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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
四章 ヤマの争乱
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血に刻まれた運命は避けられない

勇者関連の人間は概ね出揃ったかな?

 

「え‥‥‥?」

「っ!!メル!避けろっ!」

 ウィリアムが突然現れた少年の言葉に動揺するメルを押し退け、振り抜かれた剣をメルに当たる寸前で受け止める。


「ぐっ!」

 小さな体を空中に投げ出して落下の勢いを利用した一撃はかなり強力なものだったが勢いを完全に殺してしまえば単純な腕力の差で弾ける、と思っていたウィリアムは少年が地に足をつけた状態でも自分と互角の力で張り合うことに驚き、その一瞬を突かれて力を流され、少しよろけてしまう。


(不味い‥‥‥!?)

 未だ戸惑いを隠せない様子のメルを庇って無理矢理動いたがここまで少年の手のひらで踊らされるとは思わず、仕方なく一撃受ける覚悟で防御の態勢を取った。しかし、その防御は必要なかった。


「‥‥私を忘れない方が良いわよ?龍聖付与『ドラゴニック・シュート』」

「‥‥!」

 コーネリアが放った矢の方に目をやり、避ける必要があると判断したのか少年はウィリアムに振り下ろそうとした剣を止め、射線から離れた。


「対集団戦で有利を取るにはまず後衛を片付けることから‥‥ってね。それにしても二人とも、あの子供に心当たりは?」

「あ?あんな小さい子供なんか‥‥‥まさかっ!」

「なんでこうなっちゃうのかなぁ‥‥‥、ウィリアム、あの子は間違いなく私達の子供、トリンだよ」

 少年の正体は勇者の三人の兄弟のうち最後に産まれた子、名はトリン・ヴァルトラウタ。


「‥‥‥検証第一段階終了。マスターの想定通り身体能力においてはSランク冒険者と互角以上に渡り合えることを確認」

「ねぇ、トリン‥‥‥。今更私達を親扱いしろとは言わないけどね。少なくとも私はあなた達三人が戦いから離れた生活をして欲しいと思って勇者と親に関する記憶を消して養子に出したんだけど‥‥‥結局皆こっちの世界に来ちゃったんだね」

「続いて第二段階に入るために魔術強化対象の復活を推奨。マスターへ『支配魔術』の権能『代行者オルタナティブ』による『再生魔術』と『回復魔術』の使用許可を申請」

「メル、無駄だ。何故だか知らんがお前の声は届いてない」

 メルがトリンに語りかけるもトリン自身はそれを全く聞かずにぶつぶつと何かを呟き続ける。


「‥‥‥使用権限獲得。使用対象を周囲の魔物に限定、発動。‥‥『リザレクトブレス』‥‥‥『ハールートの号令』」

「っ!なんだこれは!?」

 空に光が満ち、魔物に向けてそこから光が降り注ぐとそのボロボロの体は元の姿へと戻っていき、次の魔術によってそこに魂が呼び戻されていく。


「‥‥‥仕切り直しかな?」

 再び三人の前には大量の魔物が蔓延る。

 だがトリンの魔術はそれだけで終わらなかった。


「第二段階始動‥‥『ブレイブ・リベレイション』」

「なっ!させるかっ!‥‥『天雷刃』!!」

「っ!少しは防御も考えなさい!‥‥『スタンアローレイン』!!」

 魔物へ強化魔術をかけさせまいとウィリアムが一直線に突っ込むがそれを邪魔しようと魔物が大量に詰め寄り、コーネリアがある程度その動きを止めるが矢が当たらなかった魔物は当然ウィリアムへと押し寄せる。


「どきやがれっ!!‥『ブレイブ・レイジ』!!」

「‥‥勇者の一撃を防ぎきることは叶わないがその防御力には大幅な向上が見られる」

 自身の身体能力を上げて魔物ごとトリンに斬りかかるが勢いを殺され、トリンには軽々と受け止められてしまった。


「ちぃっ!メル!迷ってる暇はねぇぞ!?」

「でも‥‥‥」

「子供が間違った道に進んだなら親がそれを修正してやらなきゃならねぇだ、ろ!?多少手荒になっちまうがこうなったら仕方がない!」

 まだ自分の子供に剣を向ける事に躊躇いがあるメルに対してウィリアムは雷を纏いながら魔物を斬り裂き、トリンに付かず離れずの距離を保ちながら殆ど叫ぶように言う。


「メル、無理はしないで良いわよ。ウィリアムもあんなこと言ってるけどいざとなったら彼だけでトリンを相手取ると思うわ」

「‥‥‥トリンと戦うのは嫌だよ。でもね‥‥‥何もせずにウィリアムだけに自分の子供に本気で剣を向けるなんて重荷を背負わせるわけにはいかないっ!」

 メルの目から迷いが消え、水龍神の魔力を再び纏った。


「行くよ!『リヴァイア・ソードダンス』!!」

「ぶっ飛べ!!『天嵐刃』!!」

「二人とも強いわね‥‥‥じゃあ私も‥‥『ドラゴニック・オーヴァースター』!」

 再び魔物達に向けて三つの最上級クラスの魔術が迫り、それによって全て灰塵に帰すかに見えた。


「‥‥『白龍神の加護』の権能『未来視』によってこのままだと魔術強化対象の損失甚大を確認。迎撃にあたる‥‥‥光上級勇者(・・)魔術『シャイニング・アスピレイション』」

 だがトリンは軽々と三つの最上級魔術を相殺する光を放った。


「はぁ!?何でトリンが勇者の固有魔術使ってんだよ!?それに『シャイニング・アスピレイション』は初代勇者が『金眼の賢者』と協力しないと使えなかったやつだろ‥‥‥」

「規格外過ぎるわね‥‥‥少なくとも魔術の面では私達じゃ敵わなそう」

「うん、でもそれは『一人一人で魔術を使ったら』の話だよね」

 だがこれで心が折れるほど三人は弱くない。

 すぐに次の攻撃に移るべく準備を始める。


「‥‥‥迎撃を確認。しかし、依然として敵対者は攻撃の意思を持っている模様。攻撃を続行」

「させないよっ!」

 トリンは何やら目を瞑って意識を集中させ始めたウィリアムに向けて剣を振り降ろすがそれはメルに阻まれる。


「今お父さんは忙しいからね、お母さんが相手してあげるよっ!!」

「‥‥‥マスターからの指示により、正面の対象への攻撃を集中‥‥『シャイニング・ランス』‥‥?」

 トリンの頭上に光輝く槍が産み出されるもそれは放たれる前に何かに相殺され、消滅した。


「コーネリア!ありがとう!」

「メル、剣に集中しなさい。魔術と周りの魔物は私が全部止めるわ」

 ウィリアムの近くで弓を構えるコーネリアがその矢で相殺したのだ。

 トリンが周囲を見渡せば痺れてまともに動かない魔物が少しずつ増えていくのが見えた。


「‥‥‥状態異常耐性に関しては見直す必要あり‥‥っ!?」

「何ブツブツ言ってる、の!?私はこんな形で自分の子供と戦うとは思ってなかったけどさ、少しはお母さんの事を見なさいっ!」

「‥‥‥対象の戦闘力を上方修正。近接戦闘においては現時点で越えることは困難と判断」

「‥‥‥もーっ!!答えなさいトリン!あなたをそんな感情がない存在にしたのは誰!?お母さんがそいつを殺してあげるからっ!」

 いつまでも独り言のようなことを呟くトリンに痺れを切らしたメルがそう言うとその瞬間にトリンが目を見開き、動きが止まる。


「マスターの殺害宣告を確認。心音、目線の動きなどを精査するにその言葉は真実‥‥‥理解不能、対象の発言は実現不能、精神状態不安定‥‥‥ああ‥‥‥あああああアアアア!!?」

「トリン!?どうしたの!?」

 メルにとっては何気なく言い放った言葉にトリンの何かに刺さったのか頭を抱えて狂ったように泣き叫び始める。


「メル!準備ができ‥‥‥どうした!?」

「分かんない!‥‥‥でもこれってもしかして」

「何か思い当たる事でもあったか?」

 メルにはこの光景に見覚えがあった。

 消し去りたい過去に自分と同年代くらいの子供が何かを腕に注入されて同じような状態になったシーンが頭の中を流れる。


「おやおや、まだ安定していませんか‥‥‥戦闘力においてはもう私の作品の中では右に出るものはないと思っていましたが‥‥‥人間としてまだ不完全とは盲点だった」

 その声にメルは全身に電撃が走ったように感じた。


「まだまだ彼は最高傑作には至らなかった‥‥‥というわけですね。全く、私は二十年前にとんでもないものを創って逃がしてしまったのですね」

 その二度聞きたくなかった声の方向を見るとそこには、


「やぁ、会いたかったよ、私の最高傑作M3番。いや、今はメル・シルヴァと名乗っていたかな?」

 メルにとって宿敵とも言える存在、ヴィルマ・アルファリアが不気味な笑顔を浮かべて立っていた。


 

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