骨っ子は激怒する
本日も拙作をお読み頂きましてありがとうございます。
あたしの魔力は感知能力のある相手から見ると、キンキンに冷えまくってるものらしい。
そーいやアロイスからも前に厳冬の激流に例えられたことがあったっけか。
魔術師隊の四人がぶっ倒れたのも、あたしが激怒ったのがとどめをさしたかっこうになった、らしい。
……ちょっと悪いことをしたかなという気にならないというわけでもなきにしもあらず。
〔どっちですかボニーさん。それを一方的に向けられてる方の身にもなってくださいよー。たまったもんじゃないですー。も少し手加減してくださいよー〕
といってもねぇ。
グラミィ、あんたとかヴィーリとか平然としてるし。アーノセノウスさんやコッシニアさんだって、ぴんしゃんしてんじゃん。
つまり責任の半分はあたしの暴走にあるとしても、後の半分は彼らのふがいなさにある。と思いたい。
〔大雪崩に巻き込まれてしばらく生き埋めになった感じですけどねー〕
って、生き埋め体験したことあんのかい。
〔ないですけど。それでも、ヴィーリさんから最初にご挨拶がわりにくらった衝撃の半分くらいはありましたよあれ〕
半分かぁ。
まあ、あれはヴィーリ個体のものじゃなく森の一部を持ち上げてみせたものだとか言ってたっけね。
〔それ考えると、単身でやらかしたボニーさんの魔力ってちょっとやばくないですか?正直今も強制滝行気分なくらいには寒いんですからー〕
ふむ。それは確かによろしくないな。
同じ控え室に押し込められてるアダマスピカ副伯爵家ご一同様には恨みもないし、魔力を向けてるつもりもないんだけどねー。
それでも、魔術師ではないサンディーカさんやカシアスのおっちゃんはまだしも、魔力感知能力持ちのコッシニアさんやアロイスたちには影響も大きいだろう。
グラミィ、作りためといた一文字魔術陣を渡しとくから起動よろ。
〔ボニーさんが起動すればいいじゃないですか〕
いや、強制滝行とか。そこまで魔力を垂れ流してるってことは、あたしがちょっとまだ完全には落ち着けてないってことでしょ。
その状態で魔術陣を起動していいのかとね。
魔力の暴発事故の話を聞くとちょっと心配にもなるわけで。
下手に閉鎖空間で起動に失敗して暴発とか、目も当てられないでしょ?
〔わかりましたー。というか意外とお気遣いの人ですよねボニーさんてば〕
ええそうですよ!
それを無にしやがって、王サマ筆頭にしてあの連中はまったくもって……。
〔ボニーさん、あんまり思い出し怒りしないでください、生えてきますよ背中から!〕
なにがよグラミィ?草とか翼でも生えるってか。
〔そんな軽やかなもんじゃありません!無駄に重量感ダダ溢れた重低音の擬音が生えてきますよ!〕
……あー。
ドドドドドとかズギャーンとかゴゴゴゴ系か。
んなこと言われると。リアル不可能と言われてるねじれと気合いの入った立ち方とかしてみたくなるじゃん。
〔それは見てみたい気もしますけど!今のボニーさんなら関節の硬さがどうこうとかないでしょうし!〕
おうさ。肘膝股関節どころか指まで可動域360°いけますとも。
……で。どう?
あたしの魔力漏れはおちついたかな?
〔あ。バレてました?〕
まーね。
むこうの世界ギャグはあたしとグラミィにしか通じない。
そしてそんなバカっぽいやりとりをこんなところでわざわざやらかすとか。落ち着かせてくれるためでしょ?
ありがとグラミィ。
……だけど、なんだろうね。このアダマスピカ姉妹の生暖かい目は。
〔この体勢のせいじゃないですか?〕
あたしがグラミィに一文字魔術陣を渡したまんま固まってたせい?
〔端から見れば、熱く見つめ合ってるように見えなくもないかと〕
婆と骨だけどね!
それでキーっと言いそうなのはアーノセノウスさんくらいなもんだろうが。
んじゃまあよろしくグラミィ。あたしも魔力はだいぶ……うん、安定してきたな。これなら大丈夫か。
〔わかりましたー〕
グラミィが暖炉に一文字魔術陣を放り込んで起動させると、声をかけた。
「女副伯さま、コッシニアどの、どうぞこちらへ」
「まあ。ご親切にありがとうございます、グラミィさま」
いつものふんわりした笑顔に戻ったサンディーカさんが礼を言い、コッシニアさんともども椅子に腰掛けた。
さっと椅子を暖炉際に移動させるという今の行動は、なかなかジェントルでいいですよカシアスおっちゃん。
だが自分まで暖炉のそばに寄んな。アロイスもそうだ。
あんたたちもしっかり噛んでたんだよね、この件。
アロイスがボールを投げてきたのも、仕返しだけじゃないんでしょ。王子サマあたりが口出してたんじゃないのかね。
この話の責任者は国王サマだろうけど。
ノックの音に救われたように、アロイスが光速で扉ぎわまで飛んでった。
「クウィントゥス殿下と彩火伯さまがおこしになりました」
「お通しせよ」
出たな、元凶その一その二め。
ぶわりと魔力が荒ぶるのがわかる。
半分はわざとだが、半分は怒りで制御が甘くなってるせいだろう。
落ち着かせる気はないけどね。
〔ボニーさん、暖炉脇まで一気に極寒の荒行状態ですから!本気で寒いですというか凍ります!落ち着いてくださいってば!〕
おう、すまん。
ついでにグラミィ、通訳よろしく。
「『お待ち申し上げておりました、殿下。まずはお話しを伺いたく存じます』とのことにございます」
ええ。言い訳があるならどうぞ。あたしゃまだまだしんねりと激怒ってますよ。
なぜかって?
一番腹が立ってるのは、あたしの存在を勝手に戦争やらかす名目に使われたってことだ。
いいかね、あたしは『生き返りたい』のだ。
そのあたしの存在を戦争のきっかけにするとか。『死人を増やす』って言ってるようなもんでしょが。
どういう了見だ、コラ。
自分の手にかけてしまった人間の死の重みは、あたし自身が背負う。
そういうもんだと考えれば、覚悟も割り切りもできる。やりたくもないし極力回避したいけど。
それでもこれ以上死にたくないから、他に選択肢はなかったと言い聞かせてでも、罪悪感を飲み込む。
それがあたしの、この世界で死なないために殺すことを選んだ覚悟だ。
だけどさ、戦争で生じる敵味方何千何万という屍の山をどう背負えと?
縁もゆかりもなければなおのこと、他人の命も死もあたしには重すぎる。
それにあたしは、正義の名の下に人殺しをする気も趣味もない。
ついでに言うなら、この国に忠誠を誓ってるわけでもない。シルウェステルさんと違って。
〔ですよねー。そこにはまるっと同意です〕
というわけでクウィントゥス王子サマ。
あたしが本気で怒ってるのがわかってるなら、なぜあんな真似をしたか説明ぐらいしろやコラ。
あっさり糾問使なんてものの派遣を明言しちゃった王サマもひどいけど、たぶん発端は王子サマっしょ?
「シル。そこまで怒らなくても、いいのではないか」
少しは覚悟していたのだろう?と言いたげだが、そりゃあ飲めませんってアーノセノウスさん。
つーか、どこの口でそれを言うかな。マールティウスくんが口を出さない理由がわかんないのかね。
見世物になる覚悟はしてましたよそりゃ。
だけど戦争のダシに使われるなんて同意してませんよ!そこは断固として抗議する。
つかこの件、アーノセノウスさんも噛んでますよね絶対。
じとーっと眼窩で見つめながら放出魔力をじわじわ高めていると、王子サマが深々とため息をついた。
「陛下が糾問使を遣わすとお決めになった理由はいくつかある。まずルンピートゥルアンサ副伯爵家を取り潰すには、後ろ盾になりそうなものをすべて切り離し、孤立させる必要がある。ここまではいいな?」
かっくりうなずいてみせる。
寄親だった港湾伯とか、政治的につながりがあった外務卿とかが、ルンピートゥルアンサ副伯爵家から一斉に手を引いたということを明らかにさせるわけですね。
それにより港湾伯や外務卿がこの反乱について監督責任を負うことは……まあ、ないとは言えないが減らせると。
あと単純に彼らから物資の供給もストップさせるというメリットもあると。
「ならば今はルンピートゥルアンサ副伯爵家の不当を、鳴らすだけ鳴らさねばならない。そのためにも、かの家が他国と手を組んで侵略行為の尖兵となったことは明白であると批判する必要がある。……そう、たとえばそのことを知ってしまったがゆえに一度は消された魔術学院導師によってな」
……つまりは、一地方領主間の争いからルーチェットピラ魔術伯という大貴族の叔父が暗殺されたということに、話を盛れるだけ盛りやがったと。そういうことですか。
で、それをあたしの証言というかたちで補強しろと。
国外との関係ではなく、まずは国内の王侯貴族間の力関係というか調整の視点なのね。
そこから見れば、そりゃたしかにこっちに利しかないように見えるけどさぁ!
明らかに優先順位おかしくね?
それに、シルウェステルさん殺害はグラディウス……なんだっけ?
城砦に進撃してきた連中の仕業じゃないんすか?
……いや。そうとも言い切れないのか。
城砦内にいたスパイと攻めてきた軍勢とのつながりを示す証拠は、直接にはなかったんだっけ。
シルウェステルさんを殺した直接の犯人は、砦にいたっぽいダメ手勢の一人だろう。
つまりは国内の人間。
どことつながってたか、口を割らせる前にサージに喰われて死んだ、んだと思う。
あの血塗れの牢獄を思い出すと、五体満足な死体なんてなかっただろうしなぁ。サージが暴れ出す前に万が一脱出してたとしたら、ワンチャンお話しできたかもしれんが。
脱獄を許すほどアロイス率いる諜報部隊が、そうそう甘いとも思えないんだけどね。さらに隠れた裏切り者がいない限りは。
つまり、確実にあったと言えるのは、シルウェステルさんの死亡と、軍隊の侵攻、そして裏切り者たちの蜂起がじつにタイミングよくも起こったもんだという状況証拠だけ。
いずれにせよ、王サマの意向が働いているのなら、アロイスはそれをひっくり返すような証言はしない。どこの国と手を組んだ人間がシルウェステルさんを殺したのだとしても、王サマの言葉こそが公式な事実ということにされる。
だとしたら、今からあたしがどんな異議申し立てをしても無駄だろう。
状況も理屈もわかったよ。うん。
「殿下のご判断は正しいとシルも思うだろう?」
だから機嫌を直せって?それは問題が違うでしょうよ。
グラミィ、通訳よろ。
「『一つお尋ねいたしますが、御寝所にわたくしやこのグラミィのような風貌の者が忍んでいき、殿下、あるいは陛下に無体を仕掛けられたと騒いだといたします。侍女侍従たちにより何事もなくおさまり、噂すらたたなかったといたしましても、またそれが国政に必要であったとしても、御不快に思われずにはおられましょうか?』だそうじゃ」
〔って、ボニーさーん!〕
正直あたしたちの今の状況たるや、それよりひどい。
さっきの例でいったら大騒ぎにも噂にもなったあげくに相手が妊娠しましたと言いだして、認知を迫られてるようなもんだと思いなさいよグラミィ。
「……アーノセノウス。そなた、弟御に何を教えておるのだ?」
王子サマが額に手を当てたまま横目でアーノセノウスさんをじとっと見た。
下世話すぎましたかね。でも容赦なんかしませんよええ。
王族からあたしたちから責め立てられて、ほんのり涙目気配を漂わせてるアーノセノウスさんにも同情はしない。
「『わたくしのような骸骨には思いも寄らぬ事情がおありのこととは存じますが、だまし討ちとはひどうございます。元来わたくしがクウィントゥス殿下にお願いいたしましたのは、生身の血肉を取り戻すための、知識を得るまでの猶予と庇護のみ』」
「それは、だが」
「『兄上も兄上です。このようにわたくしの意に添わぬとご存じでいながら無体をなさるとは思いもよらず。悲しさのあまり兄上を嫌いになってしまいそうです』と申しておりますがの?」
「シルうぅぅぅぅぅぅ」
〔あ、泣ーかした泣ーかした〕
ちゃちゃいれんなよグラミィ。
そしてそっぽむいて笑いをかみ殺してんじゃないよアロイスたちも。唖然としてるアダマスピカ女副伯姉妹のすれてなさを見習いなさい君らは。上位者の醜態をお茶請け代わりに楽しんではいけないと思うの。
「『失礼ながら、殿下にも、その配下の方々にも同じ事が言えましょう』」
ええ、アーノセノウスさんだけじゃないんですよあたしが怒ってんのは。
「『国を守るお立場上、事前にこの骸骨にお話しになれぬことはございましょう。だからといってこのような信を置けぬことをなさる方々の御手を頂戴するわけにはまいりませんな』」
望んだ庇護をくれるどころか、望まぬ鎖をつけられて、感謝しろとはあんまりってもんじゃないかね?
それでもこの国にいる以上は従え、と言うのなら、縁切りも視野に入れて行動しますよええ。
あたしもグラミィも、この国にいることは生存の絶対条件ではないのだから。
そこまでここで表に出したら、逃げ出す前に抹殺されそうだから言わないけれども。
〔場合によってはそれもアリってことですか? 〕
まーね。
王子サマたちが本気であたしたちを戦争に巻き込む気なら、そしてそれから絶対に逃げ出したいというのなら、それも選択肢の一つだ。
アルベルトゥスくんは幻術使いじゃないらしく、幻術系の術式は教えてもらえなかった。だからあたしの全身骨格標本状態を隠すのは難しい。
だけどね、グラミィあんた一人なら国の脱出は不可能じゃないはずだ。
〔ボニーさんはどうすんですか?〕
いざとなったらしょってってもらえる?行商人の荷物サイズの箱なら入るってことは体験済みだし。
〔年寄りの身をいたわってくださいよー!ボニーさんな大荷物はこたえますって!そもそもお金はどうすんですか?〕
だよねぇ。
この国の貨幣についての知識は得た。だが数年間は平然と暮らせるお金を持ち歩くというのはなかなかに難しい。
特に重量的な意味で。
この世界の貨幣は硬貨がメインであるらしい。
けどね。これって重いのだよ。
向こうの世界の500円玉よりちょっと小さいぐらいだが厚みもあるし、細い革袋に詰めればブラックジャックになるんじゃねーのというくらいには重い。
あたしは確かに重量軽減がかけられるが、それだって魔力を消費する。そんな裏技の持ち合わせのない人間一人が普通に持ち歩けるのは、一番額面が高い硬貨にしたところで、せいぜいが成人一年ぶんぐらいの生活費ぐらい、だろうか。
多いように見えるかもしれんが、逃走資金と考えると、めっちゃ足りない。
それに、使うとしたら一般庶民が使ってる低額硬貨がメインでないとまず怪しまれる。
目立たぬように身をやつしたとしても、100万円分の札束を帯封も解かずにレジに置いたら仰天されるようなもんだろう。
かさばらず重くない高額なものに換えるというのも困難だ。
現金を宝石に換えるとかいう設定のゲームだか小説だかがどっかにあった気もするが、まず現実的な手段じゃないもんね。
宝石は鉱物の結晶だ。向こうの世界でも、どれだけモース硬度が高かろうが、劈開性の高いものはわりと簡単に粉・砕♪することも多いと聞いた覚えがある。
そんなもん持ち歩けば、欠けたり罅が入ったりする危険なんてどんだけ高いことか。
何より目利きがそうそういそうにないんだけどー。
換金するとしたら客と換金業者のだましあいにしかならんだろうし、あまり上質の宝石を持ってたとしても、今度は捌く相手がまずいない。
買ってくれるとしたら、それこそ、そんなもんを購入できるだけの財力を持つ富裕な商人ぐらいなもんだろう。
つまりは王侯貴族、その土地の封建制度の頂点周辺のお取り巻き。
一発でこっちの身元がバレまくりそうな相手ですよね!
宝石じゃないが、かさばらず、重くなく、現金に換えられるものとなると……。
社会的信用があれば、為替が有効かなあ?
あれ印章用指輪っていう、個人認証の概念が存在した証拠品が出土してる古代文明期には、すでに成立してたみたいだし。
〔この世界でもありそうですかねー?〕
ないわけじゃないと思うよ。人間は不便を嫌うものだし。
だけど、為替そのものが、個人でそれだけの信用をもちあわせるだけの力があるか、個人の信用を担保する組織がないと成り立たない仕組みだ。
むこうの世界でも中世ヨーロッパじゃあ職人組合――いわゆるギルドとかミステリというやつだ――が、信用を担保してたみたいだし。
つまり身元保証がはっきりしてないと使えない。
〔王子サマお抱えの密偵さんとかなら、わりとお金は使えそうですけどー 〕
待て待て待て待て。手段と目的が入れ替わってるぞグラミィ。
逃げる算段で逃げる相手に取り込まれたポジションを仮定するとか。
いや取り込まれたと見せかけて逃げる気なのかもしれないが、それでも逃走資金を大量に現金化すれば、いつどこでだれがしたのかは必ず知られるわけだ。
さすがにその状態で逃げ切れるとは思えないぞ?
〔ですよねー〕
でも、少しは脅しにかかっておこうか。
「『死人にもどうやら理屈や心があるようでございます。中でも最も重きものは信義。それを頂けぬのなら、どれだけこちらから差し上げても無為となりましょう。ゆえに、これにて殿下のもとをおいとまさせていただくべきかとも考えております』」
「待て、シル。どこへ行く気だ」
「『魔術学院での肩書きも陛下にはあらためて頂戴いただきましたようですので。では』」
「それは待て、シルウェステル・ランシピウス。いやグラミィどのもだ。汝らを今我が手元から離すわけにはいかぬ」
〔……だったらちゃんとごめんなさいぐらい言いましょうねって話ですよねー〕
謝罪は自分の非を認める行為だ。だから王侯貴族が謝罪するってのはなかなかできないことなんだろうね。
だがそれにあたしたちが付き合う義理もないわな。
ついでに言うとだ。
「『殿下がお引き留めなさるのは、わたくしが、謁見の間にございます抜け穴を知ってしまったからでしょうか?』」
「……そのようなことも言っていたな、そういえば。ならばいっそうそなたらを手放すわけにはいかん」
ふうん?
〔ってそれさらっと国家機密じゃないですかー!〕
いやー。
謁見の間で構造解析と隠蔽看破の術式を顕界した時に見えちゃったんだよねー。
どこが隠し戸になってるかとか、どこに通路がつながってるかとか。なんか罠っぽいしかけもあるよとか。
大まかにさくっとどのへんに通ってるかだけしかわかんなかったけど、それでもけっこうな秘密だよね。王族専用っぽい抜け穴とか。
これ、国外に逃げ出してから他の国に売れば、確かに大騒ぎ間違いなしだよねぇ。
〔だったら、黙っといていざというときの切り札に使えばよかったんじゃないんですかー?〕
いやあ、それがね。
入り口の場所はわかるし、開けるための機構が組み込んであるのもわかるのよ。
だけど、正しく開ける手順がわかんないという、なんともおまぬけな状態なんですよ。
あの手のものって、間違った解錠方法をしたら罠発動とかありそうじゃん。
ま、穴が空いてる以上、そのへんが構造上弱いってのはわかったから、いざ自分で使用して逃げねばならんという段になれば、魔術でぶちぬいて障壁かぶって逃走しますけどね!
話を戻して整理しよう。
シルウェステルさんは任務の途中で殺された。
そしてその雇い主だった王子サマは、どうやらその骨にも、ルンピートゥルアンサ副伯爵家攻略という元からの依頼に加え、戦争起こす旗印の任務を与えようとしてる。らしいっすね。
リサイクルですか。エコですね。
だが断る。
と、言いたいところだがちょっと待て。
王子サマのなんとも奥歯に物が挟まったような物言いが気にかかる。
……まだなーんか裏があるんですかねぇ?
会話の最中も、あたしはようやく落ち着きだした自分の魔力をじわじわと周囲に伸ばしてみていた。
いわゆる一つのパッシヴソナー的扱いである。
これ教えてくれただけでもグリグんと出会えてよかったと思うよ。
あたしはよっこらせっと立ち上がると、扉に反射的にはりついたアロイスたちをよそ目に、暖炉に近づいた。
んーな、強行突破なんかしませんよ。必要もないのに。
必要ならするけど。
暖炉脇の壁を杖先でこんこんと軽く叩いてみる。
ビンゴですな、これ。
グラミィ。通訳よろ。
「『これ以上わたくしどもに何をさせようとお思いなのか、それはなにゆえなのか。ぜひともお教えいただきたいものにございます。さもなくば、わたくしどもの杖を向けた先にうっかりお味方がいらっしゃらないとも限りませぬ』」
こわばってた王子サマの顔がはっきり引きつった。
無実の人間を虐殺するよう命令されたら、そりゃもちろんあたしは拒否する。
だけど王子サマぐらいに巧妙な手口で誘導された場合、間違ってないと思い込んだまま道具として使われる可能性は、残念ながらゼロにはなんない。
だから、こっから先は、そういう事態を未然に防ぐために必要な交渉だ。
「『そのような場合、いかように責を取らねばならぬのかもわからねば、これ以上我らが庇護を求める対価として王弟殿下の御ために杖を振るうことも、一切いたしかねましょう?』」
こんとあたしはもう一度壁を杖で叩いた。
「『ただの危惧ですめばよろしいのですが、でしたらわたくしどもの疑問にも、是非ともお答え頂きたいのですがいかがでしょうか。クウィントゥス殿下がご自身のお言葉で語ることができぬと仰せなのでしたら、陛下のお言葉も伺いたく存じます』と申しておりますが、いかがいたしましょうかな?」
わかったかね、伝声管の向こうで聞いてるひとー。
骨っ子が怒ると周囲が迷惑するの図。
ちなみにぶっ倒れた魔術士隊ズは背景で、アロイス経由で鬼教官してくれた上級女官さんたちに捕獲されておりますが何か。
別連載の方もよろしくお願いいたします。
「無名抄」 https://ncode.syosetu.com/n0374ff/
和風ファンタジー系です。
こちらもご興味をもたれましたら、是非御一読のほどを。
なんとかがんばって更新を続けていきたいと思います。応援よろしくお願いいたします。




