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剣取るものと剣捧ぐもの

本日も拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

「この一帯の魔力(マナ)が戦いののち急激に高まったせいで、『白き死』と呼ばれる強大な魔物がいるのです」


 ……ふーん。


〔いや、ふーんって、ふーんってなんですか!その低反発なリアクションはー!〕


 いやー、だってさぁ。考えてみなよグラミィ。

 魔物がいる、それのいったいどこが問題なのさ。

 魔力だまりに魔物がいつくのは、ベネットねいさんの話でわかってたはずだ。

 ついでに言うなら、魔物ってのが話の通じない不合理な存在じゃないってことは、グリグのこともあるからわかるでしょ。

 つまり、あたしたちにとっちゃ魔物といえど対応のしようがないわけじゃない。話どころか言葉が通じない人のことは知らんが。

 それに、そもそも魔物がルンピートゥルアンサ副伯領内の湿地帯にいたからって、ここにいるあたしたちには関わりようがない。

 魔物は自分のテリトリーである魔力だまりから普通は離れないからだ。

 グリグんだって、ご近所の砦ぐらいまでしか飛んでこなかった。

 ということはですよ。

 『白き死』なんて御大層な呼び名がついてるような魔物でも、あたしたちが、というか、人間が、そのテリトリーに踏み込まない限りは、害はあってないようなものなのだ。


〔……確かに、そうですねー……〕


 まー、アルベルトゥスくんが事故った現場に行って、術式の痕跡を調べないと元の身体に戻せない、とかいう理由があるんなら、まだしもわからなくもないけど。

 そんな理由は、まずありえないのだ。

 そもそもアルベルトゥスくんのやらかしたこと自体が、理論から実践までアルベルトゥスくんのオリジナルだ。数年前の痕跡なんつー、あるのかないのかもわからないようなものを危険を冒して発掘するよか、本人からいろいろ聞き出した方がよっぽど話は早いと思うのだよ。


 で、それを知ってるアロイスがわざわざ口に出すってことは?


「……そなたら、その魔物にちょっかいをかける気かの?」


 それとも、あたしたちにかけさせる気かなー?

 なんでわざわざあたしたちがそんなことをしなきゃなんないのさ。今現在この状況であたしやグラミィが魔物に手を出す意味が欠片もないということに気づけ。

 いや、気づいてるからこそ、アルベルトゥスくんの身の上話に熱を入れたのかね、アロイス?

 アルベルトゥスくんに同情させれば、あたしたちが彼のために動くとでも思ったのかなー?

 だったらおあいにくさま。あたしたちを動かそうとするのはそっちの勝手だが、動くか動かないかはこっちの勝手だ。


 確かに、あたしは、この世界基準じゃ我ながら甘い行動原理で動いているとは思う。好意的に関わった人間にはそれなりの好意を返してる、その自覚はある。

 だけど、手を伸ばして届かないところまで無理をする気はない。いのちたいせつ。特に自分とグラミィのは。

 魔物がいるってことは、魔力だまりの魔力が魔物に消費されるということでもあるってのは知ってる。それはイコール魔力だまりに生じる魔晶(マナイト)が減る、ということでもあるということもヴィーリから教えてもらった。

 魔晶の産出量が減るってのがどんだけ国益を損なうのかは知らないし、知ったこっちゃない。アロイスたちには悪いが、たとえ国の問題だとしても、正直あたしたちには何も関わりがないことだ。

 ついでに言うと、あたしたちを動かすということは、表に出られないあたしたち、特にあたしのかわりに君らをも動かされるということでもある。そのことに気づいてんのかなー?

 

「『下手にそなたらが動く気ならば、クウィントゥス殿下より賜った権限を使い動くなと命ずる』とボニーが言うておるが?」

「そこまでおっしゃいますか……」


 おっしゃいますとも。


 力強く首の骨で頷いてみせた時、ノックの音がした。反射的に剣に手をかけたまま、アロイスの副官が素早くドアを開けた。

 タクススさんか。


「アルベルトゥスは眠りましたので、ご報告をと思い参りました」


 そりゃ、ごくろうさん。

 蜂蜜湯でも飲むかい?


 あたしの手招きに応じてタクススさんが卓に近づく。

 戸を閉めなおしたバルドゥスが向き直った瞬間、硬直した。あたしが結界で縛り上げたのだ。

 いやー、全員から離れた位置に移動するまで長かったな……。


「ボニーどの、突然何を?!」


 何をと言うなら不審者の捕縛に決まってるでしょ。

 グラミィ、みんなにもわかるように通訳よろしく。


「ボニーが言うには、……『それで、いつまで本物の物真似をしているつもりかな?バルドゥスの偽物どの?』だそうじゃが……」


 タクススさんと偽物くんが目を丸くした。

 アロイスが口を開きかけ、言葉にする前に諦めたように苦笑した。


「いつから気づいておられましたので?」


 最初に違和感があったのは、荷馬車の御者をしてきた時かな。いつもだったら一言二言、かならずなんか言うだろうにと思ったんだよね。

 次に変だと思ったのは、アロイスが爆笑した時。


〔カシアスさんと普通に話してましたよね?〕


 うん。普通過ぎたんだよね。

 いつもだったら、アロイスがあそこまで自分の副官に言われてスルーするってのがまず、変。

 そして三つ目。蜂蜜湯で大騒ぎする様子で確信した。

 バルドゥスは、確かに口も悪いしがさつに振舞っている、ように見える。だがアロイスの副官なだけあって、締めるところはきっちり締めてる。

 いくら甘いものに飢えてるからって、アロイスと大騒ぎしてみせたのはやりすぎだったね。

 スリーアウト。まあそのせいでこれがアロイスの仕込みであって、別勢力の密偵の変装といった、もっと重くて根の深い問題じゃないってことも確信できたけど。


 一応裏付けも取ってある。

 部屋にいた人間の注意がみんな扉の方を向いたんで、こっそり偽物さんの全身が入るくらいの範囲に出力を絞って、一瞬だけ魔力を当てたのだ。ソナーの要領で。

 構造解析の術式を使わなかったのは、アロイスにばれないようにと思ってのことだ。

 ……刀子とか言うんだっけな、投擲用の細い刃物まで握りこんでたのはよくわかった。得意な得物なんだろうけど、バルドゥスが持ってないものを使うんじゃなかったね。

 

 グラミィの説明を聞いたアロイスは、笑いながら偽物くんの肩を叩いた。


「だそうだ。諦めてボニーどのにいさぎよく謝罪しろ、マルドゥス」

「は。ボニーどの、試すような真似をして申し訳ございませんでした。バルドゥスの兄で同輩でもあります、マルドゥスと申します。……しかし、口から動く癖のせいで見破られたとは、あんのおしゃべりめ…」


 こらそこ、責任転嫁しない。結界はとっくに解いたげてるんだし。


〔しっかし、よく気づきましたねボニーさん。全然気づきませんでしたよあたし〕


 ……できれば気づいてくれたらよかったのになー。

 あたしが気づいてたのは、カシアスのおっちゃんから、アロイスが『双剣』を使うと聞いていたこともある。あのときいっしょにいたでしょうが、グラミィ。


「……カシアスめ。あのおしゃべりめが…」


 部下と同じこと言ってるよアロイス。

 舌打ちするその様子にタクススさんが噴き出した。


「……ご無礼を。されど、カシアスどのをおしゃべり、などとおっしゃるのはアロイスどのくらいでしょう。カシアスどのの二つ名は『静謐なる変幻』というのが正しいのですよ」


 ……へー。厨二臭さがレベルアップしてない?

 今度そう呼んでみたげたらいいんじゃない、グラミィ?きっとおもしろいおっちゃんが見られると思うよ?

 あと、ついでにいうと、カシアスのおっちゃんに吐かせたのは、こちらの暫定味方陣営の人間に、何ができて、何ができないか、ということを知るためってのがメインだかんね。

 戦力分析の最中に双子の副官がいるなんて情報を隠す君らが悪い。しかもタクススさんにアルベルトゥスくんに君ら……いったい何段構えでこっちを試しに来てるのか。それとも暗部ってそこまで自分の目で確かめたり試したりしないと信じらんないって人間の集団なのか、ええ?


 ……ちょっと落ち着こう。

 しっかし、顔や体格だけじゃなく、魔力の質もほぼバルドゥスと同じって。双子としても相当そっくりさん度合いが高くね?

 あたしが気づけたのは、バルドゥスを信じてなかったからということもあるのだけど。


 正直、今この状態で味方であると信じきれる人間は少ない。

 あたしにとって、グラミィとヴィーリはわりと無条件に信じられる相手だ。

 心話がつながるとね、嘘ははっきりわかるし、隠し事もなんとなく濁しているのはわかるから。

 王子サマとカシアスのおっちゃん、アロイスも、まあ信じてもいいと思う。

 つーか王子サマが信じられなかったら、この状況自体が罠だと思わなきゃならんのよ。だからとりあえず信じるしか選択肢がないともいう。

 カシアスのおっちゃんとアロイスは復讐という動因がはっきりしているから、ルンピートゥルアンサ副伯とアロイシウス(リアルオーク)をボコボコにするまでは、まず間違いなく信じられる。アロイスとは半分心話でつながったから、恨み骨髄ぶりが演技じゃないこともわかってる。カシアスのおっちゃんの私怨っぷりが演技だったらすごいよまじで。


 問題はその他の人間だ。

 バルドゥスや、マルドゥスさんも今回の同時多発的集団言葉リンチの仕掛けには一枚かんでるけど、それは彼らがアロイスの副官だからで、王子サマの命令があったからだ。

 つまり彼らにとっちゃ、ただのお仕事なのだよ。この状況は。

 そこは、アルベルトゥスくんやタクススさんも同じである。

 『仕事としてやらねばならないこと』と『数年来の復讐として心底果たしたいこと』では、取り組むのにも大きな温度差ができて当然。

 『仕事としてやらねばならないこと』にも、あたしたちみたいに『仕事しなけりゃ生存権がありません』レベルにまで切羽詰まってるのと、国の暗部とはいえ、一応の生活が保障された身分であるのとでは、さらに違いが生じる。

 裏切られる可能性があるならそこだ。

 だから、あたしは可能性の芽を徹底的に潰す。グラミィ、また通訳よろ。


「『改めてマルドゥスどのにもお訊ねする。どうやらアロイスどのはどうしてもその低湿地を抜けてルンピートゥルアンサ副伯領内に潜入したいようだが、止めぬのかな?』じゃと」

「止めて止まるような隊長ならもっとこちらも楽なんですがねぇ…」


 マルドゥスくんががっくりとうなだれたとたん、後ろ頭をアロイスが叩いた。


「こういってはなんですが、わたしなどは警戒はされていないと思います。侮られてますから」


 ……だーから、胸を張って言うなよアロイス。

 ルンピートゥルアンサ副伯領は君らにとっちゃ敵の本陣だから、ほぼ無人で警戒も難しい抜け穴があると思えば、つっこんでって、破壊工作でもなんでもしたくなる気持ちはわからなくもないけどさ。

 それはやめろって言わなかったっけか。

 つーかあんたは王都でアロイシウス(ボス敵の一人)を挑発しつつ的になってもらわねばならんのだ。下手に予想外の動きをされてはこっちが困る。

 それに、あんただってそこまで計算して、今まで動いてたわけじゃないでしょ。


 グラミィが通訳すると、アロイスはにっこりと――それはそれは極上の、ダイヤモンドダストが舞うんじゃないかってくらいキラキラした――笑みを浮かべてみせた。


 ……まさか、そこまで考えて十年近く残念騎士を装って放浪してたわけ?!

 どんな前田の殿様だよあんた。


〔どーいうツッコミですか、それ〕


 いやね、むこうの世界の話だけど。

 加賀百万石のお殿様ってね、徳川幕府に警戒されまくってたのよ。なにせ織田の家臣時代からずっと生き残ってきた家柄だし、能力は高いし。

 そんなわけで手綱代わりに婚姻で縛ったりなにかあったら難癖つけて罰しようようって身構えられてたんだって。

 でもねー、お殿様だって徳川方にとっちゃ残念なことに馬鹿じゃないのよ。そのくらいは見抜く。

 とはいえ、下手なことはできない。

 だから、って考えついたのが鼻毛を伸ばすこと。

 びろ~んと鼻毛が出てればどんなイケメンでも策士でもアホに見えるというね。ある意味捨て身すぎて怖いエピソードが伝えられている。(諸説あり)


〔……つまり、アロイスさんてばそのくらいには切れる人で、そのくらいには恥も外聞もかなぐり捨てられる人だと。ボニーさんはそう評価してるってことですか〕


 そういうこと。敵に回したくないでしょ?

 捨て身の策士とか、どんな特攻かましてくるのか想像したくもないわ。

 だが断る。

 アロイスとカシアスのおっちゃん。あんたたち自身が、今、敵地であるルンピートゥルアンサ副伯領に特攻すんのは不許可だ。


 自分で動ける人ほど他人に仕事を任せるのが下手というのはよくある話だが、その結果自分一人で抱え込んで潰れる、というのも同じくらいよくある話だ。それがこの世界でも同じなのかなーと思ってしまうじゃないか。

 しかしそれは、実は非効率だ。かっこいいように見えても誰も信じないと言ってるようなもんだし。


 さらに言うなら、確かにこれは君らの復讐を果たす機会でもあるが、王子サマがそれだけのことで君らと君らの配下を使っていいからルンピートゥルアンサ副伯を潰せ、などとあたしたちに言うわけがない。

 王子サマの利益、国の利益になるからこそ、『君らを使っていい』という許可が出ている。


 わかるかね?

 『君らを使い潰してもいい』ではないのだよ。

 潰した時点で王子サマ視点じゃ利益はマイナスに落ち込む。だからこれまでルンピートゥルアンサ副伯に手を出してなかったんだよ。

 そのくらいのことは計算できる人間です、あの王子サマは。


 もちろんあたしだって、君らを使い潰す気などさらっさらない。

 つまり、王子サマから与えられたお題(クエスト)の遂行中に、君らが死んだら元も子もないのだよ。

 それを考えると、アロイスとカシアスの二人をルンピートゥルアンサ副伯領に潜入させるのは、どうあっても成功率が低すぎる。

 どんだけ変装しようが偽装工作を施そうが、騎士は目立つ。

 加えて、向こうだって侮ろうがなにしようがマークしててもおかしくないレベルで敵対してるんでしょうが。

 特にアロイス、あんたは顔バレの危険性が高過ぎる。

 このお屋敷に来る時だって、アロイスの脇にヴィーリがいてくれてよかったとあたしは思ってるくらいだ。ヴィーリが、目立たなくするついでに気配を消してくれてたんだって、わかっててほしいんだけどなー……。


 君ら以外の人間を送り込んだとしても、ルンピートゥルアンサ副伯領の中でも、低湿地とか港町あたりを歩き回るくらいならばまだしも、一番証拠がありそうな副伯家の中に入り込んで情報収集するってぇのは無理難題に近いだろう。

 いや、確かに信頼できる相手をルンピートゥルアンサ副伯領に送り込むのはメリットが大きいんだけどね。アルボー港終了のお知らせとか、ルンピートゥルアンサ副伯オワタとか、その手の噂はやっぱり現地で撒いた方がインパクトも大きいだろうし。

 ……どうしても副伯領に人を送り込まねばならない、というならば、気配を消せるヴィーリだろうが、彼だって人の中でどこまでも気配を消しても実体が消えるわけじゃないからねー。

 ヴィーリ自身そんな身の危険を冒す気もないだろう。彼の目的は『星の子たるあたしたちにピッタリストーキング』なんだから。

 

「ならば、ルンピートゥルアンサ副伯領にはわたくしが偵察に参りましょうか」


 ひっそりとタクススさんが口を挟んだ。


 …………。


 適任かもな。いや適任だよ。

 知識はばっちり、口もうまい。薬の行商人としてアダマスピカ副伯領に潜り込めば、禁制品の有無にも鼻が利きそうだし、噂を集め、噂を撒くのも上手そうだ。言動からにじみ出る胡散臭さも出したり引っ込めたり自由自在である。

 確かに、今の手持ちの人選で言うなら適任過ぎるくらい適任、ではあるのだが。


 それ以上に、危険過ぎる。


「頼めるか」

「こんな面白そうなこと、他人に任せる気にはなれませんとも」


 アロイスの言葉に、胡散臭そうな笑顔を作って笑って見せる気持ちはありがたい、けど。

 あたしゃ接した人間が害されるようなことはしたくない。


〔やっぱり、あまあまですよねボニーさん……〕


 言うな。自分でもちょっと思う。

 付け加えるなら、タクススさんだって王子サマの言うところの『アロイスが動かせる手勢』だ。つまりアロイス同様、『今回の事で使い潰してはならない存在』なのだ。


「……だそうじゃ」


 って、そのまんま全部言うなよグラミィ!


「ボニーどの。わたくしのような者の身にまで考えを及ばしていただき、感謝いたします」


 ですが、と逆接で息を継いだタクススさんは、真面目な顔で頭巾の下まで見通すようにあたしを見つめた。


「わたくしは、そして我々はクウィントゥス殿下の配下であり、このランシアインペトゥスの王の臣下なのですよ。我らが動くは殿下の御意志があってのこと、そして国益がため。そのために身命を賭すのも当然のことにございます」


 言い切ったタクススさんは、カシアスのおっちゃんにも負けず劣らず凜々しく見えた。

 ……あたしには返す言葉がなかった。所属するもののないこの世界の異物である、あたしには、きっと言えない言葉だからだろうか。

 

「……『あいわかった。しばし考えておく』だそうじゃ」


 ちょっと待てグラミィ、今度はあたしが言ってないことまで捏造すんなぁっ!


〔じゃーどうすんですか?今ここで、ここまできちんと考えて、自分の意志で行動しようとしてるタクススさんを止められるような対案があるんですか?今すぐ出せるんですかボニーさん?〕


 う。


〔だから、ちょっと考える時間をもらったんですよ。ちゃんと理由が思いつけば、『考えたけど、やっぱりやだ』ってストップかける事だってできるんですしー。嘘は言ってないんですもの〕


 うわー……。元JKが黒いよ。


〔周囲の環境のせいじゃないですかね?〕


 しれっと心話を打ち切ると、グラミィは杖をとんとついた。


「さて、着いたばかりにこれほど立て続けに話していては、少々お疲れであろう。部屋に案内しよう。各々(おのおの)ゆるりとくつろぎなされ」

「ありがとうございます、グラミィどの」


 マルドゥスさんがそう言うと、ぞろぞろ彼らはグラミィの後について部屋を出て行った。


〔ボニーさんも、ちょっと煮詰まってんのなんとかしといてくださいねー〕


 ……大きなお世話だ、グラミィ。


「シルウェステル師」


 最後に残ったアロイスが戸を軽く閉めてあたしに向き直った。

 なんぞ?


「師が、以前わたくしにお話し下さった話ですが、お断りいたします」


 えと、なんだったっけ?


「わたくしは騎士として鍛え、騎士として仕える主君にも恵まれ、今ここにおります。ゆえにわたくしは騎士として生きようと思い定めました。魔術師の道は、おのが意思で断ち切る所存にございます」


 ……あー。あの話か。魔術師にもなれるけどどうする?ってやつ。

 ふっといてなんだが、すっかり忘れてたや。

 でもそこまでさっぱりした顔ができるってことは、迷いがなくなった、ってことか。

 そっか、がんばれ。


(ならば、アロイス。騎士たるそなたの上に祝福を。このような身の祝福が効くかはわからぬが、そなたの選んだ道に騎士としての誇りと栄光があらんことを)

「何よりのものにございます」


 アロイスははにかんだように笑った。……拗ねた感じがなくなると、意外とかわいらしい顔になるじゃんよー。


「……ああ、それと申し上げるのを忘れておりました。後日、アーノセノウスさまがおいでになるそうです」


 ……誰だったっけか、それ。

密談終了です。

そしてきれいさっぱりボニーに忘れられてる、というか名前すら知られていないおにーさん……。

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