表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
343/372

EX.抜山蓋世

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

???視点です。

 夜の森は激しくざわめいていた。森精たちが血相を変えて動き回っているせいもある。

 もともと夜行性の動物が活動するため、静寂という言葉は実は夜の森にふさわしくない。しかし森精たちは四脚鷲(クワトルグリュプス)ら森に生きる魔物たちすら驚く勢いで木の根を走り抜け、梢を飛び抜けた。

 見るものがあれば驚くだろう。人間にとって森精たちは、つねに穏やかな無表情をそのおもてにたたえた、半神話的存在だ。

 しかし静謐な雰囲気などどこにもない。


 闇森のあちこちに散開した森精たちは、目的地に達するとそれぞれの樹杖に傷を付けた。彼らの半身をだ。常ならばけして森精たちのしないこと。

 だが、ためらいもなく彼らは目指して移動してきた別の樹の魔物たちにも傷を付けると、そこに樹液のしたたり落ちる彼らの半身の傷を押しつけた。

 葉を梢に還し、枝を幹に戻すがごとく。同根――文字通りの――、かつて彼らの樹杖たちを一部としていたものたちへ。


(  )

(  )

(  )


 樹杖たちと融合した樹の魔物たちは、術式を構築し始めた。

 それらは他の樹の魔物たちの術式と次々に結びつき、まるでいくつものモチーフを編み込んだ編み物のように闇森を覆っていく。

 これだけの巨大な術式を魔術陣も使わず安定させるのは困難だ。だから森精たちは彼らの半身に力を、その五感を貸し与える。

 術式制御に必要な外部センサとなって、樹の魔物たちのネットワークに自ら取り込まれるようなものだ。それは森精たちにすら混沌録へと無防備に入り込むような、苦痛と危険をもたらすものである。

 しかし彼らは歯を食いしばり、汗を滲ませ、それでも一歩も退こうとはしなかった。

 すべては闇森を守るため。


(((((  !  )))))

 

 衝撃に、木々が梢をいっせいに揺らした。




* * *




 砦の中を兵が走っていく。


「警衛隊長に申し上げます!魔術師はコギタティオどの麾下(きか)の者、すべて昏倒していたことを確認いたしました!」

「話を訊くことはできんか」

「役に立たんやつらだな」


 副官のレガトゥスが舌打ちをした。


 分厚い石壁の内にいてさえ目が潰れるかと思うほどの閃光と衝撃。状況を確認させれば主塔だけは無傷だったのは、あの骸の魔術師が仕込んだ防御のためであろう。

 城壁は所々崩れ落ち、ランシア山の陰に入っていなかったと見える箇所では跡形もなく削り取られていたのはその証左といえる。

 このように想像もつかぬ事が起きれば、魔術師の関与を疑わずにはおれぬ。プレデジオが急ぎ兵を走らせ、警衛隊の騎士だけでなく、城砦に駐留する魔術士団魔術師たちの様子も確かめさせたのはそのためだ。


 幸い、警衛隊も死者はおらず負傷者も軽度の者ばかりであったものの、何が起きたか最も知識を持っているだろう魔術師たちが揃いも揃って気絶しているとは。


「以前コギタティオどのに、わけのわからんものはすべて魔術師の仕業と考えてよろしいかと問うたことがあったな」

「それで、なんと?」

「そのようなものに出くわしたら、魔術師なら確かにより腕利きの魔術師の関与を疑うと言われた。それもあの骸の魔術師のような者をと真顔で言ってきて大笑いしたものだ」


 だが、彼の魔術師はフルーティング城砦にはいない。

 いらいらとプレデジオの卓を叩くさまに、レガトゥスは兵を下がらせた。


「おちつけ。プレデジオ」

「落ち着けるかレガトゥス。お前なら落ち着けるのかよ!」


 二人きりになって口調を崩せば、プレデジオはかえって激昂したように声を荒げた。


「だがお前は隊長だ」

「わかっている。百も承知だ」

「申し上げます!」


 新たな兵が飛び込んできた。円環の道の方角に出した斥候だ。


「警衛隊長!闇森が!」

「闇森がどうした」

「滑り落ちました!」

「……なに」

「なんだと」


 意味のわからぬ警衛隊長と副官に、斥候は懸命に説明をした。


「言葉通りです。クラーワ側を進みましたところ、天空の円環が崩壊しておりました。地滑りが発生したようにございます。もはやクラーワ側を通ることはできぬかと。また月明かりでしたが崩落の規模を確認したところ、闇森は北東に数ミーレペデースは山肌を滑り落ちた模様」

「……クラーワヴェラーレとの連絡は無理か」


 グラディウス側を通ればゆけるやもしれぬ。だがそれは一度スクトゥム間近まで南下せねばならぬ道筋だ。

 プレデジオは顔見知りとなった、あの抜け目ない行商人の身をわずかに案じた。 


「隊長。いかがなさいます」


 レガトゥスは部下の目を意識して副官の言葉遣いに戻った。


「……つくづく魔術師どもの昏倒が痛いな」


 どのような理由で山崩れが起きたか、少ない情報では判然としない。あの光や衝撃波と関連があるのかないのか。このままおさまるか、それともあれ以上の損害すら出るのかもすらさだかではなく。

 コギタティオはしばし黙考した。あの骸の魔術師がフルーティング城砦に健在であれば、この状況にどのような助言をしてくれるだろうか。


「馬たちは静まったといったな」

「そのように報告を受けております」

「ならばソッコス……いや、ランゲットまで後退する」


 驚いたように斥候が顔を上げた。


「フルーティング城砦を捨てると?」

「敵襲であれば籠城するのが常だろうが、山崩れなど剣や槍で立ち向かうことなぞできぬ。どうにもならん天変地異から逃げても恥にはなるまい」

「それはそうですな」


 レガトゥスは頷いた。


「それにランゲットならば確かに備えも堅い。我らがすべて退避しようと受け入れられましょう」


 フルーティング城砦に一時期詰めていた魔術師たちは、スクトゥム戦線の張られているイークト大湿原の方へその多くが降りている。

 スクトゥムを警戒し、後詰めの拠点となりうるソッコスやランゲットとは連絡を密にしてあったのも不幸中の幸いといえよう。


「昏倒している魔術師たちも運び出せ。荷車でよい」

「おとなしくしてくれればいいんですが」

「文句なぞ言わせんわ。――急げ。夜の山道だ。灯りの用意を怠るな」

「「はッ」」




* * *




「星見台からの早馬はまだか」


 プリムスレクスはいらいらと気を揉んだ。

 ランシア山の彼方に星が地上に落ちてきたかと思うほど、強い光は王都ディラミナムからも確認できた。

 二つの月が満ちる夜である。星見台が観測していないわけがない。

 しかし、異変についての詳細は翌朝以降に届くのが常であった。

 夜には伝言鳥は飛ばせず、狼煙は最初から選択肢にない。王族領の中でも最も南、しかも標高の高い丘の上にある星見台は、いざという時のために備えられた山城でもあった。

 そのようなところから狼煙を上げようものなら、ディラミナムとの間に領地を持つ諸侯たちに、秘匿すべき情報があること、それを急ぎ伝えようとしていることが丸わかりになってしまうからだ。


 結果あの光がいかなるものかも判然とせぬままに、急ぎ王は王弟たちを呼び集めた。

 王都内の聖堂長セプティムスの代理として、叔父のパトルウスすら重い腰を上げやってきたものの。

 魔術師団長であるマクシマムと魔術学院長のオクタウスの姿はいまだない。

 宮廷に詰めていた魔術師たちにも気絶した者も多数出ており、動揺が激しい。

 それらを鑑みれば、弟たち魔術師の素養あり者には何らかの衝撃があったのだろうと推測はつくものの。


「いったい、何が起きたというのだ……」


 魔術師たちが打撃を受けていることを考えると、烈霆公(れっていこう)もどれだけ頼りになることか。

 王都ですらこれだけの影響があったのだ。よりランシア山に近い峻厳伯領にいるクウィントゥスらはどれだけの被害を受けているものか。




* * * 




 アダマスピカ副伯領では、数日前から大騒動が始まっていた。

 夜中になってもスピカ村の女たちがすべて領主館に集まっているのではないかという騒ぎは収まらぬ。

 それも無理はない。アダマスピカ女副伯その人のお産なのだ。


 そろそろだろうと経験豊富な産婆が診立ててからというもの、カシアスからいつもの落ち着きは消え失せた。

 夕暮れになって、サンディーカが産気づいてからはなおのことだ。

 だがおろおろしているわけにもいかぬだろうと、何かできる事はないかと訊ねようにも、領主館内は戦場と化していた。

 薬湯を煎じる者。産湯を沸かす者。なるべく柔らかい拭い布をと求めて走り回る者。

 サンディーカが初産でもあり、かなりの年かさとあって、女たちも厳戒態勢である。


 歴戦の猛者が右往左往する中では、いくら夫といえどただのでくの坊扱いとなる。

 せめてもと、邪気を払うために武装し、護衛をしようとしたのだが。


「カシアス!あんた、邪魔!そんなところでそんな格好で、うろうろうろうろされてたら場所塞げにしかならないわ!」


 端的かつ無情な姉の一言に、サンディーカの居室前どころか領主館からもカシアスは追い出された。

 あの調子ではよほど埒が明かぬ限り、呼んではくれまい。身内の遠慮なさの前では、多少地位が上がった程度のことは歯牙にもかけてはもらえぬとはわかっていたが。


 しょうことなしに脚の赴くまま、カシアスは村の聖堂へとたどり着いた。

 普通は半分共同農作業小屋に近い扱いの聖堂ではあるが、それでも豊饒神フェルタリーテの神像は毎朝丁寧に清められ、その前は穀物やパンが捧げられては下げられているため、埃一つない。


「地に(あまね)く恵みをもたらす慈悲深き女神よ。我が妻我が命我が心の主に寵を願い奉る。健やかなる命やすらけくたいらけく産ましめたまえ」


 ぬかずき祈るは、ただサンディーカの身を案ずる言葉。そこへ荒々しい足音が近づいてきた。


「隊長!ここにおられましたか!」

「エンリクス。どうした」


 まさか。

 出産は出血を伴う危険なものだ。もしや、サンディーカの身に何かあったのでは。

 これまでのどのいくさよりも血の気が引くような思いに振り向けば、殺気だった勢いに呑まれたのか、副官はかすかに上ずった声で報告をした。


「ご覧にはならなかったのですか、南より強い光が放たれたことを」

「なんだと!場所は。アダマスピカへの影響は」

「詳細はいまだわかりません。ですが備えを」

「……わかった。詰所まで戻る。しかし村の内側も外側も戦場になろうとは。なんということか」


 カシアスの真摯な嘆きに、エンリクスはかすかに苦笑した。




* * *




 アルボーの警衛連隊本部の中心にいるのは、警衛連隊長のアロイスではない。魔術学院の中級導師であるコッシニアでもない。二歳になるかならぬかという幼子だ。

 しかしそれも関係者の中でしか知られておらぬことではある。


 警衛の騎士に抱かれ、うとうとしていたテネルは不意にぱちりと眸を見開いた。


「おににぃ」

「テネちゃん?どうちまちたかー?」


 ひげもじゃの顔をでれりとさせた騎士の後ろ頭を叩いたのは同僚である。


「高い猫なで声を出すな。気色の悪い。――テネルは眠いのかい?寝間へ行くか?」

「ねんねちらう」


 ぞろぞろと近づいてきた騎士たちの警衛連隊の騎士にも怯えた様子をみせず、幼子はかぶりを振った。


「おんもゆくぅ」

「外か?もう暗いぞ?」


 心配する言葉をかけながらも騎士たちには止める気配がない。

 それどころか、あっちと指さすままにテネルを抱き上げ、本部の外へ出た。


 魔術学院の初級導師たちほど警衛連隊の騎士たちは、こどもの扱いに慣れていない者も多い。しかしその子の兄がもっとも懐いている者の一人は、警衛連隊長その人である。

 いきおい、幼い兄妹と接する時間は増え、強面の騎士たちは、いつもにこにこ笑う幼児の愛らしさに全員が陥落していた。


 建物の外には、なぜか大勢の魔術師たちが集まっていた。

 常駐するようになりつつある魔術学院の導師や生徒が固まっているのはわからなくもない。

 しかし、骸の魔術師麾下である魔術士隊の三人まで、愕然とした様子で立ち尽くしているのはどういうわけだ。


「これは魔術師の皆様。いかがなされた」


 テネルを抱いていた騎士が声をかけると、数人の魔術師たちが近寄ってきた。


「コストスどのこそ、このような時にテネルを連れて外に出られるとは」

「そのテネルが外に出るのを望んだのでな」

「テネルが?」

「まさか、ただの星降りじゃないってこと……?」


 魔術師たちの視線が一斉に幼子に集中した。彼らもテネル独特のカンの鋭さはよく知っている。


「確かに魔力(マナ)の揺らぎは感知したけれど」

「……なんですかな、それは」


 一瞬騎士はうさんくさそうな表情を浮かべ、問われた魔術師は緊張した面持ちから一気にめんどくさそうな顔になったが、きちんと説明をした。


「簡単に申し上げますと、魔術師にしか感知できない地震のようなものです。通常星が降るときには、大量の魔力も降り注ぐと聞き及びます。ですのでそのせいかとも思ったのですが……」

「詳細はわからないと」

「ええ」


 水と油。性質上まるで異なる騎士と魔術師は、だがしかしアルボーではわかり合おうとする努力を怠らなかった。

 パルとテネルの存在もあずかってか、警衛連隊本部はしょちゅう入り浸る魔術師たちのせいで、今や魔術学院との合同庁舎のようになっている。

 その方が都合がいい。

 なにせ海の彼方から押し寄せるスクトゥムの脅威に対抗するには、弓や槍の腕前だけでなく、魔術の力も必要なのだから。


「では、引き続き魔術師の皆様には感知をお願いすることになるでしょ……」


 南を仰いだ騎士の言葉が途切れた。


「なんだ、あれは」


 アルボーからは南にあるユーグランスの森を挟めばアダマスピカ副伯領すら見えない。そのはずだった。

 だが、その森の梢からじりじりと突き出つつある小さな影の、あの特徴のあるシルエットは。

 

「ランシア山じゃない!」

「まさか。ディラミナムほど南ならともかく。フリーギドゥム海間近なこのアルボーから、ランシア山が見えるわけもないだろう?!」

「……なにゆえかは方々にもわからぬと。ご無礼!」


 幼子を抱いたまま、騎士は本部の中へ異常事態報告のため駆け戻った。自分の目が信じられず混乱する魔術師たちをそのままに。


「……いったい、何が起きているというの?」


 一人の魔術師のこぼした問いに、答えうる者はなかった。




* * *




〔つっ〕


 ボニーさんがびくりと骨身を震わせた。いったいどうしたんだろう。


〔闇森との接続が切断された〕


 まじですかそれ。


〔こんな時にややこしい言葉遊びなんかしませんよあたしゃ。……しょうがないから、闇森が再接続されたら情報を速攻流せるよう、別の場所……フェルウィーバスのラームスたちに伝えておこう〕


 そんなやりとりをやっていたせいだろうか。あたしたちは気づくのに遅れた。ただ光の柱が発生しただけじゃないってことを。

 その中で、ランシア山が抜けていくことを。

 

 血に餓えた妖刀がじわじわとその刀身を収めていた鞘から滑り出るように、その動きはあまりにもゆっくりで、そして滑らかだった。

 スクトゥム側の天空の円環だろうか。がらがらと欠け落ちていき、それより下の岩肌もめこっとへこむのが見える。

 ボニーさんから伝えられた望遠鏡術式を片目に当てて、あたしは開いた口が塞がらなかった。

 いくら異世界だとはいえ、これほどシュールな光景を見るとは思わなかった。


 一度は強烈な光に塗りつぶされて気がつかなかったけれども、地平線から登ってきた二つの月の光がランシア山にも降り注ぎ、その岩肌を紫色に染めている。

 ――たしか、今宵は紅金の月も蒼銀の月も満ちているはず。闇黒月はどうかはわからないけれども。


 薄紫に染め上げられ、槍と言うには幅があり、剣というにも厚みがありすぎる、刃のない身がゆっくりと、しかしどんどんと速さを増して上昇してゆく。

 今にも抜け……


 抜け…………


 …………抜…………


 ………………………………


 …………………………………………長っ。

 

「おいおい」


 あきれたようにマグヌス=オプスが声を上げた。


「どこまで伸びるんだ?」

「長すんぎんだろ……」


 ラドゥーンたちの声ももっともだ。

 あたしたちがランシア山の最高峰と認識していた岩山部分はとうに雲の中。

 ……月にも届きそうというのが比喩でもなんでもなくなりそうな勢いって、どういうこと?


〔そらまあそうだろうね……〕


 冷静ですかボニーさんは。


〔いや、グラミィもよく考えればわかることじゃないかね?〕


 なにがですか。


〔槍でも剣でもいいけど、武器の形をしている封印具って、対象に突き刺すものだと思うのよ〕


 ……あー、まあ、そうかも。

 ボニーさんの心話とともに伝わってきた、磔にされた上血色の槍で串刺しになった生白い上半身だけの巨人とかいう、よくわけのわからないイメージはともかくとして。


〔つまり、刃先や穂先は下に向いてて当然だったんだろうなってこと。天の逆鉾とかじゃないんだから〕


 ……。

 …………。

 ということは……。


 あたしは思わず空を振り仰いだ。距離が離れているはずなのに、ほとんど真上を見ないといけないとか、どんだけだ。

 けれどもこれまで槍の穂先だとか剣の切っ先だとかに例えられていた、あの柱のようにとんがった岩山。ランシア山の最高峰と言われていたプロエリウムが柄頭(つかがしら)や石突き、もしくは(こじり)にすぎなかったとするならば。

 今、抜けてくるのは刀身、もしくは穂にあたる部分ということになる。

 それはプロエリウムより長くて当然ですね。


〔もう一つ。ラドゥーンたちの言葉が正しければ、あのロリカ内海は封印の神器を創り出した痕跡。つまり、神器ってば最大そのくらいのサイズはあるってことになるんじゃないかな〕


 確かにそんなことは言っていた。

 いや、もしロリカ内海サイズの岩槍が刺さってたんなら、いくらランシア山の高さがあるといっても地殻ぶち抜いてマントル、いや下手するとこの天体の核にまで到達するレベルでしょ。

 数千㎞サイズなんてさすがにフカシだと思ってたけど……でもこれだって、少なくとも数百㎞はあるんじゃ。

 そりゃもちろんあの長大なロリカ内海のサイズから考えれば、めちゃくちゃコンパクトなんでしょうけどさ!


〔それと実物見て気づいたけど、あの武神アルマトゥーラの神具に関する神話にも、ある程度の真実は含まれてたんだろうね。各地から戦闘能力持ちが結集したってこと以外にも〕


 ……たしかに、天空の円環ぐらいまでは、スパイクシールドというのか、中心に棘の生えた丸盾にも見えただろう。

 今もずるずると天に伸びている刀身、もしくは穂の部分は、途中から円柱というより菱形柱っぽくなっている。

 長い穂先を持ったカンデラブルムと呼ばれる槍か、それともテレブラサクスという剣の変種のようにも見えなくもない。


 ひょっとしたら、すべての土地の人たちが取った武器のモチーフをまとめたものだったりするのかもしれない。団結の証、的なものとして。

 だけどさあ。普通ただの岩石だったら折れてると思うんですけど。この長さじゃ。


〔ただのじゃないんでしょうね。拡大できたらしてごらん。刀身というか、全体に魔術陣が施されてるから〕


 ボニーさんが冷静につっこんできた。


 ……言われてよくよく見れば、刀身すべてに魔術陣が施されている。

 

〔すごいわこれ。おそらくだけど、象嵌されているのはベヒモス――魔晶(マナイト)でしょうね。おかげで陣が読みやすい。……圧縮、強固、不壊。固着は……たぶん一度刺さったら二度と抜けないようにってことかな〕


 軽やかに言われても怖いんですけど!なんとしても逃がすまじっていう森精たちの執念が凝集してる感じで!

 けれど、でも。待って。


「コリュルスアウェッラーナはどこだ?!」


 なぜだろう。

 肝心の封印対象の姿が見あたらないのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ