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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
四章 ヤマの争乱
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嘘で着飾る憐れな凡人

 主観者 アリシア・ツヴァイ




 アリシアが透明な敵を相手にするときに『グレイプニル』を腕がわりにして行う大量のフリントロックによる面攻撃。

 それが行われたこの場は穴だらけの蜂の巣状態になっていた。


(これを耐えられるとまた違う策を考えないといけないけど‥‥‥どうかしらね)

 攻撃を避ける手段、『ファントム』を使ったことは確認済みだが全てそれで避けることが出来たかは確認していない。

 周囲を確認するも穴だらけになった壁や床しか見えない。

 だが瞬きをした瞬間、景色がガラッと変わり果てた。


「これは‥‥‥やっぱりさっきのは幻影魔術の産物だったのね」

 アリシア達が調べ尽くした城内、そのいりくんだ道の一部には大部屋がある。ここはそんな大部屋の一つだった。

 木材の壁、障子、地に敷かれた畳、その全てが先程の影響かボロボロになっていた。


「‥‥‥あら?」

 ゆっくりと周囲を観察していたが何かが通りかかった感覚に気づいたときには本を持つ左腕が地に落ちていた。


「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥やっと届いた!」

 喜びの声に目を向けるとそこには周囲の物と同じようにボロボロになった男、ゲイル・ストゥーピドが立っていた。


「生き残れたのね‥‥‥困ったわぁ」

「腕を落とされても慌てない胆力は認めてやる、だが勝つのは俺だ!『ギガエクスプロージョン』!!」

 まだ魔力が余っているのか全く懲りずに見た目()最上級クラスの爆破魔術を放つ。


「はぁ‥‥‥『エクスプロージョン』」

 呆れた様子でアリシアは全く慌てず、通常の威力の爆破魔術を放ち、それを相殺した。


「‥‥‥は?」

「あなたの中に居る魔人が分かったわ。‥‥‥『九罪の魔人』の『虚飾』ね」

 虚飾。

 外見だけを着飾り、中身が伴わない事を示す。


 アリシアは『スヴァリンシルド』や『ブリーシンガメン』で防いだゲイルの『ギガエクスプロージョン』の威力が不自然に低いことに気づいていた。

 見た目の派手さは最上級だが威力自体は普通と変わらない、むしろ少し低いまであったのだ。

『虚飾』は見た目の派手さや幻影魔術はともかく単純な力勝負では他と比べ物にならないほど弱いと言われている。


(いざ戦ってみると本当にそうね‥‥‥)

 その証拠にアリシアの評価はずっと厄介止まり。

 強いとも手強いとも思っていなかった。


「何だとっ!?そんな筈はない!現に俺の中のこいつはっ!」

「だから、その魔人自身も自分に嘘をついているのよ。着飾って自分を強いと思っているだけ」

「ふざけるなぁっ!!?この俺が、俺様は最強なんだ!『幻影世界ファントムワールド』!!」

 現実を突き付けられてもなお幻影魔術で先程の一本道へと空間を変貌させ、姿を消してゲイルは抗う。


「はぁ‥‥‥そうやってすぐ消えるから余計に弱く見えるのよ。少しは自分の姿を省みなさいな」

「黙れぇぇ!!『ギガエクスプロージョン』!!」

「‥『ブリザード』、とはいえ『グレイプニル』で捕まえるにはあの魔術が邪魔ね‥‥‥あ、良いこと思い付いちゃった」

 手を叩き何か名案を思い付いたのか『ミョルニル』を掲げてそれに魔力をどんどん収束させていく。


「『雷神の一撃(トールハンマー)』」

 それをただ振り下ろす。それだけで空間にヒビが入り、世界が崩れ始めた。


「所詮、あなたは選ばれなかった凡人よ。『九罪の魔人』で一番他と劣った存在である『虚飾』が憑いたのは似た者同士だったからかもしれないわね」

「凡人、凡人と‥‥!その口を閉じろっ!『幻影剣ファントムソード』!」

 何かが近づく気配はするがアリシアにはそれは見えない。

 完全に透明な刃が傾げた首を掠め、頬に傷がつく。


「さっき私の左腕を斬ったのはこれね?」

「貴様が知る必要はないっ!さっさと死ね!!」

 再び気配を感じたがその数は十を越えていた。

 そしてそれは避ける隙間が殆どないようにアリシアへと迫る。

 そしてそれは‥‥‥


 アリシアの身体を貫いた。





「は、はははは‥‥‥、やった‥‥!やったぞ!!」

 未だに姿を隠したままのゲイルは喜びの声をあげる。

 冒険者ギルドの中でもトップクラスと言われるアリシアが目の前で自分の刃に貫かれている。

 それだけで嬉しかった。


 だがゲイルは見落としていた。


「いやぁ、君の相手をするのが私で良かったよ」

「っ!?」

 先程からアリシアは一滴も血を流していないことに。


 それは普通の生命体としてはあり得ないことだった。

 だが復讐に狂っていたゲイルはそんな事に頭を余裕はなかった。


「こんな状況でも何とかなる私にとって厄介に過ぎない存在でも普通の人間だったら油断したら死んじゃうからね」

「お、お前は‥‥‥何者なんだっ!?」

 ゲイルの目には身体に刺さる刃が写っているが普通の人が見れば人のからだに複数の小さな空洞がある奇妙な風景が写る。

 明らかに致命傷だがアリシアはいつも通り無表情で肩を回してマイペースに振る舞っている。


「『神代器械アーティファクト』って知ってるかなぁ?この身体ってそういうもので出来ていてねぇ」


神代器械アーティファクト

 神々の時代にあったとされる造られたもの。

 基本的に武器や防具などの兵器が多かったとされているが人型のものもあったとされている。

 そしてそれらは神に創られたとされる神話級の武具に勝るとも劣らないとも言われる。


「馬鹿なっ!人型の『神代器械アーティファクト』など神代の終わりと共に全て復元不可能な程破壊された筈だ!!存在したとしてももう動くことはないっ」

 そう、現存する『神代器械アーティファクト』は人型のものはおろか、殆ど全ての物が機能を停止している。

 大々的に使われている物で『神代器械アーティファクト』の物と言えば冒険者ギルドが開発したとされる『通信石』くらいだろう。

 秘匿されているがあれは現代ではあり得ない技術の塊だ。


「久し振りにこの身体に傷をつけたご褒美に一つ見せてあげる」

 そう言うとアリシアは『ミョルニル』の顕現を解除し、左腕と共に地面に落ちていた本を拾う。


「神器解放‥‥『世界ヲ綴ル本(ワールドライター)第一節エピソード・ワン』」

 そして物語を綴り始める。

 悲劇の一節を。


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