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Death or Alive, Bang or Crunch.

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 モデルやシミュレーションでは、不測の事態というものはほとんど起こらない。仮説や想定内での変動を見るために、コントロールしやすいように変数を限定し、単純化した状況を設定してあるのだから当然のことだ。

 起こるとすれば、それはそのような状況が発生することを最初から想定した場合か、それこそ想定とは違う要因によるもののみだろう。

 だが、それはつまり、始めからシミュレーション結果をそのまま現実に適応するのは、もともと無理があるのだということでもある。


 ならば、試行を実用へ生かすには、理想と現実の間に生じる齟齬を致命的なものにしないよう、あらかじめ手を打つ必要がある。

 たとえば変数を管理可能な範囲内で限界ギリギリまで増やす、というような。


「そもそも人格というのは維持するものじゃない」

「それは」


 シルウェステルはとまどったように目をしばたいた。これまで言ってきたことと逆のことをあたしが言い出したのだから当然だろう。

 だけど、それもまた一面の真理なのだ。


「他者を認識し、彼我の相違を認めることで、人は自我を持つ。だけどその他者もまた、彼以外の人間を他者と認識し自分自身も観測することで存在している。――が、すべての観測は常に一定ではない」


 喜怒哀楽といった感情。怪我や腹痛といった身体的苦痛。他者との関係は相手がもたらす利害にだけ左右されるものじゃない。


「『なんとなく虫が好かない』だけで、人の行動にはいくらでもケチがつけられる。たとえそれがどんなに人道的な理由によるものだろうと、すばらしい結果を出そうが。――心当たりはないかい?」

「…………」

「そんな不特定な観測で得られる人格なんてものが、不動不変どころか安定したものであるはずはないだろう?――が、不安定ながらも、ある程度なら拡散させずにすむ方法がある」

「それが、神に(まつ)り上げられることとどういう関わりがある?」

「観測者を増やすことができる」


 あたしは即答した。


「シルウェステル。あなたが生身だったとき、周囲にどれだけの人間がいた?ルーチェットピラ魔術伯家で、魔術学院で、戦場で、王宮で」


 虚を突かれたように少年は黙った。


「彼らはあなたを何と見た。彩火伯(さいかはく)の溺愛する養弟として?魔術学院の上級導師として?それとも、()()()()()()傅役(もりやく)の一人として?」


 どのような捉え方であったとしても、向けられたものは愛情や憧れだけじゃない。手駒として陣営に取り込むべき者として、手蔓として、目障りとして、排除すべき者として認識されてきたこともあったはずだ。

 いや、ひょっとしたら、否定的な目で見られることの方が多かったかもしれない。


「いずれにせよ、どの観測も今ここにいるシルウェステル・ランシピウスという人間を形作った一部になっているだろうね。――だが、この闇黒月(アートルム)の中では、あたしとあなたのみが相互に観測者であると同時に、被観測者でもある。でしかないというべきかもしれないが」


 この状態は次善策にもならない。

 無数とはいかないまでも、多数の相手との相互観測によって成立している自我のあり方とは、たぶん比べようもないくらいデータ不足なのだから。


「だから、多面性を失わぬように、祀り上げられていろと?それでも変質は止まるまいということくらい、わたしでもわかる。むしろ神として観測され続けていればこそ、わたしが早晩人間性を失うことぐらいおわかりだろうに」

「そこはあたしも考えた」


 あたしはうなずいた。


 神――つまり人間ではなくなった存在として観測されていれば、たしかに生身だったころの、人間としての自我が維持できるかと疑うのが当然だ。


「だけど、今ならまだ手が打てるとも思ったのさ」

「今ならとは」

「生前のシルウェステル・ランシピウスに直接接していた人間は結構多い。そのあなたを覚えている人間が、いくら祀り上げられたからといって、全員はいそうですかと即座に『シルウェステル・ランシピウス』を信仰対象にできると思うかい?」


 あたしとシルウェステルは、そろって仮想ディスプレイもどきを注視した。

 いまだ映っているアーノセノウスさんはきちんと背筋を伸ばしているし、彼と話をしているマールティウスくんはも神妙な顔をしている。

 が、アーノセノウスさんの隣で同じ髪型になっている――出家にまでつきあったのか、律儀というか忠義というか――クラウスさんは神妙な顔こそしているものの、その目に熱はない。

 彼にとってシルウェステルの祭祀はあくまで形式。その本質はアーノセノウスさんにどこまでも寄り添うためのものであるのだろう。


 そう、アーノセノウスさんが義弟を神にまで祀り上げたことは知られつつある。それはつまり、過去にシルウェステルと接点のあった人間が再びシルウェステル・ランシピウスという存在を意識し、観測を始めることでもある。

 だが人間としてのシルウェステルを知る者は当然のこと、たとえ直接シルウェステルと会ったことすらない者たちですら、その認識の根底にまず存在するのは『人間としてのシルウェステル・ランシピウス』なのだ。


「それに、地上であなたを覚えている者は、人間以外にも多い」

星と共に歩む者(森精)と、魔物たちか!」

「当たり」


 特に森精たちはその半身たる樹の魔物たちのおかげで、記録能力がバカ高い。

 魔物たちにもラームスたち、樹の魔物たちを預けてあるおかげで、人間よりも記憶は強固だと思うの。

 彼らが覚えているのもまた、神というカテゴリで概念化されてはいないシルウェステル・ランシピウスだ。


 結果、ヴィーリたち黄金の森の民となった森精たちは、協力者として。

 コールナーら魔物たちは、友や誓約の相手として観測し続けてくれているようなものだ。闇森の森精たちは彼らの仮想敵として捉えているかもしれないが、それでも観測し続けられているというのは、あたしたちにとっては自我を支えてくれているようなものだ。


「それに、もし仮に彼らがわざと記録すら混沌録の底に沈め、忘れようとするのなら、思い出させればいいだけのことだしね」

「……地上に無駄な干渉はしないと聞いた覚えがあるのだが?」

「それって、無駄なじゃない干渉ならいたしますってことだよね!」


 にこやかに親指を立ててみせると、シルウェステルはふかぶかと溜息を吐いた。

 失敬な。あたしは最初から本心しか語ってませんぜ。


 むろん、シルウェステル・ランシピウスを、武神アルマトゥーラや豊穣神フェルタリーテのように、人から神となった存在として認識する者は時間の経過とともに増えていくだろうし、初めてシルウェステルを知ったこと自体、神としてであった、という者も増えてくるだろう。

 結果、神として観測され続ければ、シルウェステルの自我の変質はいずれ必ず起きるだろう。

 だけど、この世界は魔力(マナ)こそあれ、神話こそあれ、肝心の神は存在していなかった。神なき世界に作られた神として在り続けるというのもまた不思議な縁というべきだろう。


「あたしが現状をよしとするには、もう一つ理由がある。――あたしのいた世界には、『人間は二度死ぬ』という言葉があったのさ」

「どういう意味だ」

「人は肉体的死を死ぬ。生命活動を終えたときに死ぬ。そして、その人そのものが忘れ去られた時に、もう一度死ぬ。存在の消滅という、何も残らぬ死だ」


 もしアーノセノウスさんがただシルウェステルの遺骨を守って帰り着き、普通の葬儀を出していたなら、どうなったか。

 そりゃまあお骨になっても活動していたわけですから。稀有な存在として王侯貴族たちなら、孫子の代くらいまでは彼の存在を覚えているだろうし、積極的に語り伝えたりするかもしれない。

 名誉導師にまでなったのだから、魔術学院でもなんらかしらの記録はされるかもしれない。

 けれども、神として祀り上げられた現状よりも早く、シルウェステルは忘れ去られるだろう。

 人となりも、功績も、存在さえも。


「それと、たぶんだけど、あたしはあなたより長くはもたない」

「いきなり何を」


 シルウェステルは目を丸くした。が、これは当然のことなのだ。

 もともとの肉体年齢差だけじゃない。

 あたしは我思う故に在るべき我を構築する、自己定義の材料を、もうほとんど持っていない。それらはむこうの世界に準拠したものだ。そしてあたしはむこうの世界との繋がりを自ら断ち切った。


 ……後悔はしていない。ヘイゼルと喰らい合いを演じた以上、その影響をこれ以上広げるわけにもいかないという判断も、おおむね正しいものだったと思っている。

 けれどそれはあたしの自我が崩壊する可能性を高めるものである。


 まあ、あたしの自我が崩壊するのはまだいい。人間やめて狂いきる前に、すべての魔力を吸い上げてもらうよう、樹の魔物たちには頼んである。この闇黒月の中までついてきてくれた彼らだ、それくらいはできるだろう。

 問題は、相互観測者を失ったシルウェステルも、あたしの後を追うように消滅しかねないということだ。


「もちろん、別にあたしも急いで消滅したいわけじゃない。だからセーフティの一つや二つ、遺しておこうと思ったってわけさ」

「それが、神への祀り上げということか」

 

 死者は、忘れ去られた時に、二度目の死を迎える。

 それは言い換えるなら、記憶している者がいるかぎり、死者は完全な消滅をしないということでもある。

 だから、『シルウェステル・ランシピウス』が忘れ去られる可能性が低いこの状態は、きわめて好都合だったのだ。

 そうなるようにあたしが一から十まで仕組んだわけではないが。


「そういうことか。――が、ひとつ忘れてはいないだろうか」

「なにを?」


 何かやらかしてたっけ、あたし。

 はて、と頭をひねっていると、シルウェステルは唇の端だけで微笑んだ。


「あなた自身の存在が計算から抜けているだろう?『シルウェステル・ランシピウス名誉導師』の存在を認識している人間は、存外多いということもだ」


 少年の手が仮想ディスプレイもどきに振られると、思わぬ組み合わせの姿が見えた。

 タクススさんとランシアインペトゥルス王、そしてその弟たちの姿だった。


「聖堂に功績をたたえてそのお姿を映したものをお祀りする。名を上げた方々にはよくあることにございましょう」

「だがあれはやりすぎだろう」


 苦虫の躍り食いを咀嚼しているような顔は……セクンドゥス殿下とか言ったか。


マリアム(冥界神)の眷属にして魔術の神と持ち上げるのは、いくらなんでも」

「あの方がどのような存在でいらしたか、お忘れに?」


 にっこり笑みを浮かべたまま、食い気味にタクススさんが口を開く。

 内務卿殿下は気圧されたような表情になった。王弟が、一介の毒薬師の言葉にだ。


「あの方はもともと冥海統べるマリアムの寵愛も深き御方にございました。たとえ彼の神が御前にお戻りになられたとしても、そのみあとを慕うお気持ちは無碍(むげ)にできるものではございますまい。まして功績を鑑みれば、むしろ簡素な扱いと存じますが」

「タクスス」


 ゆっくりと王が身を乗り出した。


「は」

「そなた、名誉導師が魔喰ライの王コリュルスアウェッラーナを討ち果たしたという、あの話を真実と見たのだな」

「さようにございます」


 口調こそうやうやしいが、タクススさんは一国の王にすら怖じた様子を見せなかった。


「彩火伯さまお一人の言ならば、さもありなんとは思えど信ずるとまでは申せませんでしたでしょう。ですがアロイスどのはおろか、星と共に歩む方まで同じことをお伝えくださったのです。なんじょうもって疑えましょう」


 どうどうと胸張って言ってくれるが、それは。


「もうおわかりだろう?『シルウェステル・ランシピウス』として観測されていたのは、わたしだけではない。あなたもだということだ。縁も血も繋がらぬはずであった叔母上どの」 


 シルウェステルが手を振れば、さらに画面は変わった。


 アルガとマヌスくんが対峙しているのは……白髪の老人に扮したその姿の時は、シカリウスと呼ぶべきだろう。

 マヌスくんもまだ髪を黄色――というには微妙に萌黄がかった色合いだが――に染めているから、魔力を知覚できない者には、双子のお兄ちゃんとはまったく似ても似つかぬように見えるだろう。


 魔術師二人が取り出し、王に恭しく差し出したのは小さな像だった。

 やたら精巧なせいで、それこそフィギュアにしか見えないが、それはあきらかに、聖堂に祀られていたシルウェステルの神像のミニチュアだった。


「……あの方は、このような顔立ちをされていたのだな……」


 しみじみと神像を眺めていたグラディウスファーリーの王は、やがて小さな厨子に収めて頭を下げた。魔術師たちもそれにならう。


「わたしはあの方とともに天空を舞い、命を助けられた」

「わたくしはあの方に中空へ戒められたのち、命を許された」

「アタシはあの方に捕らえられ、魔術師として生き続けることさえ赦された」

「「「シルウェステルどのありて我らいまここに在る。ゆめゆめその恩忘るまじ」」」


 ふかぶかと頭を下げられて、あたしはおでこの仮面を掻いた。

 どうもこの、むずがゆさが落ち着かないんですけど。これが面はゆいって状態なんだろうか。


「どうだ叔母上。神になど祀り上げられたわたしの気持ちがわかったか」

「わかった。もうわかった。よくわかった」


 ふふんとえばるシルウェステルにあたしは降参した。


 なんらかの打算ありきの行動に慣れてしまったあたしたちに、魔物たちのそれとは違った、しかし純粋な好意はあまりにもまぶしい。

 いや、彼らにも計算はあるのだろう。だけどそれは『シルウェステル・ランシピウス』にはほとんど向いていない。


「わたしを神に祀り上げるような、そのもととなるおこないをしたのは、あなただ。魔物たちと話をしたのはあなただ。星と共に歩む者と折衝を重ね、折れた樹杖たちを(すく)い上げたのはあなただ。『骸の魔術師(スケレトス・マギウス)』はわたしに与えられた名ではない。わたしの命はランシア山中でとうに尽きていたのだから」

「……それをいうなら、あたしの寿命もあたしの世界で尽きていたんだけど」

「ならば人として重ねた齢に差はあれど、命尽きた身としては同等ということだ。お一人だけこの世から脱せられるなどと、軽々しくお思いなされるな」


 ……つまり、とてもとても回りくどい言い方ではあるが、『勝手に死ぬな』と言ってくれているのだ。

 この世界へと落ちてこなければ、互いの存在すらただのおとぎ話でなかった、この縁も血も繋がらぬ甥っ子は。


「もうお一方にも同様にお伝えすべきなのかもしれないが」

「グラミィのことか。――それはいけない」

「もはや去られた界すら、奈辺にあるともわからぬならば、無論」

「そうじゃない」


 あたしはゆっくりとかぶりを振った。


「彼女の――あの子のことは、意識にも上せない方がいい」


 意識するとは、一方的に観測を行うことでもある。

 無数のパラレルワールドを吸い寄せ、取り込み、その世界の自分自身を喰らいまくっていたヘイゼルの後始末をつけるため、あたしはこの闇黒月を蒼炎で浄めた。

 それは、行ってみれば闇黒月のリセット。


 結果、この世界にあたしたちが落ちるほど接近していたあたしとグラミィの世界は、生じつつあったこの世界との繋がりを綺麗さっぱり失った。はずだ。

 最後に残ったあたしとグラミィのシルバーコードによる繋がりも……まあ、別々の形であるがちょん切れたってことになるだろう。

 その反動で、あたしとグラミィの世界は凄まじい勢いで離れていった。らしい。どこへ飛んでいったかわからないほど遠くに。


 この世界と、グラミィが戻っていた世界は、もはや縁もゆかりもない。

 けれども、あたしたちの知っているグラミィとは、どこまでもヘイゼルの老いた身体を(まと)い、この世界に馴染むのにも苦労していた元女子高生だ。テンプレなラブコメシチュエーションが発生することを期待し、失望し、順応した後は婆演技を通しきったあたしの相棒だ。


 だけどそれは、五年前のパラレルワールドに辿りついた彼女ではない。彼女はもうグラミィではない。

 ならば彼女は彼女の世界で観測されるべきだろう。


「意外だな。あれだけあのお一方(グラミィ)には心を砕いておられたのに。行く末をご案じなされぬのか」

「だからこそだよ。――怖いのさ、あたしは」


 仮に、行きて帰りし旅路を終えた元グラミィの様子を知れたとしてもだ。

 それが、彼女の死という事象すら含んでいないと誰が言えるだろう?

 深く関わり合った相手の死は、あたし自身にすら欠損をもたらす喪失だ。


「それにね、どういう因果関係が異世界間に働いているかはわからないけれど。ここであたしたちがあの子をグラミィとして観測してしまうことは……なんだかどうにもよくない気がするんだよ」

「ふむ」


 シルウェステルは頷いたが……腹の底から納得はしてないかな、あれは。

 けれど、彼女を彼女でないとみなす一方的な観測が万が一届いてしまった時、それがもたらす影響が、彼女に利するものとなるとはあたしにはどうしても思えないのだ。

 観測の影響という意味では、シルウェステルの祀り上げもまた同じ問題を含んでいるのだけれど。やはり、神へと変質してしまっても彼が存在し続けるよう願うのは、次善策にしかならない。


「だから、こうしよう」



 あたしはからになったマグを巨大な透明の器に変え、虚空から取りだしたものを次々に注いだ。


 氷のような冷静さ。

 マグマのような憤怒。

 霧雨のような悲しみ。

 魔物たちの美しさのような憧れ。

 砂糖よりも甘い喜び。

 コーヒーよりもさらにどす黒い策謀。

 ミルクよりも白い純真。

 そして、火酒の精以上に強烈な酩酊をもたらす幻想。

 

 あたしとシルウェステルが見つめる前で、ひとりでにシェイクされた混交物に引き延ばされるように、器は形を変えていく。

 そして、どこかグリグに似た姿になった器は、どこにも続かぬはずの空に飛び立ち、やがてふっと姿を消した。


「……今のは?」

「瓶の中の手紙、あるいは人の想像力というものへの期待かな」


 あたしは苦笑した。こんな不確かなものにあたしだけではない、シルウェステルの、元グラミィの、そしてある意味この世界のあり方を賭けることに。


「期待とは」

「あるかもないかもわからぬ事象を想定し、あると観測する力が現実に何かをもたらすかもしれない、というね」


 幸いにも、祀り上げは延命策にはなっている。

 ならば、あたしもシルウェステルも、元グラミィも、完全に神として観測され、変質しきってしまう前に――あるいは、忘れ去られてしまう前に。

 一介の人間でしかないものとして、誰かが観測し続けてくれる状況を作ればいい。


「そう、だからこんなふうに想像してごらんな。――あたしたちが()()この闇黒月からは見えないところから、この世界をさらに観測する者がいたらと。その者にとってそれは観測ではなく、自分の想像の中から湧き出た情景なのかもしれないと。たとえばそう、三重合の夜。崖から落ちた一台の馬車も」

「……それは!」


 はっと少年は表情を変えた。あたしは語り続けた。


「そして自ら創り出した物語として、書き出したりするのかもしれないともね。『鎌のような、紅い月を見ていた』と」


 またそれを観測した者から、あの子の世界を想像という形で観測する者が生じるのかもしれないと。

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございました。

これにて今作品は完結となります。

最後までお付き合いいただき、感謝申し上げます。

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