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桜と迷子とお叱り

晶子 小学生




こんにちは、神代晶子です。

春です。桜です。

お花見です。


「……迷子です」

「…かなちゃん……」


はい、絶賛迷子してます。

いやいや、正確には迷ってはいません。

ただ、目的地と、人の流れが真逆なので、動くに動けないのです。


今日は、小学校も卒業したし、春休みだし、皆でお花見しようってことで、河川敷の桜祭りに来たのです。

メンバーは、私とかなちゃんと由紀乃ちゃん、亮くんと長谷部君です。光希は来たがっていたけど、野球です。


で、河川敷の端から、人波に流されつつ屋台で欲しいものを買って、花見会場 (? 公園?)の中央辺りにある、シートを敷けるスペースにレジャーシート敷いて、皆でお花見満喫してました。

暫くしてから、私とかなちゃんが二人でお手洗いに立ったんです。

そしてお手洗いから出ました。←イマココ、です。


「なんか、見事に皆同じ方向に歩いていくよね、何でだろう?」

「何でだろうね? ……あ! ねぇ、あっち! あっち側に逆方向への波が見えるよっ!」

「あっ本当だ! ……どうする? あそこまで突っ切るの、無理だよ……」


休日のごった返す花見会場。

行儀良く (?)一方方向へ流れる人波。

私達は小学生。 (来月から中学生だけど、まだ小学生枠だよね)

……流されて会場の端まで行きますよね、これ。

かなちゃんとどうしようかとオロオロしてます。


「…ん? ………は!」

「? どうしたの、かなちゃん?」

「晶子ちゃん! こっち! こっち行こう!」


かなちゃんが指差したのは屋台の裏側。

桜の木が並んでるけれど、屋台の荷物や搬入経路になっているのでお客さんは居ないみたいです。

ロープが張られています。


「なるほど。こっちなら人波に流されずに皆のところに戻れるね」

「ね! 怒られるかもしれないけどさ、ささっと走って行けば見付からないかもだし、あんまり遅いと心配かけちゃうもんね!」

「そうだね。じゃあ、こそっと、ささっと、行こっか!」

「うん!」


気合いを入れるように、かなちゃんと頷きあって、一応はぐれないように手を繋ぎます。

さぁ、レッツゴー!


「わぁあ~! すっごーいっ」

「キレー」


走っていこうと、いざ裏側へ足を踏み入れた私達。

駆け出す筈の足は、最初の三歩で止まってしまいました。

かなちゃんも私も、桜を見上げて立ち尽くしてしまいました。


凄いんですよ、桜が!

お花見客がいる桜並木や公園も満開だし凄いんですが、ここら辺はもっとすごいです。

木と木の間隔が狭いのか枝があまり剪定されていないのか、満開の桜で空がピンクです。

青空がほとんど見えないくらい、桜で覆われています。

たまにちらほらと舞ってくる桜の花びらも素敵です。

何だか、別世界です。


「「………」」


もう、言葉もないですね。

あぁ、カメラがあれば撮りまくったのに。小学生な自分がニクイ。

お父さんに壊すからダメって言われたんですよ。酷くないですか?


どれくらい見とれていたのか、ハッとして、慌ててかなちゃんに声を掛けて二人で皆の所へ向かいます。

いけないいけない。めちゃくちゃ屋台のおじさんに見られてしまってました。

きっとあのままいたら、怒られてしまいましたね。


「あ、いたぞ!」

「晶子!」


沢山の人がシートをひいてお花見している場所になんとか戻ってきた私達。

さぁ皆を探そうとしたら、逆にすぐさま見つかりました。

亮くんと長谷部君が走り寄ってきます。

とても怖い顔です。


「亮くん…」

「良かった……あんまり遅いから、また、何かあったのかと……」

「………ごめんなさい」


長谷部君に叱られてるかなちゃんの横で、私は亮くんに頭やら肩やらを触られています。

怪我の有無を確認されてますね、これ。

無駄に心配を掛けてしまったみたいです。

……もう、あれから二年は経つんだけどね。

ちょっぴりアンニュイ? しみじみ? していたら、由紀乃ちゃんが、物凄い顔でこっちに来ました。


「かなちゃん! 晶子ちゃん! 何処まで行ってたの! 心配したんだからねっ」

「「ぅあっ」」


怒鳴りながら、由紀乃ちゃんは私とカナちゃんに抱きついてきました。

思わず変な声が出ちゃったよ。


抱き締められながら、由紀乃ちゃんに怒られ続けてます。

耳許で叱られるのツラいです。

あと、由紀乃ちゃん、地味に力が強いですよ? かなちゃんも私も、色んな意味で体がプルプルしてきてる。

というか、息がしづらくなってきた。


「ちょっ南川! 絞まってる! 二人とも首絞まってる!」

「……ぁ」


長谷部君が慌てて由紀乃ちゃんを離してくれました。

どうやら丁度腕がはまっちゃってたみたい。苦しかった…。


「大丈夫か、晶子」

「うん…はぁ、苦しかった…」


ぜいぜい言ってる私の背中を擦ってくれる亮くん。

でも、止めなかったよね? 長谷部君が言わなきゃ暫くそのままにする気だったよね?


「お仕置きがわりだ」

「…あ、はい」


ちろりと亮くんを見れば、言いたいことが判ったのかため息を吐きながら言われました。

というか、心を読まないで下さい。

分かりやすい? でしょうね。亮くんに隠し事とか、ほとんど無理ですからね。


長谷部君に宥められて落ち着いた由紀乃ちゃんと、呼吸を整えたかなちゃん。

時間的にそろそろ帰らなくちゃいけないので、ゆっくり帰る事になりました。


「…かなちゃん、手」

「? あ、うん。繋ごう」


ぐす、と鼻を鳴らした由紀乃ちゃんに手を出されて素直に手を繋いだかなちゃん。

反対の手も、すぐさま長谷部君に繋がれ…いや、捕獲されました。

私は亮くんに先程からがっしり捕まれてます。

掴まれてるんじゃなく、捕まれてます。


そのまま、人波に入っていきます。

五人で固まっているからか、割りとスムーズに河川敷の端まで出てこれましたよ。


「じゃ、帰るか。……南川、大丈夫か?」

「…大丈夫」

「二人とも俺が送ってくわ。南川の母さんには説明しておく」

「…それ、私がおばさんに怒られるんじゃ…」

「「当たり前だ」」


わぁ、長谷部君と亮くんの声が揃ったよ。

あれ、もしかして長谷部君も結構怒ってますか? マジか。


「……あれ、私はお母さんと光希とお父さんに怒られる?」

「うちの母さんと父さんにもな。確か夕方には家に行くって言ってたし」

「わぁ…」


どうしよう、帰りたくない。

顔を歪めた私に、長谷部君は笑顔で頷いた。

やはり結構怒っているらしい。いい笑顔だね。

私とかなちゃんは肩を落として、帰る事になりました。





「………」


こっっってり、叱られました、晶子です。

何も一人ずつ別々に怒ることないと思うの。

お母さん、光希、お父さん、おばさん、おじさん。そして敦さんにまで、確り叱られましたよ。

特に、半泣きになりながら怒る光希と、笑顔で穏やかに叱る敦さんにメンタルをゴリゴリされました。


「晶子」

「…亮くん…」


なんですか? 亮くんも私を叱るのかい?

ベッドからのそりと起き上がる。

あ、今は自室にいます。夕御飯の用意をしてますからね。

手伝うと小言を言われながらになりそうだから、逃げてきたのよ。


「皆心配してるんだ、解ってるだろう?」

「そりゃ、うん。ごめんなさい」


お母さんと光希の表情で判ったけれど、皆、まだ私が襲われたことを気にしている。

気にしているって言うか、トラウマになってる、のかな?

まぁ、当たり前だよね。

身内が、殺されそうになったのだもの。

私的には、`もう´二年も前のこと。だけど、皆にとっては`まだ´二年しか経っていないんだ。


「ごめん、ごめんなさい亮くん」

「……うん」


敦さんは私が襲われてるのをその目で見てる。助けてくれたのは敦さんだもの、あれだけ怒るのは当たり前だ。

亮くんも、見ていた。

私が押さえ付けられ、刃物を振り下ろされるところを。


謝りながら、突っ立ったままの亮くんに抱き付く。

亮くんは、少し震えていた。

背中に回した腕に力を入れて、ぎゅっと抱き締める。


「ここにいるよ。私は、ずっとここにいる」

「…あぁ…あぁ」


亮くんの腕が私に回される。

グ、と抱き締められ、亮くんの頭が肩に乗る。

亮くんは安心したのか、深く息を吐いた。



このあとから、亮くんの過保護っぷりが加速したのは言うまでもありません。

ついでに、光希からの過保護も顕れ始めました。

……何故だ。

晶子を一人にしておく→また襲われる。

的な不安が、家族の中には未だあります。

亮くんも当然にあります。

そして過保護な亮くんに、神代家は徐々に安心を覚えていき、最終的に、晶子のことは亮くんに丸投げ。という図式になるのでした。

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