骨と影
本日も拙作をお読み頂きまして、まことにありがとうございます。
魔力錠の術式の機能は三つある。
周囲から魔力を吸収すること。
通常は鍵のかかった状態を維持すること。これ、吸収した魔力が増えれば増えるほど強力になってたよね。
そして、特定の魔力に反応して開錠すること。
製法からして、どうやらこれも魔術陣の技術から発展した術式であるらしい。
シルウェステルさんの魔力錠がマールティウスくんには解除できなかったところを見ると、通常の魔力錠の術式にいろいろ手を加えてあるのか、完全オリジナルか、どっちかなのだろう。
なるほど、確かに魔力錠の機能を使えば、簡易魔術陣に魔力を蓄積させるのも、発動条件を特定の人にしか使えない状態から緩めるのも、なんとかできそうだ。
問題は、あたしにその知識がないということだったりする。
魔術陣は術式の回路そのものを紙に書いたり、あたしがやったみたいに三次元化したりするものだ。
つまり、術式を組むときに杖を使わない魔術である。
そしてあたしの魔術知識のもとは、魔術士隊の面々やアルベルトゥスくんら魔術師から実際に術式を組む過程を見せてもらったもの以外は、シルウェステルさんの杖に刻み込まれた術式そのものしかないのだよね。
正直、詰んだなと思った。
杖の解析も夜中に少しずつ進めてたおかげで、以前よりはあたしが使える術式も増えてはいる。
だがその知識からすると、杖に込められてた魔術陣の術式は、どうやらプロトタイプ的なものらしい。
自動的に周囲から魔力吸収するもの、自発的に結界発動……って、紋章布かなんかのやつだなこれ。それが断片的に残っているきりだ。
つーことは。現存する術式は実物、つまり魔術陣化されたものしか残ってないっぽい。なんかメモか何か残してくれてませんかねシルウェステルさん。
……ん?
実物、ねえ。
そーいやあったよね、魔術道具ってもんが。
証拠隠滅機能付きスパイ大作戦の小道具かって書類入れとか。ぶっ壊れ機能満載ローブとか。紋章布とか。
ローブは今あたしが着てるからいいとして、書類入れと紋章布ってどうしたっけな?
「おお、それならわたしが持っておる。クウィントゥス殿下よりシルの遺品ということでな、お返しいただいた。シルのものならわたしが持っているのが当然だろう?」
いやー、もっと近しい遺族がいないんだったら順当なんだろうけど。当然か当然じゃないかっちゃ、微妙なとこだと思います。
つか、シルウェステルさんって、独身だったのかしらん。
「では、この後わたしの部屋に取りに来るがよい。術式を読み解くことで思い出すことがあるかもしれん。言葉が伝わりづらい?大丈夫だ、ついでに読み書きも教えてあげよう」
シルに教えることなど、いったい何十年ぶりだろうね、と、やたらにウキウキしてますアーノセノウスさん。
合法ショタのアルベルトゥスくんは、と見れば、晩餐の席だというのにすでにうつらうつらしている。
リアル子どもかと突っ込みたいところだが、彼もまだヴィーリ魔力量増大法を無意識にでも維持できてるほど慣れているわけではない。
慣れない神経を使っていることと、維持している体力も少ないということもあるのだろうね。
いずれによ今日は強制終了ということで、スープの椀に顔を突っ込む前に、アロイスが部屋に連れてってくれていた。
おやすみー。明日もいろいろよろしくー。
ちなみに、グラミィによれば、素材の味を生かした味つけだった昼にうってかわって、晩餐は料理の技巧を凝らしまくったものだったらしい。どーせあたしは食べられないけどさ。ううう。
……まさかそれに、くまさん(仮)の骨を煮込んでたのを使われるとは思わなかったけど。
鍋の蓋開けて頭蓋骨とこんにちはしたせいで、一時パニクった料理人さんは、落ち着いてみると、意外と図太い神経の持ち主だったらしい。
いや、脳味噌ぐらいなら取り出して食べてもらってもぜんぜんかまわなかったんだけどさ。
まさか、スープの出汁やら肉のソースやらに骨の煮汁をこれでもか!と使われるとは思わなかった。
濃厚なうまみがすごかったらしいけど、煮凝りが取れないじゃん。ゼラチンが作れたら何かおもしろいことできないかなと思ってたんだけどなー。
まあいいか。
なくなってしまったものをうだうだ言ってもしょうがない。
蜂蜜を使ったデザートが終わると、あたしはアーノセノウスさんのお部屋にお邪魔することになった。
グラミィは……まあ、一日精神的ブリザードを耐えてくれたんだ。年寄りは夜が早くてのぉ、といいながら戦略的撤退をしたのもわかる。
おつかれさん。しっかり休んで、疲れが取れるといいんだけど。
砂皿抱えてアーノセノウスさんの部屋に赴くと、勧められた椅子にかけたタイミングで酒杯が運ばれてきた。
寝酒ですか、それともこっからは堅い話はなしにしよう、という意思表示ですか。
どっちにしろ教えるというのが口実ってことは確定ですねー。魔術道具は忘れないうちにと返してもらったからいいけどさ。
それより気になるのは、酒器を並べてくれてるおつきの人だったりする。
普通の使用人さんがやるようなことをしてるけど、放出魔力を見る限り、この人も魔術師だ。杖らしい杖はぱっと見持ってないように見えるけれども。
「いかがなさいましたか?」
凝視に問いかけられたので、砂皿にさらさらと書いて見せる。
『以前に会ったことは?』
グラミィが見たらおじさまナンパですかと言われそうな言葉だが、どう解釈するかはむこうの勝手だ。
ただ、アーノセノウスさんとのやり取りを見ていても、この人はただのおつきとは思えないんだよね。
おつきの中でも偉い人なんだろうなと思うけど、なんというか立場以上にアーノセノウスさんとの距離が近い気がするのは、身内なのか、それともよほど気心のしれた主従だからなのだろうか。
軽く息を呑んだものの、動揺を微笑で殺したおつきの人は、うやうやしく一礼をした。
「クラウスと申します。以前もシルウェステルさまには、よくお声をかけていただきました。思い出してくださったのでしたら、幸いです」
「彼は元グラヴィオールラーミナ魔術男爵だよ。そしてルーチェットピラ魔術伯家の家宰でもあった」
「アーノセノウスさまが隠遁なさるというので、わたくしも家督を我が子に譲ったのですが……」
苦笑交じりに首を振ってみせる。
「さて、今頃はどうひっかきまわしていることやら。考えますと、帰る前から頭痛がいたします」
「それはマールティウスに対してのものか?」
「いえいえ、不出来な我が息子へのものでございますよ。もっとも、こちらにいた方がもっと頭痛がしそうでもありますが」
「嫌なら帰るか?わたしはシルとともにいる邪魔が減るから嬉しいぞ?」
うん、言葉でじゃれじゃれするくらいに二人の仲がいいのはわかった。
ついでにクラウスさんの笑みは、目の奥が笑っていないこともわかった。
あたしに気はある程度許しても、警戒は解かないということですね。いいことだ。
けれども、この状況下では少々不都合がある。
あたしは砂皿に書くと、クラウスさんに自分のグラスをそっと差し出した。
『わたしは飲めない。かわりに飲んでほしい』
「まてまてクラウス、シルのものならわたしが」
「いえ、ありがたく頂戴します」
クラウスさんはにこりと笑って杯に口をつけた。拗ねるアーノセノウスさんに、あたしは酒瓶を持ち上げてみせた。
「……?おお、酌をしてくれるというのか、シル!」
これまた嬉しそうに飲むアーノセノウスさん。
『わたしの分まで飲んでほしい』
そう書いて見せたのもよかったかもしんない。
こちらとしては、とことんとは言わない、そこそこでいいから腹を割っていただきたい。少しは酔って舌でも滑らせてくれたら万々歳という下心満載ですよ。
クラウスさんはアーノセノウスさんの学友でもあるそうな。魔術方面に能力と興味を全振りしたような、いくぶん浮世離れしたタイプのアーノセノウスさんを、実務面でサポートしてるのがこの人ということになるのかな。
問題は、クラウスさんもシルウェステルさんをかわいがってた人だってことだ。能力的にも。
……うん、納得した。
だだ甘なアーノセノウスさんの庇護下に置かれて、シルウェステルさんがまともに育った理由の一つはクラウスさんにあるのだな。
アーノセノウスさんの手がかけられないところで、びしばししごいてくれてたんだね。
あたしが思うに、ルーチェットピラ魔術伯爵家の家宰という立場的に、クラウスさんのやったことは正しい。
あまあまに甘やかした弟なんて、嫡男から当主になるはずのお兄ちゃんを支える役になど立ちゃしないもの。
……それくらいには状況判断ができる人がそばにいてくれるのなら、大丈夫かな。
『お願いしたいことがある』
「なにかな、シル?」
……だから、目をキラキラさせて身を乗り出すとか。マールティウスさんの前でやっちゃないでしょうねアーノセノウスさん。
実の息子より弟を優先するとか、絶対拗ねるぞ。
まあ、いい。あたしの頼み事は簡単だ。
『ぐらみぃに敵意を向けないで』
古典文字の中で、グラミィの名前の綴りだけは近代文字だ。
しょーがないじゃん、発音をもとにアルベルトゥスくんに綴りを捏造してもらったんだもん。そこから古典文字にするとしたら意味を持たせなきゃならんのだ。下手な意味は持たせたくない。
……で、どうでしょうかアーノセノウスさん。
アーノセノウスさんはゆっくりと酒杯で口を湿すと、改めてあたしを見つめた。
「なぜだ?なぜそこまでおまえが心を砕く必要がある?おまえはあの者に召喚という形でこの世に呼び戻されたと聞いてはいるが、仕えているわけではないだろう?それとも、主従の契約を結ばされているのか?だったらそのようなもの、即刻破棄させてやる。いや、あの者を置いて戻ってくればよい」
冷静に話そうとしているが、次第に声に籠もっていく怒りの圧力がすごい。まずは一つずつ答えていこう。
そうでないと考えを暴走させまくって爆発すんじゃないかと思っちゃうぞ。
『主従ではない。しかし、今のわたしの根源』
嘘じゃないぞ。グラミィがいるから、あたしはあたしでいられる。アーノセノウスさんがどう解釈するかは知らないけれども。
『好き嫌い、よくない。同陣営の亀裂は危険。明白な敵は目の前』
ええ、今この状態で、グラミィが有力者であるアーノセノウスさんにここまで塩対応され続けるのは困るのですよ。
それに、そもそもこれまでグラミィとアーノセノウスさんは接点がなかったはずなのだが。
『なぜ、ぐらみぃ嫌う』
「好きになれと?アレはおまえを捨てた女だぞ!」
唾棄せんばかりの凄まじい嫌悪の色に、指の骨が思わず止まった。
シルウェステルさんを、グラミィが、捨てた?
「アーノセノウスさま」
「……すまない。失言をした。確約はできぬが、なるべく努力はする。だから、聞かなかったことにしてくれないか、シル?」
酒か怒りか、どっちに酔っていたかはしらないけれど。
クラウスさんの囁きに正気を取り戻してしまった以上、アーノセノウスさんにこれ以上この場で突っ込んでも、ムリ、かな。
はぐらかされて終わりそうな気がする。
『わたしは何もわからない』
はい、最初っから知識がありません、という意味です。聞いてないことにするよーと解釈されることは承知の上だ。
だけど、『大魔術師ヘイゼル様』がどんな人間だったんだろう。調べなくてはいけないな、これ。
「わたしからも頼みがあるのだが、よいかな、シル?」
はい、なんでしょう、アーノセノウスさん。
「筆談も悪くはないのだが、直接おまえの声が聞きたい。あの者だけでなく、森精にも話しかけていると聞いた。わたしたちは家族であろう?わたしにも話しかけてはくれんか?」
……心話に敏感に反応してたのは、ひょっとしてそのせいなんだろうか。
はいかイエスで答えることを期待しているのだろう。
だけど、真剣な、そして暖かいそのまなざしはシルウェステルさんに向けられたものだ。
だからこそ、あたしの答えは一つしかない。
『ごめんなさい』
断られるとは思ってなかったのだろう。
愕然とした表情のアーノセノウスさんに、急いで理由を書き足して見せた。『怖い』と。
そして、あたしはフードと覆面状態の頭巾を取ってみせた。
むき出しになった髑髏にクラウスさんが息を呑み、半歩下がったかと思うと瞬時に杖を構えた。どこから出した。
アーノセノウスさんは硬直したままだ。
でも、これでいい。
お骨なあたしの現状を、普通の人がそりゃ大変な目に遭ったねー、などと、ナチュラルに受け入れてくれるわけがない。
握手しちゃった料理人さんがそれでもドン引きするぐらいで済んだのは、あたしが顔を、というか頭蓋骨を隠してたからだ。
むこうの世界でだって人間の骨というのは、海賊旗から中世絵画における死の舞踏に至るまで、死そのもの、もしくは死を生者にもたらす、いわゆる死神の具象化、視覚的象徴だ。大鎌持ってたら完璧ってレベルでね。
そんなのが真っ正面に立って話しかけてきてごらんな。
生きてる人間が、わけのわからぬ死の匂いのするものを、本能的に警戒するのは仕方のないことなのだ。
怯えや脂汗程度で済んでたベネットねいさんやアロイスたちは、むしろ肝が据わってる方だろう。卒倒したって不思議じゃなかった。
二人に、反射的にとった行動を意識させるために数拍。ゆっくりとあたしは砂皿に書いた。
『家族に拒絶されることは怖い。加えて、思い出せないことが多過ぎる。まだシルウェステル・ランシピウスと名乗るに足りない』
ということにさせておいておくれ。
本音は、喋れば喋るほどボロが出そうで怖い、なんだけどね。
正直今でもシルウェステルさん大好きなアーノセノウスさん相手に、いつ中の人があたしだってばれるかとハラハラしっぱなしなのだよ。
砂皿をくるりと向けて置いた手の骨を、生身のほっそりした指が包んだ。
びっくりして頭蓋骨を上げると、アーノセノウスさんは泣いていた。
「そうか。そうか。すまぬ、シル」
……触覚はあっても温冷覚というものは、この身体になってこのかたほとんど感じないあたしだけど、アーノセノウスさんの手と涙だけは、ひどくあたたかいものに感じた。
罪悪感を刺激して、アーノセノウスさんの思考を誘導するのには成功したみたいだけども、こっちの罪悪感もハンパないっす。
気まずい雰囲気を叩き壊したのは、激しいノックの音だった。
「か、かような夜分にいかがなさいましたか。グラミィさま」
「ボニーはおるかの?アーノセノウスどのでもよい」
どしたの、放出魔力だだ漏らしで。……相当怒ってますなグラミィさんや。何があった?
〔聞いてくださいよボニーさん!〕
「ヴィーリと魔術について論議した後、部屋に戻ってみたら寝台が泥水塗れになっておったわ」
あっちゃぁー……。
『遅すぎた、ようだ』
あたしが書いた文字にアーノセノウスさんの顔が歪んだ。
でもフォローはしない。だってこれは半分くらいアーノセノウスさん自身の態度が招いたことだから。
複数勢力の存在する集団内部で、ある有力者が好き嫌いを示し、嫌われた相手が嫌がらせを受ける。
これだけで、周囲からは『ボスが嫌がらせを直接間接を問わず主導した』ということになりうるのですよ。
実に簡単な集団構造の破壊実験です。
だからこそ、グラミィに敵意を向けるな、とあたしは頼み込んでいたのだ。
アーノセノウスさんと同格の有力者がいなくても、アロイスとカシアスのおっちゃんたちがまとめてグラミィ擁護に走ったりすると、さらにめんどいことになる。今この状態で、王子サマの配下同士が争いあうとかアホでしょが。
もちろん、今の状態で『強力無比な大魔術師ヘイゼル様』を害するということは、王子サマ陣営全体にとっても大きな不利益になる。
だから、アーノセノウスさん自身はたぶん、そんな頭の悪いことはしないと思う。だけどそこまで考えずにやらかす人間は必ずどっかで出てくるものなのだ。
もしくは自分の権力を守りたいから、自分より有能そうな存在から蹴落としとこうかって短絡的思考の持ち主とかもだけど。
そして、今の状況は、アーノセノウスさんの意向を汲んだつもりで先走って、グラミィに嫌がらせを仕掛けた人間がいた、ということになってしまう。
カシアスのおっちゃんたちもいたときには、こんなことなど起きなかった。
だから、たぶん、それが正しい解釈なんだろう。
だけど、実行犯ではないアーノセノウスさんサイドの人にしてみれば、グラミィの自作自演ととられる可能性もないわけじゃない。
グラミィの怒り具合からして、それはないだろうとあたしはわかるが、あたし以外にはわからないことでもある。
大穴でグラミィとアーノセノウスさんの間に決定的なひびを入れるのが目的の第三者が、ヴィーリの迷い森を抜けるために、アーノセノウスさん一行に紛れ込んできてて起こした行動だ、という可能性も、ほんのりと欠片ほどにもなきしもあらざるとも思えなくもない、ぐらいにはあるけどな。
「ボニー。部屋を借りてもよいかの?」
あたしは手の骨をひらひら振った。ええ、どーぞどーぞ。
「待て、グラミィどの。勝手に決めずとも。それにシルはどこへゆけばよい?!」
「ボニーは承諾してくれましたぞ。ボニーはなに、アーノセノウスどののお部屋にでも泊まればよいでないか」
「…………」
おい。ちょっと待て。
グラミィ何考えてる。話を拗らせるな。
そして、なぜ、イイ!な笑顔になるアーノセノウスさん。
あたしはこんと机を叩くと砂皿に書いた。
『わたしは空室に行く』
「そ、そうか…」
だかーら。わかりやすくしょげるなよアーノセノウスさん。
まあ、明日からはこの後手に回った屈辱と罪悪感でうまく問題を解決していただけませんかね?
「アーノセノウスさま。もう夜も遅うございます。語らいはまた明日ということになさいませ」
やんわりと口を挟んでくれてありがとう、クラウスさん。そうやって今後もアーノセノウスさんの暴走を止めておくれ。
……しっかし、泥水程度でよかったよ。見ればわかる問題は見てもわからない問題よりも解決しやすい。
晩餐直後に『部屋に帰るときは気をつけて』と心話で伝えておいたのも正解だった。不正解ならもっとよかったんだけど、こればっかりは仕方がない。被害としては最低限に抑えられたし。
このくらいの悪意や嫌がらせならば、まだグラミィにもさばける範囲だろう。
――今のうちに慣れておいてもらわないと、アダマスピカじゃ悪意のレベルはおそらく段違いに高い。殺意や暗殺にまで危険度が跳ね上がる可能性は大だ。
正直なところ、今回だって寝具に毒針でも仕込まれてたら、それで生身なグラミィは一発アウトだったのだよ。
後で魔力を広げてセンサがわりにする方法を教えておこう。
クラウスさんが空き部屋に案内してくれるというので、あたしは素直についていった。といっても、グラミィの部屋の隣だったけど。
ちょいと狭いし女性が使う部屋なのか、微妙に調度類がなまめかしい感じだが、まあいいや。
それではと一礼して立ち去ろうとしたクラウスさんの裾をちょいと引っ張った。
「……何用にございますか?」
……いや、髑髏さらしちゃったし、警戒するのはわかるけど。声に出して呼び止められないのだから、勘弁しておくれ。
あたしは砂皿を見せた。
『アーノセノウス 兄 頼む』
「……言われませんでも。これがわたくしの役目ですから」
『ありがとう』
そう書いてみせると、クラウスさんは……眉をちょっと上げると、優雅に一礼をしてくれた。
癖者の懐刀はやはり癖者、という感じのクラウスさん登場です。




