バレンタインの切っ掛け
晶子 小学生
こんにちは。神代晶子です。
二月です。
「晶子ちゃんは、誰にチョコあげるの~?」
「ええーっと」
女の子達はきゃっきゃっとバレンタインデーの話題で盛り上がってます。
おませさん達め。去年まではちらとも話題にしなかったのに、急にバレンタインの話題を持ってくるとは…。
とりあえず、考え中ということにしておきましたよ。
亮くんの名前出したら騒がしくなりそう…というか、多分それで騒ぎたいんだと思うのですよ。
皆目がちょっと恐いもん。
「チョコね~」
自室に一人です。
光希は野球に行きました。
そういえば、`前´の時は人並みにバレンタインを楽しんでいた……事もないか。
小学生の頃はお父さんにあげてた気もするけど、母子家庭になってからはあんまり我が儘を言わないようにしてたから。
お小遣い貯めて、自分とお母さんのためにちょっと高めのおやつを買ったくらい?
まぁ、お小遣い貰うことに違和感とか無かった時点で、お母さんに苦労をかけてたんだろうけどね。
「う~ん。お小遣いの残り……あ、あんまりないや」
バレンタインとか全然気に止めてなかったから、普通に本とか買っちゃってたからなぁ~。
これでは既製品のバレンタインチョコは買えないですね。
簡単に何か作れるものは、と思ったのですが、リビングの本棚には料理の基本の本とか、パンの作り方の本とかしかなかったです。
「チョコレート菓子ねぇ…お菓子の本には、簡単そうなのは載ってないわねぇ」
「そっか~。溶かして型に流して終わりじゃあダメかな?」
「お父さんはそれでも喜ぶわよ~? でも、そういうのってチョコの塊が大きくなるから固いじゃない? 光希にはちょっと不安ね~」
光希は、乳歯がまだ数本残ってるから、下手をすると歯が変な風に折れちゃうかも。とお母さんに言われました。
それは嫌ですね。
う~ん。そうなると、生チョコか?
お金足りるかな?
2月14日です。
お母さんと相談した結果、お祖母ちゃんの家に何故かあった、チョコレートファウンテンの機械 (電池で動く、ちょっとオモチャっぽいやつ)でチョコパーティーになりました。
「亮くん、おばさん、おじさん、いらっしゃい」
「いらっしゃ~いっ」
うちの家族と、亮くん達、七人での小さなパーティーです。
敦さんは部活だそうです。なにげに残念がっていたと、後で教えてもらいました。
「おじゃまします。神代さん、これも使って」
「あら~、ありがと……? 桑崎さん、チョコレートにキムチは無理よ~」
「冗談よ~。ただのお裾分け。チョコ用はドライフルーツ持ってきたの」
お母さんたちは置いておいて。
リビングに入ると、途端に甘い匂いに包まれます。
テーブルの上には、既に溶かしたチョコレートがファウンテンを流れまくっております。
「あ! 光希! まだダメよ、ちゃんと皆で始めるの!」
「はやく~! おね~ちゃんもりょうたくんも、はやく食べようよ~!」
待ちきれない、とじたばたする光希にちょっと笑って、テーブルを囲むように皆で座る。ソファだとちょっと遠いから、ラグの引いてある床に座ります。
「はい、桑崎さんからのドライフルーツよ~。ではでは、バレンタインパーティーを始めましょう! 頂きます」
「「「「「いただきます!」」」」」
おばさんからのドライフルーツに、お母さんが買ってきたフルーツやパン。
私は製菓用チョコ (お徳用)とお菓子を買いました。
ポテト○ップスとかジャ○リコ、結構チョコに合うんですよ? あと、柿○種とかね。
皆で、思い思いの食べ物にチョコを付けて食べていきます。
ん~! イチゴにチョコは最強ですね。
いやだがしかし杏のドライフルーツも美味しい。あ、パパイヤのも美味しい~。
「晶子、あんたが一番食べてどうするのよ」
「ハッ! つい…」
そうでした。
バレンタインのパーティーなんだから、お父さん達に食べてもらわなきゃ意味がなかった。
自分で食べるのを自重しつつ、お父さんや亮くん、光希にチョコを付けたフルーツを渡していきます。
まぁ、光希はチョコを付けるのが楽しいらしいから、串にフルーツを差して渡す感じになりましたけどね。
「いやぁ、パーティーをするとは思わなかったなぁ」
「今年のバレンタインが休みだから出来ることだよな。パンにチョコって結構合うなぁ」
お父さんとおじさんがなんかシミジミしてる…って、ちょっと何でお酒がテーブルに出てるの?
ていうか、チョコとお酒って合うの?
あ、チョコレートボンボンとかはありますね。
「全くお父さん達は。ほら、あなた達は絡まれないうちに部屋に行きなさい」
「はい、こっちのはチョコが固まったからそのまま持っていきなさいな」
「はーい。行こう、光希、亮くん」
呆れたお母さん達に促されて、チョココーティングされたフルーツやらを載せた紙皿を渡されてリビングを後にしました。
「…で、何でパーティーになったんだ?」
「……てへっ」
部屋に入ったら亮くんにジロ、と見つめられました。
怖いです。
光希はさっさと床に座ってチョコを食べ始めてます。助けがいません。
「……最初はね、ちゃんとチョコ作ろうとしたのよ? で、お母さんに相談したら、」
「こうなったのか…」
お母さんとお父さん、まだまだラブラブですから。あと、単純に楽しそうとか思ったんじゃないかな?
呆れた表情になった亮くんに苦笑いしか返せません。
「おねぇちゃん、亮太くん。食べないの~?」
「あっ、ちょっと光希食べ過ぎ! 私達の分もあるんだからね!」
「折角だから食べるか」
首を傾げる光希。その前にあるお皿のチョコが、大分減ってます。
まだ食べますよっ!
慌てて座ってチョコを取る。亮くんも仕方ないか。と座って手を伸ばしました。
「晶子。これはこれで楽しいから良いが、来年からはちゃんとしたのをくれ」
「はーい」
「お返しもちゃんとするから」
「はいっ」
そっか。ホワイトデーというのがありますねっ!
来年からはちゃんと一人ずつにしよう。決してお返し目当てってわけでは……あるけどね!
まさか毎年違うチョコ菓子を作らされ、最終的にチョコに掠りもしないお菓子をリクエストされることになるとは、この時の私は思いもしませんでした。