
「…『ダーク・アローズ』」
「近距離は分が悪いと考えれば遠距離を試す。甘いな、『八尺鏡』」
「っ!チッ!」
闇の矢に対してリュウマは刀を円形の鏡のような物に変化させ、魔術を跳ね返した。
「……貴様は確か『強欲』の力を持ってたな。ならばこちらから攻撃するのは愚策……『天岩戸』」
そして次に鏡はリュウマの周囲を囲い、灰色の膜のような物へと変化した。
「……何のつもりだ?」
「兄が燃やし尽くされた時、貴様にもあの炎は牙を向く。だからこれ以上貴様に力を割く必要はない。何、簡単な話だ。貴様がこの壁を破壊し、我に刃を突き立てれば良いだけだ」
「くっ……舐めた真似をっ!『レーヴァテイン』!!」
魔力を通さなくても勝手に燃え盛るレーヴァテインに魔力を注ぎ、刃を肥大化させ、それをリュウマを囲む膜へと何度も叩きつける。
しかし、膜は全く揺らぐ事はなく、依然としてリュウマを守り続けている。
「無駄だ。これは最上級魔術であろうと破壊できない。そして魔剣が纏うのは炎、日輪の神の名を冠する『天照』が作り出す防御を壊せる道理はない」
「……ならこいつはどうだ?…『メガブリザード』!!」
リュウマが防御の堅さを語る横合いから巨大な氷塊がぶつけられる。
「……貴様らはさっきの殺した女の仲間か?戦意喪失していた筈だが……」
「ああ、そうさ。さっきまではな。だがな……、まだ冒険者になったばかりの奴を一人で戦わせるほど俺達は腰抜けじゃねぇんだよっ!!」
その方向を見るとクロード、シュバルの二人がリュウマを仇を見るような目で見ていた。
「リュートの弟!手を貸すぞ」
「さっき倒れてた女の人の救命は……」
「そっちは気にすんじゃねぇ。……手遅れだ」
「そうか……。手助け感謝する」
シュバルが答える声は震えていた。
仲間との突然の別れの余韻に浸る間もなく自分に手を貸すために立ち上がった二人に感謝し、リュウマとの戦闘を再開した。