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境界を越えよ

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 ひとしきり泣きじゃくっていたアルベルトゥスくんはとりあえず休ませようというので、落ち着いたところでグラミィとタクススさんが連れて行った。病弱っ子はおとなしく寝とけというのが一同の総意である。ただでさえ移動で疲れてんだから。

 その後をヴィーリがついてったのは、……ありゃ興味と好奇心で動いているのかもな。

 あたしがやらかしたことが、どういう効果をもたらしたのか、観察しにいったんだろう。

それについてはやらかしてもーたあたしも興味はあるが、それより先にやることがある。

 だよね、目配せしてきたアロイス?


「さすがは骨どの」


 いやあくまでも対症療法にすぎないからね、あれ。


「初対面の相手を救おうとなさる。タクススが自ら動くのもそのためでしょう」


 バルドゥスまで生温い目でこっち見んな。

 いやだって、善意じゃないもんなぁ。

 あえて言うなら……出来心?

 あたしの暴走力を舐めてはいけない。


 いやホントに血管もないのにぷっつんきたからって、本人の同意なしにぶっつけ本番的に人体実験やらかすのは人としてどうなのかとノンブレスで小一時間自分を問い詰めたい!骨だけど!

 マジでごめんなさいアルベルトゥスくん!五体投地で謝罪したい気分だよ!フォローは誠心誠意いたしますので、どうかお許しを!


 ……むしろあたしの暴走力を舐めてないからこそ、あの状態のアルベルトゥスくんをわざと連れてきたんじゃないのかね、アロイス。

 あたしがどう動くかまで予測してたのかなー?


 秘儀、生温い目返しっ!眼窩しかないけど!


 まあ、このまま頭蓋骨と生身の顔をつき合わせてても、アロイスが脂汗をかくだけでしかない。バルドゥスが同席してるから心話もできないしね。

 あたしはフードをかぶり直し、腕の骨を隠すと、木簡もとい例文集を取り出した。女言葉はカシアスのおっちゃんに訂正してもらってある。

 ちなみに、新しく書き直してくれた本人は、溜まったお仕事の裁可が必要とかで、エンリクスさんに別室へ連行されました。


『話を訊かせてくれ』


 カシアスたちの前じゃ言えないことがあるから、わざわざ部屋を動いてもらってるんでしょ?


 彼らが言うには、アルベルトゥスくんはこのランシアインペトゥス王国の人間ではないそうな。かつては干戈を交えたこともあり、今も潜在的な仮想敵国であるジュラニツハスタの魔術師だという。

 それにもちょいと驚いたが、なんと魔術学院生の時に魔力(マナ)と魔術の関係について、新しい理論を組み立てた天才少年だったと聞いてさらにびっくりだ。

 放出魔力を制御しきってるヴィーリを見て、人体には外に放出されてない魔力があるんじゃないかと思いついたあたしとは逆に、彼は、物質にはこれまで観測されていた放出魔力と物質維持に必要な魔力以上の魔力が含有されているのではないかと思いついたという。

 根拠は魔喰ライの伝承と魔晶(マナイト)にあった。


 この世界の魔喰ライというのは、生命活動が維持できなくなったとたん、爆発する。その破壊エネルギーは膨大なものになる。

 ってあれ、裏切り者のサージだけの現象じゃなかったのね……。

 その被害を軽減するには、魔喰ライを死なせる前にその魔力を可能な限り消耗させ、身体を切り刻むくらいしかできないらしい。

 ……いったいいつの時代の特撮変身ヒーローものの怪人かをまいらと突っ込むべきか、そんなのと変身ヒーローでもないくせに生身でやりあった挙句に生き残ってるって、アロイスすげぇというべきか。


 一応、魔喰ライが死亡と同時に爆発する理由としては、体内の魔力を制御できなくなったからではないかという説があるらしいのだが、通常は人間が体内に蓄積している魔力をすべて暴発させたとしてもそれほどの被害にはならないし、魔術師が死亡するときにも魔力暴発が起こらないことがほとんどだそうな。

 これ、観測された事実らしいですよ。つか観測したんだ。こわ。

 なんでも、魔術師の素養がある子どもが訓練を受けられないまま成長し、魔力量が大きくなりすぎて暴発を起こすことがたまーにあるんだとか。

 ……なんかますます魔術士たちってのが体内の魔力制御が甘くて放出しまくってるから、早く制御技術を教え込まなきゃならんってことで、隔離・教育されたのが始まりなんじゃねーかという予測が強化されつつあるのが恐ろしい。


で。

 魔喰ライの爆発エネルギーがけた違いに大きい理由とは何かとアルベルトゥスくんは考えた。

 通常の魔力暴発と異なるのは、爆発した魔喰ライは完全に消滅するという点である。遺体の一部すら基本的には残らないとか。

 それは、魔喰ライの身体という、通常の人体ではありえないほどの魔力を過剰に吸収・蓄積している物質がすべて魔力に変換されるからではないかとアルベルトゥスくんは推測した。

 魔晶も、通常は大きさに比例して含有魔力量が大きくなるものだが、上質なものほど、これが当てはまらないほどに、けた違いに含有魔力量が大きくなるんだそうな。

 魔力を放出しきった残骸も低品質のものは砂や小石状のものが残るが、高品質のものはほぼ残らない。

 ならば、魔晶も魔喰ライの身体同様魔力を過剰に吸収・蓄積している物質であり、それをすべて魔力に変換しきることができるのであれば、これまでの魔力タンク以上の価値を見出せるのではないかと。


 これ、この世界の魔術理論的にはトンデモらしい。

 実際、アルベルトゥスくんの発表はほとんど黙殺状態。黙殺しなかった一部の反応すら、ばかじゃねーの、ぐらいだったそうな。

 だが、アルベルトゥスくんは頑固だった。石頭とあだ名されるくらいには頑固だった。

 こつこつと自分の仮説を検証、理論化する作業を進めているうちに…ジュラニツハスタとランシアインペトゥス王国の間に戦争が起こった。アロイスやカシアスのおっちゃんも戦ったやつね。

 アルベルトゥスくんは少年兵として、母国であるジュラニスハスタの軍に徴用された。敗色濃くなったと見るや、国は魔術学院生という魔術師としても未熟な子供たちまで戦いに引き込んだのだ。


 ってちょい待ち。アルベルトゥスくんって今いくつよ?!


「本人の申告が正しければ、現在22歳だそうです」


 うっそーん。

 ……14、5歳くらいかと思ってた。

 シルウェステルさん(あたしの身長)どころか、小柄なタクススさんよりもちみっちゃいじゃん。

 ぽわぽわの綿毛みたいな銀髪と、アイスブルーの瞳のせいかもしらんけど、どう頑張っても18歳以上には見えない。

 同じ銀髪青眼なのに、王子サマと外見だけなら一世代ぐらいラクラク違うとか。

 なにその合法ショタ。


「彼の言葉によればですが、これも『罪の刻印』なのだろうと」


 戦線が伸び切り、一つの砦が取り残され、そして味方からの連絡は途絶えた。殿軍というより尻尾切りに近い。足止めをしながらそこで全滅しろと言わんばかりの態度に、比較的冷静だった砦の指揮官は早々に敵へ生命を乞うことにした。

 しかし、投降のための使者は、死体になって帰ってきたという。


 ……投降のタイミングが早すぎたんだろうか。見捨てられた云々を知らずに疑心暗鬼の目で見れば、砦一個使ってしかけた罠にも見えるかもな。


 だけど、攻め手側の思惑はアルベルトゥスくんたち砦の中の兵士たちには見えなかった。

 なにがどうあっても自分たちはここで殺される。

 そう覚悟した時、アルベルトゥスくんは自分の理論を指揮官に示したらしい。

 ただ魔力を暴発させるのではなく、魔力の含有量の多い物質をすべて魔力に変えて爆発させれば、単純に大きな破壊力としても使える。うまく行けば敵に大損害を与えることも、隙をついて砦を脱出することもできるだろう。理論は完成している。実現化の目算はついていると。

 アルベルトゥスくんの必死の訴えを、砦を逃げ出すための下手な足掻きと嗤ったのか、破れかぶれにダメでもともとと考えたのか、それとも他にすがる何物もないがゆえに信じたのか。

 確かなのは指揮官がアルベルトゥスくんに許可を出したという事実だけだ。

 小指の爪ほどの大きさの、魔晶をたった一つ与えて。


 彼の理論は正しかった。

 しかし、ちっぽけな魔晶ですら、そのすべてを変換した魔力は彼の制御を振り切るほど大きかった。

生き残ったランシアの兵士の言葉によれば、世界にもう一つ太陽が生まれたかと思われたそうな。

 彼が守ろうとしていた砦は半分ガラス状に溶け、中の騎士たちはほぼ全員が即死。

 攻め手の兵士たちも半径数キロにわたって爆風に飛ばされ、熱に焼かれ、戦力は壊滅。

 アルベルトゥスくんが生き残っていたのは、土でトーチカみたいなものを作っていたことと、それが城の正門にあった守塔の影になっていたから、らしい。

 半死半生状態のアルベルトゥスくんを拾ったのが王子サマの配下でなければ、もう一つ死体が増え、戦いは魔喰ライが出たものとでも解釈されていたことだろう、というのがアロイスの話だった。


 医術の心得がある魔術学院の導師の一人によれば、アルベルトゥスくんの身体の一部が石化しているのは、やはり膨大な魔力を一度に浴びたせいではないかということだ。

 半死半生状態が通常であると判断しているために、せっせと体内の魔力を排出しているのか、一時周囲を高密度の魔力で覆われたため、身体に害を及ぼすほどの魔力を体内にためておかないよう排出しているのか。

 いずれにせよ、魔力の安全弁は壊れていると見ていいだろう。その副作用で身体も成長できていないらしい。

……そりゃぁ、彼が自分を異物とみなすのもうなずける。

 自分を責めるのも、死ぬのを受け入れるのも納得しなくもない。生きながら死んでいるようなものだと諦めるのもむべなるかな。


 でもなー……。

 一生懸命やった結果大惨事発生で自責の念があるにせよ、そのまま死を見据えて動かないなんて、あまりにも救いがなさすぎる人生じゃないか。

 それに、死んでる度合いじゃ明らかにあたしの方が上だ。

 死ぬまで悔恨を抱えてうずくまり、そのまま何もしない気でいたんなら残念だったな、アルベルトゥスくん。

 そんな感傷など、このあたしが跡形もなく瓦礫に変えてくれるわっ!

 

〔また暴走して何をやらかす気ですかボニーさん。その前に、このドア開けてくださいよー〕


 おう、グラミィ。戻ってきたんだ。


 グラミィはおおぶりなポットを両手に持って入ってきた。


「話はどこまで進んでおるかの?」

「おや、グラミィどのはお聞きになっておられなかったので?」

「幼子を寝かしつけるのでせいぜいじゃ。盗み聞きなどできるわけなかろう」

〔アルベルトゥスくんには、タクススさんとヴィーリがついてくれてます〕


 ……じゃあいいか。


「ボニーが取ってきてくれた蜂蜜を湯に溶いたものじゃ。飲むかの?」

「「ぜひとも」」


 アロイスたちは嬉々としてティーカップを差し出した。蜂蜜酒じゃないんだけどな。

 それでもいい年した大人がほんの僅かな量の差を、多いの少ないのとやいやい言い合う程度には、やっぱり甘味は貴重なのだ、この世界。


 ちなみに蜂蜜はヴィーリが見つけたハチの巣ごと、刺される心配のないあたしが回収してきたものだ。

 どんなゴミが混じってるかわからないので、熱湯殺菌の上に魔術で速乾した、きれいな布で濾す。濾した蜂蜜は、そのまま壺に保存。

 残った蜜まみれの巣は、同じく蜜まみれの濾布ごと鍋に投入して水を加えて加熱し、完全に蜜蝋が溶けきったところでその布を使って濾して冷やす。

 溶けた蜜蝋が固まって浮いてきたところで掬い取ってこれも取って置き、最後に残った蜂蜜の溶け込んだ水は、沸騰殺菌したのち馬たちの甘味料(おやつ)兼グラミィの化粧水になった。


 超高級ティッシュが売られてるのを見たことがあるだろうか。

 十秒に一回は鼻をかまずにいられない花粉症患者御用達みたいなしっとりした肌触りで、お値段もかなり張る。

 その肌触りの理由は、いろいろな保湿成分が配合されているからである、ってのは割とよく知られてることだが。

 実は、その保湿成分の中には糖類も含まれる。

 同じ理由で、高級と言われる化粧品も口に入れると、かなりの割合で甘いのだが、実際に口に入れることはあまりおすすめしない。経口吸収することを想定しない成分とかあるからね。


 保湿成分として甘味料や糖が配合されているのは吸湿力が高いからだ。

 なので、ただの砂糖水でも少しは保湿効果がある。らしい。のど飴が咽喉粘膜の炎症に効果があるのもそのせいかどうかはしらないが。


 だけど、この世界で砂糖は手に入りづらい。

 つーか、糖分の多いものが少ないのだよね。グラミィによれば、果実ですら酸っぱすぎて生で食べるのをためらうものも多いくらいだとか。

 そんな果実を絞って果汁をそのまま使おうもんなら、むしろ酸が強すぎて皮膚が負ける。もしくは色素が濃すぎて結局は洗い落とさないといけないレベルであるようだ。

 なので、蜂蜜水をグラミィに化粧水として渡したときには超絶感謝されたもんである。

 ついでに蜜蝋を小皿に溶かして固めたものも、リップクリームとヘアワックスの代用になるよーと渡したら拝まれた。

 拝むなとつっこんだら、ボニーさんは神で仏様ですからと言われた。

 神というのはいまいちよくわからんが、仏様というのが死んでるって意味なら確かに死んでる状態ですがね。面と向かって拝まれるのはぜひとも勘弁していただきたい。

 悪くなるのが心配だったので、渡すのはちょびっとだけにしておいたら、なくなった瞬間自分でも狩りに行きそうな勢いだったのがちょっと怖い。

 行くならあたしに声をかけろと言っといたけれど、実行するかはさだかではない。

 いざとなったら果物置いて逃げてきなさい、と一応釘は刺しといたけどなー。


 そうそう、この世界の蜜蜂さんは花の蜜だけではなく、果実も平気でお召し上がりになるらしい。

 蜂蜜が、イメージしていたいわゆる蜂蜜色じゃなかったのもそのせいだとか。

 夕焼けに黄金を溶かしたような、ねっとりした朱金色だったのにはびっくりしたが、果実の季節によっては紫色に染まることもあるらしい。

 ……やっぱり向こうの世界の蜜蜂とは近縁種であっても同一種ではないようだ。


 さて。ティーブレイクが終わったところで、話を続けようじゃないか。


 死にかけ気分のアルベルトゥスくんはなんとかしよう。

 外見詐欺の合法ショタとはいえ、あんな年端もいかない子に目の前で死なれでもしたら寝覚めが悪い。あたしは寝ることもないしそもそも眼球もないですが。

 なんとかできる方法もわかったことだしね。


〔さっきの対症療法を続けるってことですか?〕


 それだけじゃない。

 体内魔力の欠乏だけなら、ヴィーリ方式で鍛えて魔力量を増やせばちょっとはよくなるんじゃなかろうか。

 それで狂った安全弁を正しく直せるならそれが一番いいことなんだろうけれども、すでに安全弁がぶっ壊れてるんなら、これもやはり対症療法にしかならない。

 けれど、要は排出量より必要な体内蓄積量が上回ればいいことだ。体内に魔力を蓄積すれば蓄積するほどさらに排出量は増えるだろうが、排出機能に過負荷がかかって、完全にいかれたらそれで魔力の漏出は止まるだろうし。

 そしたら今度は排出を自力で行えばいいだけのことだ。

 ……問題は、排出量を増やそうと石化した部分が増殖する可能性があること、もしそうなってしまったら、石化が進めば進むほど、アルベルトゥスくんの寿命とヴィーリ方式の結果との競争になりそうだということだが。


 ……それとは別に、ものすごーくイヤな予感がするんですよねー。


 アルベルトゥスくんの理論によれば、魔力は物質を生じ、物質は魔力に戻る。

 魔術というある程度一般化された既存の技術でも、魔力を使って水は作れるし、魔力を吸収すれば岩は砂になる。

 しかし物質が完全に無から有へ、有から無へと変換されているかというとそうではない。砂はやっぱり残るし、それになにより魔晶一個で火球を打ち出したって、太陽の代わりにはならない。

 アルベルトゥスくんの理論はむちゃくちゃ効率が良すぎるのだ。


〔それが本当ならば錬金術とかメじゃないですねー〕


 確かに効率だけ見るなら心躍らなくもないが。

気になるのは、わずかな物質そのものも完全に魔力に、しかもとんでもない膨大な量に変えられたという点だ。

 魔力=存在力と考えると、存在をすべて魔力に変えれば納得がいくのかもしらんが。

 この「魔力」という言葉を「エネルギー」に置き換えてみよう。


 エネルギーは、物質を生じ、物質はエネルギーに戻る。


〔……えーと、つまり?〕


 この世界でも、アインシュタインさん万歳、ってことになる、の、かな?


〔じゃ、じゃあ、その理論を構築した上に実践までしちゃったっってことは……〕


 はい。アルベルトゥスくんは歩く原爆発生機ってことになっちゃいます。激烈にやべえ。

 

つーかそもそも王子サマがどういう意図で彼を保護してたのか、疑問はありますよ。山ほど。

 いろんな偶然があったとはいえ、なぜほぼ爆心地付近でアルベルトゥスくん一人が生き残れたのか、とか。 

 ついでにいうとアロイスがここまで長々とアルベルトゥスくんの身の上話を、しかも事実だけを語ってるように見せつつこっちの同情を惹くように情報操作をしかけてたのか、とか。

 それにも意味があるんでしょ?

 なにせ、『話を聞かせてくれ』としか意思表示してないあたしに、アルベルトゥスくんが石化しつつある原因を、こうまでヤバい事情つきで話すあたりがまずおかしい。

 タクススさんのことは本人の前でああもぺらぺら喋ったくせに、アルベルトゥスくんのことは名前しか最初言わなかったくせにね。

 意外とお気遣いの人だもんね、アロイスも。


「彼に良くしてやってください」


 アロイスは真顔になった。


「アルベルトゥスが籠っていた砦の所在が、実は現在のルンピートゥルアンサ副伯領内にあたるのです」

「……なるほど、心を開かせて、情報を得よ、というのかの」

「その通りです、グラミィどの。我々騎士はどうしても彼にとっては敵という意識が抜けないようでして、警戒されております」

 

 アロイスの視線を受けて、副官が地図を卓上に広げる。

 アルボー港上流域、アダマスピカ副伯領とはピノース河を挟んで反対側、ユーグラーンスの森よりやや下ったあたりの湿地帯の端に印があった。


「湿地帯は魔力だまりでもあります。ですが、あえて魔力だまりに踏み込む魔晶採りどもすらこのあたりには近づきません。異常な戦いがあったとだけ話が広がっていることもありますが、もう一つ理由があります」


 アロイスは大きく息を吸い込み、一気に吐き出した。


「戦いののち、この一帯の魔力が急激に高まったためか、『白き死』と呼ばれる強大な魔物が棲み着いているのです」

密談はもーちょっと続くんじゃ。

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