グラミィの魔術特訓(受動使役態)
本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。
基本、日中のグラミィにはトイレと食事休憩以外の休みがない。
えらい勢いであたしとカシアスのおっちゃんとヴィーリが交互に知識を叩き込んでいるからだ。
カシアスのおっちゃんからはアダマスピカ副伯領の知識を。
昼食後からは、あたしとヴィーリがひたすら魔術を。
スパルタっちゃぁスパルタだがしかたがない。
どれもこれもあたしが早く早くとせきたてるものだから、グラミィは不満げだ。
〔いきなり放り込まれた国境だとか物理的な戦場からようやく抜け出せたんですし、もちょっと落ち着いて異世界ライフを味わいたいですー〕
と言われてもねぇ……。
政治的な戦場にはもうとっくに巻き込まれてるのだよ、あたしたちは。
ま、進んでつっこんだとも言えるが。
それと、王子サマは明確な期限を切らなかった。それは確かだ。
ただ、問題は、季節が冬に近づいているということだ。
冬の川で、冷たい水に浸かりたいかね、グラミィ?
〔絶対ヤですよ!〕
じゃあがんばれ。
この騒ぎにケリをつけるのも、早くできればできるほど、あたしはそのぶん早く蘇生手段を探せるし、グラミィだってゆっくりのんびり異世界生活を堪能できるでしょ。
そう伝えたら、不満げな顔をしながらも、グラミィは土系の生成魔術の術式に集中しなおした。
サージが詠唱していた石弾の魔術をあたしがアレンジしたやつだ。
射出速度も距離もゼロ、手のひらに接した状態で鉱物を生成することしかできないが、そのかわり生成の際に組成と大きさを変えることで、鉱物の構造と構成元素についての理解さえあれば、理論上はダイヤモンドや水晶の単結晶から石灰の粉末まで、大岩から泥の粒子サイズまで自由自在というもの。
の、はずなのだが。
……どうも、魔力がびみょんに漏れてるのだよね。
術式が歪んでいるのか、顕界する時に何かうまくいっていないのかもしんない。
そうすると、魔力を無駄遣いするせいで、生成できる岩石や土砂の質にムラができたり、量にロスができてしまう。
『大魔術師ヘイゼル様』としてふるまうんなら、もっと精密な術式を正確に構成する必要があるのだが、繰り返し練習しても、いまいち上手くいかない。
最初のころなぞは周囲に魔力をだだ漏らしにしながら岩石を作ってたのだ。
で、ちょっと注意をしたら、今度は異常に魔力を発散する岩を作ってたりするんだもの。
通常なら、無から有を生むこの手の術式であっても生成物は自然に存在する石や水と同程度の魔力しか含有しないはずなのだが、ねえ。
魔晶作れって言ってんじゃないんですが。
……いや、あたしやヴィーリが見ても、ああ魔力が出てるなー、ぐらいの反応ですむんだけどね。
試しに、魔術師じゃない人間代表、カシアスのおっちゃんに生成した岩を見てもらったら、反射的に剣の柄に手をかけたんだよねー。
どんだけ威圧感があったんだ。
というか、人間を魔力で威圧する岩ってどうなのかとツッコみたい。ツッコミどころが多すぎて疲れそうだからやんないけど。
ついでに。
ためしにヴィーリにお手本をやってもらったら、何百年も前からそこにありましたがなにか、というくらいめちゃくちゃ自然に周囲に溶け込んでる、カシアスのおっちゃんの等身大石像を作ってくれやがりました。
……すんげー無駄にリアルでやんの。
何を考えとるんだまったく。遊びじゃないんだけどな、これ。
グラミィに、アダマスピカ副伯領に潜入した後にやってもらうために、必要な準備というか練習なんだよ。
このていたらくじゃ、果たして上手くいくのやら心配になってくるのですよ。
そうそう、お屋敷の敷地内に土砂の山ってのはどう考えても不自然なので、終わった後は再干渉して砂粒レベルに砕かせている。後片付けまでがお勉強です。
〔高校入試ん時よりマジつらいんですけどー〕
あ、そう?
なら、大学入試に比べたら楽勝だよ?だいじょぶだいじょぶ。
あ。しゃがみこんで地面にのの字書き出した。
……拗ねてるグラミィは、しばらくほっておこう。休憩がわりにもなるし。
魔力量も減ってるしね。ぶっ続け三時間ぐらいやってたから無理もない、とは言えないんだけどなー。
正直言うと、長時間土砂を作り続けながらでも周囲からの魔力を吸収し続けることができるくらいには、グラミィにはぜひとも魔力操作に慣れておいてもらいたい、ってのがあたしの本音である。
これ、例えるならばビーズ編みのような細かい手作業に集中しながら呼吸するようなものなので、息を詰めてしまうのはわからなくもない。
だけど、普通の呼吸ならば限界にくればぷはっと息も切れるし集中力も切れる。
術式を顕界しながら、周囲の大気や大地から魔力を吸い続けるのを忘れるというのは、限界を突破して息を止め続けてしまってるようなものなのだ。
これ、あたしがやらかしちゃったら魔力切れを起こして死ねる。というか活動不能になる。
それを回避するためにあたしがやってるのは、外部からの魔力吸収と、体内というか骨の中に貯めた魔力による術式の顕界をスイッチングしながら維持している、というものなのだろう。たぶん。
無意識に近いから、よくわかってないけど。
イルカは溺死しないように、左右の脳を交互に起こして睡眠してるらしいが、たぶんそれに近いんじゃないかな。
グラミィだって、ひたすら魔術に消耗しっぱなしでは、どんだけ魔力容量が大きくなっていたってどこかで無理がくる。土砂の作成分の魔力を周囲から吸収し続けられるってのが理想だが、最低でも、一日にこの魔術で消費する魔力量と、睡眠や食事で回復できる魔力量がニアリーイコールぐらいにならないと、想定が崩れてしまうのだ。
グラミィにはほんと、がんばって魔力ロスを減らしてほしいものである。
それにつきあってたヴィーリはと見ると……嬉々として山になった砂にぶっ挿してるし。それも杖から折った枝じゃなくて杖そのものをだ。
ありゃあ、魔力溜まりを作らないためというより自分の杖に魔力チャージって方がメインなんじゃね?
いいことだ。
いざとなったら、グラミィの魔力量をフォローしてもらわねばならんのだかんね。
推定だけども必要な生成土砂は数百トン単位。
できればモルタルっぽく、ほっといたら水分吸って凝固してくれるような性質があるとありがたいのだが、本気でそんなもんを大量に作り出すわけにもいかない。
コンクリートで外枠作った池に鯉を放したら、水がアルカリ性になってたせいで全滅したという話を聞いたことがある。気がするしねー。
さすがに大規模な生態系破壊はしたくないし、させたくはないな。
たまたまルンピートゥルアンサ副伯領に住んでるってだけの人たちの生活すら瓦解させようとしてるくせに、虫のいい話だとは自分でも思うけどね。
台所を覗くと、カシアスのおっちゃんが夕食の準備をしていた。途中で姿が見えなくなったと思ったら、もうそんな時間だったか。すまぬ。
「骨どの。魔術の鍛錬は終わられましたかな?」
いや、まだまだなんだけどね。グラミィは特に。
それでも、生身の人たちには食事が必要だ。ついでに言うと、準備も食事そのものも明るいうちにしておかないと、何が入っているのか何を食べているのかわからなくなるもんな。
特に、魔力知覚ができないおっちゃんは。
(おーい、グラミィ?ヴィーリ?夕飯の準備手伝ってー)
〔よかった!これで一息つけます〕
(ちょうどいいものを分けてもらえた。そっちへ行く)
心話の返事とほぼ同時ぐらいに来るって。そんなに練習がヤだったんかい、グラミィ。
「おや。カシアスどのが料理をなさるとは、ちと意外じゃな」
「騎士見習いともあれば、糧食の扱いは叩き込まれましたからな」
言うだけあって、おっちゃんも包丁っぽい厚刃のナイフを握る姿が板についている。
そこへ、入ってきたのは新鮮な青菜を木の葉で包んだヴィーリだった。
どしたん、これ。
草はそろそろ秋枯れしてるでしょに。
「森へ出向いて恵みを分けてもらった。同胞はいないが、生命溢れる森だな」
満足そうに言うが、つまりちょちょいと採取してきたってことか。
鮮やかな色のキノコとかもあるけど。……食べられるものなんでしょね?
宇宙人の脳味噌みたいなかっこのコレとか。半透明の紫色とか見ただけでちょっと怖いんだけど。
「これは茹でねば食べられぬ。火を通さずに食せば死ぬ」
「つまり、茹でこぼせば食べられるということか」
カシアスのおっちゃんの問いに、ヴィーリははっきりと頷いた。
……おいおいおいおい、まじっすか。
食欲がいっこも湧かない外見なんですけど。
あ、もとからなかったや。
つーか、森精の民たちも煮炊きするんだね。鉄嫌いとか言ってたからイメージなかったけど、土鍋か何かかな。
「毒を学びたいと言っていただろう?」
あ、サンプルに取ってきてくれたんだ。
なるほど。ヴィーリ、ありがとう。
覚えといてね、グラミィ。
〔覚えておく必要あるんですか?森の中に入っても、キノコ取りとかしてる暇なさそうなんですけど〕
毒として使われた場合を考えなさいってこと。知識や自衛策を持たないと、本気で命が危ないんだからね。
「この辺りはアダマスピカ副伯領でも目にいたしますな。毒は全くごさいませぬが、森に少し入らないと見つからぬものです」
そう言っておっちゃんが示したのも、なかなか強烈な姿ではあった。
真っ赤なぴろんと平たいやつとか、全身蛍光オレンジの潰れた水まんじゅうチックなものとか。
つか、おっちゃんもキノコには詳しかったのね。
「従士の家では、食卓と森はつながっておるようなものです。川もですがね。訓練に明け暮れるだけの暇があるのはよほど恵まれた者でして、それがしも子どもの頃はよく森に入って、木の実やきのこを集めたものですよ。晩餐が一皿増えるかどうか自分の目利きにかかっているとなると、人間不思議と物覚えが良くなるものでしてね」
……子ども時代はけっこうなサバイバル生活だったんだね、おっちゃん……。
「グラミィどの、どうか、毒のあるものだけでなく、食べられるものも覚えておいてくださりますようお願いいたします。王の騎士団の末端を預かる者であり、クウィントゥス殿下の配下でもあるそれがしらを表だって襲うような拙策は十中八九向こうも取らぬとは存じますが、十の一、いや万が一にでも寸断され、森に逃げ込むようなこともあるやもしれませぬ。魔術でグラミィどのが出し抜かれることはないとは存じますが、徒歩でユーグラーンスの森を抜けねばならぬようなことでもあらば、口にできるものの知識は生死を分けましょう」
…………それって、つまり。
あたしの眼窩を見返し、おっちゃんははっきりと頷いた。
……そういうことか。
恬淡としたその口調に、あたしはカシアスの凄さと覚悟を改めて思い知らされた気がした。
あたしが振った囮役の重要性と危険度を考えれば、おっちゃんが想定するような、身内に害の及ぶような事態も当然起こりうるのだ。
だからこそ、おっちゃんはお姉さんたちのことを心配したのに、あたしはおっちゃんの願いをつっぱねた。
おっちゃんの案には欠点があったし、あたしも王子サマの威を借りるという代替案は示した。
けれど、頭を下げてる間にやり過ごせるかもしれない騒動に積極的に関わらせれば、どうしたって危険性は上がる。王族なんて国の上層部の権力使って保護に動けば、絶対周囲から引かれるんだよね。
きょうだいが平穏無事に暮らせるように、というおっちゃんの願いは、もう叶わない。
この時点でおっちゃんの腸が煮えくりかえっててもおかしくないのだよ。
加えて、サバイバル知識も土地勘もないグラミィは、ばらばらに敗走するような場合には何の役にも立たない。むしろおっちゃんたちのお荷物、いや首に括りつけられた重石になりかねんのだ。
だからこそ、おっちゃんはいざとなったらグラミィを見捨てるだろう。それが国のために、王子サマのために動く騎士のなすべきことと判断したならば、敵方にここまでデタラメな魔力量を持つ『大魔術師ヘイゼル様』を決して渡さないために、グラミィを自らの剣で切り捨てることさえためらわないんじゃないだろうか。
なのに、その可能性をわざわざ予告した上で、見捨てざるを得ないときのために、こうやって知識を与えてくれているのは、おっちゃんの優しさ以外の何物でもない。
「……カシアスどの、心から感謝申し上げる」
「何ほどのこともございませぬ。グラミィどのはギリアムを救ってくださりました。それに、それがしの知る限りを教えよとシルウェステル師も申されたのですから」
そこから先は、手近な食材も教材に早変わりである。本気で命がかかっているとわかったのだろう、グラミィの真剣度もかなりのものだ。
短い説明を挟みながらも、手早くカシアスのおっちゃんは料理を作っている。
乾燥肉だというカチカチの赤黒い塊を削り、鍋に野菜の漬け物をざっくり洗ったものといっしょに放り込む。
……漬け物といっても、保存食という意味合いなんだよね。
そこへなかなか奇天烈な色合いをした根菜類を刻みこみ、ヴィーリの取ってきた青菜も放り込まれる。
〔なんか、酸っぱかった匂いが一気にいい香りになりましたね。あの野菜のおかげかも〕
セロリとかパセリに相当する素材なんだろうか?ヴィーリから森の歩き方について教えてもらえばわかるかな。
ちなみにここの台所のかまどは、あたし的にはがっちょがっちょ歩き回って案山子にストーキングされてる某魔法使いのお城にあったような、ぐるりと石で囲った囲炉裏っぽい暖炉を、そのまま壁にぐいーっと押し込んだように見える。
その上にレンジフード状に石壁が張りだしてるのは、火の粉が飛んで火事にならないように、ということなんだろう。
昔の日本、というかアジア圏のへっついみたく泥で塗り固めた饅頭型にすれば、火の粉が外に飛び出したりもしなくなるだろうし、熱効率も良くなるだろうになー……。
まあ、それは後のことだ。
〔あたしは何すればいいですかね?〕
あ、じゃあパンでも軽く焼いとけばいいんじゃない?
後は、明日のパンの準備かな。
荷馬車に積んできたパンも、おそらくこれが最後だろう。適当にスライスしたものをかまどの周りの石に乗せとけば、勝手に焼けるだろう。
麦粉を入れた袋はいくつかあったけど、ふっくらしたパンを作るのに必要なイースト菌やパン種まで積んでたわけではないしね。
ので。
ちょいとした秘密兵器をしこんどいたのだ。
昨日の夜、麦粉を水で溶いて、王都から持ってきてたドライフルーツを数個放り込んでおいたものを、あたしはほい、とグラミィに渡してやった。
〔……なんですかこれ?〕
イースト菌代わりになるもの。
サワードゥ、とか言ったかな?乳酸菌発酵をさせたパン種といったところだ。
作ったときにさんざんおたまっぽいやつでかき回した上に蓋してかまどの脇に置いておいたから、ほんのり発酵が進んでいるんだろう。ぷつぷつ程度だが、空気穴ができている。
すっぱい系のパンならコレを使うと作れるよ?
うまく発酵が終われば、歯ごたえのあるずっしり系のパンになるだろう。
パン種を練るのはストレス解消にもなるっていうし、グラミィが好きなようにやればいいと思う。
ちなみに、あたしは直接手を触れてないから。
〔いや、それでも……〕
発酵臭がしたのか、それとも小麦粉100%なパン生地のイメージとはかけ離れた黒ずんだ色合いにヒいたのか。
……まあ、麦粉の色を見るだに、向こうの世界の小麦粉みたく真っ白ではなかったもんなー。パン種が黒っぽくてもしかたがない。
どっちかというと、ライ麦粉とかに近い気がする。
だったら、イースト菌発酵させるより、こっちの方がおいしく仕上がるんじゃないかと思うんだけどね。
もちろん、ヤなら使わなくてもかまわない。
パン種がなくたって、麦粉を練って焼けばチャパティとかナンに近いものが作れるだろうし。スープに落とし込めばすいとんっぽい何かにできるでしょ。
「使わないのなら、わたしがもらおう。わたしが作ったものだから」
「「ヴィーリ(どの)が?!」」
さっさとパン種の器を引き寄せて麦粉を投入し、手早く練り練りしていくヴィーリの後ろ姿を呆然と見ていたおっちゃんとグラミィだが、互いに顔を見合わせるとあたしを振り返った。
ムダにユニゾン率が高いやっちゃな。
だーから、あたしは直接手を触れてない、って言ったでしょうに。
昨晩、皿を返しにきた時になぜか台所にヴィーリがいたので、麦粉をダマにならないよう水とあわせたり、ドライフルーツを入れたりするのをちょっと手伝ってもらったのだ。
なにせ今のあたしにゃ気温があんまり影響しない。熱いも冷たいもわかりづらいのですよ。
そんなわけで、人肌程度に保温をするのはあたしには不可能である。
ヴィーリに『手で持った時にほんのり暖かく感じるくらいに暖め続けられる場所って、どのへんかな?』と訊いたら、かまどの熱が届きやすいパン種棚、みたいなものが設けられているのを見つけてくれたのだ。
パン種棚があるってことは、焼く道具もあるよね、ということで、ついでにパン焼き用らしい鉄板も発見済みだ。ざっと火球の魔法をアレンジしたやつで表面を焼いて、高温殺菌済である。
ちゃんとしたパン焼き窯みたく輻射熱で焼き上げるタイプじゃないから、平たく成型した方がうまくいくだろう。
んじゃ、あとは自助努力でよろ。
というかね。三人でかまどの前を占拠して、鍋やら調理器具やらをいじくり回していると、あたしの居場所がないのだよ。
水桶の脇の鍋を覗けば、魚の切り身が沈んでいた。
鱈っぽい白身の魚と鰊っぽいぷくっと腹の膨れた青身の魚は、おそらく塩抜きをしているのだろう。さすがはおっちゃん、手際がいい。明日のことまで下ごしらえを済ませているとは。
その脇に積んであった山から一つ小桶を取ると、あたしは灰箱から、灰をすくって小桶に入れた。
ついでに魔術で水を投入。水流を作ってよくかき回しておく。
灰が全部沈んだら、これでよしと。
〔……何やってるんですか、ボニーさん?〕
んー。石鹸の代わり?
そーいや、グラミィも昨日お風呂に入った、とか言ってたけど。どうだった?
〔お風呂って言っても、バスタブがあるわけじゃないですからねー。木桶に魔術でお湯作ってつかったくらいですよ〕
って、そんな術式教えてないでしょ?
〔いやあ、水に直接火球を打ち込んだら、肝心の木桶を壊しそうだったんで。氷と逆になれーって術式に念力かけたらうまくいきました〕
……なにその力業。
岩がちゃんと作れなかったってこたぁ、水も心配だなーと思ってたんだけど。
それを根性でなんとかしちゃうとか。現代日本人のお風呂への執着ってばすごい。
(それでも、ボディソープもシャンプーもリンスもなしって悲しいですー。ドライヤーがないから、かわりに風の魔術使って乾かしたんですけどね。もう髪の毛ボサボサでありえないくらい跳ねまくってますよ〕
あー……、だから、今日は珍しくゆるい三つ編みにしてたのか。
水洗いで落ちるのは埃とちょっとした汗ぐらいなものだろうし。
古来、水だけでは落ちにくい汚れ落としには、汚れを吸着する性質のある粘土や灰でアルカリ性溶液を作ってたそうな。
現代でもクレイパックという形で泥は美容に使われてる。
ひょっとしたら童話のシンデレラが美人だったのって、灰かぶった顔を洗うときに汚れが落ちやすかったからかも、なんて今思いついたヨタですが。もちろん、ただのヨタに決まってますとも。強アルカリ性だとお肌も荒れそうだもの。
ただ、方向性は間違っちゃないと思う。適度に薄めないと、だけど。
それでも肌荒れが気になるようならば、すすぎにお酢かなんかちょっと混ぜて使えば、ちゃんと中性から弱酸性ぐらいに保てるだろうし。
勿体ないが果実酒があったら一本もらっといて、酢酸発酵させてワインビネガーもどきにでもすればいいだろう。
ちなみに。
異世界転生モノ転移モノでよく見かける、内政チートあるある上位五位圏内にありそうな石鹸だが、あたしはまるっきりやる気がしない。
動物性油脂で作ったモノってマジ臭いらしいからねー。
香料が高値で取引されたわけだ。
むこうの世界でポピュラーだった石鹸は、基本植物性油脂でできていますけどね。プランテーション経済に支えられて。
〔ボニーさんてば、そこまで知識があって、なんでやんないんですか?〕
めんどくさいから。
設備を整えて生産を軌道に乗せて、なんてこと、こんなただの隠れ家的なとこでやってらんないでしょ?
それに、そもそもあたしにゃ必要ないからね。
服の洗濯だって、土埃ぐらいの汚れならば、それこそ灰の上澄み程度で十分だ。
〔うー…………〕
そうそう、髪の毛の乾燥が気になるようだったら、ヘアオイルの代わりに、植物油でも塗っときなさいねー。
〔パサつきより絡まるのが困るんですよー。目の粗い櫛はずっと持ち歩いてるんですけど。ブラシのいいのが欲しいですー〕
……それは、王都でもないと手に入らないかもねー。まあがんばれー(棒)。
〔アロイスさん、がんばってお土産代わりに買ってきてくれませんかねぇ?〕
……あんたも他人に押しつけるとなれば、たいがいな無茶ぶりするのね、グラミィ。
裏サブタイトル「悪だくみ準備中(その3)」をお送りしました。
NAISEIッテナニソレおいしいの?という内容ですね。
王都のアロイスはくしゃみをしたのかしないのか。
ちなみに、文中に出てきたきのこや根菜類は、実在してるものをもとにイメージを膨らませたブツだったりします。
自然物には危険物が混じっているもののようです……(がたぶる)。




