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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
四章 ヤマの争乱
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次の戦場へ

 

 禍々しいブレスレットが漆黒に染まって段々と剣の形に延びていき、太刀よりも少し短い長さに収まる。

 そしてその姿があらわになる。

 既に何かを斬り捨てたかのような赤黒い刀身のその刀は見た者に恐怖心を植え付ける。


「‥‥‥久し振りに抜いたからか?この地鳴りは」

 未だ大地はその刀に恐怖しているかのように震え続けている。

 だがいつまでも地面に震えられては戦いづらいことこの上ない。

 なので、


「黙れよ」

 その刀を地面に突き立て、魔力を直接流し込んだ。


『おいおい大将!それやったらそこら一帯の地面死ぬんじゃなかったか!?』

『いつまでも震えてる大地なんて死んでしまえばいい。一端いっぱしの生物の真似して恐怖の感情で震えている暇があるならそんな生命もの消えてしまえ』

『アッハッハ、感情を捨てた王様は容赦ないなぁ~。ま、前にそれを持ったときはまだ殆ど感情が残ってた頃だろうからもうその刀を振るう側としての恐怖は無さそうだな』

「恐怖‥‥‥あぁ、そうか」

 王はかつての事を思い出す。

 これを初めて人間との戦いに用いた時に親友とも言える存在に一生残る傷を負わせてしまい、それ以来この刀を抜くことを躊躇って自分に最も近い存在、インウィディアに渡したことを。


(俺にはもう恐怖という感情はない。なら‥‥‥)

 もう『無貌あれ』じゃなくてもいい。

 何も躊躇う必要はなくなった。


「ダ、ダーインスレイヴだと‥‥‥、まさか貴様はっ!」

「今さら気付いた所で意味はない。これを見たお前はここで死ぬ。それだけだ」

 目の前の雑魚を斬り捨てようと正面から最短で斬りかかる。


「くっ!」

「ん、なかなか良い剣を使っているみたいだな」

 その一撃をラズルは受け止める、しかしそう長く止めることは出来なかった。


「ただ、この刀と打ち合った時点で大抵の剣は折れる」

「っ!」

 少し力を強めればラズルの剣は砕け、そのままの勢いで落ちる刀をギリギリの所で回避する。


「クソがっ!」

「逃がすか、『葬曲剣』第二番」

 回避した勢いのまま空へと逃げるラズルへとさっきとはまた違う剣技を使う。


「『狂死曲ラプソディア』」

 放った斬擊は『追葬曲』と同様にラズルの方向へと真っ直ぐ飛んでいく。


「同じ手は食わんぞっ!!」

 その軌道上からラズルは大きく逸れ、回避した気になるがまだ斬擊は終わっていなかった。


「‥‥‥流石に俺が別の言葉を言ったのに同じ技だと思う馬鹿がいるとは思わなかったぞ‥‥‥?」

「なんだと?ガッ!?」

 軌道から逸れ、避けたはずの斬擊はラズルの背中に大きな傷を残した。


「確かに最初の段階では『追葬曲』に似せた。だが本来の狂詩曲ってのは自由奔放で結構曲調ってものが変わる。俺の『狂死曲』も同じだ。途中から別の斬擊に変わる‥‥‥まぁ聞こえていたら覚えておくと良い」

 再び地へと落ちるラズルへと言葉を投げ掛けるが返事は地面への衝突音だけだった。


「ぐっ‥‥‥人間ごときが‥‥‥っ!」

「生憎と俺は体は人間だが俺自身は人間じゃない。気づいていても現実を知りたくないなら死ぬ前に教えてやろうか?」

『ソウジ君がやられた冥土の土産に名を教えてやる、の意趣返しかな?大将も案外まだ感情が残ってるのかもなぁ~』

『限りなく薄いだけで多分少しずつ戻ってきているとは思うぜ。何てったって千年経ってるし一緒の体を使ってるソウジは結構感情豊かだしなぁ。しょっちゅう猫被ってるけど』

 ガルドは頭の中で話す二人の声に多少(わずら)わしさを感じていたが我慢して目の前の堕天使に意識を集中させる。


 秒で黙らすと言った手前、有無を言わさず殺そうと思っていたが気が変わったのだ。


(無貌ではなくダーインスレイヴを抜いた時点で八割くらいの確率で天界にいる最上位天使共に俺の生存がバレてる‥‥‥こいつで一人でも釣って奴等の戦力を削れれば後々(のちのち)楽になる)

 天使はどうやってるかは分からないが地上の様子をほぼ自由に観測できる。

 ガルドは自分自身を餌にして天界にいる敵を討つつもりだ。


 そしてこの『釣り』に引っ掛かりそうな天使に心当たりもあった。

 しかし‥‥‥、


(‥‥‥流石にこの程度の木っ端堕天使では釣れないか)

 恐らく最上位天使が兵として用意したものだろうがラズル一人だけな筈がない。


「何も言わないならそのまま死ね」

「無駄だ!ぁっ!?」

 首を飛ばそうとするも黒翼で防がれてしまった。

 ラズルは間一髪で死は免れたがその代わりに左の翼は千切れてしまった。


「がぁぁぁぁっ!!!?馬鹿なっ!俺の最強の翼が負けただとっ!?」

「御愁傷様だな。ダーインスレイヴに斬られた以上、その翼は一生治らない。まぁ見映えは悪いが飛べなくはないだろう?」

 天使は翼の羽ばたきだけで飛んでいるわけではない。

 天使だけが持つ特殊な魔力を翼に宿して飛んでいるのだ。

 多少、羽ばたきで勢いをつけているようだが片翼でもあまり問題はないだろう。


「第一、ここで死ぬお前には関係ないことだ」

「貴様ぁぁぁ!!」

 ラズルは無謀にも折れた剣でガルドへと挑む。


「じゃあな、人を嫌う堕天使」

「死ぬのは貴様だっ!魔人王!」

 応える声が聞こえたのは目の前の堕天使からではなく空からだった。


『全て我が神の前に跪け!裁きの光!!』

「来たか。裁きの天使テミス」

 放たれた光の奔流を軽々と避け、策が狙い通りにいったことを確信した。

 空を見上げると千年前に戦ったときと同じ姿ではなかったが使った魔術で瞬時にテミスだと判断できる。

 それだけ特徴的なのだ。あの光の奔流は。


「ラズル!貴様はラピス様の下へ戻れ!ガルド・リベレイは私が殺す」

「なっ!?だが俺も!」

「剣を折られ、片翼を失った貴様に勝機があると思っているのか?ラピス様がわざわざ力を与えた以上、貴様をこんなに早くに失うのは惜しい。大人しく下がれ!」

「ぐっ‥‥‥、了解だ‥‥‥」

 ラズルはテミスの言葉に応じると何か赤い石を取り出し、それに魔力を注ぎ始めた。


「‥‥『帰還・エンデルフォード』」

 そして聞きなれない場所の名前を言うとラズルは光に包まれ、何処かへ消えてしまった。


 恐らくは天使が天界へと帰還するための魔術が刻まれた石だったのだろう。

 普通に考えて自力で飛んで天界まで帰るとは思えない。


「随分とあっさりとラズルを帰還させたな?追撃するなら転移前の硬直時間が最後のチャンスだったぞ?」

「あんなあからさまな隙を狙う馬鹿はいない。どうせ限界まで魔力の発生を抑えた魔術を用意していただろう?」

 ガルドが知るテミスという天使は感情優先で動くが決して馬鹿ではない。

 そうでなくては最高位天使の一柱になどなれる筈がない。


「時間が惜しい、さっさと始めるぞ」

「待て」

 テミスへと剣を向け、斬りかかる寸前にインウィディアに止められる。


「何の真似だ?」

「奴は俺に任せてあんたは他の戦場へ行け」

「あ?魔人王から分裂したうちの一人程度が勝手に決めるなよ。貴様らは二人とも私が殺す。これが天の意思だ!」

 インウィディアの言葉を挑発と受け取ったのかテミスは瞬時に自らの頭上へ膨大な量の魔力を解放する。


「行け!あんたには他にもやるべき事がある。そうだろう?」

「‥‥‥分かった。ここは任せた」

「あぁ」

「二人まとめて消え去れ!光神級魔術!‥‥『グリッター・レイ』!!」

 ここからの方針を決めたところでテミスの魔術が発動する。

 相殺するレベルの魔術を放つには例え二人でも時間が足りない。


「ゼログウィン、俺とインウィディア以外の半径十メートルの範囲の時間を五秒止めろ」

『お、俺の力が必要になったか!じゃあ魔力はアケーディアから貰っとくぜ』

『あいっかわらず半端ない魔力持ってくなぁ‥‥‥まぁまだまだ溜め込んでるから大丈夫か』

「‥‥『ワールド・リザイン』」

 自らの内にいる堕天使から魔術の使用権限を得るとその魔術を直ぐに行使する。


「任せたぞ」

「分かった」

 時間を止めることを既に察していたインウィディアは直ぐにテミスの魔術の範囲から逃れ、魔剣を取り出し、ガルドは島の外縁へと駆ける。


「『の者の牙は雷神を討つ猛毒を宿す。』」

「クロ、黒龍神から貰い受けた龍の幼体を出せ。お前の主人の不利益にはならない」

『‥‥‥分かった』

 インウィディアの手元にある紫のネックレスは輝きだし、ガルドの足元からは人が一人乗れるくらいの黒い龍が這い出した。


「『死したのちもその意思は消えず、数多の命を葬る刃と化す。』」

「よし、行け」

 ガルドが龍に乗り、中央大陸へと飛び立つ。

 そして時は動き出す。


「ハッ、時間停止かっ!逃げるなっ!ガルド・リベレイ!!」

「『その名は‥‥‥』」

 インウィディアは詠唱を続けながらも飛び去る龍へと再び魔術を放とうとするテミスの正面へと回り込み、


「邪魔をするなっ!『ホーリー・メガランス』!!」

「『ヨルムンガンド』!!」

 紫と白の光が互いを打ち消し合い、二人の視界はゼロになった。

 そして再び二人が対面した時には既にガルドの姿は見えなくなっていた。


「‥‥‥貴様、本当に私の相手を出来ると思っているのか?」

「千年前を忘れたか?お前の相手をしていたのは俺だと言うことを」

「それは貴様の手元にダーインスレイヴがあったから互角の戦いを演じられた。今貴様の手元にあるのは神代の武器とはいえダーインスレイヴには劣る物。総じてこの戦い、貴様に勝機は」

「そっちこそそんな入れ物の中に入っていて全力を出せるのか?」

「ふっ、私の言葉を遮って何を言うのかと思えば。この体は既に私の体に等しい。長年私の魔力に慣らしてきたからなぁ」

「なるほど‥‥‥それは魔人王が多忙で良かったな?」

「あ?何が言いたい。魔人王の人形」

 まず二人は言葉でお互いを攻め合う。

 だが口の上ではインウィディアが一歩先を行っていた。


「そんなに大事に管理してきた体を一瞬で壊されては堪ったもんじゃないだろうな」

「貴様は何故私がガルド・リベレイに負けること前提で話を進めている?」

「は?お前、相当記憶力が無いらしいな。一度も勝ったことないだろう?確か一柱であいつを相手取れたのはラピスくらいだった筈だ」

「ちっ!それは所詮千年も前の話だ!今は」

「俺の『目』には大した変化は見えないが‥‥‥気のせいか?」

 この言葉でテミスの目の色が変わった。

 我慢の限界が来たのだろう。


「もういい、とりあえず貴様は惨たらしく死ね!」

「その入れ物、俺が壊してやるよ」

 彼らの中で千年前から止まっていた時間が魔人王の復活によって再び動き出す。









「おー、おー、やってますねぇ。最高位天使と『九罪の魔人』筆頭とも言われる嫉妬の戦い。いやぁ、恐ろしい」

 その最中、刀の破片を拾う一人の男がいた。


「うん、一応これは回収しておきましょう。しかし、助かった。何を知っているのかソウジ・クロスヴェルドは用心深すぎる‥‥‥まぁその謎もさっきほぼ解決したも同然ですがね」

 そして、その場から歩き去っていく。

 その動きに戦う二人は全く気づかない。


「トリン、折角ですから君の産みの親に挨拶していきましょう」

「はい、マスター」

 呼び掛けると返事をしながら一人の少年が現れる。

 その少年の眼に感情はない。

 少年は男の言葉に従うだけの人形のようだった。


 

次はメルかな(最後に主人公サイドをやる)

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