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【完結】こんな異世界転生はイヤだ!  作者: 輪形月
第二章

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サルと星

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 朝には帰るというアロイスをおっちゃんに案内させて、適当に埃を払った部屋をあてがうと、あたしはヴィーリと屋敷の外に出た。

 ヴィーリの木々に魔力(マナ)を注いで、出入りが自由にできるよう利用者登録をする、という名目だが、いくつか聞きたいこともあったので好都合だ。


(ヴィーリ。あなたの、というかあなたたちの記憶というのは、どのくらい蓄積されてるのかな?)

「……いかなる木の葉の色を問うているのか、星の子よ」


 『伝承』ではなく『蓄積』だ。

 それが『どういう意味か』とヴィーリは反問した。

 『意味がわからない』ということではなく、『なぜそのようなことを聞いてくるのか真意がわからない』ということだ。

 ならば。


(言い換えようか。あなたたち森精とは何者かな?)


 ヴィーリの外見は性別年齢不詳だし、枝変わり=代替わりがすんだというのも本人の申告だが、五十とか六十ってことはないと思う。

 森精は不老長寿の種族なんじゃろう?というファンタジックな答えは、最初っからあたしの頭蓋骨にはナイ。

 だって彼らの身体は、ほとんど人間と同じ構造をしているのだろうから。

 それこそダーウィン結節の有無ぐらいにだ。

 

 そして、この世界の人間はむこうの世界で言うところの霊長類ヒト科に属するホモ・サピエンスに極めて近い。

 その一番の証拠はシルウェステルさん(自分の身体)にある。

 尾骨ですよ、び・こ・つ。

 さんざんこれまでクッションだなんだと周囲をブスらないよう、対策に頭蓋骨を抱えてきたあげく、今じゃ先端を鞘状に布でぐるぐる巻きにしてますが。

 このわずかな骨があるということは、もともとこの世界のヒトには尻尾が生えていた、ということになる。

 つまり、この世界の人類もおそらくはサルの仲間から進化してきたことになる。


 さらに推論を進めるならば、ここの人間であるシルウェステルさんは、身体的にはむこうの世界の人間とそれほどかけ離れた存在とは思えない。

 ならば、この世界にもともといて、しかも外見的にはほとんど同じ森精と人間というのは、もっと相互の差異がない存在ではないかと考えるのはあまり不思議じゃないと思うのだ。

 それがニホンザルとタイワンザルみたく、交配可能なくらいの近縁種なのか、そうでないのかまではわからんけど。


 だが、彼らの使う言葉はあきらかに異なる。

 なのに最初にヴィーリと会話ができた時点で、妙だと思わなければならなかったのだ。だいぶぼけてんなあたしも。

 あの時、バルドゥスは、『森人は滅多に森の中からでてきやしないと聞きますな』と言ったのだ。

 伝聞だ。

 つまり、バルドゥス自身は森人=ヴィーリたち森精に接触したことがない。

 そして、バルドゥスに話しかけられても、最初のころヴィーリは返事をしなかった。

 言葉を返したのは、あたしとグラミィ、そしてアロイスが相手の時のみ。

 この三人の共通点は『心話ができること』である。

そして心話が使えるあたしとグラミィは異世界にいながら、会話理解には不自由がない。

 異世界補正の五文字でグラミィは片づけたけど、この現象に理屈づけをするならば、伝えようとしている言葉の意味を、相手から微弱に発せられる魔力なり意思なりから読み取れてること、逆に心話と口での発話を行っていることで意思の疎通が成立してるんだと思う。

 その証拠に、カシアスのおっちゃんやアロイスは放出魔力が少ないけど、あたしたちが『聞く』ことはできるし、アロイスは魔力感知ができるからか、あたしの心話を『聞く』こともできている。

 

 そう考えると、ヴィーリがバルドゥスとの会話を最初は『しなかった』のではない。『できなかった』のだ、と見ると筋が通ってしまうのだよね。

 なぜなら、ヴィーリは、いやヴィーリを含めた闇森の森精たちは、バルドゥスの喋る『現代の、ランシア地方の、くずれた騎士階級の言葉を理解していなかった』んだろうとね。

 『理解できないことにそれまで気づけなかった』『困惑から行動停止に陥った』のが、『会話が通じるあたしたちだけを話し相手とする』という行動に出た理由なんじゃないのかと。

 その後、バルドゥスとヴィーリの意思の疎通――会話なんて呼べたもんじゃないなありゃ――が可能になったのは、あたしたちと心話で会話した後だ。

 心話でなら意思の疎通ができると判断して、あたしたち同様『心話と会話の同時並行』方式で話すことにしたんじゃないかと推測できる。

あの時は、あたしもただ、ずいぶん古式ゆかしい荘重な言葉遣いに聞こえるなーとしか感じなかったし、バルドゥスは『ごちゃごちゃ訳のわからんことを言いやがって』という理解しかしてなかったけど。

 それに対して、曲がりなりにも魔術伯家出身の、そしてアダマスピカ副伯家でも、かなり高度な教養を身につけさせてもらえたらしいアロイスの言葉には、ヴィーリはきちんとそれにあわせた受け答えをしている。

 貴族階級に古典知識は必須である。典礼なんてもんは古来から伝わる礼儀作法だし、貴族としての身分に正当性を与えてくれるものも伝統だ。だから、あの超絶古語もすらすら出てきたんじゃないかな、と思う。


 じゃあ、ヴィーリはそれをどこで学んだんだ?

 

 この世界において噂というのはどこまで具体性を失わないのかわからないが、『どこそこのだれそれが未知の生物に見た/会った』という情報は、交易網を考えるに村や集落レベルなら複数に広まるのも早いんじゃなかろうか。

 その上、バルドゥスは情報収集部隊の副長である。アロイスの補佐を努める彼ならば、情報の精度を上げられるよう、噂の上流にまで遡り、情報源は掘れるところまで掘り下げるはずだ。

 それでも『森人に会った人間』という情報源については、彼の口からは出てこなかった。

 バルドゥスがあたしたちに教えようとしなかったからぼやかしたのか、それともバルドゥスが調べても出てこなかった情報だからか。


 加えて、森から出てこないヴィーリたちが森の中で出会って、話をしそうな可能性のある人間というのは、どんな人間だろうか?

 森の中で仕事をする人間、きこりとか猟師とか、炭焼き、鉱石採り、そんなところだろうか?

 だが、ヴィーリの言葉遣いは明らかに平民のものじゃない。

 つまり、ヴィーリが会話したのは――少なくとも、最初に会話を学んだ相手は――相当な身分の人間か、その言葉遣いができる相手だったはずだ。

 ……てことは。人間がもはや森精の存在すらおとぎ話レベルでしか理解できないほど忘れてしまう前のはるかな昔、その古風にも聞こえる言葉が使われていた当時に、森精は相当な身分の人間と交流していたということになる。


 さて、突然ですがここで再び最初の疑問に戻ろう。ヴィーリはいったい何歳でしょう?


 ちなみに、むこうの世界の人間は、身体的にどんだけきちんと環境を整えてたとしても、約百二十年の生存限界があるという。

 だったら、こっちの世界の人間も、ヴィーリたち森精も、長生きして百年くらいまで生きられるかどうか。

 この世界の衛生状況を考えてもそれ以上は無理っしょ。


 そして、ヴィーリは外見的には年齢不詳だが、身のこなしを見るかぎりでは二十代か三十代くらいではないかと思われる。

 代替わりしてきた的発言を考えても、四十にもなってないくらいなんじゃなかろうか。

 うんまあ成人年齢を十五~二十と考えると、三十くらいでも代替わりできるほど大きな子がいても不思議はないとは思うけどさ。

 なんか、こう、いっぺんもげてこいという思いが同時にこみ上げてくるのはどうしたもんか。


 閑話休題。……個人的に思うところはあるが、話を戻そう。


 ヴィーリはなぜそんな古語を流暢に操れるのか。どう考えても直接人間と交流していた時代からは何世代かはたってるはずだ。

 そして、世代交代の壁は知識継承の大きな壁になる。

 文字や口承ってそこまで完璧に知識を伝えきれるものかね?

 実際、人間サイドは交流してた記憶すらなさげだった。なにこの落差。

 この記憶量の差を生み出しているもの。この世界の人間になくて森精にあるものは……。

 ヴィーリ自身が言っていたじゃないか、ねえ?


(……その通りだ、この世界の理を知る者よ。この枝は我が半身。根を張れば大地を知り、風に歌い、陽光に笑い、星を追う)


 ……つまり、木が彼らの記憶媒体だということだ。

 むこうの世界にも、樹木から数百年スパンで生育時の環境変化を読み取るって方法が環境学か何かであったんじゃなかったかな。ヴィーリたちならもっと詳しく、精細な情報を書き込み読み取ることもできるのかもしれない。

 そう考えれば、彼らの独特な自我の在り方もわからないわけではない。

 言ってみれば彼らの個々人……というか、個体はネットワークを形成しているコンピュータ端末であり、木によって情報を共有しているようなものだ。

 どの端末で操作をしても同じ動作環境ならば同じ反応が返る。そこに個性は必要ない。心話のパターンなどで相互認識ができていれば名前もいらない。

 ……つーことは、ところかまわず挿し木しまくるヴィーリの行動というのは、アプリの動作に加え、バッテリーまでどうやってかクラウドに依存していた端末が、いきなりスタンドアロン状態になってしまったので、慌てて対応しているようなものなのかな。

 これまで無制限に使えていたネットワーク環境から切り離された、とまでは言わないが、接続条件が変化したので、自力でアンテナを立てて情報ネットワーク接続と新規作成、&バックアップ保存とバッテリー確保をしている、ということになるのかもしれない。

 木にとっては動けない自分の代わりに挿し木で増やしてくれるWin-Winな行動ということになる。

 のだが。


 ちょっと待て。

 そんなに都合のいい相利共生がなんで生じたんだ?

 森精と人間が別の種として分かたれたぐらい、すんごいメリットとデメリットがあってもおかしくはない。

 そもそも、森精の記憶を蓄積できる木ってなんなのさ。

 同種の生物よりも大きく、強く、魔力を吸収し、その強大な魔力によって既存種にはありえないような生存戦略を貪欲に展開するようなモノ。

 あたしは一つしか思いつかない。


(ヴィーリ。あなたのいうその半身は、樹木の魔物だね?)


 そして、ヴィーリたち森精も、アロイスやカシアスのおっちゃんたち、この世界の人間たちも。


 転生モノ転移モノに限ったことではないが、中世ヨーロッパ風異世界ファンタジーで意外と少ないのが、猿人類系モンスターだ。

 むこうの世界における中世ヨーロッパの生態系的に存在しなかったからということもあるだろうが、少なくともあたしはあまり見たことがない。

 代わりにリザードマンとかの爬虫類系がいるのは、あれどういうことなんだろうね。

 実際に地球の中世ヨーロッパにそんなもんが出てきたとしても、温暖期と小氷河期とか言われる異常気象が交互に来てたらしいから、冬眠してるところをざっこざっこと退治されて終了するんじゃなかろうか。まあ地域によっても気温差があるから冬眠するかどうかも謎だがな。

 他にも出てくる中世ファンタジー系人型モンスターというのは、他にもゴブリンやコボルトとかトロール、オーガといった、まあ、鬼や巨人と呼ばれるような、それこそ伝承文学の中から現れたような、見るからに異形の存在だ。

 アジア圏から熱帯が類人猿の生息域だったかなー。めっちゃうろ覚えだけど、人間に近い体格のサル系モンスターって、和物でもあんまし見ないな。中華系はどうだか。


 あらためてこの世界の人間と森精をよく見てみる。

 どちらも類人猿=サル系から進化してきた末裔らしい。

 そして――この世界のサルをあたしはまだ見たことないから、原種の体格や腕力、敏捷性などについてはわからないけど――衣服や武器などの道具を作り、馬などの他の動物を飼育・利用するだけの『高い知能と魔力を持つ』だけでなく、魔術なんて制御技術まで作り出してる。

 進化論的に言うなら、そのような形に進化してこなければ生き残れなかっただけとも言えるが。


 付け加えると、生体の魔力量というのは、基本的にその体格に対応するもんである。

 それを考えると放出魔力量に限っても、体重だけで五~七倍はありそうなクライたち馬の方が、ベネットねいさんはおろかアロイスより少ないくらいってどういうことなんだろうね。

 不思議だと思わないほうが不思議なくらいだ。魔術が使えないけど心話は通じるという、基本スペックが同じでこの違い。


 どう考えてもベネットねいさんから聞いた『他の動物よりも身体が大きく、魔力の扱いにも長けたもの』という魔物の特徴ぴったりですよ。

異種の魔物同士、必要とする栄養素や生存戦略がかぶんなかったから、協力ができて、今の相利共生状態になったと言われても納得できてしまう。

 ……なぜ森精と人間に別れたのかまではわからんが。


「……驚いたな。我らが同胞でもそこまで蕾に気づいて花を知るものはいない。異なる世界の理をも知る星よ、よくそこまで遠き森をも見通した。我らは彼らが森より別たれし時を記憶している」


 お、正解だったの?

 ……まー確かに、あたしの観察力というか情報に対する感度は自分でもけっこう高いと思う。むこうの世界じゃ、ちょっとした違和感に対して理由を推測、即座に対応しないと痛い目みてたからなー。精神的にも肉体的にも。

 それがいいことか悪いことかはわからないけど、この世界ではどうやら有利に働いているようでなによりだね。

 思い出としちゃあ最悪だがな。 


「しかし、星の子よ。その思索の果実をどう芽吹かせるつもりだ?」


 え。どうもしないよ?


(これはただわたしが推測したことにすぎない。正しいかどうか確かめたかったのは、まあ、ただの好奇心だと思ってくれてもいい。森精の禁忌に触れることだというのなら、この話はこの場限りのことにして、口外しないことを誓おうか?)

「もう一人の星の子にも話さない、と?」

(グラミィにも?かまわない)


 あっさりと答えると、数秒固まっていたヴィーリは頭をがしがしと掻いた。

 表情筋があんまし動いてないけど、混乱してるのかな。

 ……まあ、多方面に波及するかもしらん影響を心配する気持ちはわからんでもないよ?

 でもこれ、この世界ではあまりにも受け入れられないだろう情報なんだよね。


 カシアスのおっちゃんあたりに話したとしても、たぶん、理解できずにきょっとーんとしてるんじゃないかな。

 アロイスならわからなくても丸暗記したまんま、王子サマにでも情報を持ち帰ろうとするかもな。

 王子サマも、王子サマ手飼いの部下にとっても確かめようのない情報だから『なにその冗談?』ですませようとするか。

 いや、言語の問題があるから、王族のみに遺されている伝承とかあったら、森精との交流があったことを認識してるのかもしれないけど。

 それでも、森精が、記憶や人格的に樹木系魔物と悪魔合体したサル系魔物で、実は自分たちのご先祖様とつながってる、なんて情報、入手したとしても即刻封印するでしょうよ。

 受け入れる=自分たちもサルの魔物の末裔ということも受け入れる、ということになっちゃうんだもの。

 ダーウィンの進化論を拒絶した人々と同じ発想だが、支配権力の根源である伝統を叩き壊しかねないもんなー。

 てなわけで。

 これ、旧き記憶を辿れるヴィーリたち森精か、向こうの世界の進化論を知ってるだろうグラミィぐらいにしか話しても影響が出ない推論なのだ。使い道ゼロ。

 つくづく学問てのは金にならんということがよくわかる。

 だから、ヴィーリが拒否するんならグラミィにも話はしない。それだけだ。

 それが理解しづらいなら……。


(以前、生き返ることはできないか、森精の知識にはないかと訊いただろう?わたしにとっては重要な情報だ。これからもそのような知識を与えてくれる相手とは友好関係を保ちたいと考えている以上、ヴィーリたちに不利なことはしない)


 情報源としての価値があるから口外しない。はっきり見える利害関係の方がわかりやすいというなら、ここまで言い切ってしまえばそれでいいだろう。肝心の蘇生手段については空振りだったけどね。

 あの時は『聞いたことがない』と言われてがっかりしたが、それも森精全体の記憶にアクセスしていての結果だったんだとわかれば、他の手がかりを探すしかないだろう。

 彼らの記憶にないということは、若干の交流があった当時の人間たちの知識にもないということだろうが、その後人間サイドで何か見つかってないとも限らないし、やることは変わんない。

 目の前の問題片づけて、『今の魔術での蘇生が可能か』を確かめるまでは、総当たりローラー作戦です。

 その前に読み書き完璧にできるようにしとかねば。


 あ、そーだ。

 別件なんだけど、頼んどかなきゃなんないことがあったんだ。


(ヴィーリ。これからわたしとグラミィはしばらく別行動をすることがある。わたしはここか王都に、グラミィにはアダマスピカ副伯領に。そこで、ヴィーリに頼みがある。グラミィとともにアダマスピカ副伯領まで行って、グラミィたちがやるべきことをすませるまでともに行動し、グラミィを守ってやってほしい)

「高みより照らす星の子よ。わたしはあなたについていたいのだが」


 なにそれ。監視?

 見てないところでグラミィにばらすぐらいなら、ここで話なんかしないよ。

 信用できないんなら、あたしにもヴィーリの木を預けとく?


 ……ふむ、木か。


(ヴィーリ、話は変わるのだが、あなたの半身の実は水に浮くかな?)

今回の異世界転生王道要素ぶち壊しをスレ風に表現すると。

「人間だと思ってた相手が、実は全員魔物の末裔でした。しかし自分はその相手にもっと化け物扱いされるんだが」


……長ひ。

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