100話記念 ギル・フレイヤ内乱後のユウマのとある一日と暗躍する者達
あ、百話じゃん!と思って急遽仕上げたもの。
誤字脱字が多かったら申し訳ないです。
久し振りにユウマ君が出てきます
主観者 ユウマ・エクスベルク
天使ルシフェルとの戦いのあと、俺達はまず魔導師団本部の医務室へと運ばれた。
そして回復魔術による治療を施された後はある程度自由を与えられた‥‥‥俺だけ。
「二人とも怪我が重いのか‥‥‥」
「シオン君は足の裂傷。アルバート君は重度の火傷でまだ治療が十分じゃないですね。力不足で本当に申し訳ないです」
「いや、責めているわけじゃない。回復魔術が使える人が居てくれて助かった。ありがとう」
俺に向かって帝国の魔導師団幹部の一人であるクルスは頭を下げようとするがそれは止めさせる。
俺としては礼こそ言っても恨み言を言おうとは思わない。
「しかし‥‥‥俺はこの国を把握しきれてないから自由行動を許可されても何処へ行けばいいのやら‥‥‥」
「あ!その事ですがちょっと待ってくださいね」
何やらクルスが懐から何かを取り出そうとしている。
そんな面倒な所に隠すくらいなら空間収納に放り込んでおけばいいものの‥‥‥。
そう言えば俺も少しは空間収納を使えるようになった。
移動中などにコツコツ空間魔術を練習した結果、大した容量はないが無事手ぶらで行動できるようになった。
そして使い始めたは良いがこれは若干便利すぎると思った。
取り出したい物を頭に思い浮かべて空間魔術を使うだけで手元にそれが出てくるのだ。
リュックなどからゴソゴソと取り出すよりも遥かに早い上に運んでる間は重量ゼロとか反則過ぎる。
(まぁこれが冒険者の普通なんだろうな‥‥‥世界は広い)
と今までの人生でこんな便利なものを習得しようとも思っていなかったことに若干後悔した。
「あ、これです!どうぞ」
クルスが目的のものを発見し、手渡してくる。
それは小さな紙で、クルスの名や身分などが書かれているものだった。
「それは僕の名刺であり紹介状の代わりにもなります。予定ではソウジ先輩があなたを学都に連れていこうと考えていたようですが何やら色々と忙しいらしく勝手に行ってきて欲しい、とのことで‥‥‥」
「これがあれば何も変なことは起こらないのか?」
「えぇ。あ、学都への道は多分看板とかがあちこちに設置してあるので迷わないと思います。この辺は殆ど整備が完了してますし学都に犠牲はありませんでしたから」
『学』びの『都』市なのに襲われなかったのか。
一応将来有望そうな奴を潰すために何かしらはしてもおかしくなかったはずだが‥‥‥
「学都も襲われてはいたようですが操られなかった一部の教師と生徒が全て鎮圧したようです。優秀な後身が育っているみたいで安心です」
疑問に思っていたのを見抜かれたのか先の内乱での学都の様子を話してくれた。
どうやら操られた人を広間に集め、その人々の動きを完全に封じ込めた教師が居たらしい。
勿論単独ではなかったらしいが。
「まぁ学都に関しては通常通り講義もしているのでもし機会があったら会ってみるのもいいかもしれませんね。彼は図書室にもよく足を踏み入れるはずですから」
「その教師の名は‥‥‥?」
「えーっと、確か‥‥‥リグル‥‥‥?だったはずです」
ん?何だ、優秀な教師なのに名前ははっきりしないのか?
「すいません、彼はとても影が薄くてそれどころか気を抜くと名前まで忘れてしまうような人物なんですよ」
「‥‥‥何か不憫そうな体質だな」
「ですね‥‥‥」
まぁとりあえず学都へ行ってみるか。
主観者 ???
俺は帝都の路地裏を歩く。
とある人物との待ち合わせ場所へと向かって。
「お、来た来た」
「‥‥‥」
目的地に辿り着くと女性が空から降り立ち、空間魔術によって俺と共に別の空間へと跳んだ。
跳んだ先は白く染まった大地が広がる場所。
恐らくはトラス北部の旧ノズヴェリア。
現在はヴェルスノアと呼ばれる地だろう。
「あ、先に聞いておこっか。あなたは○○なのか、約束の人なのか」
「‥‥『フローライトは元気か?』」
その言葉に一瞬女性が固まるが直ぐに微笑んだ。
「案内するわ。私のアジトに」
視界がホワイトアウトする程の吹雪の中を二人は歩き、切り立った岩山の前に立つ。
どうやら目的地に到着したようだ。
「えぇっと‥‥‥よし」
女性が岩山をペタペタと触り、何かを把握したかのような声をあげるとその後、岩山がボタンのように凹む箇所を数ヶ所押し込む。
すると岩山が開き、下へ向かう螺旋階段が出現する。
「行こう、私の仲間は各地に散らばっているけど今までにやって来たことを教えるから。そのあと今後の事を考えよう?」
「‥‥‥分かった」
二人は螺旋階段の先へと消えていく。
いずれ来る世界の終わりを止める準備をするために。
主観者 ユウマ・エクスベルク
「ふぅ‥‥‥結局誰も来なかったか」
俺は迷うことなく無事に学都に着いた。
建造物への驚きは帝都に入ったときに済んでいるためそこまで激しいものではなかった。
それでも図書室の蔵書量は目を見張るものだった。
辺り一面本棚で埋まっており、その中にはぎっしりと本が敷き詰めてあり、この世の全ての知識がここに集まっているのではないかと思えるほどだった。
して、ここまでの量があるなら一つのジャンルについて調べるだけでも何時間あっても足りない。
故に俺は最低限知っておくべきだと思ったあることの基礎知識と少し進んだ知識を得ようとした。
そして今はその目的も大体達成できた頃だ。
勿論、知識を仕入れれば更なる先を知りたくなったり、説明が難解でもっと分かりやすいものが欲しくなったりするが‥‥‥。
「はぁ‥‥‥」
「お困りですかな?」
「っ!?」
ガタッと大きな物音を立てて立ち上がる。
幸い周りにはその物音を立てる要因となった人物以外はいなかったがその人物が人差し指を口の前に立てる。
「おや、驚かせてしまったようですな。しかし、図書室ではなるべくお静かに」
「‥‥‥悪かった」
「いえ、こちらこそ。ところで‥‥‥魔人について何か知りたいことでもあったので?」
「あ、あぁ、少し‥‥な」
この男の言うとおり俺は魔人に関しての本を読み漁っていた。
特に自分の中にいるという『強欲』の魔人に関してを。
「ほうほう‥‥‥まさか魔人憑きにここで会えるとは思いませんでしたなぁ」
「あんたは誰なんだ?」
「おっと、申し遅れました。私はリグレッド・クロステイル。よく学都の守護者とか名前を短くしてリグルと呼ばれることが多いですな」
「そうか‥‥‥あんたがクルスが言っていた人か」
「おや、魔導師団の方々とお知り合いで?」
この質問にはクルスの名刺を見せることでリグレッドは満足した。
するとリグレッドはテーブルを挟んで俺の向かい側に座った。
「これも縁です。あなたが疑問に思ったことを私に質問してみてください」
「‥‥‥なんでだ?」
疑問に思ったことは調べればいいだけ、正直そう思ったため質問を返す。
「この図書室には膨大な量の書物が存在します‥‥‥まさかその疑問の回答が直ぐに見つかるなんて甘い考えはお持ちではないかと思っていたのですが‥‥‥どうですかな?」
「‥‥‥」
確かにその通りではある。
この頭の中のモヤモヤを完全に消せるものが見つかる可能性は極めて低い。
だが、
「この回答をあんたが持ってるとも「五十年」‥‥‥何の数字だ?」
完全に俺の反論と重ねてリグレッドは年数を言った。
「私がこの図書室の書物を読み始めてからかれこれ五十年が経過します。そしてそれらの知識は全てここに入っています。まぁまだ全ては読み終えていませんがこの国の誰よりもここの書物の内容を把握していると思いますよ?」
‥‥‥何やらふざけた事を言い始めた。
「‥‥‥九番棚最上部左端が定位置の本は?」
「『魔人族と人間の違い』」
「三番棚上から二列目右端」
「『魔術の改変と法外へと至る道』。まぁこの本の法外魔術は眉唾物ですがね」
俺が今日読んだものの中で二つの書物の位置を言ってみたがどちらも即答されてしまった。
後者の物は内容に関しての言及もあったため、全て頭に入っている、というのも本当なのかもしれない。
「さ、質問をどうぞ?」
「‥‥‥分かった」
「とまぁこんな感じですかな。ちょっと長くなりましたがご満足いただけましたか?」
「あぁ、感謝する」
「いえいえ、私も久し振りに存分に語れて良かったです。普段は限られた時間で限られた内容しか語ることが許されていませんから‥‥‥」
まぁここに来る子供は学習するために来ているのだからその学習すべき内容を差し置いて自分の趣味の話をしてしまっては教員失格だろう。
結果的にどちらにも利点はあったようだ。
「さて、あなたは魔導師団本部へ帰った方がいい。ここはもうじき閉まってしまうので」
「あぁ、有意義な時間だった」
「私もですよ。ユウマ君」
ん?そういえば俺はこの男に名乗っていたか?
「それではお先に失礼します。国内を移動するとはいえお気をつけて」
「分かった」
リグレッドは図書室を出ていく。
もしかしたら別件の用事があるのかもしれない。
「‥‥‥帰るか」
「ソウジ殿がどんな人物を冒険者に推薦したのかと思ったら‥‥‥これはなかなか見所がありそうな感じでしたなぁ」
研究室へと戻ると一人呟く。
事前に私はソウジ殿からユウマ・エクスベルクの監視と会話の相手を果たすように言われていた。
暫く音沙汰がないと思ったらこんな雑用に‥‥‥と最初は思ったがついつい話しすぎてしまったようだ。
「まぁ私が出来ることは守ることと知識を分け与えることのみ。動くのは他のメンバーに任せますよ」
窓の外に浮かぶ月を一人見上げる。
「この美しい世界は終わらせない。ずっと変わらずこのままであるべきなんです‥‥‥」
守護者は今日も動かず守り続ける。
この男が動くのはまだ先の話だ。
こうしてユウマの一日は終わった。
そしてその裏でも世界は動き続ける。
順調に、終わりへと舵を取りながら。