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フェーリアイにて

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 出発間際になって、ようやく久々にカシアスのおっちゃんたちとも顔を合わせた。

 疲れてるっぽいのはアロイスもなようだけど、あたしたちを見てそれもふっとんだらしい。

 だが三度見すんのはやめれ。魔術士隊も以下同文。


 存在感がちょっと薄くなってるのは、ヴィーリに倣って、グラミィともども自然放出してる魔力(マナ)を押さえ込んでるだけです。騎士のみなさんぐらいの魔力放出量に調節してあるから、感知できる魔力はケタが4つぐらい小さくなってるけれど。

 ちなみに、この無駄に放出してる魔力をごく微量にすると、完全に気配を消すこともできるんである。一時的にだけどね。

 一度、畑で放出する魔力を息を止める要領でぎりぎりまで絞る練習をしてみたら、鳥に止まられたもんなー、あたし。

 ちょうど畑だし、と、ちょっとした案山子気分を味わってたら、(肉?おいしい?)とグリグんから心話が飛んできて慌てたこともあったっけ。

 待て待て待て待て。食欲に素直すぎるだろうがお前。

 慌てて鳥たちを散らしてからグリグんを呼び寄せて、魔力をあげて宥めたけどな。


 そんな一幕もあったが、基本アロイスはあたしにあまり近づこうとはしなかった。

 カシアスのおっちゃんはアロイスの死体恐怖症、実は魔喰ライ恐怖症を知っているからか、あまり気にもとめてないみたいだが。

 ぺいっと選択肢だけ与えておいてフォローはしないってのもなんだしね。魔喰ライかもしれん疑惑ぐらいはやっぱり解いておきたいもんである。

 というわけで、ヴィーリ、グラミィ、打ち合わせ通りによろしくねー。


〔うまくいくといいんですけどねー〕


 いってもらわないと困る。少しでもいいから。


 がたごと山道を下り フェーリアイにつくと、放置要員だったギリアムくんが勢いよく飛び出してきた。

 馬車の中から見れば、火傷の痕はまだ痛々しいが薄く皮がかぶってきている。感染症も起こさなかったようでなによりだ。

 まだ動きはややぎこちないが、両腕を使えるその姿にカシアスのおっちゃんの目がほんのり潤んでいた。

 だが騎士隊の面々が何も言わないでさしあげてるのに、そこに嬉々として混じりにいくアロイス、アンタもやっぱりイイ性格だな!

 いじくられてるおっちゃんたちがほんのりお気の毒だ。

その後、ベネットねいさんとアレクくんが土下座な勢いでギリアムくんに謝罪していて、砦の出来事を知らないらしいギリアムくんが魔術士隊の態度の変わりっぷりに驚いていたのが妙に笑えた。


 で。

 現在のあたしは、相変わらず馬車の中で放置状態です。居住性改良しといてよかったー。

 お忙しいらしい騎士のみなさんがしゅばっと姿を消したので、馬小屋周りはじつに静かである。

 木片の束と羊皮紙っぽい紙とにらめっこしているのはお勉強のためであって暇つぶしではありません。

 木片は単語帳と例文集、紙はヴィジャボード。どちらも魔術士隊謹製です。

 ここまでの道中でも、文字や単語の読みと意味を結びつけるのに、暇あらばベネットねいさんやアレクくんに単語の発音を繰り返してもらってきたのだ。ケーシラウス家組には、例文集で同じ事をしてもらっている。

 その横にしれっとグラミィが混じっていたのはご愛敬だ。

 『了解した』『心配を嬉しく思う』『すまない』『記憶がない』『理解できない』などの単語も加えたこっくりさんシートに例文をプラスした程度のものだけど、たぶんこれ全部覚えられたら、心話を使わずとも相当意思の疎通が楽になると思うのだよ。

 実際、クライたちの耳を通じて会話を聞いていても単語を拾ってなんとなく会話の意味がわかるレベルになったあたり、地味に効果があるようだ。

 加えてケーシラウス家組が作った例文集はちょっと複雑で、貴族相手の交渉に使えるよう、相手によって変えるべき語彙を網羅するように頼んである。

 ただの挨拶でも最高位からほどほどの敬意を表すべき相手、中立、下位などへ言葉は使い分けなければならんのだろうからね。さすがにまだそこまで覚え切れてないけど。

 もっとも、エレオノーラたちに特に宮廷内での作法をこなせる程度にまでまとめろ、とお願いしたら、こわばった顔で頷いた、とはグラミィの談である。

 自信ないんだろーなー……。

 あとで、アロイスあたりにでも監修してもらおう。お仕事忙しいとこ悪いけど。


 さーて、今日の復習もすませたことだし……そろそろいーかな?

 そう思ってクライの目を借りて馬車の外を見ると、宿はまだ灯りがかすかに漏れていた。

 夜は更けたっちゅうのに宵っ張りすぎんぞみなさん。

 けれど、これ以上待つわけにもいかない。少し強引でもしかたがない。

 馬車から音を立てずに滑り出すと、あたしは厩舎の影伝いに宿の敷地から抜け出した。


 あたしにスニーキング技術はない。

 でも、自分自身に防音結界をかけとくと、案外静かに抜け出せるもんなんです。優秀だねこの魔術。

 ついでに、ヴィーリ式に気配を断っているので、視認さえされなければたぶんきづかれないだろう。

 そしてこのローブは真っ黒なので、夜の闇の中ではさらにわかりにくい。ビバ闇夜の鴉。

 この世界に鴉がいるかはさておき。

 んじゃクライたち、お留守番よろしく。


(ブラシー)


 あーはいはい。スピン以外は了解してるよー。帰ってきたらやったげるから。


(なぜ?!)


 ……そんな、とっても予想外デス、みたいなすんげえ驚愕の『声』を伝えられてもなぁ。

 エドワルドくんにまた嘆かれるのもなんだし。

 仲間はずれっぽいのは我慢してくれ、スピン。代わりになんかおいしいものでももらえるように頼んどくからさ。


(わかった。待つ)


 見張り――生体魔力を感知すれば一発でわかる――を迂回し、低い塀の後ろを足音一つたてずに身を低くして抜け、街の家々から充分離れたところで消音結界を解除すると、あたしは枯れ色がかった細道を走り始めた。

 目的地はグラミィの身体の人の屋敷である。


 魔術士隊たちと馬車で来たときには、二三日かかったところを徒歩で往復しようというのは結構無謀だろう。

 だが、勝算がないわけではない。

 勝ち目を増やすために、やれることはやってきた。

 たとえば、馬車の中にクッションとマントで簡単な身代わりを仕込んで置いてくるとか!


 ……お子さまのいたずら以下レベルじゃねーかとつっこんではいけない。

 そもそもそこまでやってきた人を脱力させるためのちょっとしたヲチにすぎないのだ、これは。

 メインはヴィーリとグラミィに頼んである、『深夜に突撃!アロイスのお部屋』である。

 もっともこっちはあたしの不在に気づかれないよう、目をそらしてもらうためだけではない。アロイスに情報を与えて恐怖心を減らすためでもある。


 現時点でアロイスが持っておらず、欲しているのが『信頼できる魔法の使い手の第三者』である。

 魔術の行使、魔力の高さという点ではあたし(とグラミィ)が、魔術知識という点ではベネットねいさんが砦では助けになった。

 だがそれでは足りない。

 問題はアロイスが魔喰ライ恐怖症であるということにある。


 あたしたちを戦力という一点においてのみ使ったように、アロイスはあたしたちを完全に信じ切ってはいない。

 あたしが魔喰ライかもしれないという疑いを捨てきれないからだろう。

 グラミィはずっとあたしとくっついて行動してきたし、ベネットねいさんは、魔喰ライとなったサージが所属していた魔術士隊の隊長なのだ。

 推定あたしの味方であるグラミィや、身内に魔喰ライの種を抱え込んでいたベネットねいさんに、いくら説得されたって信じ切れるわけがない。

 

 信じたくても信じ切れない。それは、アロイス個人の問題だ。

 しかし魔術が行使できるくらいには魔力があると知識を与えた以上、そのアロイスが恐怖心を抑えこもうとやっきになりすぎて、かえって不安定になることはうまくない。

 まだ暴走させるおそれはないだろうけれども。

 ならば、今のうちに、恐怖と向き合わせるべきだ。そう思ったのだ。

 恐怖は暗闇から生じる。見えない感じ取れないものに人は必要以上に想像力を働かせ恐怖する。

 対抗するには魔喰ライとは何かという知識を与え、無知の闇を消滅させればいい。


 そこで、国という枠組みにすら縛られてない、森精であるヴィーリの存在が生きてくる。

 あたしやグラミィとも、既存の魔術師とも違う、膨大な魔力の担い手。

 魔喰ライに恐怖し、武官から一歩踏み出した魔術師になるか、否かという選択肢を与えられて悩んでるアロイスも、森精の言葉になら耳を傾けやすくなるんじゃないだろうかとふんだのだ。

 補強材料はたっぷりあるしね!


 ヴィーリにも魔喰ライの再発を阻止するために、識っていることをアロイスに教えてやってくれないか、とこっそり頼んでみたところ快諾してくれた。

 ちなみに、頼んだのは決して『説得』ではない。そもそも諜報部隊長のアロイスを弁舌一つで説得できるわけがない。

 役職柄からそういう性格になったのか、それともそういう性格だったからその手の役職についたのか、彼は情報を得たらその裏をとって判断を下すタイプだ。自分の意志決定権を決して他人に委ねようとしないという自立性は非常に好みだが、やりにくい相手でもある。

 そう愚痴ったら、同類だからですねとグラミィに言われたけどな。


 ちなみに、凶渦――というのがヴィーリたちが魔喰ライにつけた名称だ――は、あらゆる魔力を虚へと吸い込み、消滅する時にも周囲の魔力も根こそぎ奪ってしまうため、魔力が自然回復するまでは草木もしばらくは育たない死の大地と化すそうな。

 ヴィーリたち森精にとっては、極めて相性が悪い無条件の仇敵、といったところだろうか。

 森精たちは圧倒的に魔力量では勝つものの、その分早々に魔喰ライを斃さねば、それが全て吸い取られかねない。

 おまけに魔喰ライが魔力を吸収しづらいものは人の手による加工品だそうな。加工された石材ならまだしも、鉄鉱石という自然物を原形をとどめないほど精錬、鍛造した鎖かたびらなどの鉄で身を鎧っていれば、吸収に対する抵抗力はかなり上がるのだという。

 しかし彼ら森精にとってもまた鉄というのは相性がよくないものだという。

 生木に鉄釘打ち込まれたら腐るよね、そりゃ。

 そのため、ヴィーリたちが魔喰ライに対し打てる手は限られているらしい。頼むときに、『人間が魔喰ライに対抗できる力を持てるよう、協力してくれ』と言ったのが効果的だったわけだ。


 ヴィーリの言葉はやや不足気味な上に独特なので、噛み砕いて説明できるように、あらかじめグラミィと一緒に聞いておいたのだが。

 それによると、知性を残していようといまいと――かつては会話ができる凶渦も存在したことがあるらしい――魔喰ライは自分の魔力を増大させることだけに固執するという。それはサージがやらかしたように魔力を吸収するだけではない。食欲という形で現れることもあるらしい。

 目的達成のために自分の身体能力(=殺傷能力)を跳ね上げたり、物理的に取り込むために身体そのものを拡大させたり、妨害するものを排除するために魔力を使うことはあっても、それ以外のことで魔力を消費することはまずないんだそうな。これポイント。


 つまり、あたしみたいに巻き込まれた作戦で魔力を多大に消耗したり、砦の中の掃除をしたり、肥溜め用の穴をえっほえっほと掘ったり、針仕事をしたりするような魔喰ライはいないのだ。

 いくら言葉が通じようと、周囲の魔力をすべて吸い上げることを目的として人間をさらに傷つけ、魔力を吸い取るエサとして半死人を量産するように行動する魔喰ライとあたしの行動は、はっきり違う。

 そう聞いて、カシアスのおっちゃんやアロイスの依頼を聞いたり、自発的に砦内のお掃除とかもしといてよかったと心底思ったね!

 ついでにヴィーリの定義でいうと、あたしは魔術上、生命体と見なされるそうな。この世界では酸素という概念がないので、魔力を吸収する一方で吐き出す行為を行うものが生命ということになるらしい。竜巻みたいなもんか。

 ちなみに魔喰ライは魔力をひたすら吸い込みその力を巨大化するが、基本的に吐き出すことはほとんどない。薪と高温の焔のようなものだ。


 このヴィーリの持つ情報をぶつけた後、グラミィに示してもらうのは『共感』だ。

 おそらくアロイスはすぐには信じない。信じられない。

 その不信感を肯定してやるのだ。これ、地味に効きます。

 魔喰ライの情報に加えて、ネガティヴな感情を持ってることをその相手から肯定される。インパクトを与えられるだけじゃなくって、理解を示されたら、普通の人間は相手に罪悪感を抱くのだ。それを隠そうと反発される危険性もあるけどね。

 アロイスにとって感情を露わにさらすのは、貴族という出自的にも諜報部隊長という役職的にも避けたいところだろう。

 だが、生の感情のやりとりって大事なことなのですよ。特に共感というやつは。

 それがバルドゥスのいうように、部隊の中では部隊長として肩肘張ってつっぱってて、そのうえあたしという存在に魔喰ライ恐怖症をつつかれ、恐怖心を上手く押さえ込めずアロイスがやらかしたのがあたしへの襲撃だとすると、どうにも追い詰められた小動物が噛みついてきたような感じで憎めないのだ。

 だからって、噛まれっぱなしでいてあげるわけにもいかないけど。あたしはどこぞの風の谷の姫さまじゃないのだ。

 だから、完全には信じられなくても、強固な恐怖からくる不信感が少しでも揺らいでくれたらいいなとは思う。

 ……そうグラミィに伝えたら、いろいろやったげたのにーと不平そうだったが、人間そんなもんだ。だから『やってあげた』と上から目線で恩に着せるな、態度に出るから。

 そう言い聞かせたんだが……ちょっと心配。とっとと行って帰ってこよう。魔力も分けてもらってるんだし。


 そう、勝ち目を増やすために、あたしは昼間のうちにグラミィから魔力を分けてもらっていた。

 ヘイゼル様のふりが簡単にできるよう、グラミィもヴィーリ式魔力増大法で、ひたすら魔力をため込む練習をしている。

 魔力酔いを起こさないようにするため、ちまちました速度だったけれども、それでも1000サージ近くはなったろうか。さすが生きてる人間は回復力が違う。うらやましい。

 そう言ったら怒られたけどね。単独行できるあたしの方が羨ましく思えるって。

 ええそうです、今のあたしは1500サージちょっとぐらいには積み上げた魔力をひたすらローブのぶっ壊れ機能を発動させるのにつぎ込みながら走っているのだ。

 気分は底の抜けたバケツだけどな!魔力がだばだば消費されてくもんな!

 眼窩から頭蓋骨に吹き込む空気が微妙な音を奏でたりしたので、慌ててヘルメットっぽく空気抵抗の少ない形にした結界を構築してみたり。

 その後で、これ、全身に纏わせた方が効率的じゃなねーかと気づいたりしながら。

 

 これもヴィーリに言われて気づいたことだが、自己修復や魔力隠蔽以外にローブに付与されていた機能は時間操作系か着用者の身体強化系だったらしい。

 ランシア山からここフェーリアイまで戻ってくるだけでも、馬車で数日はかかる道のりだ。しかも岩山である。

 そこを、深夜から夜明けまでの、ほんの数時間で踏破できたあたしはどう考えてもおかしい。この世界で覚醒直後だったからぼけてたけど。

 ヴィーリ曰く『星は地上でも稲妻のような速度で移動するのだなと思っていたから、戻ってくる時ののろさに何があったのかと驚いた』そうな。

 ローブの機能を知らず知らずのうちに起動させていたのだろうけど、クロックアップ的なヤバさを感じるぶっ壊れ具合である。

 吸い取られる魔力もハンパないが、下手すると機能を使ってる人間だけ周囲より数十倍、いや数百倍の速さで年を取っちゃいそうなんだもの。

 老衰死の可能性を考えて、グラミィに貸すのは諦めた。


 すっかり刈りとられた痕跡しかない畑が広がる平地をあたしはひたすら駆けていく。杖は邪魔なローブの裾といっしょに腰紐に挟めてある。骨しかない足なので、ぶつかることもない股間にぶら下げていた方が左右のバランスも崩さずに済むので楽なのだ。

 ……遠目に見たら箒で低空飛行する魔女か、長柄の鎌を抱えた死神に見えるかもなー……。

細い上弦の紅金の月(ルベラウルム)の赤っぽい光の下、ぐんぐん暗森の影がせまる。つっこむ。

 そのまま森の小道を走り抜け、屋敷の前でようやくあたしは足を止めた。


 今のあたしなら、以前見落としていたことにも気づくかもしれない。そうグラミィを説得してようやくここまでやってきた。

 アロイスのお部屋に突撃するのは、襲撃をかまされるほど恐怖心を抱かれてるあたしより、グラミィの方がが適任だと説得して。

 

 それは嘘じゃない。だけど、主目的は一つ。確かめたいことがあるのだ。

 そのために積んできた最後の要因は、この杖である。


 ヴィーリは魔術師の杖も疑似生命体的なもので、使用者とともに成長するものだと言った。

 そして、詠唱が短縮されるのは杖にその術式が刻み込まれていくからだと。


 なら、杖からかつて使われた術式を取り出すことってできるんじゃね?


 あたしもこの杖に魔力を流すことはできる。なので、流した魔力をセンサーにして調べてみたのだ。

 ……物理的に存在しない脳味噌がショートするかと思ったよ。なにこの大量の術式。

 今までに解析できたのはそのうちのごく一部なのだが、そこにはとってもお役立ちな術式があった。簡単に言うと隠蔽看破と構造認識。

 隠蔽看破の方は、このローブに施されていたような魔力隠蔽などもぺろっと見破ることができてしまうもの。

 構造認識は、簡単に言うと屋敷の外から隠し部屋とか地下室といったものまでひとまとめに認識できてしまうものだ。

 シルウェステルさんの魔術道具だけでなく、魔術そのものもぶっ壊れてやがりなさるとは思わなかったけど、まあ、そこはいい。

 さーて。まるっと知りたいことが一度でわかるといいんだけどなー!

 怖さ半分やけくそ半分のテンションで、あたしは術式を顕界させた。




 周囲が薄明るくなる中、あたしはこっそりと馬車の中に戻った。

 穴の開いた扉を閉め、やれやれと杖を置いた時、宿の勝手口の開く音がした。足音が井戸の方に動いていき、滑車を回す音と水の音が聞こえる。

 無関係者の目に触れずに済んで、タイミング的には間()髪ってとこだろうか。


〔ボニーさん、おかえりなさいー。アロイスさんの方はばっちりでしたよー〕


 起きてたんだ、グラミィ。ただいま。

 さすがにちょっとへろへろだよ。おまけに帰る頃になったらしっかり露が降りてて、靴どころかボトムもすっかりびっちょびちょだし。

 いやあ、尾骨クッション外してって正解。

 

〔え、それってまさかおもらs〕


 言わせねえよ!これは露で濡れたの!


〔ちょっとした冗談じゃないですかー。そんな、真っ赤になる勢いで言わなくても〕


 赤くなるような血の気もないけどな!

 ……まあ、しんなりとくたびれてるので話は後にさせてくれる?

 イイ感じの装飾品があったから、後で渡すね。自分で使ってもいいし、王都で金に換えられるかもしれないし。

 あ、スピンになんかおいしいものあげてって、エドワルドくんに伝えといて。


〔了解ですー〕


 心話が切れて、あたしはのろのろと濡れたローブを脱いだ。

 あれだけ積んでった魔力も残り少ない。まあそれはこれまで放出量を減らしていたから、アロイスにも気づかれることはないだろうけど。


 ……あの屋敷で見たものはとんでもなく精神安定上よろしくないことばかりだった。

 でも、今なら、あたしがグラミィに伝えなければ、彼女まで傷つけずにすむことだ。

 だから、必要な時まで隠すと決めた。

 心話でばれないように嘘をつくのは困難なんだが、嘘なんてつかなくても真実はいくらでも隠すことができるんだよね。

 保護者ポジションは苦手なんだけどなー……。

 さて、何を話さないで何を話すか考えといた方がいいかな?


(((((ブラシー)))))


 ……わかったから、もうちょっと待ってくれなさい。


 こっそり頭痛というか頭蓋骨痛を感じる道中を経てさらに数日後。

 あたしたちはついに王都に入ったのだった。

とりあえず、第一部完!です。

第二部は王都で骨っ子たちがぎゅんぎゅん陰謀を渦巻かせる話になるかと。お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  第一部読了しました。  とても読み応えがありました! これでもかというぐらいテンプレを外してくるかと思いきや、根幹は王道のファンタジー。解き明かされていく真理も、明かされていない謎も、非…
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