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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
四章 ヤマの争乱
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黒き暴食の奔流

二日連続投稿予定

 

「バカな、バカな、バカな、バカなっ!?」

 奴は先に消したハルク・ウルフェンに比べれば影も薄く、魔物の物量で押せば余裕で殺しきれた存在のはず。


「‥‥‥灰塵魔術」

「っ!?冥王魔術!『悪魔コールオブ召還デーモン』!!」

 後ろに迫る奴の魔術に対抗すべく自身の魔力を糧に数体の悪魔を冥界から呼び出す。

 彼の固有魔術、『冥王魔術』は生け贄を捧げることなく召還することが出来るのは中位悪魔まで、千年前の魔物や上位悪魔を呼び出すにはどう頑張っても命が必要になる。

 そして大して頭も良くなく、魔力量も一般のAランクと呼ばれる冒険者相当しかない中位悪魔程度では


「‥‥『アシッド・ウィンド』」

「ッッ!クソがっ!!『ツクヨミ』!!」

 数秒も持たずに死の風によって灰塵に帰す。

 それを見て私は首領の持つ剣と対極の武器である夜を統べる月の名を冠する弓で射ぬこうと企むがその矢もまた風に阻まれる。


「影魔術、『シャドウ・バインド』」

「がっ!?‥‥‥これ‥‥は‥‥‥っ!?」

「やっと捕まえた‥‥‥ったく、ハルクも居なくなったから直ぐに終わらせて残りの雑魚を片付けるだけの仕事にしようとしたのに逃げやがって‥‥‥」

 死を纏いながら奴が迫る、俺は恐怖と影による拘束でもう声を出すこともできない。


「‥‥‥だが、かの魔王の使っていた魔法を使えるってのにこの程度か‥‥‥センスのない奴に宿っちまって魔法が可哀想だ‥‥‥」

 魔王?何を言っている?

 私の冥王魔術はただ魔物を召還するだけの物、百年前世界を支配しかけた魔王等とは何の関係も‥‥‥


「じゃあな、狭い世界で意気がるだけの雑魚」

 首に奴の剣が振るわれ、そこで俺の意識は完全に消え去った。








「ふぅ‥‥‥」

「あ、アーネスト君だ。やっほ~」

「っ!‥‥‥アリシアか」

「そっちは‥‥‥ソウマ・ヒイラギね、ハル君は何処に行ったの?」

「ハルクはこいつに飛ばされた。だがレルヴィンが冥界で回収したらしいからそっちは問題ない。あんたの方のそれはリンドウ・セタだったか?」

「そうだね、どうやら私を邪魔しつつ可能なら殺すって感じの指令だったらしいけど甘過ぎるね」

 アリシアの手には二つの首があり、片方は言った通りリンドウ・セタ、そしてもう片方はゲイル・ストゥーピドのものだった。


「ゲイルも殺したんだな」

「まぁ元々生かしておく必要はなかったからね。でも実は私が殺したんじゃないんだよね~」

「じゃあ誰が?」

 そう問いかけると表情は全く変わらないが少しだけ暗い雰囲気が漂った。


「邪魔が入ったのよ、恐らくは私の過去を知るもの‥‥‥ね」

「その男があんたの過去を知っているのか‥‥‥?」

『鈴のしらべ』のメンバーは色々と深い事情があって過去や身分などを隠している者が多い。

 完全にオープンなのはギル・フレイヤの魔導師団員であるロイくらいだ。

 かくいう俺自身も色々と話していないことがある。


「ま、私のことは置いといて‥‥‥この機会に君に聞いてみたいことがあったんだ~」

「‥‥‥大した情報は得られないぞ?」

「それは私が決める。別に答えなくてもいいから聞くだけ聞いてってよ」

「それなら構わん」

 未だ戦場の真っ只中にいるというのにマイペースにアリシアは話を続ける。


「前から君が意図的に実力を隠してるのかもしれないなぁ~とは思ってたんだけど今回の件でそれが確信に変わったね。‥‥‥第一にさっき中位クラスの悪魔を一瞬で消滅させた魔術」

「!」

 アリシアは右手の人差し指を立ててそう告げる。

 俺は今まで『灰塵魔術』を人前で使わず、使ったときは相手を確実に殺してきた。


「まさか固有魔術を二つも持ってるとは思わなかったわ~。あ、実は私は体の中の魔力を一時的に完全にゼロに見せる方法があるんだ~。それで今回は遠目から観察させて貰ったんだけど許してね。じゃあ次はあの三つ首のカラスを召還する魔術」

 さりげなく体の中の魔力をゼロにするなどという生きてる限りあり得ないことを言いながら次に中指を立てる。


「あれ自体は別にいいんだ~。でもあれが三羽に別れて状況を逐一アーネスト君に送ってくれるって言ってたけどあれ嘘だよね」

「‥‥‥続けろ」

「ありがと、まずアーネスト君は邪魔者が入ったことに驚いてなかった。あの時周辺に生物の気配はなかったからあのカラスは情報共有の他にも偵察、暗躍、その他裏作業にも使えそうな優れものっぽいよね、私はしっかりとソウジ君の居る方向とメルちゃんの所に残る方とアーネスト君自身についてく方とそれぞれ確認してたから。そして私は邪魔物を男と言った覚えはないわ」

 それを俺は無言で肯定する。

 ボロを出してしまったのは反省すべきだがそろそろ情報を少しは出しても良いだろうとは思っていたから。


「ただこの条件で君の正体を確かめようとするとあり得ない仮説が産まれちゃうのよねぇ~」

「正体も何も俺は最初から魔人族だと言ったはずだが?」

 それを聞いてもアリシアは首を横に振る。


「魔人だろうと人間だろうと四つの視界を持っていて処理しきれる脳があると思うのかしら?情報共有程度なら魔力的には魔人で説得できても視界が増えてるとなると魔力は足りても脳がパンクして普通は死ぬわよ?」

「‥‥‥」

「という訳で私の仮説としての君の正体は‥‥‥っ!?」

 アリシアが俺の正体について言及している中城の外で突然膨大な魔力が満ち、空気が重くなったように感じた。


「状況は?」

「ミスティアが来た、相手は見覚えがあまりないが恐らくヤマの国の人間じゃない」

「‥‥‥続きは後にした方が良さそうね」

「あぁ」

 二人で城の外へと駆け出す。

 その前にアリシアが俺の耳元へと囁いた。


「何を企んでるかは知らないけどメルちゃんやソウジ君の邪魔をしたらただじゃ済まさないわよ?」

 今まで聞いたことないような低い声で脅しの言葉を。


(‥‥‥ふん、一度()を殺した相手と水の眷属に手を出すわけがないだろう。舐められたものだ)








「ごめんなさいね、遅くなったわ」

「本当にギリギリね。まぁ、あとは任せたわ」

「えぇ」

 本当にギリギリだった。

 だけどもう大丈夫、これでメルもウィリアムも生き残れる。

 約束したから、絶対に守ると。


「やぁ、実に二十年ぶりかな、ミスト嬢、いや、今はミスティア嬢かな?」

「そうね、私はあなたなんかに二度と会いたくなかったものだけど、ねっ!」

「っ!連れないですねぇ」

 二刀で受け止める力をわざと緩めて態勢を崩したのち腹部を蹴り飛ばす。

 しかし、咄嗟に腕を交差して防御され、数メートル離れるだけだった。

 だがミスティアにはその程度の距離でも魔術を想像するのに十分足りる距離だ。


「‥‥『ダーク・ギガランス』‥‥グーラ、識別は完了した?」

『大体は大丈夫だけどさぁ‥‥‥メルちゃんと戦ってる子はどうする?ボクの個人的な意見としてはなんか混ざりまくってて不味そうだから遠慮したいなぁ?』

 メルが何かを語りかけながら戦っているのは空色の髪の少年。

 ミスティア自身には子供に心当たりはないがメルが必死な事から大体の想像はついた。


「除外よ、あとの準備は良いかしら?」

『そしたらオーケーだよ!さぁ、懐かしき冥界の魔物達!ボクを満足させてみせなよ!!』

 そして黒き暴食が魔物達へと狙いを定める。


「『『果てなき(エンドレス・)暴食(グラトニー)』!!』」

 暴食の奔流が存在を許された者以外を喰らい尽くすそこに慈悲など一切存在しない。


「『消えろ(バニッシュ)』‥‥っ!消しきれません、かっ!」

 ヴィルマの手から空白が産み出されるもそれは一瞬であり、すぐに別方向から漆黒が襲う。

 堪らず空へと逃げるがミスティアがそれを許さなかった。


「食らいなさいっ!‥‥『ダーク・ギガランス・アクセラレート』、暴食付与、『暴食刺突撃グラトニー・ストライク』!」

「っ!容赦ないですねっ!」

 闇の巨槍と剣に纏わせた暴食の魔力を刺突で飛ばし、ヴィルマを追撃した。

 それを受けてヴィルマは黒い波の中へと落ちていく。


『アハハハ!わざわざ剣でもボクの魔力を使うなんて大盤振る舞いだねぇ!ていうかさっき一瞬、白龍神の魔力を食べた感覚があったけどどういう事だろう?』

「奴は龍神の力を集めてたからその過程で手に入れたんでしょうね。滅多に姿を見せない白龍神の力なんてどうやって得たのかは分からないけど」

『‥‥‥ふーん、千年経ってもそんな事を考える人間居るんだね』

 ミスティアの言葉を聞いて暴食の魔人(グーラ)の声色が変わった。


『ねぇ、ミスティア。アイツはまだ泳がせておこうよ』

「は?今さら何言ってるのよ」

『あれだけ魔力が高い人間を食べたらボクは気づくよ。でも全くアイツの魔力を食べた感覚がないんだ』

 眼下に拡がる大地には既に黒き奔流は消え去り、後にはミスティアの仲間と謎の少年しかいない。


『代わりにボクと同じ王サマから産まれた魔人の魔力、ボクの予想だと虚飾グロリアらしき反応があったんだ~。ボクは一応嫉妬(インウィディア)の次に強い自身はある、けど前に聞いたキミの話だとアイツは傲慢スペルビアも持ってるって言うじゃないか。加えて現世において超常の存在である龍神の力‥‥‥ボクとキミでも流石に部が悪い』

「‥‥‥」

 その言葉でミスティアは少しだけ冷静さを取り戻し、状況の確認する。


(ヴィルマがこの程度でアッサリ死ぬとは考えにくい‥‥‥だけど実際下には奴の姿はない、と言うことは‥‥‥っ!)

 そして冷静になったことで頭上に脅威が迫っていることを感じとり、即座に迎撃の準備を始める。


 視線を向ければそこには膨大な魔力を纏った剣を掲げながらも更に周囲に五体、五色の龍の形状をした魔力を産み出していた。

 しかし、そこに魔力の反応も気配もしない。


「感知能力を妨害されてるのかしら?これは面倒ね‥‥‥」

「ん?これは困った、あわよくばここで貴女に終わっていただこうと思ったのですが‥‥‥やはり手強い」

 ミスティアが自分に気づいたことを察したヴィルマはほぼ常に浮かべている薄ら笑いを更に深め、より一層不気味な表情になった。


「私は死なないわ。ヴィルマ、あなたにはこれ以上私の仲間を殺させないっ!」

「くっくっく、まずは私の攻撃から生き残ることを考えろっ!『傲慢の(プライド・)断罪(ジャッジメント)』!‥‥『龍神演舞』!」

 傲慢と五体の龍が迫る。

 そんな中でもミスティアは冷静に魔術を想像し、落ち着いた様子でそれを解放する。

 それは大いなる漆黒、何よりも黒く覗くものを闇へと誘う神の域へと達した魔術。


「‥‥‥深淵魔術、『アビス・エリミネーション』っ!!」

 闇最上級の更に上、神級と呼ばれる域まで達したそれは深淵魔術と称すべきものだ。

 それは初代魔人王以来地上では使用者が確認されておらず、最強の魔人王たるガルド・リベレイにも使えなかった。

 その威力はヴィルマが放つ『九罪の魔人』と借り物に過ぎない龍神の魔力など簡単に飲み込み、ヴィルマ自身へと迫った。


「素晴らしい‥‥‥っ!嬉しいよ、ミスティア嬢。だがっ!‥‥『代行者オルタナティブ・グリッター・バースト』!!」

 しかし、それをヴィルマは光の神級、光輝魔術によって相殺する。


「ちっ、まだ手駒が居るのねっ!」

「君が神へと至った時を共に過ごせなかったのは残念だった。だが実際に見て安心したよっ!やはり君は私が越えるべき壁だ、M3番と勇者に関しては私の研究結果の結集で倒すと決めたが君は私の全てを持って私自身で殺す、必ずだっ!‥‥‥トリン!来いっ!」

 ヴィルマは大声で誰か、恐らくメルと戦っている少年の名前を呼んだ。


(逃がさなっ)

『待て待て!キミのこの体はまだ起きたばっかりなんだから急に全力を出すと体が持たないよっ!?ただでさえ神級魔術とかボクの『果てなき暴食』とか魔力消費が激しいヤツばっかり使ってるんだから深追いしたらダメ!』

(くっ‥‥‥分かったわ)

 空間魔術によって落下の勢いを殺しながら地上へと戻る。


「‥‥‥お母様、また会いましょう」

「待ちなさいっ!」

 メルと戦っていたはずのトリンは空間魔術によってヴィルマの元へと転移し、二人が揃ったことでミスティア達は一層警戒心を高めた。


「では皆さん、また会いましょう。会場はまた後日知らせますよ‥‥‥『白龍神の幻光』」

 言葉を残し、二人は光に包まれる。

 光が晴れたときには跡形もなく消え去っていた。

 

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