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戲蛍  作者: うちょん
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おまけ②「眠蛍」


 おまけ②【眠蛍】














 目が覚めたら、そこにいた。

 それまで自分が何をしていたかなんて、覚えていない。

 確かなことは、目の前に“馬鹿”を具現化したような奴がいたこと。

 身体が重くて動かないと思ったら、そいつが身体に乗っかっていたからだとすぐに分かり、目で退くように訴えてみたが、そいつはやはり馬鹿なのか、それとも鈍いのか、とにかく退くことをしなかった。

 起きたらまずこいつをぶっ飛ばそうと思っていたら、そいつは放れていった。

 地球外生命体にでも連れ去られたのかと思っていたが、どうやら違ったようだ。

 次に顔をのぞかせて来たのは・・・なんというか、おっさん?だった。

 気だるげな顔で見て来たかと思うと、特に心配した様子もなく、なぜか強めに頬を抓ってきた。

 決定だ、こいつも一緒にぶっ飛ばす。

 そいつらは視界から消えて、ようやく天井が見えたが、すぐに、誰かがバタバタと周りを走り回る音と振動が伝わってきた。

 「天馬、走るんじゃねえって」

 「だって暇なんです!これから熊と遊んできてもいいですか!」

 「それは本当に遊びなのか?お前いつか熊に喰われるぞ」

 「大丈夫です!熊は友達!怖くない!」

 「幾らお前が野性的でも、本物の野性にはそうそう敵うもんじゃねぇからな。特に素手じゃ」

 「そんなこといって、師匠この前猪素手で止めてたじゃないですか。何で俺を誘ってくれなかったんですか!猪とタップダンスなんて洒落たことして!!」

 「あれがダンスに見えたなら、お前の目は腐ってるぞ。ヤブ医者にでも診てもらえ」

 「師匠は抜け駆け大魔神ですね!」

 「おお、ありがてぇ。立派な褒め言葉だな」

 「師匠馬鹿ですか!大魔神って怖いんですよ!めちゃくちゃ強くて、やばいんですよ!目つきも悪くて口も悪くて・・・あれ?師匠は大魔神?大魔神が師匠?」

 「どうでもいいが薪割りしとけ」

 「はい!」

 先程まで騒がしかったのが嘘のように、その場は静まり返った。

 今度は気持ち悪いくらいの沈黙が続くと、少しずつ身体が動くようになってきて、ぼーっとしているそいつの背中に近づいた。

 いつも着ているツナギの後ろポケットに入れている、何処かで拾ったクナイを首に突きつけようとしたのだが、出来なかった。

 「悪いが、コレは預かっておいた」

 「!!」

 クナイは、そいつの手にあった。

 手で弄んだかと思うと、そいつが腰掛けている横あたり、刺した。

 奪おうと思えば奪える距離なのだが、なぜだか、それが出来ない空気だった。

 「お前が何者で、なんであんな場所で倒れてたのか、別に興味はねえ。今ここで俺を殺してぇなら、相手にはなってやる」

 「・・・・・・」

 「その歳でこんな大層なもん持ち歩いてるとはな。それだけ、世の中には頼れる奴がいねぇってことだな」

 横に刺したクナイを抜くと、そいつはソレを渡してきた。

 顔を向けて、「ん」とだけ言って、それを受け取れと言われたため、警戒しながら受け取った。

 受け取ってすぐにそいつにクナイを向けるが、そいつは顔を向こうに持っていき、無防備にも背中を見せた。

 何を考えているのか分からなかったが、そいつが動く気配も無かったため、その場から走って出て行った。

 「はあっ・・・」

 まだ治っていないのか、傷が痛む。

 それでも足を前に進めていると、見覚えのある奴らがいた。

 「こんなところに隠れていたのか」

 「隠れてたわけじゃない」

 「止めを刺しに来てやった。有り難く思え」

 クナイしか持っていないが、やるしかなかった。

 相手は7、8人といったところだろうが、自分が手負いであることを考えると、馬鹿でも分かる、不利だ。

 そんな状況で出来ることは、逃げること。

 無様な死に方なんて御免だ。

 こんな奴らに殺されるくらいなら、自分で命を絶った方がマシだ。

 走って走って、息が切れても走って、心臓が乾ききって機能を果たさなくなると思うくらい走り続けた。

 でもすぐにあいつらに囲まれて、逃げ道を失った。

 だから、覚悟を決めた。

 ずっと握りしめていたクナイを、自分の首にあてがう。

 どうせ殺すことを目的としているのだから、止められることはないし、かといって、こいつらに殺されるなんて侮辱も無い。

 ぐ、と力を入れて、あとは意識が無くなるのを待つだけだった。




 「誰だ!?」

 「いつからいた?!」

 急に激痛が襲ったかと思うと、手が痺れてクナイを落とした。

 誰だ、邪魔をしやがったのは。

 「喧嘩なら、俺が代わりに買ってやるよ」

 そいつは、いけしゃあしゃあと立っていた。

 「暇してんだ」

 「なんだ、こいつ?」

 「よく邪魔をしてくれたな」

 「まずは貴様からだ」

 狙いを変えたそいつらは、一斉に飛びかかっていった。

 なんと表現したら良いのか分からないが、ばったばったと倒していって、気がつけば、向かって行った全員が、のびていた。

 「ったく。元気が有り余ってんのか、こいつらは」

 「・・・なんで」

 「あ?」

 「なんで邪魔をした」

 「邪魔?俺ぁただ、のんびり穏やかな日々を過ごしてたところを邪魔した奴らを黙らせただけだ」

 「・・・・・・ふざけるな」

 「それは俺の台詞だな。厄介事持ちこんできたのはお前だろ?てめぇで片づけることも出来ねえ癖に、生意気言ってんじゃねぇぞ」

 「・・・!!」

 落ちていたクナイを拾って、そいつに向かって行こうとしたとき、そいつは自分で倒した奴からクナイを抜き取り、投げつけてきた。

 風を切って、あと髪の毛も少し切って、そのクナイは後ろに飛んで行った。

 「下手くそだな」

 何処を狙って打ったんだと思っていたら、後ろから呻き声が聞こえた。

 足を止めて振り返れば、そこには倒されたはずの奴が立ち上がっていて、こちらに向かって刃を向けていた。

 だが、刃を持っている方の肩にクナイが刺さっていて、ずるずると倒れていった。

 「毒付きだな」

 「・・・・・・」

 自分に投げられたわけではなかったクナイを見ていると、急に肩から力が抜けた。

 「油断するなよ。一丁前でもねぇ奴が、プライドだけで喧嘩を買うんじゃねえ」

 「・・・待て!」

 久しぶりに、声を張り上げたと思う。

 喋るということ自体、体力を使うから面倒で、無駄なことだと思っていたから、喋るのはそこまで得意ではない。

 だというのに、こんな勝手な奴のために、大声を出してしまった。

 「俺と、勝負しろ」

 「勝負にならねぇよ」

 「いいから!!・・・勝負しろ。もちろん、この毒のついたクナイを使ってだ」

 「・・・・・・」

 暇だったのか、熱意に負けたのか、適当にあしらわれると思っていたが、そいつの足下に毒のついたクナイを投げると、数回顎を触ったあと、拾い上げた。

 手にも毒のついたクナイを持つと、構える。

 「言っても聞かねェか」

 その時、そいつが何を呟いたかは聞こえなかったが、正直、どうしてそいつに向かって行っているのか、分からなかった。

 ただ我武者羅に、目の前にあるもの全部、ひとつ残らず壊していくことだけが、自分を守ることだと思った。

 その日身に纏った敗北は、清々しくもあった。




 目を覚ましたら、そこにいた。




 「余計なことを」

 「だってよ、天馬。怒ってるぞ」

 「え!?俺!?何したか全然覚えてないけど、悪かったな!えっと、師匠、俺何したんですかね!」

 「知らねェよ。何したんだよ。とにかく謝っておけ。ちゃんと心から謝罪しろ」

 「すんませんでしたあああああああ!!」

 「ダメだ。もっとこう、これまでの人生とこれからの人生を懸けて、しっかりと相手に誠意を伝えるように。もう一回」

 「すんませんでしたあああああああ!!」

 「顔険しくしただけじゃねえか」

 「だって、俺身に覚えないんです!なんで謝ってるのかわかんないです!」

 「そりゃ、お前が味噌汁に怪しい山菜を入れたからだろ。それが気に入らなかったんだよ。俺だってこんな怪訝そうな顔になってるだろ」

 「怪訝ってなんすか!どういう意味すか!それに、その怪しい山菜は、師匠が持ってきたやつです!!俺に毒味させたやつです!」

 「あ?そうだっけ?そんな昔のことを愚痴愚痴言うな。男児たるもの、前だけ見ろ」

 「ちょっと前に、俺が師匠の着物汚したこと、今でもたまに言われます!!それに、前みて歩けって言われたから前見てたら、猪とぶつかりました!!」

 「猪にぶつかって無傷だったんならいいじゃねえか。うるせぇ奴だな」

 「すんません!!」

 「ほら、まだ怒ってるぞ。お前がちゃんと謝らねえからだ」

 「すんません!!」

 「こいつもここまで謝ってるんだから、そろそろ赦してやってくれ」

 「・・・元凶お前だけどな」

 「喋った!!」

 「天馬、黙れ」

 ごつん、と結構すごい音で頭を叩かれていたが、涙目になりながらも何かを食べていた。

 結局また、ここに戻ってきてしまった。

 それから、天馬とかいうそいつは、また外に出かけて行って薪割りを開始。

 「・・・あいつは」

 「あいつ?ああ、天馬か?あいつは、俺が拾った」

 「拾った?」

 「ああ。詳しくは知らねえが、親も身よりもねぇみたいで、何処に行っても付いてくるもんだから、今は面倒見てる形だ」

 「なんでそんなこと」

 見ず知らずの奴の面倒を見るなんて、頼まれたって嫌だ。

 だから、そんなことをどうして好き好んでやっているのかと聞けば、そいつは茶を啜ってからこう言った。

 「なんでって、俺が聞きてぇよ」

 「は?」

 「しょうがねえだろ。ついて来ちまったんだから」

 「そんな理由か」

 「どんな理由だと思ったんだ。まさか、俺が同情したとか、あいつのためにとか、そういうこと言うとでも思ってたのか?」

 「適当な」

 「ああ、いいんだよ、適当で」

 そう言うと、ごろん、と寝転がった。

 「んなしかめっ面してたら、俺みたいになるぞ」

 「嫌だ」

 「即答するな。そんなに嫌なら、しばらくここでのんびりしてみろ。ぼーっとして、風が気持ち良いとか、空が青いとか、星が綺麗だとか、そういうことを感じればいいんだよ」

 「暇潰しは苦手だ」

 「なら、天馬の相手でもしてやれ。あいつ、底なしに元気だからよ。俺ぁもう十分相手したからな」

 「五月蠅い奴は嫌いだ」

 「そういやお前、名前は?」

 「教えたくない」

 「なら勝手に呼ぶぞ。太郎」

 「違う」

 「じゃあなんだ、次郎長」

 「違う」

 「ゴンザレス」

 「誰だ」

 「難しいな。・・・光圀」

 「紋所じゃない」

 「ヒントは」

 「そんなものない」

 「わかった、ナスビだ」

 「何も分かって無い」

 「大五郎」

 「蒼真だ」

 わけのわからない名前をどんどん言ってくるそいつに、つい名前を発してしまったが、その時大声を出しながら天馬という男が戻ってきた。

 薪割りをしていたはずなのだが、なぜかウサギを抱っこしていた。

 「師匠見てみて!可愛い耳の長い犬がいました!!」

 「ウサギだ」

 「ウサギか!ウサギがいました!ふわふわしてます!綿あめみたいで美味しそうです!」

 「絵面モザイクかかるから止めろ」

 ウサギを抱っこしていた天馬が近づいてくると、いきなりウサギを部屋に放し、それから肩を掴んできた。

 「なあなあ!!俺とかけっこしようぜ!!負けたら薪割りな!!」

 「五月蠅い」

 前後に、それはそれはぐわんぐわんと揺らされて、多少眩暈がした。

 寝転がっていた奴が起きて、天馬の首根っこを掴んで引きはがす。

 「天馬、こいつは蒼真だ。喧嘩したら負けるかもしれねぇぞ」

 「え!まじ!今から勝負だ!!」

 「素手でな」

 知らぬ間に勝手に勝負することになり、外へと出た。

 「・・・剣は無いのか」

 ぼそっと、聞かれていないだろうと思っていたけど、そいつは聞いていたようだ。

 その勝負は勝利を収めることが出来たが、それから何回も喧嘩をしようと言われ、相手をする度に天馬は強くなっていった。

 だから、悔しくなった。

 どういう気持ちの変化があったのか、何がきっかけなのか、自分でもよくわからないことが沢山あったが、近くにいるようになったからか、あいつの強さを身に沁みて感じるようになった。

 それから、天馬がやっぱり五月蠅いことも。

 そして今では・・・。




 「師匠!!蒼真が遊んでくれないです!」

 「師匠は遊べなんて言ってねぇだろ。黙ってそこにまとめてある薪を運べ」

 「師匠!聞きましたか!こんなこと言ってる!!」

 「俺ぁ蒼真に一票だ。お前、今日中に運ばねえと、明日明後日喰いもんねぇからな。自給自足だからな」

 「行ってきます!山羊肉のために!」

 「・・・それ自給自足へのやる気だな」

 動物のように、薪を背中に背負いながら身軽に薪を届けに行った天馬。

 黙々と作業を続けていると、聞こえて来た。

 「師匠、何ですかその鼻唄」

 「あ?別に、適当」

 「・・・そうですか」

 「蒼真よぉ・・・」

 「なんですか」

 「陽が短くなってきたな」

 「そうですね。そろそろ冬ですね」

 「今年も寒ぃんだろうな。あー、やだ」

 「その分、きっとよく見えますよ」

 「あ?何が」

 「星です」

 「・・・あー、星な」

 割った薪をまとめてロープで括る。

 小さく息を吐いてから顔を動かすと、そこには、眩しいのか眠いのか、目を細めて空を見ている男がいた。

 顔を背けて作業に戻ろうとしたとき、またしても、聞いたことのない鼻歌が聞こえて来たが、また適当なメロディーだろうと思って特に何も聞かなかった。

 でもその聞き慣れない音の綴りが、心地良さとなって耳に入ってくる。

 その時間は、すぐに終わってしまったが。

 「師匠!!見てみて!野良猫拾ってきました!!仔猫!」

 「うるせぇぞ天馬」

 「あ!逃げた!!師匠の顔が怖いから逃げた!待ってーーーー!!」

 「だからうるせぇって言ってんだろ!」

 「・・・師匠も五月蠅いです」

 その仔猫は、蒼真に懐いたそうだ。


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