ドロシーの目的
短め
「実の弟に自滅覚悟の作戦を実行させる兄ってどう思うかな?」
「……は?」
「ましてや記憶を取り戻す方法を知っているのに親に止められてるからといって使うことを躊躇う兄ってどう思うかな?」
「なっ……っ!、シオン!どういうことだ!?」
そして止められた身体の動きが進みシオンがドロシーへと掴みかかる。
「おい、ふざけんなよ?親の意思を無視して話を進めるんじゃねぇよ」
「逆に子の意思を尊重しないってどうなんだろうね?」
「望んで戦いの道に来た俺とはわけが違うだろうがっ!?」
ローブの首元を掴まれながらもドロシーは嬉しそうに頬を紅潮させて語り出す。
「私は勇者君と少しの間一緒に暮らしてたけど彼は自分が勇者だって知るなり戦う術を教えて欲しいって頼み込んできたよ?既にシオン君と一緒、戦いの道を選んでる」
「それは勇者と言われたからだろ?俺はそんなの関係なしにこの道を選んだ。アルバートは血筋で強制的に、だ」
「そう、血筋で強制的に、よ。残念ながら彼女達は間違えた。勇者の運命を甘く見てた。その報いをそろそろ受けてる頃だと思うよ?」
「……っ!おい、まさかトリンまで」
「待って、それは否定させて。そっちに関しては私はノータッチ。ただ私がシオン君との学校生活を満喫しないで動いてたらこの結果にはならなかったかな?とも思ってるよ」
その言葉だけでシオンはもう一人の弟が決して良い状況に無いことが分かった。
だがその前に今の言葉に聞き捨てなら無いことがあり、掴みかかっている手の力を血が滲み出そうなほど強くする。
「まぁ状況は大体察した。そっちは手を貸せと言われない限り完全に親に任せることにする。だが聞き捨てならねぇな」
「ん?何か私、おかしいこと言ったかな?」
「俺は現時点まで最善の人生を歩んできたと思ってる。アルバートやトリンの事もこれから解決すれば問題ない、頭も下げるし記憶だって戻してやる、……だから俺の最善を無かった方が良かったなんて言うんじゃねぇよっ!!」
「っ!!」
その言葉で初めてドロシーの顔に驚きの表情が産まれる。
「お前がいなかったらまず学校なんざ一年も経たずに辞めてた。あんなつまんねぇ場所にいつまでもいる価値はないからな。でも辞めなかったからクソ師匠……ソウジにも出会えたしライルや魔導師団の人達とも知り合えた。お前の事も一番の友人だと思ってる。だから……俺の最善を否定するんじゃねぇよっ!!」
「……そこは恋人って言ってくれないんだね」
「あ?茶々を入れるんじゃねぇよ」
「はは……いやでも久し振りに本当にビックリした。まさかシオン君がそんなに私の事を大事に思ってくれたなんてね」
至近距離にあるシオンの顔から目を逸らすように目線を左下へ向け、恥ずかしがるように頭を掻く。
「もう一度聞く。お前の目的はなんだ?どうやらアルバートにも関係がある話らしいな?」
「んー……、まぁある程度話してもいっか。ほら、この手を離して?勇者君も蚊帳の外に置いたままでごめんね?こっち来なよ」
「いや、随分と熱い言葉聞けて満足だぜ!」
「あー、シオン君普段はわりと達観してる所あるからね。本当はこんな感じなんだよ?」
「うるせぇ。さっさと本題に入れ」
ドロシーは捕まれていたローブの首元を整えながら、にやけていた顔を真剣な表情へと変える、
「これから先の近い将来、この世界の創造主であり支配者でもあった存在、創世神キャロルが復活する。私はそれを止める、もしくは止められなかった際にキャロルを殺すか封印するための人材を集めてるの。とある協力者と共にね」