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亮太的、考察

ほぼ、亮くんの一人語りです。

亮太 中学生




幼い頃の、最初の記憶はいつも、父親の道場にいた。

色々な年代の人が、父に習い竹刀を振っていた。

道場の隅で座っていた自分に、休憩の人達が寄ってきては猫かなにかに構うように、返事の期待をしない話をしては練習に戻っていった。


「亮太、今日は暖かいなぁ」

「坊主、飴食うか?」

「りょーたぁ~、疲れた~」

「坊、お前の父ちゃん鬼だな」


ざわざわと集まっては、自分を囲みながらも自分に解らない会話をすることも多々あった。

中学生達は勉強や学校の先生の話を。社会人は仕事や家庭の愚痴や悩みを。老年の人達は季節や時事問題を。高校生や大学生は将来や恋愛の話を。





「………その話、俺の質問と関係あるか?」

「黙って聞け」

「おう……」


眉を寄せた長谷部を制して話を再開する。




高校生が、振られただの彼女と喧嘩しただのと話している時、老年の二人がふと会話に参加してきたことがあった。


「そりゃあ、お前が悪いな」

「はぁ? 何でっすか?」

「いいか。女性っていうのは記憶力が良いんだ。特に、自分に対する相手の言動、自分の興味の対象についてはな」

「そうだぞ。女に優しくっていうのは、紳士だとか関係なく、男が上手く生活していく上での知恵だ」


その二人が言うには女はほんの少し、例えば、重い荷物を持っているのに手伝ってくれなかった。話に対する相槌がおざなりだった。待ち合わせに五分遅刻した。

そういった、日常の一場面の不満を何時までも覚えているという。

また、自分の好意を持つ男が、自分以外の女に優しくした。肩に触った、頭を撫でた、名前を呼んでいた。ということもいちいち覚えているらしい。


「でだ。お前、彼女と一緒に居るときに雑誌読んでるとか、携帯弄り続けるとか、そりゃあ彼女でなくても怒るわ」

「しかもクラスメイトの女と休み時間に楽しく話すとか、誤解まっしぐらだな」

「そんな……」


二人に言われた高校生は、信じられないと言いたげに呟く。

それに追い討ちを掛けるように、話は止まらない。


女に優しく。とは言ったが、優しくするのと馴れ馴れしいのは違う。

気遣うのは良いが、恋人がいるならば言動は一線を引いて区別すべき。

相手の気持ちを慮るのは良いが、優柔不断にはなるな。


「しかし、お前さんの場合は顔が良いんだから下手に女に優しくするとすぐ誤解されるだろうなぁ」

「ぅ……まぁ、確かに、知らないところで俺の彼女だっていうのが……時々、現れる……」

「ほれみろ。お前が考え無しに女に優しくするから、勘違いされるんだろう。お前たいな顔面の奴は、恋人以外には逆に冷淡に接した方が良い」

「えぇ~。それだと、格好つけてるとか恐いとか言われないか?」

「そりゃあ普通のツラの奴の場合だ。顔面の良い奴の場合には、女に優しくってーのは当てはまらねぇ」


むしろ逆効果だ。とよく解らないことを言って笑った。

そして何故か、話の的がこちらに移ってしまった。


「坊も気を付けろよ。お前さんも顔が良い部類だからな」

「そうさな。坊っちゃんの場合は黙ってても女が寄ってきそうだ。笑顔は見せるな」


優しくするのは、これだと思った女にだけ。ツラの良い奴の笑顔は武器になる。


「常に隣に居ても違和感のない関係になってだな。……そうだな、先ずは相手の家族と仲良くなって、家の行き来を当たり前にすると良い」

「いいか? こっちが好きだからってだけで突っ走るなよ? 相手の気持ちが完全に自分に向く前に手ぇ出そうとすりゃ、コイツみてぇにフラれる」

「うぐっ……いやでも付き合って三ヶ月もしたら、」

「バァカ、昔なんざ結婚するまでは手ぇ出すなんて考えられねぇことだったんだぞ」

「そうだぞ。女はロマンチックなのが好きだからな。それこそ、誓いのキスが初キスでってのはロマンだろ」

「そこまでっ!?」


そのあとも、二人の昔話を交えつつ、どうしたら好きな人を手に入れられるかっていう談議? は続いた。




「…………桑崎、それ、マジで実践してんのか?」


話終えると、長谷部が呆れた表情で見てくる。


「そうだな。晶子の両親とも顔見知りになったし、光希も懐いてくれている。あぁ、晶子の家の合鍵も貰ったし、晶子に何かあればすぐに連絡がくるな」

「……マジか……」

「晶子の周囲には、今のところ俺以外には晶子に興味のある男はいねぇし、女友達も把握している。最近は手を繋いでいてもそれが普通になってきたらしくて、何も言わなくなったな」

「恐ぇ……お前の本気と外堀の着実性が恐ぇ……」


長谷部が物理的に俺から一歩退いた。

だが、言わせてもらうが、コイツも同じようなもんだ。

南川の周囲にいる男 ‐ 俺 ‐ にいきなり話しかけてきたと思えば、南川のことについて根掘り葉掘り。しかも俺が南川に興味を持っているんじゃないかと威嚇しながら、だ。


何時も笑顔で誰に対しても同じテンション。同じ距離感で接している長谷部。

それは裏を返せば、誰に対しても一線引いてるってことだ。

それを指摘した時のコイツは………、いや、止めておこう。あまり気分の良いもんじゃなかったしな。


「……で、お前の質問…告白しねぇのかって話だったか?」

「おぉ? いや、そんだけ好きなのに、何で我慢出来るんだって話だ。生殺しもいいとこだぞ」


男同士だからな。周囲に人の目がなけりゃ、思春期の話題なんざ、下ネタしかない。

長谷部に話題をふられるとは思わなかったがな。


「まぁ、確かに手を出したくはなる。晶子は無防備だし、危機感ないし、距離も ‐ 物理的にも精神的にも ‐ 近いしな。だが……」

「だか? なんだよ」

「………晶子にとって、恋愛っていうのが、他人事なんだよな」

「? どういうことだ?」


なんと言えば良いのか。

晶子には、恋愛事は他人の話だけなんだ。何故か分からないが、晶子自身が恋愛の当事者になることが、今のところなさそうなんだ。切り離して考えてるというのか?

じゃなけりゃ、あからさまな男どもの視線を理解しないなんてことが有り得るだろうか?


「…あー、確かに。言ってる意味は良く解らんが、何となく理解できる……」

「疎いとか鈍感ってのとは、違う気がするんだよな…」

「う~ん……まぁ、頑張れとしか言えんわ」


多分、今の晶子に告白なんかしたら、今までの全てが無かったことになる。

だから、俺は下心を全て押し込め、外堀をガチガチに固めている最中だ。

晶子が気付く前に、堅牢な壁で囲ってやる。

そう言って笑えば長谷部に、だから恐ぇって! とまた一歩退かれた。


………ちょっと、考えていた話と違ってしまいました。

同級生を数人出すつもりでしたが、そうすると亮くんが怖いことになりそうなんで、自重しました。

長谷部君の話はまたいつか。

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