多勢を斬り裂く二刃
大分待たせて申し訳ない。
今後の予定 何話か使ってメルサイド→主人公サイド(四章終盤)って感じ
「そぉぉれぇっ!!」
ハルク達を見送った後、メルは空間収納から背丈よりも巨大な二刀を取り出して魔物の群れへと身を投じた。
魔物を斬り裂けば少しは血飛沫がかかり、汚れる筈だがメルはそんな事はなく龍神から借り受けた魔力を常に纏い、それが全てをシャットアウトしている。
しかし、それは勿論全てを防ぎきれる訳ではない。
そして周囲を魔物に囲まれながら戦っている以上何処かしらに死角は生まれてしまう。
「全く‥‥‥相変わらず無茶苦茶な動きするなぁ!?」
「それをカバーするのが私達の役目。嫌なら好きにサボれば良いんじゃない?」
「それは、出来ねぇ相談だ!!‥‥そら!もう一丁!『ライトニング・ホークス』!」
それを補うのは宙を舞う二人の弓使い、ウィリアムとコーネリアだ。
ウィリアムの弓からは先程よりも小さい雷の鷹が複数現れ、メルに襲いかかろうとする魔物を的確に射抜く。
「そう。私達はメルを助けざるを得ない。もう欠けてはならない存在。でも自分を抑えているメルなんてメルじゃない。だから私達があの子を守るのよ。龍聖よ、力を貸して‥‥『ドラゴニック・スターフォール』!」
そして天から降り注ぐ流れ星のような巨大な魔力の塊がまだメルの近くにいない後方の敵を次々と消滅させていく。
コーネリアは『龍聖』と呼ばれる意思を持った魔力の塊である精霊に近い性質を持つ生命体を操る事が出来る。
そしてそれは攻撃だけではなく様々な使い道がある。
コーネリアとウィリアムが空中に止まっているのも龍聖のお陰である。
通常は魔力のように触れることが出来ない存在である龍聖に語りかけて足場にしているのだ。
「でも、雑魚はこんな大雑把な力押しで片付けれるけど残った魔物は真面目にやらないとダメそうね」
「あぁ、降りるぞ」
「えぇ。‥‥‥『物質化解除』」
一部の強力な魔物を残して殲滅をした後、足場にしていた龍聖を再び非物質化し、地上へとそのまま落ちる。
「メル!降りるぞ!」
「っ!オッケー!‥‥精霊召喚『ウンディーネ』!からの~‥‥『ウンディーネの寝床』!!」
ウィリアムがメルに大声で落下中であることを伝えるとその言葉に直ぐ様反応し、水の上位精霊であるウンディーネを呼び出して巨大な水のクッションのような物を産み出し、二人はその上に落ちる。
この水のクッションは空気の膜のような物で覆われており、上に落ちたところで全く濡れたりせず、かなり強い衝撃を受けてもその膜は破けることはない。
以前、これでフレアドラゴンの突進を受け止めている事からその耐久力はかなり信頼できる物と言っていいだろう。
「さてさて、どんな感じで片付ける?」
「いつも通り全部私が斬るから二人はサポートよろしくぅ!!」
「はいはい、じゃあ私は補助魔術かけたあとは麻痺系の魔力矢を使うわね」
「そう言えばあの二人は‥‥‥問題なさそうか」
三人とは別で動く魔人族の二人の様子が気になったウィリアムはそちらの様子を伺うが全く攻撃を受けていない上にほぼ敵を殲滅しかけていた。
インウィディアが何かめんどくさそうに口を少し動かして文句を言ってるようだがウィリアムには聞こえず、その文句の相手が千年前最強と呼ばれた魔人王だとは知るよしもなかった。
「じゃあいつものいくわよ‥‥『ドラゴニック・リベレイション』」
「おお!これ相変わらず凄いね!力がどんどん湧いてくるよ!」
「はぁ‥‥‥これって普通の人間に掛けたら数日起き上がれなくなるくらい無理矢理力を底上げしてるのだけど‥‥‥どうしてメルには何も副作用がないのかしら‥‥‥?」
「そんなの決まってるよ!私がコーネリアの事が大好きだから!」
「‥‥‥そんな感情論で片付けないでよ」
「おーおー、見せつけてくれてるなぁ。少し妬けるぜ」
「‥‥‥余計なこと言ってないであなたもメルに補助魔術掛けなさい」
メルの言葉に少し動揺するコーネリアをウィリアムがからかい、コーネリアがウィリアムを睨みつつ言う。
「はいはい。‥‥『ブレイブ・レイジ』」
ウィリアムが魔術を掛けるとそれが先程まで纏っていた青い魔力と混ざり合い、紫色へと変わる。
「と、まぁこれだけで十分だろ?」
「うん!あれくらいの魔物なら二人の魔力を借りる必要はないよ!じゃああとは一分くらい時間稼ぎしといて~」
「分かったわ」
「はいよ!」
メルが二本の剣を地面へ突き立て、青色の鈴を両手で包み込んで何か祈るような体勢を取った。
それを見てかこちらを警戒していた魔物達はほぼ一斉に動きだし、三人へと攻撃を開始しようとしていた。
「さて、うちのお姫様の準備が出来るまで待っててもらおうか?『武具変化・天嵐刀』!‥‥雷纏い『天嵐刃』!」
「『スタンアローレイン』!‥‥‥ウィリアムは何でそんなにやる気を出しているの?」
「あ?別にいつも通りだが?」
「剣なんて普段滅多に使わないじゃない‥‥‥」
ウィリアム自身は先程の嫉妬発言を冗談で言ったつもりだったが内心、本気で嫉妬していたのが行動に現れ、滅多に使うことがない剣を握った結果、残った魔物の群れ数十を包み込む程の嵐が吹き荒れる。
更に並みの龍程度なら全身を完全に硬直させることが出来るほどの強力な麻痺属性の魔力矢が降り注ぎ、魔物達はこれから訪れる死を待つだけになった。
『大いなる水の龍神リヴァイアサンよ。我が身に宿りしその爪牙を伝い、我が祈りを聞き届けたまえ‥‥‥』
メルが纏う魔力が祈りを捧げる手に集まりだす。
『我が請い願うは全てを斬り裂き、勝利を手にするための力。我が眷属たる精霊を代償とし、ここに顕現する』
メルの周囲を飛び交う大小様々な魔力の気配が消滅し、先程召喚されたウンディーネの体も溶けていくが彼女は笑顔でメルに手を振って姿を完全に消した。
『我が二刃は御身の爪牙。それを持って眼前の有象無象を斬り裂く!』
詠唱が終わり、鈴の音が響く。
閉じた目を開き、メルは突き立てた剣を引き抜いてその手に宿る力を流し込む。
「魔物の皆には何も恨みはないけど‥‥‥私達は負けるわけにはいかないんだ‥‥‥」
メルが使うこの力は精霊や自らの生命力など決して軽くない物を代償とする事でやっと使うことが出来る。
精霊は基本的に力を貸すくらいはしてくれるがその存在が危うくなるような行為には協力しない。
つまり今回はそんな事に協力してくれるほどの信頼関係を築いていた精霊を犠牲にしたのだ。
本来こんな力を使わずともメル達が勝利することは難しくない。なら何故使ったのか。
理由は簡単だ。
「命懸けで向かってくる君達に敬意を表して。私も身を切って全力の攻撃で応えるよ!!」
メルが『そんなのはフェアじゃない』と思っているからだ。
相手が全力なら自分も全力で応える、例え自分や友好関係を結んだ精霊の命を削ってでも。
そんな自分の事を顧みない戦いかたばかりするから時々、いや、いつも心配している。
『無茶をさせないように自分が強くなろう』とか『無茶させる暇もなく終わる任務を受けよう』とか色々と対策はしているが結局はこうなる。
こうなることをメルが望んでいるからかもしれない。
「行くよ‥‥‥!『リヴァイア・ソードダンス』!!」
彼女は時々寂しそうな顔をしながらこんなことを呟く、『皆が幸せな世界になれば良いなぁ‥‥‥』と。
そこに恐らく彼女はいない。その世界を創るために命を削って戦っているのかもしれない。
(それでも私達は‥‥‥)
メルと共にこの先の未来もずっと歩んでいきたい、その一心でなるべくメルに命を削るような力を使わせずに戦い続ける。
代わりに犠牲になってしまう精霊達には悪いと思っているがコーネリアもウィリアムもこの場にいないメンバーもメルの命に比べればこの世界で勝手に産まれ続ける精霊の一部が消滅するくらい軽いものだとも思っている筈だ。
「ふーっ!ウィリアム~コーネリア~終わったよ~!」
メルが舞うように何度も水龍神の力を纏った剣閃を嵐へ向けて放ち、まるで意思を持っているかのように動くそれは命を刈り取る死の一閃となって魔物達を襲った。
それを見て満足したメルは少し離れた位置にいたコーネリア達の元へと手を振りながら寄ってくる。
「‥‥『イリーガル・ギガサンダー』」
が、謎の声が聞こえると同時に突然嵐の中心に天災とも言える規模の雷が落ち、暴風は止んだ。
その衝撃にメルは直ぐ様その方向を警戒する。
「ウィリアム、あなたじゃないわよね?」
「あぁ、俺があの規模の雷を使おうとしたらどれくらい魔力と時間使うか分からねぇな‥‥‥」
「二人とも!後方支援はよろしくね。‥‥‥姿が見えたら私が突っ込むから」
雷鳴の余韻が止み、土煙が晴れ始めると三人の想像よりも小さな影が揺らめいていた。
そしてそこに立っていたのは虚ろな目をした空色の髪の少年だった。
「初めまして、お父様、お母様。そして‥‥‥さようなら」
投稿が大分遅れたのはアーネスト編を書いたけど丸ごとカットして予定変更でメルを書いたっていう話があったりなかったり‥‥‥
彼、若干使いづらいんだよなぁ‥‥‥