謎と仮説
年長者に敬意を表していろいろと気を遣ってみたら、中身が死んだ覚えもない女子高生だと告白されました、まる。
……ちくせう、外見年寄り補正で甘く見すぎた。
返せよあたしの敬老精神、いたわれ骨を!
しかも、よくよく話を聞いてみたら、気づいたときには朝方、この屋敷の外にあった囲いの中に倒れてたと。
それから一晩たって、あたしが山から下りてきたと。
…………つかえねー。ぜんぜん情報持ってない。
いや。待てよ。
あたしが気がついたのは、二日月の夜。
つまり、ばーちゃんの中の人が異世界転生だかなんだかを起こしたのは、朔の夜ということになる。
しかも、軌道も大きさも違うあの二つの月がぴったり重なりあう位置で、同時に朔になるというのは、かなり星辰の並び具合としてはレアなんじゃなかろうか。
ふむ。……ヤな仮説が発生したかも。
仮説の検証がてら、囲いなるものを見せてもらう。
屋敷の背後というか、ちょうど森のひらけた場所のど真ん中にあったのは……膝丈サイズのストーンヘンジ?
どうみても、怪しい儀式の場にしか見えないですあ(ry
というか、屋敷の方が後付けなのか。
……なんか、サークルの中だけキラキラしてない?
うっすら朝日がさしてきたから、とか、露が降りてるから、だけじゃないな。これ。
理由を聞こうとばーちゃんを振り向いたら。
ばーちゃんもキラキラしてた。髪の毛が。
……ばーちゃん、あんたもかい。
ヤな仮説が証明されちゃったかも。
本家というかイギリスのストーンヘンジの建造目的には、いろんな説がある。星の観測地点とか、古代の祭祀場とか治療場とか。
だったら、この、ぷちなストーンヘンジにもそれ相応の目的があるのだろう。そのくらいの推測は立つ。
そして、あたしの視覚はなんだかわけのわからないものを疑似変換して認識している以上、普通の視覚では見えないものも見えるわけだ。
暗闇の中とか。魔力じゃないかと思えるサムシングとか。
結論。怪しい儀式の場、確定。
それにばーちゃんが関わってることも。
……あたしがこんな世界に放り込まれたってのも、あんたのしわざじゃないの?
「そんなわけないでしょ!一般女子高生がそんな技術あってたまるか」
いや、けっこう闇の深い子なら、おまじないから黒魔術に足つっこんで~とか。
「……あのね……」
冗談だってば。
半分本気だけどね。
例えばの話だけど、見るからに年寄りなばーちゃんの身体の人が、魔法使いであったとする。
それこそ、異世界転生を起こしうるような莫大な魔力と知識を持っていたとしても、必ず人は年を取る。
老衰の身で、寿命も残り僅かとなった時、人は何を願うか?
日本は地球上でも有数の長寿国だ。
不死とはいえないが、この世界よりはるかに長い平均寿命を得られるとしたら。
そこで、十代に若返ることができたら、相当な長さの余命が得られるとしたら。
さらにさらに仮定を重ねるならば。
ばーちゃんの身体の人がこの世界では考えられないくらい長生きできる世界を探査し、なおかつその世界の人間を任意に選択し、その精神をぶっこ抜いて身体に入り込み、異世界の人間の精神には、死にかけた自分の身体を押しつける技術を組み上げられる力があったとしたら……。
その場合、ばーちゃんの中の人に倫理的なストッパーになるようなものを期待はできないわな。生存条件的に恵まれすぎている見知らぬ異世界に、失われつつある自分自身より大切にできるものはないだろうから。
まあ、これはもちろん、仮説だ。あくまで仮のお話だ。
そういうことにしておこう。今は。