仮称がつきました
「あたしは」
(って待った。本名名乗るの止めとかない?お互いに)
「なんで、ですか?」
きょとんとする婆っ子。気持ちはわかる。
あたしもコレを言葉に出すのは抵抗がある。それに根拠はなんとなく、としか言いようがないんだけど。
(名前は最短の呪って言葉、知ってる?)
「はい?」
あ。呆れられた。
やめなさい、その中二病重症患者さんでしたかわかりました残念な人ですね的な眼は。
すべからく人間が認識する森羅万象すべてには、名前がついている。
というより、名前がないものは存在を認識できない。そのためには対象の概念を明確にし、またそれ以外の事象と厳密に区分しなければならない。それが細かければ細かいほど人間によっては身近でより慣れ親しんだものとなる。イヌイットの氷の呼称がたくさんあるのがいい例だ。
逆に、曖昧であればあるほど人間にとっては制御しきれない脅威となる。
民俗史の本だったかで読んだんだけど、『ナンジャモンジャの木』というものが、日本にもかつてたくさんあった、らしい。神木とは逆に、畏敬すべき魔所を象徴する、魔木とでもいうべき木のことだ。『なんだかわけのわからない木』という意味しか持たない呼称が、言葉で縛ることのできない恐怖を表しているとか。
つまり、名前は人間が認識した世界を概念化し分節化する道具である。その機能は人間にも当然及ぶ。だから真名は隠すべきものであるといえる。らしい。
確かにあたしだってもとの世界にいたら笑い飛ばせるかもしれない。
だけど、ここは異世界だ。
婆っ子に説明はしていないが、ある推測からあたしは魔術とか魔法といったものがおそらくあると考えている。
だからこそ、不必要に危険を冒さない方がいい、と考えている。
「……理屈はよくわかんないですけど、まあ。むこうの世界で使ってたハンドルネームとかも避けておいたほうがいいですか?」
(たぶんね。使用頻度やなじみ具合とか、どこで真名認定くらうかわかんないし)
「じゃあ、仮名でもつけましょうか?ほねっことか」
(やめてマジその言い方)
なんだかわんこのおやつにされそうじゃないか。てゆーかナチュラルに骨呼び入りましたよコイツ。
でもまあ、仮の名前を付けるというアイディアは悪くない。
「骨っ子……ボーン……ボニー……とか」
(婆っ子……グランマ……グランミィ……グラミィ)
うん、ボニーとグラミィ。悪くない。
(でもさ)
疑問に思わない?
「なにがですか?」
(なんで、異世界の名前って、英語っぽいものの日本語発音なんだろうね)
「……なんとなく?」
異世界転生王道要素ぶち壊しの四つ目は「序盤から世界の構造を疑う」です。