第二の遭遇
(とりあえず無難にごまかしとかない?なにせこの世界について、なーんにも知らないんだし)
耳打ちする感覚で歩行介助に見せかけた腕を通して心話する。希望混じりの推測だが、接触テレパシーというやつもどきの会話なら、来訪者にあたしの声は聞こえんだろう。
グラミィ、婆キャラの真価を見せてくれ。あんたはマヤだ!
「…………」
嫌そうな顔すんなって。不満は後で聞くから。
今、ここをどうにかしてしのいでよ。
このカシアスっておっちゃん、ガチムチな体型にぴったりなごっつい長剣を腰に吊してるけど、見るからに使い込んでる実用品よ。
まかりまちがってもこんなのを向けられたくないでしょうが。
「…なんのことやら。わたしゃ暗森の魔女とかたいそうな名乗りをしたことはないんだけどねぇ」
いい感じだ、その調子で嘘じゃないけど真実すべてでもない会話をしながら、うまく情報を引き出してくれ。
「ほう……。ならば卑しいただの屍操術師とでも呼べばいいのか?」
……うわ。いきなりプレッシャーが強くなった。
「そこの骨はただの飾りか?このヴィーア騎士団分隊長カシアスにけしかけるにしては、いささか力不足だな」
「…………」
あ。フード外したまんまだった。
……そりゃ、今のあたしじゃアンデッド系討伐対象的サムシングとしか見えないわな。
で、死者を冒涜する邪悪な魔法使いのおばあさん役がグラミィと。
……いかん、生身だったら冷汗がとまらなくなってるとこだ。じりじり間合いを詰めにかかってるカシアスおっちゃんの威圧感がはんぱない。
(早いとこ言い訳して!)
敵対すんぞって言おうもんなら即座に斬りかかってきそうだよこの人。
「あいにくとねぇ、飾りじゃないのよ、この子は」
「では何だと思っている!死者の眠りをいたずらに破るとは何のつもりだ!」
「おや、この子の命を粗末にする気かぇ?黄泉がえりの術を施している最中ゆえ、今は中途半端な姿しかとれんがの。完全に術を施せば生き返るというに」
「…………は?」
……なんてことさらっと言うかな。カシアスおっちゃんが呆けちゃったじゃないの。
この凍った空気をどうする気よ、ええ?
〔しょーがないでしょ!説得力が必要なんですから〕
おお、グラミィも心話の使い方をマスターしたか。
〔それはともかく。このカシアスさんって人は『暗森の魔女』なる人を探しに来たんでしょう?それも分隊長とかいう、ちょっと偉い人が、敬語を使うくらいには、もっと偉い人、という認識の〕
……てーことは、つまり。
「では、やはりあなた様が暗森の魔女どのでしたか。数々のご無礼、平にご容赦を!」
やっぱりこのまま、なりすます気か!
「最初から言うておるじゃないか。『わたしゃ暗森の魔女とかたいそうな名乗りをしたことはない』とねぇ」
ひゃっひゃっひゃっと婆笑いをするグラミィ。うまいなー。その演技力に賞をあげたい。
その名もグラミィ賞ってか。
「いやしかし、死者をも甦らせんとなさるとは、なんとも噂にまさる魔力の強大さ。もしや……あなた様はヘイゼル様ではあられませぬか」
「はぇ?なんぞ言うたかね。最近耳が遠くなっちまってねぇ」
「も、申し訳ありませぬ!」
すげぇ。コントみたいな婆演技に、すっかりカシアスさんかしこまっちゃったよ。
「で、では、なんとお呼びすればよろしいでしょうか」
「そうだねぇ、あんたにゃグラミィとでも名乗っとこうか」
「は、ではそういうことにしておきましょう」
『すべてわかっております』的な深い笑みを浮かべるカシアスのおっちゃん。
ぐっじょぶあたしたち。仮の名前つけといて正解。
そして無駄な腹芸ができる程度に人間練れてる相手でよかった!
名前を隠して隠遁してるつもり、なニュアンスを勝手に読み取ってくれて。じつにいい人だ、カシアスのおっちゃん。
……なんか相手のオウンゴールにさらにロケットランチャーで追撃してる気分になるけどね。
だが自重はしない。最初のやりとりを邪悪な魔法使いの韜晦と見なされて、カシアスのおっちゃんにぷっつりいかれてたら、二人ともやばいとこだったんだから。
「ではグラミィさま。この若輩者にその叡智の恩恵をわずかなりとも与えていただけませぬか。ランシア山に墜ちた星について」
……カシアスのおっちゃん、立ち直り早っ。