1日目 エマからのお誘い
それは、しとしとと雨の降る6月のある日の昼休み。
杜ヶ浦高校1-A組、日野原真実は、いつものように勉強をしていた。
別にガリ勉な訳でも、はたまた同じ時間を過ごす友人がいなかった訳でもない。ただ、せっかくの昼休みをぺちゃくちゃとくだらない話をして潰すのもなんとなく気が進まず、さりとてその場から動く気にもならなかったため、さも次の授業の予習が終わっていなかったかのようなフリをして勉強をしていたに過ぎない。
6月という季節はどことなく憂鬱な気分になりがちである。降り注ぐ雨のせいで校庭で遊ぶこともできず、しかもこれといった学校行事もなく、あるのは三週間後に控えた中間試験だけ。その為、昼休みにも関わらず勉強をしているのはマミ1人ではなく、他に5,6人ほどいた。
二次関数の問題をあらかた解き終えたマミは、ついいつもの癖で窓際へ顔を向けた。その先は地面のぬかるんだ校庭であり、当然のことながら誰もいなかった。
無意識のうちに溜息をついたマミは体の向きを戻し、勉強を再開しようとしてようやく机の前に人がいることに気づいた。
「マミ〜」
そこにいたのはマミの数少ない友人、神原絵麻であった。
「エマ、どうしたの?」
「突然なんだけどさ、今日の放課後空いている?」
「放課後?まあ私帰宅部だし空いているっちゃ空いているけど。買い物でも行きたいの?」
「んーん。違うよ。」
へらっとした笑顔でエマは答えた。
エマこと神原絵麻は同じクラスの親友であり、小学校からの長い付き合いである。身長はやや低め、髪はセミロングで軽く巻かれており、笑うとえくぼができる。それでいて性格は穏やかで優しく、同性であるマミから見ても可愛らしい自慢の親友だ。
しかしそれと同時にマミはちょっと顔をしかめた。エマがこのへらっとした笑顔を見せる時。それは大抵ロクでもないことを考えている時であることを知っているからだ。
「もしかして、また英語の予習手伝って欲しいとか?」
「違うって。」
「前回の英語の試験はそれはそれは酷かったもんね〜。」
「だ、だから英語の試験は関係なくて…」
「確か、"How handsome Mike is!"(マイクはなんてハンサムなんだ!) を、"なんてミケはたくさん手があるの!"って訳したり…」
「ちょ、ちょっと」
「"Susie is in the next room."(スージーは隣りの部屋にいます)を、"スシエは次の部屋です"って訳したんだっけ?」
「もう、マミの意地悪!」
ちょっと涙目のエマを見て、この辺で止めておくかと自制心の働いたマミは
「ごめんって。で、結局何なの?」
と当初の話の続きを促した。
エマは再びあのへらっとした笑顔を復活させると、マミの方はそっと顔を近づけた。
「ねぇ…」
「うん?」
「"人狼ゲーム"って知っている?」
エマの珍回答ですが、めちゃイケという番組で昔やっていた某企画での回答を参考にしました。