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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
四章 ヤマの争乱
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支配者と虐殺姫

 主観者 カナデ・ウィンレスター




(‥‥‥この状況どうしよう?)

 流れでヴィルマと戦うことになってしまったが本当なら戦わずに全力で逃げるべきだ。


(だけど‥‥‥)

 ここで私が逃げればキアナちゃんが危ない。

 多分良い扱いは絶対にしてもらえないだろう。


 最悪一生実験動物のような扱いになって殺された方がマシと思えるほどの酷い目に合わされる。


(全てにおいて私が優先すべきことはキアナちゃん。何とか切り抜けないと‥‥‥!)

 そう考えている間にもヴィルマは魔力を溢れさせ、こちらへと魔術を放つ準備をしている。


(ヴィルマは確かほぼ全ての龍神の力がある。まともにやりあっても地力が違いすぎる)

 カナデの音魔術は改変によって空気もある程度操れる。

 それによって火属性は密閉して真空状態にする、などの対策も可能だ。

 ただ勿論、欠点もある。


(ヴィルマが魔術を発動させてから私が対応する形になるから必然的にずっと後手に回る‥‥‥)

 一部の特異体質持ちなら魔力が集まる段階で属性の判別ができるようだがカナデにはそれはできない。


 いずれ間に合わなくなって破綻するのは目に見えている。


「‥‥『水龍神の咆哮』!!」

「‥‥『サウンド・ウォール』」

 激流を音の壁で直撃を避けつつ次の一手を考える。

 大量の水が足元に流れ込み、少しだけ動きを阻害されるがあまり支障はない。


「こん、のぉぉ!!」

「あ、待ってキアナちゃん!」

 キアナちゃんはあまり魔術が得意じゃなく、猪突猛進という言葉が似合う。

 私がカバーすれば大抵のことは問題ないけど


(この男を相手にしながらキアナちゃんのカバーをするのは難しいっ!)

 カナデの静止の声も空しく、キアナはヴィルマに接近戦を挑む。


「くっくっく‥‥‥」

「何が可笑しい、のっ!」

 両腕に填められた爪による連続攻撃を軽々と防ぎながらヴィルマは嗤う。


「ようこそ、身の程知らずの直進馬鹿」

「っ!?」

「キアナちゃん!!」

 キアナの周囲には六つの魔力の塊が現れる。


(『サウンド・アーマー』だけじゃあれは防ぎきれないっ、なら‥‥‥!)

 水に足を取られながらもカナデは自分の魔術がキアナに届く範囲まで進む。


「この距離なら!」

「少し眠っててください。『龍神演舞』!!」

「‥‥『サウンド・キューブ』!!」

「っ!え‥‥‥?」

 六つの魔力の塊から六色の龍が現れ、キアナを食らおうとするが彼女を囲む音の四角形がそれを阻む。

 だが


「ほう、これを防ぐとは‥‥‥ですが」

「くっ‥‥‥!」

 これを維持するためにカナデは魔力を注ぎ続ける必要がある。

『サウンド・ウォール』とは違って一定の形状を維持し続ける『サウンド・キューブ』は簡単な魔術ではない。


 対するヴィルマは既に魔術が自分の手を離れている。

 つまり、もう別の魔術を放てる状態だ。


「これで終わりです、残念でしたね?」

「‥‥‥いつかその煽り口調が身を滅ぼすことになるわよ」

 いつでも止めをさせる状況だがヴィルマはまだカナデに止めを刺さない。

 もう抵抗できないと分かっていてもこのような行動は普通とるべきではない。


「これが傲慢。性分なのだから仕方ないでしょう?」

 だがヴィルマはこれを止める気はない。

 何故なら自分が『傲慢』に選ばれたから。

 何故なら自分は神をも支配する『人間』だから。

 何故なら‥‥‥


「カナデ!私はいいから自分の身を守って!!」

「私は全てを手に入れる‥‥‥さようなら、カナデ・ウィンレスター‥‥‥『傲慢の(プライド・)断罪ジャッジメント』!!」

 キアナの声にカナデは応じずそのままキアナを守ることを止めない。

 そしてヴィルマは自らの『傲慢プライド』を刃と化し、それをカナデへと振り下ろす。


(ごめんね、キアナちゃん。結局私は何も出来なかったみたい‥‥‥)

 目を瞑り、最期の時を待つ


 だがいくら待とうともその時はやってこない。


(まさか、まだ焦らす気なの‥‥‥?)

 ヴィルマは『傲慢』というがここまでくるとただの『慢心』ではないだろうか?


 堪らずゆっくりと目を開くとそこには驚きの光景が広がっていた。


「え‥‥‥?」

「‥‥‥ハハッ!これは予想外だ」

 傷ついていたのはヴィルマの方だった。

 それも自らが振り下ろした一撃をそのまま反射されたかのように剣を握っていた右腕を肩口から大きく切り裂かれた状態だ。


(これは‥‥‥いつの間にか守られていたのね)

 カナデの予想通りこの魔術はカナデを守るために事前に仕掛けられていたものだ。

 その名も『致命反転デッドライン・リバース』。

 致命傷を受けたときに自動で発動し、相手にそれと同等の威力を返すという強力な魔術だ。


 その人物は『支配者になろうって人を相手にするんだもん、例え四十八時間に一度しか他人に使えない魔術も仲間の安全のためなら使うよねー』

 と一人呟いていた。


「カナデちゃん!キアナちゃん!」

 そしてカナデ達が稼いだ時間はこの戦場における最強の味方を連れてきた。


「「フィーネさん!」」「終焉‥‥‥!」

 三人とも彼女が来たのを見てその名を呼ぶが一人だけ違う言葉を発した。


「終焉‥‥‥?」

「フィーネ‥‥‥?あぁ、なるほど」

 ヴィルマは勝手に一人で納得する。


「さて、この二人を追い詰めたあなたは何者かしらね?」

「くっくっく、私はいずれ貴女を従える者だよ」

 ヴィルマは不気味な笑みを浮かべながら話し出す。

 いつの間にか肩の傷は治りかけている。


「忘れたとは言わせない‥‥‥貴女はこの世界に生命を生み出し、全てを制した支配者と対になる存在。世界に終焉をもたらす龍であるということを‥‥‥!」

「は?何のことだかさっぱりだわ」

 ヴィルマがこれが衝撃の真実だと言わんばかりのテンションで語るがフィーネは全く話しが分からないと言った表情で言葉を返し、ヴィルマの頭には疑問が浮かんだ。


「‥‥‥?そうか、そう言えば支配者が『終焉』の記憶も支配していたという説もあったか‥‥‥」

「ブツブツと小さい声で話さないでハッキリ言ったらどうなの?」

「いや、失礼。歴史と真実の擦り合わせが今済んだところだ」

 またヴィルマは勝手に納得し、何故か剣を鞘に納めた。


「貴女と殺り合う気は毛頭ない。素直に引かせていただくよ」

「逃がすと思っているのかしら?」

 後退るヴィルマの元にフィーネは目にも止まらぬ速さで接近し、拳を振りかぶる。


「『破魂』!」

「『白龍神の幻光』!」

 その拳が直撃する直前にヴィルマは光に包まれ、それに拳が当たると光は拡散し、周囲は白に染まった。


「くっ、逃がしたわ‥‥‥」

「何も見えないよー!」

「‥‥‥」

 周囲の視界がゼロになっている中、カナデは音魔術によって二人の大体の位置を把握していた。


(‥‥‥逃げるなら今だよね)

 今ならば誰にも見つからずに逃げることが出来る。

 そう分かっている筈だったがカナデには一つだけ心残りがあった。


(キアナちゃん‥‥‥)

 もう面と向かっては会えないかもしれない。

 そう思うと一言別れの言葉を言っておきたいと思ってしまった。


「キアナちゃん」

「カナデ!?何処に居るの!?」

 カナデはキアナの背後に立つ。

 だがキアナは相変わらず周囲をキョロキョロと見回している。


「ごめん、私やることができた」

「え‥‥‥?」

 カナデの言葉にキアナの動きが止まる。


「でもキアナちゃんのことは私が守るから‥‥‥」

「‥‥‥」

「だから!「分かった!」」

 カナデの言葉に被せ気味にキアナが了解の声をあげる。


「それはカナデにしかできないことなんでしょ?だったら行ってきて」

「で、でも‥‥‥」

「だけど一つだけ約束して。そのやることが終わったら‥‥‥また一緒に冒険しよう?」

「‥‥‥うん、うん!」

 カナデの目に涙が滲み始め、声が震えそうになるのを堪えながら返事をする。


「いってらっしゃい!カナデ!」

「‥‥‥いってきます‥‥‥!」

 別れの言葉を告げ、カナデはその場を去る。


(私は生き残る‥‥‥必ず!)

 心の中でそう誓い、事前に教えられた隠れ家へと向かった‥‥‥。






「‥‥‥カナデちゃんは行ったのね」

「ねぇ、フィーネさん。私、止めるべきだったのかな?」

 自分が出した結論にキアナは悩み、フィーネに答えを求める。


「私だったら止めてたかもしれないわね。でもキアナちゃんがそうすべきだと思ったのでしょう?」

「‥‥‥うん、カナデが自分の意思で私から離れるなんて今までなかったし‥‥‥」

 キアナはカナデが自分に依存していることに陰ながら悩んでいた。

 そんな中あのようなことを言われてはカナデの意思を尊重したくもなるものだろう。


「‥‥‥寂しくなるわね」

「うん」

 他の人間は既に撤退の準備を始めている。

 周囲は二人の他に数々の魔物の死体だけが存在していた‥‥‥。


 こうして防衛戦は東側諸国の勝利で終わった。




 

次回からはソウジ君サイドへ移行

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