天照
主人公サイドへ帰還
『なぁなぁ、俺の魔術をユウマに奪わせとくってありじゃね?』
『は?』
最初は何を馬鹿な事を言っているのだろうか?と思った。
ギル・フレイヤの内乱後の休息期間の間に色々と試した結果『強欲の爪』で奪ったままでいられる容量は大体最上級魔術二発分程度だと分かっていた。
勿論、固有魔術や複数に魔力が分割される『アローズ』系統の魔術など例外はあるにしろそれによって出るズレはそれほど大きくない、との結論が出た。
『だからぁ、俺の最上級の光魔術か雷魔術をユウマに奪わせとけば戦術の幅が広がると思うんだよ』
『はぁ‥‥‥だがお前がその魔術を使えなくなるぞ?』
『別に問題ないぜ?一度だが想像時間殆どゼロで最上級を放てる人間が出来上がるなら。第一俺が普通に使うとまだ想像の隙がデカい』
アルバートが最上級魔術を想像するには十秒ほどかかる。
これでも普通よりも速い方だがその間、隙が生まれるため確かに実戦で使う機会は少ないかもしれない。
その後、一応シオンにも意見を聞いたところ、『ありだな』との意見が出て最上級光魔術を事前にユウマが奪っておく事になった‥‥‥。
「我は戦力を見誤っていたのか‥‥‥」
無事、二人ともほぼ無傷で銃を破壊するに至り、そのままの勢いでリュートが斬りかかったものの、すぐに距離を置かれた。
「おい、ユウマ、今のは?」
「奥の手だ。もう一度は使えない」
「なるほどな……、いや、十分だ。遠距離かつ高速の攻撃手段が無くなっただけで大分楽になる」
二度は使えないことを告げてもリュートの目は全く死んでいない、むしろ光明か見えたのかより一層集中した様子だった。
リュートの体は炎のような赤に包まれているがこちらにその熱は伝わってこない。
(敵対する者のみに熱が伝わるのか……?)
どちらにせよ相当高位の魔術だろうと考え、ユウマは詮索を止めた。
今はそんな事をしている暇もない。
「クソ親父、息子と敵対してまで得たい物は何なんだ!?」
「……我々は長年迫害され続けてきた。復讐しなければ先祖が報われ」
「んな事今を生きている俺らには影響ねぇんだよ!」
リュウマのセリフを絶ってリュートが大声で訴えかける。
「迫害?ああ確かにあったかもな。技術の模倣?そりゃあ世界は広いからそういうことをする奴も居るだろうな。だが今の俺達は知ったこっちゃあねぇんだよ!」
「……」
その大声に驚いたのか少しリュウマが気圧されたかのように目を見開く。
「今となっては迫害なんてされてねぇ。それに全体の技術の発展のためには模倣も一つの手段だ。結果的に俺らにとって中央大陸って場所は居て得こそすれど損をしたことなんてない。そうだろ?」
「……ああ、損なことなんて無かった」
こちらを見てきたリュートの言葉に同調する。
「いい加減目を覚ませよ、俺の尊敬した親父に戻れよっ!」
「……」
声が裏返るくらい必死の訴えにリュウマは黙り込む。
(……ここまで必死に説得するほど尊敬すべき父親だったのか)
ユウマには父親の記憶が殆ど無い。
彼はリュートに稽古を付けたり仕事をしたりと家に居ることがそもそも少なく、食事を取るときは殆ど口を開くことはなく、ユウマの記憶に残る出来事がそもそも無かった。
「……お前達は今幸せか?」
「……ああ、これであんたも戻ってくればもっとな」
「そうか……私は……間違っていたのかもしれないな」
その時、周囲を威圧するような表情とプレッシャーが和らいだ。
暗く淀んだ瞳も鮮やかな赤色になり、記憶にあった父親と少し重なる。
しかしそれも一瞬の事だった。
「……だが、我はもう後戻りは出来ないのだ……『憤怒』を背負ってしまったからにはな」
「……っ!親父!」
「……来い、『天照』!!」
再び瞳は淀み、気配も変わったリュウマは手を伸ばすリュートを拒むように炎に包まれた。