来訪者
本日も拙作をお読みいただきまして、まことにありがとうございます。
慌てて魔力のラインを確かめてみると、ほんとに城門の方にグリグの存在を感じた。
おーい、グリグん?誰連れてきてんのさ?
(森)
もり?
森さんって名前の人間ってヲチじゃないよな。まさか。
(森騒いだ。星近いと。見る。わかる)
えーっと??
〔ボニーさん、グーたんはなんて言ってるんですか?〕
グーたん……グリグのことかよ。あたしにもよくわかんない。ただ見りゃわかる、らしいよ?
確かに百聞は一見に如かずというけど。
とりあえず、城門に行ってみるか。
「知らせをくれて感謝するぞ。ボニーは城門に向かうつもりのようじゃ。わしも行こう。ボニーの客人というならわしの客人も同然ゆえな」
伝令兵さんやエドワルドくんたちに伝えたグラミィが追っかけてきたので、ちょびっと速度を落とした。腕をどうぞとエスコートをするように差し出したが、実質的にはナイショ話の体勢だ。
〔ボニーさん、いきなり名指しで人が訪ねてくるって謎すぎません?妙ですよね?〕
うん、あまりにも妙すぎる。
この世界に来てこのかた、この骨ボディになってから、知り合いらしい知り合いはおらんと思うし。
そもそもあたしがボニーと名乗ってるって、接触した数少ない人間……つまり魔術士隊とカシアスのおっちゃんの騎士隊とアロイスの警備隊しか知らんはずの情報だ。
彼らが口軽く出入りの商人あたりに喋るとも思えないし、国への報告書にもアロイスがあたしらのことを書いてるかどうか。
そんなふうに、存在自体知ってる人間が限られてるはずのあたしを名指しの上、グリグを連れてきてるって。なにもんよ?
〔警戒は必要、ってことですか?〕
だね。
よその国からの刺客とかじゃなきゃいいなぁ。
……などと思っていたけど。
ねえ、グラミィ。あたし達の目の前に立ってるのって、ホントに人間?
〔って、どういうことですか?人間じゃないんですかこの人?〕
グリグやグラミィの視覚を通して確かめると、確かにそこには枝葉がついたままの杖を持った人が門兵たちの前に立っていた。
うっすら緑がかった淡い金髪と若葉色の瞳が美しい。
けど、肉眼で見てるグラミィにはわかんないかな?
あたしの視覚は魔力による擬似的なものだ。それを通して見ると、すんげー気配が薄いんだけど、このヒト。
生物は生物でも、むしろ植物っぽいレベルだよ?
「あー。ボニー殿を訪ねてきたとかいうのはあんたか?ひょっとして森人か」
機先を制するように、ずんずんと背後からあたしたちを追い抜いてったバルドゥスが真っ先に話しかけた。
てゆーかいつ来たんだアンタ。そもそも、森人ってなによ。
「副長どの。森人とはなんじゃ?」
「賢女様もご存じないんで?……ああ、そういやランシア山中にしかいませんやね。森の中で生活してる変わり者でさぁ。猟師たちと違って村に家があるわけでもなく、めったに森の中からでてきやしないと聞きますな。で、そうなのかいあんた?……返事ぐらいしろや、おい」
副長が舌打ちしたのも無理はない。相手は一瞥しか返さなかったのだ。
ここが城門で相手が部外者って状況さえなければ、ナンパに失敗した男が一方的に険悪なムードを醸し出してるようにしか見えないレベルで相手にされてない。
「バルドゥス、下がれ」
「しかし、隊長」
「俺は口を開けと言ったか?」
「……へーい」
うまくなだめてくれて助かったよ、アロイス。ていうか、来てたんだあんたも。
しっかし、森の人、ねぇ……。
カシアスのおっちゃんからもらった布でつくった頭巾をすっぽりとかぶり、その影からあたしはしげしげと眺めていた。
よく見るファンタジー系ラノベやゲームでは、森の民というのはエルフというイメージが強い。いわゆる耳長長命長身の美形異種族、もしくは亜人というやつだ。
しかし、彼?彼女?は、確かに長身で美形だが、外見的には若枝のような身体つきの人間にしか見えない。別に耳も長くないし。
強いて言うなら、わずかにとんがって見えるかもなー、ぐらいなものだ。
どのくらいわずかかというと、ダーウィン結節の有無ぐらいだろうか。
この世界の人間はどうだか知らないが、向こうの世界の人間の耳にはダーウィン結節とかいうものがある。進化の過程の中で、動物の耳にあったとんがった部分が、耳の周辺部で巻き込まれ、折り返されたものだ。
その折り返しがないのかも、ぐらいの耳はどう見たっていわゆるエルフ耳には見えん。
バルドゥスがわりとぞんざいな口を利くのも、変わったかっこの平民、くらいに見えているからじゃないかな。
だが。
ゆったりとあたりを見回していた、その若葉色の瞳があたしを見返した。
「あなたがボニー、この子と誓約を交わした相手か」
隣でグラミィが息を呑み、アロイスと魔術士隊が硬直する気配がした。
それまで認識していなければ見過ごしてしまいそうなほど淡かった気配が不意に膨れ上がる。
淡い金髪は白金の恒星と輝き、さらけだされたのはあたしやグラミィが逆立ちしたって勝てないような、巨大な魔力!
アロイスはあたしを冬の激流と評価したが、あたしがせせらぎならば向こうはそのせせらぎを飲み干し生命はぐくむ森だ。
ダメだ。喧嘩を売るとかまじないわ。
というか、これに敵対するのは自分の立ってる大地を片手でひっくり返そうと踏ん張るようなもんだろう。
ファンタジーはファンタジーでも古典ファンタジー的な、半分以上物理的ではない存在。
半神とか、妖精とか精霊に近い意味での森精と書いてエルフと読むレベルだね、こりゃ。
すべての風、大地、水と親しい人型の樹。いやむしろ人型の森と言うべきか。
その顕現は一瞬だった。
先ほどまでの圧倒的な魔力量は見間違いだったのか、そう思ってしまうほどかすかな気配に戻った相手は、ひっそりとたたずんだままだ。
「……ボニーの名を知って、グリュスを連れてきたそちらさんはどこのどなたさんかね?」
あれだけの魔力量を見せ、隠すだけの力量にも平然とした様子を装って問いかけるあたり、かなり踏ん張ってくれるねグラミィ。二度三度と杖を握り直すのは手に汗をかいているからだろうか。
「おおそう、わしから名乗るべきかの?わしゃグラミィと呼ばれておるただの婆じゃ。じゃが、関係のない年寄りなどと思うてくれるなよ?後ろの連中とちごうてそやつの誓約にも一枚噛んでおるでな」
嘘ではない。グリグにかけた誓約には、グラミィとあたしの命令に従うようにという条件が入れてある。
ちらとグリグに目を向けて、それが本当だと知ったらしい。性別不明な相手はゆっくりと口を開いた。
「月重なる夜に訪れし者たちよ、あなたたちを見極めに来た」
「!」
グラミィも目を見開いた。つまりそれはあたしとグラミィが『墜ちた星』だということを知っているということだ。
これ、あたしも直に話すべきだな。……どんどん手札が減っていくけどしかたない。
(初めまして、わたしを訪れし方。見極めるとはどういうことかな?)
「この子が誓約を人ならぬ人と結んだ、というから興味が出たのでね」
あたしたち二人の方を向きながら、彼(?)はわずかに微笑したようだった。
(誓約を結びし者よ。このまま心話を続けた方が、そなたにはよいのかな?)
(お気遣いありがとう。だけど、それでは後ろにいるこの砦の人たちにはまったく聞こえなくなってしまう。このグラミィが必要なことはだいたい声に出すので、なるべくそれにあわせてくれないかい?)
〔ちょっと、ボニーさん!勝手に話決めないでくださいよ!〕
グラミィが慌てて横目で睨んできた。
いやでもさぁ。いつもやってることとあんまし変わらんじゃん?主音声と副音声が逆転しただけみたいなもんだし。
(正直、心話だけで会話するのは、砦の中での関係によくない影響を与えてしまう。心話が聞こえない人たちにはだんまりを続けてるように見えてしまうのでね。疑心暗鬼を生じさせるようなことは、なるべく避けたいんだ)
少なくとも、彼らには使命があり、それを妨げる危険性のある者にはそれなりの対処をされそうなのでね。と付け加えるとグラミィが幅30㎝はありそうな鼻息を噴き出した。
〔あーもーわかりましたよ!なんですかもう理屈の上では正しそうなのに腹が立つってなんなんですか。もー〕
そんな心話を交わしつつも、ちゃんと婆演技を続行するあたり、無茶ぶりについてくるのにも慣れたもんだねグラミィ。
〔ボニーさんのおかげですよー〕
「それで、見に来てどう思ったかの?」
「もう一人の星の子よ。あなたたちは、そう、とても興味深い」
デスヨネー。あたしとグラミィのやりとりだけでも面白いと思うぞ。
そう考えていると、彼()はグリグに指を伸ばしながら口を開いた。
「誓約をかけたというから、この子をどのように扱うかと思えば、じつにゆるい。生殺与奪の権限どころか、罰則すら誓約に盛り込まなかったそうではないか」
後で知った話だが、魔物との誓約をする魔術師というのは非常に少ないが、そのほとんどが『自分が死んだらお前も死ね』という条件を相手の魔物に呑ませているという。
ひどい話ではあるが、まあ、魔術師の狙いはわからんでもない。
その誓約があれば、誓約をした魔術師を魔物は必死に守り、死なせないようにするだろう。一蓮托生ってのは一番自分のために力を使わせるいい方法でもある。
そして誓約の束縛を受けていない魔物を、ただコントロール不能になった危険物、下手すりゃ人間すら喰らう害獣だとだけ思ってるなら、解放するより死なばもろとも、もしくは自分の死後の後始末もついでにしておこう、という考えもあるのだろう。
だけど、あたしがグリグに誓約として受諾させたのは、あたしとグラミィの命令に従うこと、以外は基本的に、グリグがこれまで普通にやっていたことだ。確かに緩いと言えば緩いのだろう。
だって、グリグはメリットとデメリットを考え合わせて、人間を襲わないって行動に移せるぐらいには頭がいいんだもの。ま、鳥頭だけど。
だったら、それ以上言うことはない。羽目を外しすぎないように時々脅しちゃいるが、お役立ちしてくれるのは必要なときだけで十分だ。
そう心話で伝えると(同時通訳的にグラミィにも声に出してもらうと)、森精は頷いた。あまり表情が変わらないが、愉快そうな感情がほんのり伝わってくる。
そうそう、一つ確かめておかねばならん。
(一つ訊きたい。贈り物をくれたのはあなたかな)
(わたし/われわれだ)
ん?なんだこの一人称。単数でもあり複数でもあるように聞こえる。
〔ボニーさん、贈り物って、あの魔力の塊のことですか?つまりこのヒト……というか存在、は〕
うん、グリグを連れてきてるどころか、グリグがあれだけ落ち着いてるってところを見ても、たぶん彼の住処である闇森のヒトだと思う。
闇森というから、なんか魔物がひしめく密林のような悪いイメージができているが、そもそもそれは彼らがつけた名前じゃなさそうだしね。
グリグみたいな魔物は確かにいても、彼()からすれば、すみかであり、ふるさとということになるんじゃないかな。
(『同胞満ちる地』とわたし/われわれは言う)
……やっぱり単数でもあり複数でもある一人称だね。
国境付近で森が見ていると感じた視線も、ひょっとして君らかな?
(確かにわたし/われわれが見ていた。見た目と中身がこれほど違う二人組とは思わなかったが)
……えーと、つまり?
中の人と身体の人が違うってこと、あっさりばれてる?!
そりゃそうか、じゃなきゃ星の子なんて呼び方してこないよね……。
うん、いろいろ嘘もごまかしも通用しない相手だってのはよーくわかった。
「ところで、こちらも訊きたいのだが、グリュスとこの子を呼ぶのはなにゆえかな?」
背後の魔術士隊がざわめいた。
なに、なんか意味あったのかな?
なんとなく語感がいいってことで選んだだけの、単なる真名隠しの呼称ですが。
そう心話で伝えると、森精はますますおもしろそうな様子になった。いや表情はかわらないんだけどね、伝わってくる心話がね。
「予想外だったよ、呼び名とはいえこの子の名が鷲の雛とはね」
……え?そういう意味だったの?
つまりグリグをぴよこちゃん呼ばわりしてたのあたしら?
うわー。うわー。うわー……。
そりゃあ、グリグには悪いことをしたなー。二重の意味で。
ぴよこちゃんと呼ばれてたってだけで、グリグにとっちゃ屈辱ものだったんじゃないかな。
それに真名じゃないとはいえ、名前にはある程度名づけられたものの本質が混じってしまうはずだ。グリグ自身に変な影響が行ってなきゃいいけど。具体的には弱体化とか。
「この子も年若いとはいえ、森の中ではかなり上位にいるものだ。それを雛呼ばわりするとは、どれだけ大きな止まり木かと思ってきたが……」
見ての通り、ほっそい骨で悪かったですね!……いやマジすいませんでしたハイ。
「がっかりしたかの?」
「いいや、納得した。予言の通りだと」
「予言じゃと?」
「こちらの星見によるものだ。『風が変わるだろう。その中心は対極の星』とな」
あたしと、グラミィ?
(星から見ればたしかに年若いこの子も雛にしか見えぬだろう。水は高みから低地へと流れる。当然のことだ)
ぴよこちゃん呼ばわりに問題なし、ってことでいいのかな。それはそれでちょっと安心だ。けど。
「星見はすべてを見届けねば終わらぬ。ゆえに、この身はこれよりそなたらを見続ける梟の目、風のささやきとなる」
…………はい?
〔……ボニーさん。これってあたしたちに同行の許可を求めに来たんじゃない。こっちがNOと言ってもついていくという宣言ですよねこれ〕
だよねー。
ギギギギギと首を回せば……あーあ。
バルドゥスが満面の笑みでつっこんできてるよ。だーから目が笑ってないっての。怖いよ。
「あんた、いい度胸してんじゃねえか。砦を宿屋とでも思ってんのかよ?」
「風も吹かぬに激しくざわめく人の子よ、我らが宿りは大地の上、蒼穹の下。このような狭い岩屋になぜ入る必要があるのか」
「……なんじゃ、そりゃ。かっこつけやがって、ちゃんとわかる言葉で話しやがれ!人を馬鹿にするのもいいかげんに」
「バルドゥス、そのへんにしろ」
わめく副長の肩をアロイスがつかんだ。
「ですが、隊長!」
「お前じゃかなわん。おれでもだ」
「……そういう相手ですかい」
向き直ったアロイスは丁重に森精に話しかけた。
「我が名はアロイス。あなたの言う狭い岩屋の……まあ、主のような者だ。彼の非礼はわたしがわびよう。だが、名乗りを受けたならば礼儀としてあなたも名乗り返されるべきだろう、森から来られたモノよ」
森精は初めて困ったように眉根を寄せた。
「我が名は彼らの裡にある。与えられねば名乗れぬ」
……どゆこと?
名無しのゴンベさんの話をいろいろまとめると、どうも彼というか彼女というか、は、やはり森の精霊に近い存在であるようだ。
肉体はあるがどっちかっていうと入れ物に近い感覚。なので、彼らの自我はほぼ同一に保たれているそうな。
森から一本の樹木を切り倒しても森は森であり、枝から一つ実を取ったとしても、木は木であり枝は枝で在り続けるようなもの、ということらしい。
そんな彼らにとって、互いを名づけるというのは自我の切り分けに相当することのようだ。
だけど、一人称が単数でもあり複数でもあるように、彼ら同士の間に客体認識は存在しない。らしい。
だからこそ、互いに名づけあうことは彼らの間では不可能なものなんだとか。
一本の樹木の枝が互いを認識しあうのに、確かに名前はいらんわなー……。
そこで、ストーカー宣言した相手であるあたしかグラミィに、その身体を依代に、自分を個体と認識するものに名づけてほしいということらしい。
〔いやいやムリムリ、ボニーさんお願いします!〕
「この子に名を与えたあなただ、この身に名を与えるくらいできるだろう?」
グラミィめぇ……あっさりパスすんな。
でもいいのかね。あたしが名前つけちゃうと、それこそグリグみたく誓約で縛っちゃうことにならないかな?
アロイスはむしろそうしろといいたげだけど。
「真名は誓約と同一のものではない。あなたは一本の糸で森全ての木々を束ねて背負えるのか」
つまりそのくらい不可能なことと。じゃあそんなに心配しなくていいのかな。
とはいえ、グリグにピヨちゃん呼ばわりをやらかしたようなうっかりミスは、ちょっとまずかろう。
避けるためにも聞いとかないとね。
(では、常若なる世界樹の一枝よ。永遠の若葉というのはどう発音すればいいかな?)
訊ねると彼()は口元を覆った。ふと風が吹く。
「アエトゥルニタスヴィレシリ」
……なるほど、アロイスたちには聞こえないように声を風に封じてあたしの耳元でまで届けてくれたというわけか。
さすが、魔術士隊じゃ及びもつかない風の使い方だ。
(ではそれをあなたの名に使おう)
さすがにそのまんま使うわけにはいかないだろうから……今の会話で出てきた別の言葉も加えてと。
(ヴィリディステラというのはどうだろうか。普段の呼び方は、そこからもとの言葉がわかりづらいように変えて……ヴィーリというのはどうかな?音の一部しか取っていないから、元の言葉の影響は生じにくいと思うが)
そう心話で伝えると、森精は若葉色の目を丸くした。
「それでいいのか?」
(どういう意味かな?)
「この個体を名づければ、その真名が個体を縛る。ゆえに、おのれに恵みを与える豊穣とか、我身を利するもの、それだけの力あるもの。そういう名付けをするのかと」
(……考えもしなかったな)
真名はその存在そのもの。だからこそ真名による誓約が拘束力を持つ。
だけど、つけた名前どおりのものに相手がなってくれるかというと、んなことはまずないでしょうよ。
これは断言できる。
だって、真名の概念があった日本ですら、自分の子どもの名前にそんな欲望を盛り込むことはなかったんだもの。
つけた名前通りに育つなら、人間どんだけ我が子の名前に自分の欲望をもりもりに盛り込むことかわからんぞ。
盛り込んだところでその通りに育たないと知ってるからこそ、人はどうにもならないとわかっていて、なおかつよりよい未来あれと願い、祈りを込めた名前を子どもに与えるのだけどね。
それはこの世界においても同じではなかろうか。
真名とは命名する者にとって、そんな都合の良い結果をもたらすものでは、たぶんない。はずだ。
対象の本質とかけ離れた真名を与えれば、それは確かに対象に影響を与えるのだろう。
その本質にも変化が起きるのかもしれない。
だけど、何が生じるかなんてわかるものか。
そもそも、この森精の本質はそんなにあたしたちにとってただ都合のいいような存在ではない。
だったら、下手な思惑なんて込めない方がいい。
星だというあたしたちを追っかけてきていること、そしてその若葉色の瞳から素直につけた方がはるかにずっとマシだ。
「その認識は正しい。ただそなたに利益のみをもたらす者として名づけられ、その名を受け入れたならば、確かにこの身自体はそのとおりの者になっていただろう。しかし、本質からそれた力はすべからく同胞満ちる地へと還り、反作用として敵となるわたし/われわれが生じたかもしれぬ」
……なるほど、そういうからくりか。
例えばの話、あたしたちにひたすら役立ってくれるようにと、薬になる木々の名前をつけたとする。
すると過ぎた薬は毒にもなるということで、彼そのものが正邪どちらにも変化するジョーカーになったか、毒の木々の性格を持つ彼らの一部が、同じように追いかけてきてた可能性があるというわけか。
「世界の理を知る星よ、あなたからその真名を受けよう」
(では、ヴィリディステラ。あなたを今後ヴィーリと呼ぼう)
「ありがとう、ボニー。あなたから与えられた名によって、我が根は同胞満ちる地から分かたれ、今ここにわたしは星とともに行く者となった」
一人称が変わり、若葉色の瞳を輝かせて森の精……ヴィーリは笑った。
今回の異世界転生王道要素ぶち壊しは「エルフの耳が長くなくて悪いか!」でした。
エルフ耳や猫耳獣耳などの、耳萌の方に喧嘩売ってるつもりはありません。が、売ってますかそうですね。
ファンタジーにおける人間とそれ以外の異種族の位置づけ、というあたりも、個人的にはいろいろ思うところがありましたので、今後もツッコミを入れていきたいと思います。
だって、トールキン大先生よりさらにその前にちょっと遡ってみると、エルフって背中から内蔵スケスケの妖怪的な存在だったりするんですもの。怖っ。
ちなみに、今回のサブタイトル。あてはまるのはヴィーリだけではなかったりします。




