龍神とは
主観者 ライル・ギルティブレン
「『灰色の停止者ァァ』!!」
俺はヴィルマへと剣を振るい、その身を切り裂こうとする。
(これが当たりさえすれば俺の勝ちだ!)
いくら体が丈夫であろうと全てを停止させるこの剣ならば関係ない。
油断しきっている奴にならば当てれるはず‥‥‥。
そう、そのはずだった。
少し前のヴィルマが相手だったならば。
「‥‥『消えろ』」
ヴィルマは左手を俺の剣へと向けてそう一言だけ言い放つ。
それだけで灰色の剣は消え去り、ただの何の魔力も纏っていない剣がヴィルマへ振るわれる。
「何だとっ!?」
「いやぁ、ね。確かに興味深い技ですが受けてしまうと流石の私でも少しばかりダメージを受けてしまいますから対処させてもらいましたよ」
「んな馬鹿なことっ!ぐっ‥‥!」
ヴィルマは抜いていた剣を持つ左腕のみで軽々と俺の剣を受け止め、さっき停止した巨鳥の方向へと俺を蹴り飛ばす。
(ちっ、魔力を消してるのか‥‥‥?全く仕組みが分からねぇ)
アストロヘルトの騎士長が放った爆破魔術の魔力擊もただ拳を振るっただけになっていたし俺の『灰色の停止者』も効果を完全に失っていた。
それは分かっているのだが何故そうなったのかが全くもって理解できない。
(同属性で相殺‥‥‥いや、そんな事をしなくても奴の強力な魔術なら相殺どころか大分出力差をつけて勝てるはず)
さっきの水魔術や光魔術?とベラベラと喋っていた内容から何らかの方法でヴィルマは龍神の力を扱っている。
龍神は『神』と付くぐらいだから神格種と同等かそれ以上の存在だ。
さっきの人間の魔術を遥かに越える威力の魔術を放てるのも納得できる。
そしてたった今魔力を消したり転移まがいの行為が出来るかもしれない龍神の力を思い付いた。
「‥‥‥転移と魔力を消滅させる技は白龍神の力か」
「御名答!白龍神と黒龍神はそれぞれ他の龍神と違い、皮や爪が出回らない。依り代を用意するのが本当に大変でしたよ」
白龍神、ブラン・ゴッド・ドラゴンは神出鬼没。
人間を好んで襲ったりしないため危険度は極めて低いがそもそも見つけることが出来ないのだ。
例え見つけたとしてもその鱗は一切の魔力を通さず、白龍神本体は幻影に紛れ、再び姿を消すという狙うだけ無駄と言っていいほどの魔物だ。
対する黒龍神、ノワール・ゴッド・ドラゴンは天下無双。
とある山の頂上を棲みかとし、そこへ足を踏み入れたものは殆ど生きて帰って来なかった。
そして気紛れに人里を襲い、その地は数年間全く作物が育たない不毛の地となる。
これが原因で滅びた国もあり、その犠牲者の総数は数十万は下らない。
もしソウジ先生が討伐しなければ犠牲者の数は未だ増え続ける一方だったことだろう。
白龍神が討伐されたり素材を手に入れたりした、という話は聞かないがソウジ先生のように公表せずにそれを成した勢力が情報を秘匿した可能性もある。
白龍神に関しては犠牲者も少ないため秘匿したところでバッシングもあまり受けずに済むだろう。
「まぁ知ったところで貴方にどうにか出来ますか?ご子息殿」
「くっ‥‥‥」
その通り。
敵の力の要因が分かっただけで対策が出来るわけではない。
可能性があるとすれば‥‥‥。
(消しきれない程の魔力で魔術を放つしかないか‥‥‥?)
更にヴィルマに転移を使わせないことも条件に入る。
現時点でそんな術をライルは持ち合わせていない。
(『灰色の停止者』を既に二回使ったから魔力量も大して余裕はない‥‥‥こりゃ詰みか?)
あれは発動にかかる時間も少なくない上にかなりの魔力を使う。
さっき消されてしまったのは、なかなか痛い事態だった。
「とりあえず、貴方達二人への用事はもう終わりました。それでは‥‥‥一先ずお別れです」
そう言い、ヴィルマは右腕に火の渦、左腕に雷を纏わせる。
「これで死んでしまったら貴方達は『そこまで』の人間だったというわけです。くれぐれも私を恨まないでくださいね?」
そしてその魔術を放とうとした。
だが、その時別の戦場でとある魔術を起動させたものがいた。
そして結果的に俺達はそれに救われた。
「これは‥‥‥っ!?」
周囲に爆音が鳴り響く。
だが何処からも火の手は上がらない。
そしてその爆音は巨鳥を含めた魔物の体内を破壊し、地面の土を大きく抉る。
見たところ聖騎士達にその爆音の犠牲者はいないため、これを扱うものが味方であることは間違いないだろう。
「空気を膨張させた‥‥‥?というよりこれは‥‥‥音か?」
ヴィルマは腕に纏わせた火と雷を消し去り、ブツブツと小さな声と見開いた目で思考を展開し始めた。
「既存の魔術に該当するものは‥‥‥空気を膨張させたとしたら風だが音はその範囲ではない‥‥‥だとしたらこれは私の知らない魔法か!!」
そして思わず飛び退いてしまうような不気味な笑みを浮かべた。
「お二人とも申し訳ない。急用が出来てしまったのでここまでにしましょう。またいつか」
「っ!?待て!」
マルクが剣を振るうが既にヴィルマは消えてしまった後だった。
「クッソ!!」
「‥‥‥マルク、大丈夫か?」
俺の言葉にマルクは目を見開き、その後天を見上げて深呼吸をする。
「少し冷静じゃありませんでした。もう大丈夫です」
「それならいいが‥‥‥マルクがここまで感情的になってるのを見たのは初めてだなぁ‥‥‥」
「自分は常に戦場を客観的に見て冷静な判断を下すのが役目ですから‥‥‥今回は申し訳ありません」
「いや、別に問題はなかった。むしろマルクにそんな一面があったのかと思ってちょっと嬉しい限りだ」
「‥‥‥それはちょっと微妙な気分ですね」
「ハッハッハ、悪いな!まぁ結果的に誰も犠牲にならずに済んだ。それで良いじゃねぇか」
「‥‥‥そうですね」
マルクはそっぽを向きながらも素直に応じる。
ライルの言うとおりこの場に重傷者はいるものの死傷者は確認されていない。
未知の魔物も多かった中では完勝と言ってもいいくらいだろう。
「本当に、あなたは先代とよく似ている」
「あ?なんか言ったか?」
「いえ、何でもありません」
「そうかー」