EX 神聖決闘 (その2)
本日も拙作をお読み頂きまして、ありがとうございます。
※ 血なまぐさい内容になっておりますので、グロでもOK!という方のみお進みください。
騎士団王都本部の鍛錬場は、小部屋も中二階も人が犇めいていた。
「なにもわざわざ彩火伯どのまで来ずともよかったのではないか?」
「いえいえ、あれの策が一つ実るわけですから、見逃すわけにはいきませぬとも」
先のルーチェットピラ魔術伯と王弟は、唇を動かさないようにひそひそと言葉を交わしていた。
密語であってもあれの存在を表に出さぬのは当然だが、彩火伯の本音はあれに自ら語って聞かせたいというところではないかとクウィントゥスは疑っていた。
「殿下。出てきたようでございます」
護衛兵の囁きに目を上げれば、確かにアロイシウスと名乗った豚面の男が、通常使われるものよりも長く巨大な戦斧を手にのしのしと出てきたところだった。
騎士団本部では、体格に合わせてある程度武器が規格化されているため、あのような武器はあの男の持ち物なのだろう。
だが、重要なのはそこではない。
「……あれでは騎士というよりも剣闘士のようではありませんかな?」
クウィントゥスもアーノセノウスもやや唖然としていた。
なんと、アロイシウスは、はち切れんばかりの鎧下の上に、それこそはち切れた……というか、裂き開いた鎖帷子を、鎧長衣のように頭からかぶっているだけだったのだ。
腰に巻いた帯で鎖帷子がひらつくのを抑えているとはいえ、誰が見ても問題のありすぎる、大丈夫ではない装備である。
「アロイシウスとか。その姿はいかがした?」
「我が名を早速に覚えていただきましてありがとうございます、殿下!何者かの策謀により鎖帷子も兜も縮められておりましたので、致し方なくかような装備となりましたる次第」
そっくり返って答えるアロイシウスの姿に、アーノセノウスとクウィントゥスはこっそり呆れた目を見交わした。
鎖帷子や兜を縮められるわけがない。
アロイシウスの鎖帷子がその身体に合わぬのは、ただ単に太ったからである。
王都とアダマスピカ副伯領を往復していた時期はまだしも、この二三年は嘆願と称して延々アロイシウスは王都に居座り続けていた。
だが、王都に屋敷のない小貴族が借りる宿は高く、そうかといって平民どもと混じって寝泊まりするのは、アロイシウスの低い鼻根に反比例するように高い誇りが許さない。
唯一の選択肢がこの騎士団王都本部に居着くことだったのだが。
騎士らしく毎日身体を鍛え戦技を学ぶなどということを自堕落なアロイシウスがするわけがない。
鍛錬と称して無闇に暴れ回る以外は、王都を知るという口実でひたすらむしゃむしゃ食っては酒を浴びるように飲んでいたために、本物の豚顔負けの体型となっていたのだ。
「見苦しき姿を殿下にお目にかけるのは憚りあれど、かような不正にも我が正義は負けませぬ」
「確かに、見苦しいの」
汗のツンとする匂いと飛び散る唾に辟易し、アーノセノウスはローブの袖で鼻を覆いながら呟いた。
鍛錬場の匂いに慣れているはずのクウィントゥスすら眉をしかめたが、その前にアロイスが片膝をついた。
「来たか、アロイス」
「お待たせいたしました、殿下」
アロイスはしっかりとした足ごしらえに長剣を佩き、目の詰んだ鎖帷子の上から腕甲をつけていた。
軽装ではあるが、これがアロイスの戦い方に適した武装であることはクウィントゥスもよく知っている。
右手を挙げればドンと太鼓が鳴らされ、場内は静まりかえった。
「これよりクウィントゥス殿下が立会いのもと、アートルム騎士団所属騎士アロイス、並びにアロイシウス・アウァールスクラッスス準男爵の神聖決闘を行う。場外へ出た瞬間敗北とする。また申し合わせにより武器は自由」
つまりそれは、選ばれた時と場所に適合したものを選んだということだけでなく、刃引きをしていない本身に命を賭けた戦いであるということをも意味する。
当然の常識ながら毒刃は不許可だ。そのあたりのことは複数人の手によりすでに確認されている。
「また、騎士たるにふさわしくない振る舞いが認められた場合、そのものには罰則が科せられる。これに同意せぬ者は得物を置き、鎧を脱いでこの場を立ち去るがよい」
触れ係をかってでた護衛兵――彼もまたアロイスの『仲間』である――の声に対し、異議は出ぬ。
それを認めたクウィントゥスは、佩剣を抜き朗々と唱えた。
「正しき者に勝利を、過てし者には敗北を」
応じてアロイスは長剣を、アロイシウスは戦斧を胸の前に立てて唱えた。
「「我ら武神アルマトゥーラの名においてこの戦いをなさん。遺恨あるまじ」」
審判役の護衛兵の合図に二名は模擬試合場の中央で向き合った。
「来い!口舌でクウィントゥス殿下に取り入った騎士もどきめが」
「おや、豚語だけでなく人の言葉を喋れるようになられたとは。近頃の豚は芸達者ですな」
これ以上歪めないと思われたアロイシウスの表情がさらに憤怒に歪んだ。
アロイスは緊張も警戒もすべて表には出さぬ。
彼にとっても、これは十重二十重に張り巡らされた罠と策、そして情報網によってようやく作り上げることができた好機なのだ。
この剣にかえても、そんな言葉は生ぬるい。相討ちになろうと突き進む覚悟だ。
いや。
魔喰ライならば首の一つも飛ばせば相討ちであろうと討ち果たしえるが、あのシルウェステル師ならば、たとえ頭蓋骨が飛んでも己の敵ぐらいはとってみせるのかもしれない。
それも戻ってきた頭蓋骨をちゃんと首骨の上に据え直してだ。
ふと湧いた想像に緩んだ口元を嗤笑と見たか、豚が喉で唸ったが、その程度のことは、アロイスには脅しにすらならない。
「構え。――戦え!」
ばっとふたりは動いた。
「この赤毛のちび野郎が……!」
「単にそちらの肉が多いだけでは?」
憤怒の形相で打ちかかってくる相手を、アロイスは軽やかに右に回り込みながら躱した。
防護の面妖さに比べ、重い戦斧は比較的まともな武器である。
あれと打ち合えばアロイスの手に今ある長剣など、一撃で曲がっても折れ飛んでも不思議はない。そのくらいの重量差がある。
しかも、あの柄には鉄芯が入っている。当人が吹聴してくれているのだから情報収集の手間がはぶけてありがたいというものだ。
鉄芯の柄は確かに丈夫だ、石突きまで武器になる。
だが、それならそれでやりようはいくらでもあるのだ。
アロイスは歩法と突きを織り交ぜて距離を詰め、横に飛ぶとそのまま自慢の柄に刃を滑らせた。
手は鎖帷子で防護されていない。片手ぶんだけでも指を切り落としてやれば、それで勝負はつく。
が、豚は崩れた体勢のまま前に出た。
「おっと、あんよは上手でしたか」
体重差のぶん、力押しではアロイスの不利だ。
逆らわずアロイスは後ろに飛ぶと、長剣を左手に移しその腕甲に仕込んだ投げ刀子を引き抜いて投げた。
十分後退できるだけの隙を作るためのものだったが、アロイシウスはうわっと驚愕の悲鳴を上げた。
運良く鎖帷子に当たったおかげでたいした打撃にもならなかったようだが。
「これは反則ではないか?!武神アルマトゥーラの名においてなすべき戦いにおいて、隠し武器など卑怯千万。騎士たるにふさわしくない振る舞いだ!」
蛮声を張り上げて周囲の観衆を味方に付けようとするが、無駄だ。周囲にいるのは本物の戦場を知っている騎士たちだ。
戦場ではいかなる手を使おうとも、勝者にして生者たる者こそが正義。
そのことをよく知っている彼らは、むしろ投げ刀子を避けることもたたき落とすこともできなかったアロイシウスに白い目を向けている。
それに。
「そちらが『武器は自由』とおっしゃったのでしょう?それは隠し武器も自由ということですよ」
ああ、毒などもちろん塗っておりませんよ。神聖決闘の場ですからね、とアロイスが鼻で笑えば、耳障りな歯ぎしりの音が鍛錬場に響いた。
「申し合わせはアロイスの主張のとおり。続けよ」
「……は」
クウィントゥス殿下が是と裁定すればアロイシウスに反論はできぬ。
あらためて構えを取った瞬間、アロイスはまたもや飛び込んだ。今度は左に小剣、右に長剣を握って。
長柄の武器は確かに強力だ。間合いは広く、同じ刃の長さと重さでも、振り幅が大きい分衝撃は倍加する。
だが、ひとたび手元に飛び込んでしまえばその利点はある程度殺せる。そして今度は斧刃の重みが仇となる。
そして、双剣を使うアロイスの戦技は、かつてカシアスが手本とし、一部を習得したが故に『静謐たる変幻』と二つ名された由来となったものだ。
では、なぜ手本としたカシアスが『変幻』とその戦技の冴えで呼ばれ、手本となったはずのアロイスが、今なお『放浪騎士』とのみ呼ばれているか。
答えは簡単だ。
アロイスが手筋を見せた者は、カシアスら口の堅い一握りの味方以外、皆、死んでいるからだ。
『見えぬ手立てこそもっとも強きもの』
ああ、全くあの骸の魔術師の言葉は正しい。
さらに笑みを深くするアロイスに、アロイシウスは思わず後ずさりした。
「おっと、場外に出てしまわれないようご注意を?」
はっと目をそらした途端、さらなる刀子が手品のように飛んでくる。腕を浅く切られた豚は咆哮した。
「この卑怯者めが、騎士らしく真っ向から勝負しないのか!」
「おや、棘と見まごう飾り鋲だらけの腕甲で、かつて無手無抵抗のわたくしを殴ろうとしたそちらの流儀に合わせてさしあげているのですよ?」
むしろ陽気な声で叫び返したアロイスの言葉に周囲がざわめく。アロイシウスの汗がにじむ。
ようやく悟ったのだ。
これ以上、この赤毛の小男を喋らせてはならないと。
声にならぬ咆哮を上げ、突進してくる豚の勢いにはクウィントゥスすら思わず手に汗を感じた。
アロイスは一歩も動かぬ。迎え撃つ構えを取った。
「もう容赦はせん。その腕もらうぞ!」
歯を剥いたアロイシウスが振り下ろす、その斧の刃が跳ね上がった。
その瞬間、血しぶきが舞った。
アロイスは笑っていた。
ああ、まったくもって想定通り。
確かにあの斧とまともに打ちあえば、剣も骨も折れ砕けよう。懐に入って見せれば警戒して柄を短く持ち利点を自ら潰すだろう、挑発すれば鈍重な一撃を全力で打ち込み、大きな隙ができるだろう。
だからこその、最後の一手。
魔術道具は魔術師のみ動かしうるものという認識がある。だから武器の確認の際にはひっかからなかったが。
あのシルウェステル師は、アロイスの持つ数ある仕込み武器のうち、ただ一本の小剣の刀身にだけ、うっすらと魔術陣を描いてくれたのだ。
どういう理屈か、アロイスにはわからぬ。
しかし一回だけ、魔術陣の面に大きな衝撃が加わった場合に全く同量の衝撃を跳ね返すという。
ただし、刀身が衝撃に強くなるというわけでもなければ、手や指を伝わる衝撃から守ってくれるわけでもない。しばらくは剣を握ることすらできなくなるだろうと。
それをアロイスは左手に逆手に握って斧を受けた。
衝撃を吸収しやすいよう、詰め物を多く詰めた腕甲の上に刀身を重ね、衝撃を跳ね返す使い捨ての盾がわりにして。
アロイスは道具を誇らない。
剣も槍も打ち合えば刃は欠け歪む。そういうものだ。すべては消耗品にすぎない。
それは、シルウェステル師が魔術陣を施してくれた小剣とて同じ。
だが欠けるということは、破片が飛散するということでもある。
斧が跳ね上がった瞬間、それを予期していたアロイスは、砕けた刀身をもう片方の剣の平であたう限り、打ち込んだのだ。
アロイシウスの顔面めがけて。
剣で打ち合えば、欠けた刃がその勢いに飛び散り、破片が顔に突き立つのも当然のことだ。だからこそ、余裕があらば片目は隠せともいう。
相手が両目を失い、こちらが片目で済めば勝ちはこちらのものとなる。
刃を交え、戦場に勝利を拾うとは、己の血にまみれながらも敵により多くの血を流させる、そういうものなのだ。
しかし、アロイシウスはジュラニツハスタとの戦いにおいて、後方に留め置かれていた。
アダマスピカ新副伯、御領主様のご長男の後ろに。
刃引き剣での振り稽古と木剣での打ち合いしか知らぬ豚に。
本当の意味での戦場を、戦いを知らぬ豚に、恨みの星霜に研いだこの刃が負けるわけがない。
「きっ、さっ、まっァアアアアアアア!」
豚が吠えた。
とっさに左腕で顔を防いだものの、腕甲もなく裂けた鎖帷子はつんつるてんときていれば、防護の何もない腕に破片がもろに突き立ったのだからたまらない。
片手で振るうに戦斧は重すぎる。
絶叫を笑みを浮かべたまま聞き流すアロイスもまた無傷ではない。
衝撃に痺れて痛みもいまだ感じぬが、動かぬ左の腕は骨に罅が入ったやもしれぬ。
運悪く右目の上にも刃の破片が刺さり、そこから血が流れている。
だが、左目と右腕の長剣には問題はない。
ならば、それで十分。
思うさま噂に惑わせてやる。
「貴様貴様と呼び捨てにするなど、それこそ準男爵どころか騎士とも思えぬ下品な振る舞いは、まったくアダマスピカ副伯家とは縁もゆかりもないだけありますね」
「貴様こそ血のつながりもないくせに!」
「本当に、ないと思われるので?」
「なっ」
驚きに、ただでさえ鈍重な上に不安定なアロイシウスの斬線が揺らいだ。
噂の一つは――なんだった?
その隙を、闇を戦い抜け続けたアロイスが見逃すわけもない。
「我が剣の父と兄たちの仇!」
これまで右へ右へと回っていた歩法を急変し、左へと抜けた瞬間。
アロイスは敵の右腕を下から深々と切り割っていた。
「ぐぁああああ!」
濁った悲鳴と血潮を撒き散らしながら、豚が転げ回る。裂けた鎖帷子では脇の下はがら空きだ。
存分に利き腕の腱を断ち、肉を切り割ったからには、アロイシウスはもう騎士としては役には立たぬ。
アロイスはゆっくりと唇を吊り上げた。
ああ、この情景を何度夢見たか。
ある意味お前たちのしたことが、今の自分を作ったとも言える。
この身を騎士ではないと烙印を押し、広めたことなど、お前たちの罪業のわずかな一部にすぎぬだろうが。
「血のつながりなどなくとも、あの方たちはわたくしを十分家族として扱ってくださいました。だからこそ、あの方たちの庇護を受けていながら毒を盛った、下衆というもまだ手ぬるい豚などこの世に存在することすら許せぬ」
放浪騎士として盗賊まがいのことまでやって生き延びてきた。
許されるならば我が父上と呼びたいとすら心から思った、御領主様の敵を取ることができるならば悪鬼にでもなろうと、あの時誓った。
その一部がようやく現実のものになりつつある。
「そうそう、ルンピートゥルアンサ副伯爵家の助けならありませんよ?」
期待していたのでしたら、残念でしたね。見捨てられたようでと囁けば、小さな目がいっぱいに見開かれる。
「ならば、ならば貴様だけでも道連れだ!」
「あいにく、わたくしにも別の先約がございましてね。それに豚と冥界へ同道するなどまっぴらだ」
そう、殺し殺される覚悟を決めて向かい合ったシルウェステル師との先約がある。
噂を広めて敵を弱める毒となし、さらに『この手で裁きを下せたら』という要望を快く聞き入れ、とどめ役を任せてくれたあの骸の魔術師との。
勝利を確実なものとするために策を立て、魔術道具は必要かと問い、願ったとおりの力をくれた。
対価はと問えば『今後も力を貸してくれ』と。
つまり、確実にアロイスが役立つ騎士であり続けられるよう、アロイス自身が流す血を減らせと。
衝撃のせいか、罅が入り、欠け、鉄芯のまわりの木はぐずぐずになった柄を傷ついた腕で握ったところまでは、豚の意地を認めてやらなくもないが。
速さも強さもない振りなど、もはや片手の長剣一本で叩き落とせる程度のものだった。
「では、ここでお別れということで。残念でもありませんが、ごきげんよう?」
反動で斧を落とし、地面に這いつくばった豚を見下ろすと、アロイスはゆっくりと長剣を振り上げた。
「こ、降参する、だから!」
数秒その目に浮かんだ怯怖の色を楽しんだのち、アロイスは王弟殿下に頷いた。
「ここに神聖決闘の勝敗は決した!勝者アロイスに武神アルマトゥーラの加護あれ!」
鍛錬場が喝采の声で充満した。
「勝者アロイス。そなたの申し立てを訊こう」
「は。アロイシウス・アウァールスクラッスス準男爵からは『あなたのものではないもの』をいただくことになっております」
「それは、なんだ?」
「それを申し立てる前に、少々申し上げたきことが」
「言うてみよ」
「この騎士団王都本部での振る舞いを見るに、アロイシウス・アウァールスクラッスス準男爵には貴族たるべき品位も自覚もなく、また騎士としても同様と断じざるをえません」
「なるほど、それで?」
「わたくしは提案するものであります」
アロイスはうっすらと笑みを浮かべて言い切った。
「アロイシウス・アウァールスクラッススより、準男爵位、ならびに騎士号の剥奪を」
鍛錬場内は、今や耳鳴りを生じかねないほど静まりかえっていた。
領地を持たぬ一代貴族とはいえ、準男爵位の剥奪を、神聖決闘の勝者でなおかつ王弟殿下に近しいとはいえ、ただの騎士が願い出たのだから。
「……なるほど、騎士と呼べぬ騎士、貴族の体をなさぬ貴族は不要と。ならばアロイス、そなたが代わりに準男爵位を欲するのか?」
「いえ。すべては陛下の御意志のままに。わたくしはこの国の秩序がより正しかれとのみ願うものであります」
ひたとアロイスとクウィントゥスの目が合った。これが茶番であると知っているアーノセノウスですら、誠心ある騎士の請願と、それに苦慮する王族の姿にしか見えなかった。
これも、ルンピートゥルアンサ副伯爵家を追い落とす一手にすぎぬのだが。
「……よかろう。騎士アロイスの提案を受け、アロイシウス・アウァールスクラッススの準男爵位、ならびに騎士号の剥奪を陛下に諮る」
「ありがたき幸せに存じます」
二つの房飾りを手に深々と一礼したアロイスは、呆然とした顔のアロイシウスを見た。
爵位や騎士号の剥奪は、名誉の問題だけではない。それに伴う国庫よりの俸給もなくなり、騎士団本部の施設を利用することもできなくなるということだ。
とりあえずの血止めはされたようだが、それ以上の手当も、もはや騎士団王都本部では許されぬだろう。
請願が通っても通らなくても、アロイシウスには平民として獄につながれ、ルンピートゥルアンサ副伯爵家の内情を洗いざらい吐かされる未来しかない。
そのまま野垂れ死ぬがいい。
豚よ、それが貴様にふさわしい死に方だ。
アロイスサイドのざまあ完了です。
書き上げた後でアロイシウスという名前について調べてみたら、「有名な」という意味があるそうです。
……うん、ある意味有名そうですねー……。悪名方向で。
ちなみに、御領主様はちゃんと血のつながってる子どもたちと信用の置ける家宰さん、そして(しかたなく)後妻さんには、アロイスがアークリピルム魔術伯家の三男であることを話しています。
つまりアロイスは御領主様や後妻さんち(副伯家)よりも格が上の貴族の子。
そのことを後妻さんはアロイシウスにも情報として伝えているのですが……豚の耳にも念仏だったようで。
さて、別連載のお知らせです。
和風ファンタジー系でかけらも異世界要素のないシリーズですが、現在のところ毎日投稿しております。ストックが尽きるまでは。
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ぜひご覧ください。




