憤怒に抗う
エリンが撃たれた→ドロシーによってユウマがギルド本部前に転移という流れでこの話は始まります
扉を開ければそこは酷い有り様だった。
何か人一人分を包み込めるような黒い靄が複数あり、何故か冒険者同士が争っている。
その中に甲冑を身に纏い、杖状の物を持つ男が居た。
「あれは‥‥‥リュウマ・イガミか」
「む?外にはドロシーに預けたブラッドキマイラを放ったはずだが‥‥‥まぁいい。貴様も我が配下となれ、同胞よ」
リュウマが杖を持たない方の腕をユウマの方へ向けると地に落ちていた黒い靄が集まり、ユウマへと近づいてきた。
「これは‥‥‥一応魔術か?‥‥『強欲の爪』」
ユウマの目には属性は分からないものの恐らく魔術のように見えたため、魔人の力を使うことにした。
すると、通常の魔術のように手に触れた瞬間それは消え去り、頭の中にその魔術の名前らしきものが浮かぶ。
(『憤怒の感染』‥‥‥『九罪の魔人』関連でも関係なしに奪えるのか)
追尾性能が高そうな魔術だったため、遠慮なく『強欲の爪』を使ったが魔術の名前を知った今、少し危ない賭けだったことに気付き、内心焦った。
それと同時に容量を越えなければ本当に何でも奪えることを知れたので結果オーライだ。
「なんだと‥‥‥?」
その結果が予想外だったのかリュウマは目を見開き、動きが止まる。
(攻めるなら今かっ!)
杖を持っているなら近接には弱いはず、そう考えてユウマは一気に前に出るが呆けていたリュウマは素早くそれに反応し、駆ける俺にその杖の先を向ける。
(ん?杖の先に穴‥‥‥?)
よく見てみるとその杖は杖にしては先に穴があったり持ち手が付いていたりと異様な構造をしていた。
そして内部に火属性の魔力がこめられていくのを見てその違和感の正体を思い付く。
(あれは銃かっ!)
以前ギル・フレイヤに行った時にジェストに見せてもらった物も内部に火属性の魔力を流し込んで高速の鉄の塊を撃っていた。
魔力を使わない方法もあったようだがそれは西のギリスロンドの技術らしく、ジェストも知らなかった。
「リュートの弟!!あの杖の直線上から逸れろっ!!」
杖の正体に気づいた時とほぼ同時に声がかかる。
リュートの弟、と称したことから兄のチームメンバーだと予想し、その言葉通り、向けられた方向から大きく逸れながら駆け抜ける。
「龍翔の弟‥‥‥?」
また動きが鈍る。
先程から攻撃したかと思えば止まり、今までで一番やり易い相手ではないかとユウマは思い始めたがその思考は油断に繋がるため、すぐに捨て去り一気に接近した。
「まずはその銃を斬らせてもらうっ!」
「っっ!『風鎧』!」
ユウマの剣を見てリュウマは銃に風を纏わせてそれを防ぐ。
そのままユウマは何度か剣を振るうが纏った風は剥がれない。
「はぁぁぁっ!!」
「ぐっ‥‥‥『憤怒の豪火』!!」
「ちっ!」
接近戦を嫌ったリュウマは地面へ炎を放って拡散させ、ユウマとの距離を離した。
「まだだっ!」
「待てっ!お前は我の息子だろう!?」
「あ?父はヤマの国に神格種が生まれた時、火に巻かれて死んだ。この世にはいない!」
父親を騙られ、言葉を聞く必要はないと判断したユウマは再び斬りかかろうとするがリュウマは続ける。
「お前は伊神勇真。我の息子だ。龍翔の弟ならば間違いない」
「‥‥‥兄さんと母さんが嘘をついたとでも言いたいのか?」
「あぁ、お前の父は死んだのではなく神となったのだ」
銃口を下げ、右手をユウマの方向へと向ける。
「お前もこちらの人間だ。我と共に復讐の道へ来い」
「聞く必要はないぞ、ユウマ」
言い聞かせるようなリュウマの言葉を背後から否定する者が居た。
その声に振り向くと人間サイズの黒い靄の一つが炎に包まれて中から兄、リュートが現れる。
「俺達の父親は死んだ。あれは復讐に狂う魔人だ」
「貴様は黙っていろ。目をかけてやったというのに弟に劣る才能しか持たぬ劣等が」
「‥‥‥随分と手のひらを返すのが早いな」
元々リュウマを見つめるリュートの目は鋭かったがその言葉で更に眉間に皺が寄った。
「我が直々に育ててやったと言うのに力に目覚めない貴様が悪い。だが火の魔術に関してはそれなりの物が見えるから捨てはしない。死ぬまでこき使ってやろう」
「ちっ‥‥‥どいつもこいつも‥‥‥」
小声で愚痴りながらリュートは腰に携える剣を抜く。
「本気で行く。『顕現せよ、その刃は全てを焼き尽くす破滅の炎、我が敵を焼き尽くし終末をもたらせ!レーヴァテイン!』」
「それは‥‥‥炎の魔剣か。面白い」
詠唱を完遂し、鞘から剣を抜き放つとそれを見てリュウマはこちらに銃口を向ける。
「殺しはしない。が、手足の二三本は覚悟しろ」
「ユウマ、まずはあの銃からだ。絶対に避けろよ?」
「あぁ、分かってる!」