表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
四章 ヤマの争乱
106/194

旧世界より

 主観者 ソウジ・クロスヴェルド




 爆発が止み、周囲の地面は砕けて瓦礫と化し、安定した足場は無くなっていた。

 ソウジが事前に張った闇空間魔術も壊れている。


「いってぇ‥‥‥あいつどんだけ魔力使ったんだよ‥‥‥」

 その瓦礫の山の上にソウジは寝転んでいた。

 起き上がる気力もないのかその場から動こうとしない。

 そして魔力災害が起こることは意図したことではなかったようだ。


「まぁ流石にあれで無傷はねぇだろ‥‥‥ねぇよな?」

 数分後に重い腰を上げ、周囲を見渡しても遠くに木の建築物が見えるだけで人の気配は全くない。


「安否確認は欠かさずに、っと」

 もしラズルが生きていた場合、挟み撃ちとなって任務の遂行が困難となる。

 それを防ぐためにもソウジは周辺の瓦礫を注意深く探り、死体を見つけようと試みる。


「‥‥‥おかしいな」

 だがいくら探そうとも死体は見つからない。

 羽の一枚すら何処にも見当たらなかった。


「塵も残さず消えたか?いや、それはないな」

 天使の体は人間よりも丈夫に作られている。

 主な構成物質は殆ど一緒だが何個か大きな違いがあるのだ。


 一つはその翼。普通、人にはないものだ。

 これは特殊な魔力を宿しており、翼を動かさなくとも飛ぶことが出来るようになっている。

 その魔力を人間が再現することは未だ叶っていない。

 探ること自体が生命の創造主への冒涜とされている国もあるため中々研究が進まないのだ。


 二つ目は神鉄‥‥‥アダマンタイトを含む体だ。

 天使達の体は低密度かつ、ごく少量ながらアダマンタイトが含まれている。

 そしてそれは少量でも十分な強度を発揮する。

 恐らく普通の人間の五倍は丈夫だろう。


「となると‥‥‥地面の奥深くか、まだ探してないところにいるか、か‥‥‥」

 まだ瓦礫の中を探しきったわけではない。

 場合によっては地面を掘り返すことも視野にいれ始めた矢先に異変が起こる。


「おっと、地震か。珍しい」

 地表が大きく揺れ始めた。

 最近各地で小規模の揺れが多発しているようだったがソウジが実際に遭遇するのは久々のことだった。

 しかし、この地震はそれらとは別のものが原因で起こっていた。


「‥‥‥まさかっ!」

 そのまさかだった。

 震源はどんどんとソウジへと近づき、それに気づいたソウジが飛び退くと一瞬前までソウジが立っていた地面から大人が一人だけ入れそうな大きさの黒い球体のようなものが飛び出してきた


「おいおいおいっ!ありかよ、そんなの‥‥‥!」

 その黒の殆どは翼だった。

 多少魔力で補っているようだがオリハルコンを含む刀を砕くほどの翼だ、隠れるにはもってこいの場所だろう。

 そしてその翼を勢いよく広げ、周囲に羽を撒き散らす。


「っ!、‥『ダーク・ディビジョン・バースト』!」

 対応が遅れたため、中級程度の威力でしか魔術を使えず、いくつかの羽を撃ち漏らし、左肩に三枚ほど刺さった。


「くっくっく、‥‥アハハハッ」

「あ?何が可笑しい?」

 ラズルは腹を抱えて狂ったように笑い始めた。

 流石に奇妙に思ったが次の言葉に戦慄することになった。


「いや、ふふ、‥‥‥すまないな。その黒い魔力を宿した羽には死の呪いがかかっている。本当は使いたくなかったが‥‥‥悪く思うなよ?」

「なんだと‥‥‥?」

「解呪方法はなくはないが‥‥‥まぁ安心しろ、大抵そのまま三分も経たずに死ぬ」

『呪い』と言われるものは体が動かなくなったり背が縮んだりと様々な効果をもたらす魔術に似た技術だ。

 一説には固有魔術の一部という説もあるがはっきりとしたことは分からない。


 死の呪いとは数ある呪いの中でも最上位クラスのものだ。

 しかし、効果を発揮するまでの時間が長かったり、呪いとして形になるまで数分から数秒動けない場合があったり、こんなことをしている暇があったら上級魔術を撃ちまくった方が敵を殺せる。という意見が多かったためあまり使われなくなった呪いだ。


「てめぇ、地面に籠ってたのはこれを使うためかっ!?」

「その通り。これで貴様は終わりだ、諦めて数分の余生を満喫しろ」

 その時間的な欠点をラズルは地面の中で過ごした。

 これで欠点は殆どゼロになり、確実にソウジを殺す手段を行使できた。


「はぁ‥‥‥結局こうなるのか‥‥‥」

「ほう?貴様は敗れることを最初から分かっていたのか」

「そうじゃねぇんだ‥‥‥」

「む?では何だ?」

 すっかり日が登った空を見上げ、ソウジは考える。


(これはもうじゃあ打てる手がないな‥‥‥)

 そう、ソウジには呪いへの対抗手段はない。

 解呪出来る仲間がその場にいるか全て避けるかの二択しかない。

 そして受けてしまった今、大人しく効果を発揮する時を待つしかない。


「なぁ、今のうちに俺に殺されないか?」

「‥‥‥何?」

「大体こういう呪いは術者へも何かしらの影響があるはずだ。術者が死ねば解ける」

「そんな事を言われて大人しく『はい、殺されます』とかいう馬鹿が居ると思うのか?」

「俺は居て欲しいね」

「ふざけたことを抜かすな。俺を殺して解呪するつもりならもう猶予はないぞ?」

 この問答は意味がなかったことを感じ、ソウジはため息をつく。


(前はこんなキツイ道のりじゃなかった‥‥‥でも仕方ないか)

 これから目の前の堕天使に起こる悲劇を想像し、少しだけソウジは憐れに思った。


「俺は忠告したからな?‥‥‥覚悟はいいな?」

「あぁ、死の呪いに抗えるものなら抗ってみろっ!」


(じゃあ頼んだわ‥‥‥もう一人の俺とその相棒?)

『はぁ‥‥‥まぁ約束は守る』

『黒龍神以来か?でもあれよりは期待できなそうだ』

 ソウジの頭の中で二つの声が響く、片方は如何にもめんどくさそうな声音で、もう一人は愉悦と落胆の二つの感情を器用に表していた。



『『まぁ、一瞬で終わらせる(ぜ)』』




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ