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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
四章 ヤマの争乱
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眠れる災厄

 

 数分前、ミスティアは東側諸国の避難所に居た。

 そこでここから先、ヤマの国へどう渡ろうか悩んでいたのだった。


「はぁ‥‥‥、誤算だったわ‥‥‥」

 実はミスティアは各地に転移用の死霊を配置しており、今回も事前にヤマの国に居るはずの死霊を利用して転移する予定だった。

 だがそれが何者かに消されてしまっていた。


「ゲンイチロウが情報を流したのか、或いはただ単純に死霊を消しておくほど用心深かった誰かが居たのかしら‥‥‥」

 恐らくは前者だろうとミスティアは予想していた。

 だが何れにしてもヤマの国に直接転移する手段を失ってしまったミスティアは代替案として取り敢えず東側諸国防衛戦の作戦本部へと向かっていた。


「フィーネに余裕があれば向こうまで送って貰うのが一番速そうね」

 ミスティアはこの防衛戦の最高責任者とも言える人物を足代わりに使おうと考えたのだった。

 連絡の一つでも入れればフィーネも頷くだろうが流石にいきなり来て『ちょっとヤマの国まで飛んでよ』などと頼める人物はこの世にあまりいないだろう。

 しかし、現在連絡しようにも出来ない状況が続いているため、戦局はどのような状態か分からない。

 いざとなったらミスティアは魔物を全滅させてからヤマの国に渡ろうと考えていた。


「レルヴィンは心配いらないとか言っていたけど用心に越したことはないわよね」

 だが裏切り者を処理したのち、少し楽観的になっていたミスティアが所有する死霊の魔力探知に反応が増えた。

 ちょうどヤマの国の中心部に。


「‥‥‥見通しが甘かったかしら」

 ミスティアの予想では何だかんだで自分のチームメンバーは全員生還すると考えていた。

 だが今ミスティアが死霊魔術を使っていないのに死霊の数が増えたと言うことはミスティアの予防策をコーネリアが使ったと言うことだ。


「あれを渡してるのはコーネリアだけ‥‥‥嫌ね、訪れなきゃいけない墓標が増えることになるなんて」

 ミスティアが意識しないうちに魔力は膨れ上がり、大地を少し揺らし始める。


「おい!あれ見ろ」

「は?何でこんな防衛ラインの内側にあんなとんでもない魔力の奴がいるんだよ!?」

 現在ミスティアはよく知られている子供ような姿ではなく一般的な大人の女性の平均程度の身長だ。

 かつ、それに黒い何かが纏わりついていれば誰もが警戒する姿になるだろう。


『おーい、周り見なよ。敵意剥き出しのおナカマさんがいっぱい居るなかでこんな魔力解放したら大惨事だよ?』

(ん、ちょっと冷静になるわ)

 それに気づいた魔人が頭の中に直接話しかけてきた所で自分の周囲の状況を見ることが出来た。


「‥‥‥ごめんなさいね、私はSランク冒険者のミスティア・サクローネよ。急ぎの用があるからフィーネに取り次げる人はいないかしら?」

「!、はい、こちらシルトレイク所属Aランク冒険者、今回の避難を指揮しているラルク・ドライセンです。今繋ぎますのでそちらにお渡しします」

 周囲を囲う人の中から少し強面の男が出てきた。

 一言、二言話すとすぐにこちらに通信石を譲ってきた。


『はいはーい、どうしたの?ミスティア。どうやら本体でうごいてるようだけど?』

「ゲンイチロウが裏切った、だけどレルヴィンが暗躍してたから各地の騒ぎは止めれるはずよ」

『そう。で、あなたは私の方を協力しろって?』

「レルヴィンいわく、その必要はないそうよ。私はヤマの国に飛ぶわ」

『分かったわ、それ以外には?』

「Sランク冒険者の死人が最低でも一人出た、帰ったら墓標を立てるわよ」

『‥‥‥そう』

「連絡は以上よ。私は行く」

『分かったわ、じゃあね』

 そこで通信が切れた。

 戦闘の真っ只中だったらしく様々な魔物の叫び声が聞こえたが死人が出ることを伝えた瞬間少しその叫びの密度が上がった気がした。


「ありがとう、騒ぎを起こして悪かったわね」

「いえ‥‥‥あなたは本当にあの『眠り姫』なんですね‥‥‥」

 姫?私ってそういえばそんな優しい感じの呼び名だったかしら。


「正確には違うわ、私に相応しいのは――――――」






「はぁ‥‥‥死ぬかと思った‥‥‥」

「お疲れさん、ていうかミスティア・サクローネって言ったら本部で殆ど寝てるって言う子供だろ?」

「凄い綺麗だった‥‥‥」

「だよなぁ!今まで化けてたのかな?」

 好き勝手に騒ぎ立てる男達を尻目にラルクはさっきの出来事を思い返す。


 突如大地が悲鳴をあげるような魔力が発生したのを感じ、その場へと駆けつけると黒いドレスのような服を着た女性が歯を食い縛りながら歩いているのを目撃した。

 正直本当に死ぬかと思った。

 絶対に勝てるわけがないと思えるほどの大きな実力差がそこには存在した。


「あれがSランク、『眠れる(スリーピング・)災厄(ディザスター)』かぁ‥‥‥」

「お?何だそれ」

「彼女の二つ名。元々の『眠り姫』ってのがあんまり気に入らなかったんじゃないか?」

「なるほど!じゃあ広めようぜー」

 こうしてミスティアが意図せずに新しい二つ名が生まれてしまった。

 後日それが広まったのを、見てミスティアは『姫が気に入らなかっただけでそのまま広まるとは思ってなかったわ‥‥‥冒険者の情報網舐めてた』と自分の発言を少し後悔したのだった。



 

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