表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
346/372

閑話 ■■からは逃げられない

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 女性の眼から、あたしは視線を外せなかった。


(こわい)

(きけん)

(にげる)


 しゅぼっと懐からターレムが脱出した。どうやらボニーさんのフームスもいっしょのようだ。

 そのままコールナーの背中に乗ってたアウデンティアと合流して、すったかたっと山道の奥へと逃げてゆく。


幻惑狐(アパトウルペース)たちみたく逃げ出せるものなら、とっとと逃げ出したいところだけど〕


 ボニーさんが知覚した様子を伝えてくれながら、ぼやきのように心話を向けてきた。が、それはたぶん無理だろうとあたしも思う。

 なにせ望遠鏡術式の視界の中で、ずっとかっぴらいたままの眼が、こっちに貼りついて剥がれないんだもん。まばたきひとつしない眼って、怖いよ。

 それもじわーっと大きくなりつつあるということは、おそらく猛スピードでこっちに近づいているのだろう。

 ……だけど、大きな魔力(マナ)という意味じゃ闇森とかいろいろあるだろうに。なんであたしたちにロックオンするのかと恨み節もつい出ちゃうんですが。


〔縁があるってことなんでしょね〕


 目をそらしたいことをばっさり言われては、見逃してもらえないかなあ、なんて望みも儚く息絶えようってもんですよ。


(何をしている。逃げるぞ)


 だけど、コールナーは諦めない。ボニーさんのローブをぐいぐいひっぱっている。

 コールナーだって野生の魔物だ。自分の生存を第一に考えるなら、それこそ幻惑狐たちみたいにさっさと逃げてておかしくない。なのに、……愛されてますね、ボニーさん。


〔……わかった〕


 一瞬考え、ボニーさんは両腕の腕甲――彼らも樹の魔物だ――を外し、ラームスの欠片も骨から外すと、コールナーの鞍帯に挟み込んだ。


〔ならば退路の確保をまた頼めるだろうか。できればそこの二人も連れて逃げたい〕

(……敵だろう?)

〔もう敵ではないさ〕


 鼻を鳴らすコールナーを宥めるように、ボニーさんは骨の手を伸ばした。


〔先行してもらいたいのには、もう一つわけがある。森精たちに出会ったら、今背につけた樹の魔物たちを渡してもらいたい〕

(森に?)

〔これだけの異常が起きているんだ、森精たちも気づいてこっちに向かっているんじゃないかと思う〕

(……そうだな)


 ボニーさんの推測はたしかにありえそうなことだ。そのせいだろう、コールナーはしぶしぶ、だがそうごねることもなく頷いてくれた。


〔幻惑狐たちの足じゃ遅い。頼めるのは、コールナーしかいないんだ〕

(……わかった)

〔ありがとう。……愛しているよ〕

(!)


 一角獣が、ぱっと耳をこちらに向ける。


〔待っているから〕


 心話にいななきで答えたコールナーは、すごい勢いで走っていった。ボニーさんが伝えてないことがあることには気づかずに。


 ……巻き込まないようにするためとはいえ、あそこまで簡単に魔物の心を手玉に取るとか。ボニーさんってば悪女ですね。


〔莫迦言ってんじゃないの。プルヌスとラームスをつけたんだ、ヴィーリたちなら必ず考えてくれるでしょうよ〕


 ボニーさん流の考え方を教えてもらったあたしにも理解はできる。今、手を尽くしているのは、ある意味()()()()なのだということくらいは。


 もちろん、心話でコールナーに伝えたことに嘘はない。ボニーさん自身もありえるだろうと思っていたことではある。

 けれど、たとえ一人や二人森精がやってきたところで、今こっちに接近してきてるアレがどうにかなるとでも?

 魔喰ライの王コリュルスアウェッラーナを封印したとはいえ、それからずっと完全に滅ぼすこともできずに見守ることしかできなかった森精たちですよ?

 その魔喰ライの王をあっさりと打ち破った相手に勝てるわけがない。


 ボニーさんがプルヌスとラームスの欠片をコールナーに託したのも、それだけ相手がやばいと評価しているからだろう。

 ボニーさんはずっと、森精たちへ樹の魔物たち伝いに情報を流し続けていた。

 植物である彼らはフェロモンや心話といったつながりで広大なネットワークを構築することはできる。だけど人間のような五感が、視覚情報を把握できるセンサがない。だからこそ森精たちが彼らの半身となったんだろう、という推測もボニーさんはしていたが今は置いておこう。

 問題は、ボニーさんはもうこれ以上プルヌスたちのセンサとして機能することは、データを送り続けることはできないと判断したということだ。

 そして、今までの情報を渡して逃がそうとした。


〔これだけこっちに意識が向いているのなら、ラドゥーンたちの身体の人も、距離を取った方が巻き込まずにすみそうだ。……あと、一応の保険も仕込んどくか〕


 いろいろ画策していたボニーさんが、あたしを振り向く気配がした。


〔ごめんね、グラミィ。あんたはどうやら逃がしてあげられそうにないわ〕


 この期に及んでまだ諦めずに、あたしもなんとかしようという手立てを考えてくれてたんですね、ボニーさん。

 でも、あたしは、ボニーさんの相棒(運命共同体)ですから。逃げませんよ。逃げ出せそうにないってのも同意ですけど。


 そう心話を返したけれど、あたしも冷や汗が止まらない。

 どっちかっていうと、ずっとロックオンされてるのはあたしっぽい。そのせいで接近すればするほどびんびん強くなる魔力の気配がね、もう、威圧というか、お腹を空かせたライオンがグルグル唸りながら近づいてくる感じというか……。

 叫びだしそうになるのをこらえながら空を仰ぎ、あたしは嫌なことに気がついた。


 まだ見えるけど遠い。そう思っていたけれど、なんで望遠鏡術式ごしだと視界から顔がはみ出るくらいに接近しているの?


 誓って目を離していたつもりはない。心話は口に出すこともないので、応答といっても一瞬で済むし。

 だけど、まるでコマ送りでもしたように、謎女性は距離を詰めてきていた。

 念のために望遠鏡術式を解除してみると、肉眼でもスカートの丈がわかるくらいになっていた。


 夜空の色もおかしい。

 その時出ている月の状態で色味が変わるのはわかる。蒼銀月(カルランゲン)紅金月(アートルム)の両方が満ちて晴れているのなら、濃藤色の粒子が空中に舞い散っているような、なんとも風情のある色合いに変わるのは、何度か見たから知ってる

 まかりまちがってもポスターカラー、いや油彩絵の具を厚塗りしたような、こんなどろっとした赤黒っぽく見えるような、マルベリー色に変わるわけがない。

 イヤちょっと待って?

 これ、謎女性の回りほど濃くなってない?しかもどんどん広がってくるってことは。


〔……アレの魔力の色。そう考えた方がいいみたいだね〕


 ボニーさんが肯定した。

 だけど空を一部とはいえ染め上げる魔力って。どんだけ多いのよこれ?

 ベヒモスが溶融したあの時より、はっきり言って空気が重いんですけど!


〔それも問題だけど。くるよ〕


 制服姿の女性は、あたしたちの真上までくると、そのまま降りてこようとしたのだ。あたしとボニーさんは、あわてて横へと逃げた。

 さすがに至近距離に降ってこられたらね、他人のスカートの中なんて覗きたくないですし!踏まれるのもごめんだし!

 だけど、そのせいで周囲を意識できてなかったってのは否定しない。


「異世界転移キタコレーっ!」


 突然の奇声にびくっと見やれば、謎女性のその向こう。

 マグヌス=オプスが、いやそう名乗っていた人物の身体が動いていた。


「いきなり視点が女子高生の足元か~ら~の煽りとか、じつにナァアアアイス!神・構・図ぅ!そこに待ち構える死神骸骨とか、マジファンタジック!だけどババア魔女減点!そこはロリ魔女っ子、せめてゴージャス美女系だろぉ!」


 ……おい。脳内ゲスボイスがダダ漏れしてるんですけど。


 というか、なんだろう。その身体を乗っ取ってたマグヌス=オプスの方がよっぽど人格者に思えてくるって。

 マグヌス=オプスって世界を滅ぼしてでも、自分だけ生き延びようとしてた人なんですが?


「だけどそこは制服の金髪美……少女ぉ?」


 やたら頭の痛いハイテンションな言動のまま、――濡れた長髪が砂まみれになってるせいで、なんだか妖怪砂かけばばあっぽい――元マグヌス=オプスがずざーっと回り込んできた。

 女性の顔を見た途端、それが尻すぼみになったのは。


「いやいや日本人じゃない顔立ちで制服とかいろいろはかどるんだけど女子高生っていうには年食い過ぎだろうがだけど異世界の学校ってことは学生層が広いってこともあるのかなーおねーさん美人だからまあいいや」


 息継ぎナシの下劣発言がひどい。ていうかキモい。

 正直、圧がしんどかったので間に入ってこられてほっとしたのもあるけれど、これ謎女性が怒ったらあたしたちまで消し飛ばされそうな気がするんだよね。いやな二律背反だ。

 だけどそんなことはさっっぱりかまわず、元マグヌス=オプスはにったりと笑みを浮かべた。

 ――というか、危険察知能力とか感知能力とかないのかね。空気が読めなくてもその重さは理解しようよ?


「ねえいろいろ教えてよおねーさん。ぼくこの世界のこと何にも知らないんだ。ぐふぐふぐふ」


 ……なんだろう。危険人物ならぬ危険人格を拘束しても、別ベクトルで危険だったとかヤなタケノコ状態だな!

 というか、さっきのお下劣発言といい、相手を不愉快にさせる妄言ばかり垂れ流せるて。ある意味才能だよね。マイナス方向にぶちきれた。


「あれなんで笑わないの?あれツンデレとかクーデレってやつぅ?手間かかるんでそのへんすっとばして、いろいろしようよでへへへへ」


 ……これで笑顔で愛想良く接してくれると思っている方がありえん。てか、自分以外の人間を人間とは思ってないと考えるしかないような言動なんですが。


 耳が腐りそうな言葉の数々にピー音をかぶせたくなってきたのはあたしだけじゃなかったようだ。

 謎女性も、それはそれは冷ややかな眼差しをマグヌス=オプスだった男性に向けた。そうとしか思えなかった。

 だから、なぜ突然ボニーさんが結界を張ったのかわからなかった。

 なのに次の瞬間、白髪頭をどろどろに乱した男性の姿はどこにもなかった。


「wotokohaairanainou」


 甘い――ねちょっとした舌足らずの声が、地面に深々と突き立てたボニーさんの結界を軋ませる。

 日本語なはずなのに、頭が理解を拒絶する。火蜥蜴(イグニアスラケルタ)の心話よりもわかりづらい言葉。

 だから。

 おとこはいらないの、そう言ったのだと解釈するのに貴重な時間が費やされ、謎女性はさらにあたしたちへと距離を詰めていた。


〔呆けてる場合じゃないよグラミィ!〕


 舌があったら盛大に舌打ちをしそうな勢いで、ボニーさんがあたしを引っ張った。謎女性もさらに距離を詰めてこようとしたが、そこへ梢が風にそよいだように立ち塞がったのは、『魔術師』だった存在だった。

 しかしその気配は。

 ボニーさん、ひょっとして?


〔保険が効いたみたいだね〕


 黒髪の森精が握っていたのは、ボニーさんの放ったラームスの欠片だった。


 たぶんだけど、ボニーさんはラームスの欠片に情報を託しておいたのだろう。意識が戻ったなら、どう動くべきか自分で行動を決められるように。

 だけどそれは、彼が状況を理解した上で逃げるのではなく、自殺同然の行動を選択する可能性も含んだもので。


「anohitoigaiiiranainoo」


 声質は大人のモノなのに、自分がする女子高生喋りのようになんというか人工的で。

 あのひといがいいらないの。吐息のようなつぶやきを理解できたと思ったときには。

 彼は人型の火柱となって、赤々と燃え上がっていた。


 ボニーさんの結界のおかげか、熱はほとんど感じず、肉が焼ける臭いもわからない。

 が、ほんとうに、ヤバい。本能が鳴らす警報というものがあるのだったら、やかましすぎて耳すら聞こえなくレベルだろう。

 だけどそれは逃げようとする意思や身体すら縛るもので。

 一歩、また一歩距離を詰めた女性の腕が伸びてくるのをあたしは呆然と見つめていた、らしい。

 鎌杖が、それを遮るまで。


 まばたきひとつしないちらと青灰色の瞳が横へ動き、ボニーさんを認識したと思った。

 瞬間、あたしより前に出ていたボニーさんまでも、人型の炎に変わる。

 森精を焼き尽くしたものとは違う、白っぽい色に。


「ボニーさん!」


 悲鳴を上げながらも、あたしは頭のどこかでぐるぐると繰り返していた。


 大丈夫だ。大丈夫なはずだ。だってボニーさんはボニーさんなのだから。

 炎だって平然と突っ切って出てくるのがデフォルトなのがボニーさんだ。だからこれもきっと、大丈夫。


 けれど、敵を油断させるためなら怪物に喰われたように装うボニーさんでも、なにかをしでかす時には、あたしに説明をしてくれていた。今までだって、ずっと心話がつながっていた。

 こんなに近いのだ、あたしの声が聞こえていないわけがない。

 なのに、反応が返ってこないのはなぜ?


 懸命に心話で呼びかけていたときだ。


「womaehaakotti」


 あいかわらず日本語に聞こえない言葉を言いながら、謎女性が手を伸ばしてきた。一気に全身の毛が逆立った。

 反射的に火球を打ち出し――思わずやっちゃってから、血の気が引いた。


 おまえはこっち。そう言われたと理解したこと。

 ボニーさんすら指一本動かすこともなく、人型の炎に変えてしまった相手が触れてこようとしたことに。

 その相手に攻撃してしまったことに。


 怪我でもさせてしまったら、いや激昂させたら一発アウト。あたしも火柱に変えられる、そう覚悟してぎゅっと目をつぶり。

 何も起きないと、おそるおそる目を開けた時には、何もかもが変わっていた。


 どろりとした紫闇に侵食されていたとはいえ、二つの月と気の早い星が輝き始めていた澄藍の夜空はどこへやら。

 ベヒモスが励起を始めた直後のような、濃い魔力がどんよりと停滞している。

 なにより、場所がさっきまでの山中じゃない。


 ばっと飛び退いて左右を見ても、どんよりと赤黒い窪地は暗く、謎女性のルーズソックスだけが白く見えているばかり。

 わずかに地面よりも明るいとはいえ、空ものっぺりと赤っぽい薄闇に塗りつぶされ、月も星も見えない。


 怖かった。息すらできないほどに。


 この世界に落ちてきてこっち、あたしは一人でいたことがほとんどない。

 ボニーさんがひょっこり山から下りてきてからはずっといっしょだったし、ボニーさんと分離行動をしていたときも、カシアスさんや、誰やかやがいた。

 それだけ、あたしはボニーさんたちに守られてきたのだろう。


 だのにここへきてたった一人、こんな眼差し一つで人を物理的に炎上させるような相手と対峙しなければならない、なんてことになるとは。腹ぺこなティラノサウルス一グロスに取り囲まれた方がまだましだったかもしれない。

 だけどそもそもだ。

 たった一人、孤独に耐えて戦えるのか。このあたしが?


 歯の根が合わないってのは、比喩表現じゃない。ただの事実だ。

 勝手に震え出す手が、今にも崩れそうな膝が、瞬きすら恐ろしくてできずに涙の滲む目が。

 折れそうな心が悲鳴を上げる。もうだめだ、と。

 もう無理。圧に押しつぶされるままに、抵抗を諦めて殺されるのを待っているしかできない。

 そう投げだそうとした時だ。


 グラミィ、覚えとけ。


 ボニーさんの声が、聞こえた気がした。


 どんな勝負でも、悪い方が、汚い方が勝ちやすい。

 せめて諦め悪く、生き汚くなれ。従容と死を待つな、徹底して足掻き続けろ。


 ……ああ、そうだった。この謎女性相手だけじゃない。

 あたしが今生きているのは、ボニーさんが何度も何度も盾になって守ってくれたおかげだ。

 だったら、そうそう簡単に投げてしまっていいわけがない。


 なにより、あたしはボニーさんの相棒だ。

 そうだと思っていたから、あたしは何度もボニーさんに頼れと言った。あたしが言ったのだ。

 たとえ、あの時はできると思ったから、足手まといにならないと思っていたから言えた傲慢だとしても。

 なのにあたしはずっと守ってもらってばっかりで。返す機会は……あるとしたら、それは今だ。


 ならば、有言を実行に変えるしかない。

 少なくとも、最後まで生きるのを諦めるわけにはいかない。


 あたしは大きく息を吸いこんで、ゆっくりと、ゆっくりと吐きだした。ボニーさんがパルたちにも教えていた、静心のための技術だ。

 まだ杖を握る手の震えはとまらない。それでも歯を食いしばれば、膝に力は入れられる。

 まだあたしはなすすべもなく砕かれてはいない。たとえ思い込みであっても。

 だったら何をする?どうすればいい?こんなときボニーさんならどうする?

 ――情報収集だ。


 まずは観る。視界に入っているものをきちんと観察し認識する。そしてそれが何を意味しているのか考えろ。そうボニーさんには教えられた。


 謎女性を気づかれないように、足元から盗み見る。

 ローファーはない、破れたルーズソックスの足。だけど制服はそう、あたしの通っていた高校の制服のものに間違いない。

 行けなくなっても何度も手を伸ばし、クリーニングの袋を外したところで過呼吸になってを繰り返した、鎖のような存在。だから間違えようがない。


 周囲の情報もついでに探る。

 赤黒い地面は窪地にしては平らに感じられる。だけど気のせいか、生臭いような臭いがするし、妙に粘つくようにも感じる。ここで立ち回りをするのは難しそうだ。


 知覚するだけでできる消極的な情報収集が終わったのなら。次は積極的な情報収集が必要だ。


 ……はっきり言って、すごく怖い。一瞬で人間を消し飛ばせる――能力だけじゃなくて、人間の価値を自分と同等の、いや価値あるモノと考えてないのが透けている行動ができてしまう、その心が怖い。


「先ほどは大変ご無礼をいたしました。申し訳ございません」


 けれども、あたしは杖を胸に当てる魔術師の略礼をしながら、口を開いた。

 手はまだ震えている。声もだ。けれども、出すことはできた。

 ならば、友好的交流の第一歩。挨拶ぐらいはできるはず。


「改めまして、御降臨なされた方にご挨拶を申し上げたく存じます。わたくしはグラミィと名乗っております。――失礼ですが。あなたさまのお名前を伺えませんでしょうか?」


 魔喰ライの王コリュルスアウェッラーナを葬った直後から、あたしはロックオンされていた。

 だけど元マグヌス=オプスや森精たちと、ボニーさんとも違って、あたしはまだ、焼き尽くされてはいない。

 ということは、あたしは向こうにとってそれなりの価値がある、と考えられる。

 ならば。

 少なくとも瞬殺されない可能性を信じて、願って、それに賭けるしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ