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衝撃

本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。

 あたしが王猟地のお屋敷に骨な身を隠しながら、クウィントゥス殿下から受けた御命令(オーダー)を果たすために悪巧んでた時のことだ。

 情報は鮮度が命ってことで、アロイスやカシアスのおっちゃんに頻繁に王都からの情報を仕入れてもらったりしてた。

 王子サマが転地療養させるって名目で、アーノセノウスさんが王猟地までやってきたり、グラミィと角突き合わせてたりとかもあったけど。


 その時に、外務卿のテルティウス王弟殿下と、ルンピートゥルアンサ副伯爵家とアダマスピカ副伯爵家の寄親である、港湾伯ことボヌスヴェルトゥム辺境伯の体調が悪いらしいってのは、確かに聞いた覚えがある。

 ルンピートゥルアンサ副伯爵家を潰せっていうクウィントゥス王子サマの御命令を遂行するには、他国との貿易ができる港を握ってるルンピートゥルアンサ副伯爵家を孤立させる必要がある。

 ということで、ルンピートゥルアンサ副伯爵家を庇護してるってことになってる、テルティウス殿下と港湾伯には、庇護下のお家を潰しちゃいたいってお話は通しておいてねー、と王子サマに頼んだんだよね。

 で、それはもちろんしっかりやってくれたんだけど、どっちもなんか具合が悪いというか、ちょっとおかしな行動が見られてた、ということだった。

 王サマのお話によれば、その体調不良が悪化しているのだという。


 それは確かにかなりの不安材料だ。

 正直なところ、ルンピートゥルアンサ副伯爵家をぶっ潰すためだけならば、それこそテルティウスおにーちゃん殿下と港湾伯に、庇護をぶっちぎってもらっただけで良かったのよ。

 なのに、謁見の間で王サマがルンピートゥルアンサ副伯爵家に敵国の尖兵認定してくれちゃったんだもの。

 事ここに至れば、庇護の打ち切りどころか飼い犬に手を噛まれたを地で行ってもらい、彼らが率先してルンピートゥルアンサ副伯爵家を誅滅しなければならんだろう。

 それでも身内に抱え込んでた勢力の不始末、というところは政敵につつかれてもしかたのないところだ。

 国内政治勢力的にやばいところまで追い込まれることもあるだろう。


 にもかかわらず、港湾伯の体調不良のせいで、ボヌスヴェルトゥム辺境伯家内部での後継者争いが相当まずいところまで加速しているらしい。

 ご当主のタキトゥスさんはかなりのいいお年なんだそうな。これも確か前に聞いたことだ。

 つーことは跡目の問題ってのも出てくるでしょうよ。確かに。

 だけどここでもジュラニツハスタとの戦いが爪痕を残していた。

 どこの世界でも、どこの国でも過去の戦争というのは祟るもののようだ。


 王サマがさっくり説明してくれたところによると、次期辺境伯と目されていた長男がジュラニツハスタとの戦いで戦死したんだそうな。

 その嫡男、つまり現辺境伯のお孫さんはいるものの、まだ騎士号も得ていない未成年。

 一方、故長男の弟である次男と三男はきっちりオッサン年代……もとい、壮年になっており、しかもそれぞれ子爵位を得ているという。

 子爵位は副伯爵位とほぼ同列に近いが、基本的にそれ以上の爵位は望めない副伯に対し子爵は貴族の子弟がそれ以上の爵位を継承する前に受ける爵位なのだとか。

 むこうの世界にあった、官僚組織におけるキャリアとノンキャリア問題に似てる気がする。

 

 閑話休題(それはさておこう)

 同じ子爵位同士ならば、順当にいけば次男を後継者に指名しとけばいいだろうと思うがどっこい。そうはうまくいかないのが世の中というものらしい。

 次男はご当主の愛妾の子であり、三男はご当主夫人の子、つまり庶子と嫡子という関係にある。

 しかもどちらにも爵位継承権はあるという状態というね。

 異母兄弟ということもあって、もともとあんまり仲の良くなかった次男と三男が、ご当主さんがぶっ倒れたこの機会に、一気に次期辺境伯として名乗りを上げようという腹づもりで、気合い十分かつ険悪に互いに牽制しあってるところへもって、さらに長男の未亡人が参戦。

 我が子にも爵位継承権があることを言い立て擁立を図り三つ巴状態、らしい。


 ちなみに、ご当主さん健在のころはそんな問題もものともせずきっちり制圧してたそうな。

 というかむしろ、辺境伯たるにふさわしい器量を見せよ、ということで、寄子である男爵家や副伯爵家、騎士たちも巻き込まないように線引きをした上で土俵に上げてたようだ。

 政争で勝ち残るだけの優秀さを示した子どもを後継者にしようと考えてたのかもしらんが。

 そのさなかに、肝心のご当主がぶっ倒れてちゃなぁ……。

 収拾がつかんだろ、これ。


 しかも、これは外務卿のテルティウス殿下もなんだが、配下の文官や家宰たちまで一斉に港湾伯と同様の体調不良を起こしてぶっ倒れており、外務系官吏組織としても、辺境伯家としても、トップとそのブレインがまるっと不在に近い状態だとか。

 なんだこの安全装置とっぱらった機雷原。

 そりゃ王サマ自ら足を踏み入れたくもないだろうけどさ!

 

 だからって、治してくれと言われてもねぇ……。

 あたしにゃ医学的知識は欠片もないんですけど。おまけに発熱してても骨の手じゃ触ってみてもわかりません。

 皮膚で熱を感知できない骸骨には、5℃や10℃は誤差なんです。ええ。

 そもそもその体調不良の原因が病気か毒かもわかんないレベルだし。

 

「毒ではない可能性が高いとわたしは考えている」


 そりゃまたなにゆえ?


「アロイスの所属している()()()()()()には、毒について詳しい者もかなりいる。彼らが口を揃えて言うには、毒は使われていないそうだ」

〔とある騎士団って、国の暗部ですよねー?〕


 しっ、聞いちゃいけません。つか聞かなかったふりしときなさい、グラミィ。

 それより、毒じゃないなら何が原因と考えておられるんで?


「おそらくはスクトゥム帝国のしわざだ。使役した悪霊を憑依させるような、操屍術(ネクロマンシー)の中でも特殊なものか、呪いによるものではないかと推測している。今のシルウェステルならば対抗手段を持っているのではないか?」


 …………。


〔ボニーさん、眼窩が呆れてますね思いっきり!〕


 いやー。

 呆れるというかね。

 そういや、この世界ってば、魔術だけじゃなくて、呪いやまじないまで幅をきかせてるとこだったんだなって、久しぶりに認識しなおしてただけ。

 魔術をばかすか使ってるあたしが言えるこっちゃないけどさ。


 人の思考は純粋でも公平でも理性的でもない。その時々の感情や偏見、そしてパラダイムによって歪められている。

 パラダイムってのは、簡単にいうと認識の枠組みのことだ。

 例えば、向こうの世界において、ヒステリーってのは、19世紀までは『子宮が体内を動き回るせいで起きる女性特有の病気』という、身体に原因のある病気にカテゴライズされていた。

 精神医学の発達により、心因性の病気や障害としてカテゴライズされるようになったのは20世紀近くになってからだ。

 18世紀の医者と20世紀の医者が同じ患者を診たとしても違う診断が下されるのは、このパラダイムの違いによるということになる。


 そして、あたしがいた当時の向こうの世界には、『魔術なんて非合理的なものは実在しない』『合理的な物理法則にのっとって物質は変容する』というパラダイムがあった。

 まー、その一方でおまじないだの血液型や誕生日による人格判断だのも残ってたけどね!

 個人的にはなんだかなーとは思うけど。とりあえず、どちらも受け入れられるくらいには懐の深さがあったんだろうとでも思っておこう。

 逆に、こちらの世界では『現実を意思によって変容させる技術が存在する』というパラダイムがほぼ常識として存在してるわけだ。

 実際、この世界の魔術って、そういうものとして認識されてるのだし。

 王サマの思考もこのパラダイムによって歪められてるからこそ、『自分の知識にある魔術では不可能な事象』であっても可能にしちゃうような、特殊な魔術だとか呪いだとかが原因なんだろう、という結論が出たんだろうけどね。


 だけど、むこうの世界のパラダイムを持っているだけでなく、むこうの世界にはなかった魔力(マナ)なんてものも精細に認識できちゃうあたしからすればだ。

 こっちの世界において、生身の人間相手に、生命活動を維持させたままなんらかの魔術を及ぼし続けるのは非常に難しい、ってのはそりゃもうイヤってほどよくわかっていることだ。

 いや、攻撃系魔術でさくっと()っちゃうことは可能なんだけどね。

 その逆は無理。

 治癒すら他人には施せないのよ?

 これは、カシアスのおっちゃんの従士、ギリアムくんの手当したからよーっくわかる。

 術者本人になら、自分で自分の身体に治癒を施すことはできなくはない。

 意図的に魔力を傷口に集めてやればいいのだから。

 だけどそれも、治癒速度の上昇、ぐらいの効果しか持たない。あたしが弩で撃たれたとき、骨折してたのをほぼ一晩で直せたのは、あたしが生身じゃないからというところが大きい。

 たまたま物質生成との合わせ技が功を奏しただけなのよ、あれ。

 ……つーことは幻術も永続的なものではないのかもしんないな。あたしはまだ術式を知らないのでよくわかんないけどさ。

 魔術的なものではない呪い、いわゆる向こうの世界における藁人形に五寸釘系統のものなら、標的が呪われたと信じたことによって発生するというストレス性の心身反応はあるかもしらんが。

 そんなもんでそこまで体調不良になるほど、影響ってあるもんだろうか?

 いや、あたしのこの考え方自体、むこうの世界のパラダイムに歪められてるのかもしれんな。この世界にはこの世界の法則があるはずだ。

 一応確認しとこうか。


(ヴィーリ。王サマが言ってるような、悪霊を使役するような特殊な魔術とか、相手を殺すような呪術って、知ってる?)

(わたしの年輪には刻まれていない)


 ……やっぱりないか。森精の知識にリアルタイムでもないしアクセス権限も限定的とはいえ接触できるヴィーリが知らんってことは、可能性としてはPM2.5サイズと見ていいだろう。

 ふむ。

 そうすると、やっぱ、毒を疑ってかかった方がいいかもしんないね。花粉症はこの世界にはないような気もするし。

 病気も可能性としてないではないが、そっちは完全にあたしにゃお手上げだ。

 どっちにしろ、本人たちの様子がわからんとなんとも言えんなー。


〔ボニーさん、ちょっといいですか?〕


 なによグラミィ。

 

〔なんで助ける方向で動く気満々なんですか?〕


 ん?なんでって?


〔毒だって専門知識ないんじゃないんでしたっけ。それに助けたら、また謝礼と称していろんなものがくっついてきそうな気がするんですけどー〕

 

 ……あー。それは確かに。

 王子サマどころか王サマじきじきに取り込みにかかられたら、回避するのもめんどくさそうだし。

 取り込まれても回避に成功しても、今後の動きがいっそう取りづらくなるだろう、ってのも正解だ。

 だけどねぇ、ルンピートゥルアンサ副伯爵家並びにスクトゥム帝国に対抗する要は、どう考えてもボヌスヴェルトゥム辺境伯家と外務卿殿下なのだよ。

 外交面でも戦力的な意味でも、地政的な意味でもだ。

 それが内輪争いでごたごたしてるせいで、コントロール不能になっちゃ大幅な戦力ダウンだ。

 これじゃあ王サマが当てにしてるっぽい、サンディーカさんたちの兄弟が家宰の一人だったって伝手を活かして港湾伯家全体を動かそうとするのも、今の状態じゃあ難しかろう。

 外務卿殿下だってご同様、というかもっと大変だ。

 テルティウス殿下は王族、それも王位継承権だってそこそこ上位っぽい、国の上層部の一端を担ってる人なわけだ。

 だのにブレインぽい集団もろともほぼほぼダウンして、残ったのは門外漢かぺーぺーばっかとか。

 素人に毛が生えたような集団が国政を、その一部とはいえ壟断(ろうだん)しかねないとかね。怖すぎるわ。

 つか、その前に外務関係なんて機密の塊みたいな部署が、どんだけ能力があろうが知識のない人間に回せるわけがない。

 スクトゥムに糾問使を送る?

 送ったところで糾問どころか対等に交渉すらできるわけないでしょが。

 

 で。

 当てにしてた戦力がわちゃわちゃに乱れまくって使えないとあらば、別のところから戦力を調達しなきゃなんなくなるわけだ。

 一番手頃なのは、あたしたちですかねー、王サマ?

 

 ルンピートゥルアンサ副伯爵家撲滅まではやりますよ、そりゃ。取引の条件として、クウィントゥス殿下に課せられたミッションですからね。

 だけど、国と国との喧嘩にまで引っ張り出されたくないです。名目すら使われたかないんですからね?

 そのへんビシッとシメさせてもらいますんで、覚悟しといてくださいね、王サマ?

 

 ……それはさておいてもだ。

 やっぱし気分がよくないのよ。

 苦しんでる人間がいて、あたしにしかなんとかできないかもしれない、なんて言われてしまうとね。

 あのときなんとかしとけばよかったかもしんない、という後悔はしたくはない。


〔……ほんっと、変なとこで甘いですよねーボニーさんってば〕


 はっはっは、反論できませんな!


〔知りませんよ、どうなっても〕


 はい、ごめんなさい。

 でも文句を言いながらも、ちゃんと通訳したりつきあって行動してくれたりする、そんなグラミィが好・き(はぁと)。


〔…………うわぁ〕


 素でドン引きすんなよ。

 あたしもノリでやらかして鳥肌立った気分になったけどさ。

 

〔ボニーさんの皮膚なんてどこにあるんですかー!あるなら見せてみてくださいよー!引っ張ってつねってあげます!ほっぺたとか!〕


 だから気分の問題だってば。

 いや、その、ほんとごめん。脳内的には土下座な絵文字を送信中です。


 話を戻そう。

 ともかく、何が原因かそうでないか見極めるには、本人の状態を直接見る必要があるだろう。

 病気や中毒症状の治療法どころか診断すらあたしにゃできないが、それでも魔力に関する異常ならば、見ればわかる。この頭蓋骨の眼窩はダテじゃないのよ。

 それに、体調不良の段階で、診察はとっくにおつきのお医者さんとかがある程度とはいえ済ませてるんじゃないんですかね?

 だったら餅は餅屋、対処はそっちに任せて後は知ったこっちゃない。治っても治らなくてもあたしたちが責任を取ることはありませんが褒美もいりません。強いて言うなら、あたしたちが関与したと名前を出さないでくれれば十分です。

 そういう条件で不明な原因を多少なりともはっきりさせる、というところまでなら受けても構いませんがいかがでしょう王サマ?


「……わかった。すぐに手配しよう。使者を出すゆえ少し待ってもらうが」


 グラミィの通訳に、即座に王サマは頷いた。

 こんなえらそうな条件、取引としてはないわーとあたし自身でも思ってたんだけどなぁ……。

 よっぽど王サマも切羽詰まってたんだろうな。こりゃ。

 

 じゃあ、話通しといてもらう間に、専門家チームの話を聞きたいです。

 お医者さんは患者さんにつきっきりだと思うから、後でいいとして。

 毒だと仮定するならば、普段の生活習慣とか、周囲の状況とかも知りたいね。

 そのへんの情報持ってる人はいませんかね?

 おつきの人たちで逃走を図ったり、行方不明になったりしてる人の有無とか。

 あ、いつも外務卿殿下や港湾伯がすごしてる屋敷や部屋の構造なんかもわかるといいなー。

 

「わかった、今呼ぼう」


 ……まじでか。

 半分嫌がらせ混じりでわざと細かい情報を求めてみたら、あっさりイエスと言われるとか。

 つまりそれは、それだけの情報がとっくに収集済みだったってことですね。こええ。

 

 と、待った。

 もう一つ解消しとかなきゃならない疑問があったんだっけ。 

 そもそも、なんで、テルティウス殿下と港湾伯の体調不良がスクトゥム帝国のしわざってことになるんでしょか、王サマ?

 

〔ボニーさん。なんでわざわざそんなことを確認するんですか?〕

 

 あたしが思うに、この王サマは情報戦の達人だ。

 微細な情報もすぐに用意可能とか、この王城内ですら伝声管をあちこち仕込んで、リアルタイムに情報収集に励んでるとか。

 加えて、外部からの人間を入れるこの部屋には、あたしたちの話を聞いてたはずの伝声管が存在しない。

 取り入れた情報は逃がさずとことん隠蔽してるわけですよ。

 それだけじゃない。

 この王サマ、王城内どころか国内にも情報収集のためのシステムを張り巡らしてるのだ。

 カシアスおっちゃんたちみたいな、『王の耳目』とかいう騎士団を国内全体に巡回させまくってるどころか、アロイスみたいな裏の情報部隊まで直轄で抱えてるんでしょ?

 ここまで情報収集と分析システムがきっちりしてるってのは、戦略的な情報価値を王サマが高く評価してるからなんだろう。

 ひょっとしたら、たいていの王侯貴族が抱えてる秘密程度なら全部知ってんじゃないの、この人?

 他人の秘密は知っておきたいって王サマの性格とか、中央集権的ではあるのかもしれないけれど絶対王政じゃないっぽいって国の事情もあるのかもしれんが。

 

 それだけの情報収集能力があるのなら、その手が及ぶ範囲を国内限定にする意味はない。

 国外、それこそスクトゥムとかいう帝国の中にもつっこんでそうな気がするんですがね!

 相当な精度の情報を解析したからこそ、スクトゥム帝国のしわざだって結論を出したんでしょう?

 だからこそ、謁見の間でわざわざ宣戦布告に近い宣言をしでかしたんでしょうね?


「まず、ただの体調不良とは思えはない症状であること。詳しいことは侍医や部隊の者たちに訊くか、直接テルティウスたちを見てもらえばわかると思うが、二名ともに精神錯乱がひどい。既知の病や毒の症状とは明らかに異なるという」


 ちら。とアダマスピカ副伯姉妹を見る。

 これも国家機密扱いですかそうですね。王じきじきの口止めってことですか。

 彼女たちにとっては貧乏くじかもしんないですな、これ。

 サンディーカさんにしてみれば、うだつの上がらない中間管理職のお飾りな妻役から救い出されたと思ったら、自分が女副伯で生死不明だった妹はいっぱしの魔術師として生きてました。

 それを認めてもらう請願のためだけに登城したはずなのに、いつの間にやらスクトゥムとかいう帝国の尖兵になってるルンピートゥルアンサ副伯爵家とガチでやりあう羽目になってるとか。

 ついでにあたしたちに巻き込まれた形で、大貴族と王族の秘事にまで関わっちゃったとか。

 突然の人生ジェットコースター化ですもんねー。そこには同情します。

 実際、サンディーカさんは青ざめてたし、コッシニアさんも唇を噛みしめてた。

 だけど、王サマの視線を受け、二人とも無言で一揖(いちゆう)した。

 ということは。彼女たちもとことん腹をくくったってことですね。さすがは貴族。

 為政者としてやりあわねばならない時にはきっちりやる気構えができてる、ってことですな。

 ……ちょうどいい。

 

「次に、スクトゥムの関与を疑ったのは、時機が合いすぎたことだ。彼らの体調不良は、ルンピートゥルアンサ副伯爵家への対応を定めるか否か、その時点ですでに始まっていた」

 

まあ、確かに一番ルンピートゥルアンサ副伯爵家対応に表立って動いてもらわなきゃならない人たちが、ピンポイントで実にタイミング良く、しかも軒並みやられてますもんねぇ。

 これがほんとにスクトゥムの仕業だとしたら、本気でやばいぐらいにルンピートゥルアンサ副伯爵家包囲網がズタズタですもん。

 それはわかるけど。

 他の証拠は?

 まさか、『未知の症状』と『時機の付合』なんて状況証拠しかないとか言いませんよね?


「『よりはっきりした根拠はございますでしょうか?』と申しております」

「ルンピートゥルアンサの領都となっておる、アルボー港にのみ帝国との人間の出入りがないわけではないのだよ。中にはフリーギドゥム海をより北上して、港湾伯領のベーブラ港まで辿り着く者もいる」

 

 ……なるほど、密偵さんを潜入させるだけじゃなく、スクトゥムから来た人間を王サマの手の者が捕獲して口を割らせてるってことですか。

 あんまり露骨にやると敵対行動と取られそうな気もするけど。でもまあ、酒でも飲ませて意識不明にして放り出しとけば、荒くれどものちょいとした小競り合いに巻き込まれただけ、って感じに有耶無耶にすることもできなくはないかな。

 港湾伯領の治安が悪いイメージはつきそうですが。それで問題がないというのなら、ないんだろう。あたしにゃ為政者の考えはわかりません。

 

「それによれば、スクトゥムは生と死について何やら深遠な研究をしていたと思われる情報がある」

「では、陛下、もしや」

「いかにも。彼らは蘇生の法を確立している可能性がある」

〔マジですか!生き返れますよボニーさん!〕


 ちょっと待てグラミィ。

 確かに、少し骨ボディから生身へ戻れるという、あたしがこの世界に来て最初に立てた目標達成の道筋が見えなくもないような気分にはなったけどね。一瞬。

 それが、なぜスクトゥム帝国が、港湾伯や外務卿殿下を狙った理由になるのかね?

 

「加えて、スクトゥム帝国民は、全員が生前の記憶を持つという」


 …………ハァ?


 なんだその痛い帝国、略して痛帝国!


〔い、いたていこく…新語すぎます!〕

 

 グラミィが全力で腹筋を押さえ込んでいる。

 王サマは見ないふりで、沈痛な声音になった。


「それも、いくぶんの差異はあれども、『このテールム世界よりはるかに文明の進んだ、魔術の存在しない世界』でのものだとのことだ。その世界では、『国民全員が国の主権を持つという国』が多数存在したという」

「……わけがわかりませぬな。国の民すべてが国の主権を持つなどということがありましょうか。それでは目に一丁字すらない農夫ですら、外交に口を出す権限を持つということになりましょうに」

「アーノセノウスの言うとおりだ。だが彼らはそれを信じている。自身が帝国民でありながら帝国の主権者であると。ゆえに、彼らは自分たちを『皇帝』と自称するという。そして、その体制をこのテールム世界すべてに広げるため、じわじわと他地方へと侵略を開始しているというのだ」

はい、異世界転生王道ぶっ壊し要素久々の登場です。

「転生してみたら帝国すべてが転生者でした」

「全員皇帝を自称する帝国」


 ……。


 想像するとけっこうイヤなものがありますね。

 皇帝ですか帝国民。


 外務卿殿下と港湾伯の体調不良の話は、68.「お忍びは忍ばずに」にちょこっと出てることです。興味のある方は探してみてください。


 別連載の方もよろしくお願いいたします。


 「無名抄」 https://ncode.syosetu.com/n0374ff/


 和風ファンタジー系です。


 こちらもご興味をもたれましたら、是非御一読のほどを。


 なんとかがんばって更新を続けていきたいと思います。応援よろしくお願いいたします。

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