夢幻の魔女
主人公休憩
一旦シオン、アルバートサイドへ
古びた城、浮遊する瓦礫、毒々しい色をした雲が空を覆うなど地上では見たこともない光景が広がる世界で魔術の応酬が続いていた。
「ふふふ‥‥‥楽しいね~二人とも?」
「チッ、あちこち飛び回りやがって‥‥‥大人しくしやがれっ!『グラビティ・ロード』!」
「お?それはちょっと遠慮したいな、‥‥『重力反転』」
空間魔術を自在に操り、こちらをおちょくるかのように飛び回るドロシーを地に落とそうと周囲の重力を十倍にするも彼女はそれを反転させて更に空高く飛び上がる。
「アルバート!撃ち落とせ!」
「仕方ねぇ、ドロシーさんすいません!‥‥『メガサンダー』、『落ちろ』!!」
ドロシーの頭上から雷鳴が轟く。
アルバートは魔術の想像速度と魔力消費のバランスがとれておらず、さらに威力に加減が出来ていなかったため、一時的な対策として上級以上に相当する規模の魔術を使うときは一つの魔術に二つの詠唱をさせることにした。
これはアルバートが魔術を扱う際に必要となる言語を覚えきれていないのもあるが二つに分けることによって想像をしやすくする効果もある。
無論、一つの詠唱に比べて三割ほど威力が下がるが勇者なら問題ない。
魔力は並みの人間の数倍、魔人やエルフに匹敵するレベルなのだから。
「ふーん、‥‥『刀剣精製』、それっ!」
ドロシーは轟雷を即座に作った剣を投げつけ、避雷針代わりにして防ぐ。
「二節詠唱とは考えたね、才能溢れる勇者くんならこれでも威力は申し分ないし想像時間も少し短くなる。上出来上出来~♪」
アルバートとシオンの行動一つ一つに反応し、いちいち感想を言うドロシーに対してシオンは若干の怒りを覚え始めていた。
戦闘に入る前からも『何故生きている?』や『本当に敵なのか?』という疑問はいくつもあり、それが少しの憤りにもなっていたがそれからのドロシーの対応によってその疑問は全て怒りへと昇華された。
「お前は何がしたいんだっ!?さっきから俺らの攻撃に対応するだけでお前の方からは全く攻撃しない、挙げ句の果てに攻撃内容の評価までしやがる。少しは目的を喋りやがれっ!」
「んー、目的。目的かぁ‥‥‥ちょっと今は話せる段階じゃないかな~。少なくとも二人の敵ではない、じゃあダメかな?」
「ダメだな、情報が足りなすぎる上に俺ら二人の敵ではなくとも他の仲間にとって味方とは限らない」
そう答えるとドロシーは斜め上を見て腕を組み、少しの間考え事に耽る。
そしてそのまま十数秒経った後、指を打ち鳴らしてこちらを向く。
「じゃあこうしよう!‥‥『刀剣精製、百剞夜行』」
するとドロシーの周囲に百に至るほど大量の剣が精製され、浮遊する。
「なっ!いつの間に‥‥‥」
「私の空間魔術で創ったこの世界、『夢幻回廊』において私に出来ないことはあまりないよ。さて、ここからが本題ね」
ドロシーは未だ笑みを浮かべているが有無を言わさぬ雰囲気で二人を黙らせる。
「何度も言うけど私は二人の敵ではない、だけど二人には強くなってもらいたいんだよね~。そこで!二人で協力してこの百の剣をくぐり抜け、私に一撃いれてみてよ。‥‥‥このくらい出来なきゃこの先の戦いにはついていけないよ?」
そして最後の言葉の直前に一瞬寒気を覚えるほどの魔力が放たれ、笑みが消えたがそれはすぐにまた笑みへと変わる。
「シオン、俺は光最上級を使えるようになったぜ。それも考慮してやろう」
「‥‥‥あぁ、なるほど。分かった、二人であいつの元に辿り着くぞ」
「おう!」
事態の急展開についていけていないと思っていたアルバートは意外にもこの挑戦に乗り気でかつユウマに奪わせていた魔術が復活したことも告げてきた。
(この状況下で出来ること‥‥‥恐らくあの剣は『シューティング・レイ』で余裕で撃ち砕けるが量が多すぎる‥‥‥)
ドロシーが生み出す剣はその精製のためにこめられた魔力量に比例して強度が上がる。
あれほどの量を精製したのならばあまり強度は上げられないとシオンは予想する。
(だが一本一本砕いていくのは予想されているだろうから何かしら裏をかく必要がある‥‥‥あれで行くか)
『アルバート、今から手短に作戦を話す。これはあくまでベースだから臨機応変に対応しろよ?』
『努力はするけど期待すんなよ?』
シオンの心の中には若干なる不安点があったがメインで動くのは自分のため、気にしないことにした。
そして数秒後、通信石による念話は終わる。
「作戦会議は終わった感じかな~?じゃあ、頑張って私の所に辿り着いてね?」
「行くぞ!」
「おう!」
宙に浮かぶ剣が動きだすと同時に二人も行動を開始した。
百剞夜行は言わずもがな、百鬼夜行の字を変えただけの物
剞は刃が曲がった小刀とかそんな意味がありますがまぁとりあえず大量の剣を生み出す魔術と思ってください