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身喰い共喰い

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

この部分には特に15禁を強調しておきます。18禁ではないと思いたい。

「ちっ」


 舌打ちをすると『将軍』は『魔術師』を睨んだ。


「起動もできないのか」

「足りないな。――今のままだと」

「なんとかできんのか」

「手はある。魔力(マナ)を通すルートを補修してやればいい。ベヒモスの励起量を増やすのが手っ取り早かろう。励起状態になれば、融合能力も高まるのでな」

「ならやれよ。さっさと」

「ああ。――そのつもりだ」


 言いも果てず『魔術師』の手がひらりと動き。『将軍』が飛び上がった。


「いてぇっ!てめえ、急になにをしにゃ……ぎゃう」

「やるべきことをやっているだけだが?おまえに言われたように、『さっさと』な」

「ひゅにゃけぇん、ぎゃあああああっ!」


 よほど強力な即効性の麻痺毒でもくらったのか。

 あっと言う間に回らなくなった呂律は、苦鳴にかき消された。『魔術師』が『将軍』の佩剣を奪って、無造作に振ったことで。


 抗議か、素手でも防ごうとしたのか。中途半端に振り上げた『将軍』の腕がざっくりと斬り裂かれ、血がほとばしる。

 そして周囲から、蛍のような淡い光が立ち上りはじめた。


 思わずあたしもコールナーの背から飛び降りた。走り寄ってきたグラミィをコールナーの向こうへ押しやる。


 通常、魔術師が魔晶(マナイト)を用いるとき、その血をもって励起状態にするという。

 血だまりができつつある『将軍』の足元、血しぶきの振り撒かれた地面――いや、魔晶の表面は励起状態になったのだ。

 そして『魔術師』がいうように、励起状態になることで融合能力も高まったのだろう。てろりと艶を増した魔晶はそのまま血だまりと混ざり合い、液体となり、山の斜面を流れていく。

 それとともに光は広がり、薄暗くなりつつあった周囲は急激に明るくなっていく。


「ちぇんめぇえ……!」


 激痛が気つけになったか。よろめきながらもなんとか立ち上がった『将軍』が、『魔術師』を睨んだ。下から照らし出されたその形相に、グラミィがヒッと息を呑んだ。

 だが『魔術師』は動じた様子も見せずつかみかかる手をかわし、剣を投げた。

 『将軍』の足めがけて。


 抜き身の剣が絡まり、『将軍』は激しく転んだ。

 足の切り傷からも血が溢れ、さらに光が強まってゆく。 

 それでも必死に立ち上がろうとする『将軍』を、剣を素早く拾い上げた『魔術師』が、無表情に見下ろした。


 ……たしかにレジナを壊滅させる前から、こいつらは地獄門を使っていた。カリュプスでもゾンビさんたちを焚きつけのように魔力吸収陣に放り込んでいた。

 魔術陣を発動するためなら、人を生贄にすることすら当たり前と考える連中だ。それはわかっていた、つもりだった。

 けれども、これは。

 ろくでもなさの最底値を更新しまくるにしても、ほどってもんがあるだろう。


「勢いが弱いな」


 動脈を完全に断ったのだろう。そこそこの勢いで噴き出ていた血も勢いが衰えたとみるや、『魔術師』は『将軍』の身体を踏み(にじ)った。

 血抜きをしようとでもいうかのように。

 明らかに仲間、いや人間というより、もう、魔術陣の素材としか見ていないのか、こいつは。


「そ…」

「うん?」

「そのおっさんはあんたの仲間、いや半身じゃなかったの」

「ほう」


 からからに乾いたグラミィの声に、『魔術師』はすいと目を細めた。


「よくそこまで突き止めたものだ。お前は思っていた以上に頭が回るらしい。――趣味は悪いが」


 ほっとけ。あたし(お骨)を見ながら言うんじゃない。


「……ラドゥーン(多頭竜)の頭がいくつあるかは知らないけど、胴体は一つなんでしょ。それとも、ラドゥーンと名乗るグループはいくつもあるとでも?」

「神話ヲタクか。よく知っている」


 それでごまかせた――と思うのは、楽観が過ぎるだろう。

 確実にグラミィは警戒対象になっちゃったか。これは。

 あたしの推測というか帰納的な妄想が、クリティカルでなくてもそこそこヒットはしているみたいだし。


「仲間であろうが、それがどうした。たしかにともに過ごした時間もある。が、サンクコストの問題だ」

「……さんくこすと?なにそれ」

「過去は過去。現在と未来は切り離して考えろという概念だよ。味方にするのは有益な存在。損害の方が多ければ損切りするのが当然だな。おまえもそれには同意するだろう?――おれたちはそうしてきたのだから。つねにな」


 麻痺毒が回りきったのか、それとも失血によるショック状態なのか。

 弱々しく痙攣するような動きを見せる『将軍』にそう言い聞かせると、『魔術師』は剣を拾い上げ、無造作にその胸へと突き立てた。

 グラミィがぎゅっと目をつぶり、顔を背けるのを感知しながら、あたしは動かなかった。動けずにいた。

 頓着する様子も見せず、『魔術師』は、あたしたちに顎をしゃくった。


「アーリス……自動車がひっくり返っているのを見たか?あれはこれが運転を誤ったからだ。こっちまで怪我をするところだったんでな。有害となった以上、これは、もう仲間でもなんでもない」


 だから始末をしただけだ、そういうつもりか。

 だが血の滲んだ包帯を巻いてた『将軍』に対し、『魔術師』は怪我一つしているようには見えないんだけど。肌の露出が少ないせいもあるのだろうが。


(ちのにおいないー)

(こいつけがないー)


 ハイ幻惑狐(アパトウルペース)たちのお墨付き出ましたー。


 ……てか、やっぱりか。

 車がひっくり返るほどの事故なんだ、怪我もそうだが身につけていたものすら破損していて当然だ。

 だのに、『魔術師』はローブすら傷ついていない。

 ひょっとしたら『将軍』が庇ったからかとも考えていたんだけど、このぶんだと、防御関係の魔術なり魔術陣なりを使っていた、というのが正解なような気がする。

 それも自分だけ。


 ということは、もともと『魔術師』が他のラドゥーンたちすら、最初から使い捨ての道具として見ていた可能性すらありそうだなー……。


 ならば、こういうこともできる。


「なんだ?」

〔ボニーさん、何する気ですか?〕


 困惑する二人を無視し、ずかずかと近寄れば、『魔術師』は警戒しながら崖先へと後ずさった。


 それでいい。

 あたしの狙いはあんたじゃない。

 虫の息――いや、かすかに続いていた魔力の放出が絶えたところを見ると、息絶えたのだろう――『将軍』の顔を上に向けると、あたしはその口に、懐から取りだした塊をねじ込んだ。


「それは含蝉……か?」


 古代中国の習俗を知ってるたあ、そっちもだいぶマニアックだね。

 だが違う。


 二人の目とあたしの眼窩が集中する前で死者の喉が膨らみ、ピクリとその身体が跳ねた。


「……まさかそれを、そいつを生き返らせるつもりか!」


 そいつも不正解。

 死人を好きに生き返らせることができるのなら、とうにこのあたし自身が生身になっていますとも。


 この世界でもっとも魔術の知識を持っている森精たち――なにせ彼らの半身、樹の魔物たちは生きたデータベース、というか、混沌録の記録用メディア兼体験用デバイスですよ――ですら、死を迎えつつある彼らの同胞を、森にすることはできても、生き返らせることはできない。

 そう。森になるというのは、死者の蘇生の謂にはあらず。死に瀕した者の名残を森にとどめることでしかないのだ。

 それも、相応の条件をクリアする必要がある手段であり、だからこそ森になる森精たちは極めて少ない。


 ベーブラ港の入口で、パルが森となったのも、ロリカ内海をドミヌスが森となって埋め尽くしているのも、事前に森といえるほど大量の樹の魔物たちが得られたからこそ。そして、彼らでネットワークをあらかじめ組んでいたからにすぎない。

 そうでもしなければ、個人のほぼ全人格、記憶、経験、彼らを彼らたらしめていたものすべてを記憶し保存できるような情報容量は、さすがの樹の魔物たちすら保つことができないのだ。


 そして、それらの情報を彼らが樹の魔物たちに流し込めたのにも、理由がある。

 森精たち自身が、生きていたときからその身体に樹の魔物の種を植え込み、自分を喰らわせていたがゆえ。

 パルはそうしていた。だからおそらくはドミヌスも。また。


 見守るうちに、『将軍』の目尻から血の涙が溢れた。かと思うと、その身体が弓なりに反り返った。

 腕に、足に、そして胸に刻まれた傷口が一斉にうごめき、膨れ上がり――爆発的に伸び上がり、今も突き立ったままの剣に絡まり、さらに伸びていこうとするのは、木の枝だ。


「なにっ?」


 『魔術師』が驚愕したのも無理はない。

 『将軍』の身体は内側から裏返るように、どんどんと葉と枝と根を生やして、周囲のとろけた岩盤――ベヒモスへと突き刺さり、魔力を吸い上げだしたのだ。


 そう。

 あたしが『将軍』の遺体の口に含ませたのは、ヴィーリからプルヌスたちともども預かった、樹の魔物の種、そのうちの一つだ。

 同じラドゥーンである『魔術師』が、味方であったはずの『将軍』を道具として使い捨てにするというのなら。

 敵であるこのあたしが使い捨てられた廃棄物を拾い上げ、リサイクルしたとしても文句は言わせない。


 全身に根が張りきったのだろう。網のような凹凸を皮膚に浮かばせた『将軍』の五体すべてがゆがみ、内圧に耐えかねたようにはじけた。


「うっ」


 グラミィは口を押さえたが、戦場でも盛大に吐いている。もう黄色い胃液しか出てこないだろう。見たくなければ目をつむっていればいい。

 砕けた内臓も裂けた肉も、骨の欠片すら飲みつくす緑からあたしが眼窩をそらすまいとするのは、ただ、自分のなしたことから目は背けてはいけないというマイルール(わがまま勝手)によるものだから。


「何をする!お前はそれでも人間か、死者を冒瀆する気か!」


 顔を口にして『魔術師』がわめいたが、その死者を作った者、もう一人の自分を殺した人間が何を言うか。

 それこそサンクコストの問題だろう?

 そもそも人道をどの口が言う。

 あたしを人間じゃないと、グラミィの扱う傀儡程度に見ていたラドゥーンたちに。

 生きている人間を魔力吸収陣に、地獄門に喰わせていたお前たちに、死者の冒瀆などとさえずらせてたまるか。


 確かに、あたしはなるべく人を殺したくないというのが基本スタンスだ。だけどグラミィにやいやい言われるくらいには黒い、ってことも自覚している。

 敵の同士討ちにすら利を得ようとし、殺されてしまったものを有効利用しようとする程度には。


 だから。さあ、――『将軍』。復讐の刻だ。


 あたしは『将軍』の遺体をすべて飲み込み、喰らい尽くした樹の魔物に歩み寄り、その幹に骨の指をそっと這わせた。


 生きた状態で森に人格記憶経験すべてを受け渡す、森精たちのやりかたとは違う。死にたてとはいえ、息絶えた『将軍』を喰らった樹の魔物は、種一つぶん。

 つまり、『将軍』の人格を完全再構築することは不可能だ。ペルのようには。ドミヌスのようには。

 その名残すら維持できるのは、ほんの須臾の間ということになるだろう。

 

 だが、種から生じた樹の魔物は、まっさらだ。

 他の樹の魔物の枝を挿し木して作られたペルの森とは違い、貪欲に情報を吸収蓄積する傾向が強い。

 そして、個体としての生命活動が停止しても、細胞レベルの生命活動が一度にストップするわけじゃない。

 含蝉の種はまだ活動をやめていない細胞をぎりぎりまで活かし、『将軍』の脳に根を突き立て、情報と養分を容赦なく吸い上げた。

 それをもとに引きずり出した記憶を、森精たちに星屑たちの知識として引き渡すことも、たった今殺されるまでの記憶を強く焼き付けた人格の一部を再現することも可能ではある。

 こちらの手駒として『将軍』を使うに事足りるくらいには。死んでからでも仲間割れをするよう、しかけるくらいには。


 自分を裏切った『魔術師』は憎いのだろう?

 なんで殺されなければならないのかと思うだろう?

 仲間どころか道具扱いしかされていなかったとわかれば、怒りしかこみ上げてこないだろう?


 復讐がしたいなら、させてやろう。

 より効果的な復讐のしかたも教えてやろう。

 だから、ほら――


 ドス黒い囁きに、仲間にいきなり殺された当惑が理解へと変わり、やがて憎悪へと染まっていく。

 そして樹の魔物の根っこが融合しているベヒモスへとさらに食い込み、その魔力を食らい始めた。


 この山岳地帯のベヒモスが励起したのは、『将軍』の血によるもの。

 そして『将軍』の欠片を宿した樹の魔物は、『将軍』の遺体をすべて喰らったのだ。

 つまりそれば魔晶を魔術師が利用するように、この樹の魔物が、『将軍』の欠片が、ベヒモスに蓄積された魔力を、そしてレジナから到達しようとする魔力をすべて吸い上げ、いいように使うことができる、ということでもある。


 なにより、ラドゥーンの二人はここへ、この山岳地帯へとレジナを消尽しつくした魔力の流れを導いた。

 ということは、彼らがここを目指した意味が、その膨大な魔力を利用できるデバイス――おそらくは魔術陣だろう――が、あるのだろう、という推測は簡単にできる。

 おそらくは、『将軍』が『魔術師』を背に庇っていたあたり。今なお『魔術師』が袋のラットゥス(ネズミ)となりかねない地の利ならぬ不利をも知りつつ、それでも離れようとしない、あの崖の突端側に。


〔荷物は何もなかったんですよね?〕


 コールナー越しにグラミィの心話が飛んできたが、すでに刻んであるなら、陣符のように持ち歩きする必要もない。

 おそらくは地面(ベヒモス)、そのものに。


〔そこまで場所の推測ができたんなら、魔術陣がどういうものかはわかりませんか?〕


 そいつはちょっと難しい(無理です)

 そもそも起動していない魔術陣というのは、素材の魔力ぐらいしか発していないものなのだ。

 それでも対象物が通常の岩石レベルの魔力しか放出していなければ、魔術陣を発動させてしまわない程度に、こちらの魔力を通して確認する、という荒技ができなくもない。

 だが、励起状態になりつつあるベヒモスのせいで、それは極めて困難なものになっている。

 たとえるならば相手の額に触らず通常の行動も魔力も見ずに、星屑召喚陣を刻まれているかどうかを言い当てろというに等しい。

 おまけにあたしの知る限り、魔晶に魔術陣を刻む、などという無茶をやった魔術師はいない。砂粒サイズでも、目の玉があったら眼窩から飛び出ていきそうなお値段のしろものってこともあるだろう。

 砂粒、いいとこ小石サイズの魔晶に魔術陣を刻むという、器用な事ができる人材がいなかっただけなのかもしれないが。


 ただし、発動阻止はできなくもない。


〔ど、どうやってですか?!〕


 こうやって、だ。


 あたしは『将軍』の欠片に、さらに囁いた。

 深く暗く黒く『将軍』の欠片にささやきかけるには、その心に踏み込み、底の底にまで沈みこまなければならない。

 彼の怒りをあたしの怒りとし、あたしの欲を彼の欲としてこそ、『将軍』は自身の意思で動き、その意を受け含蝉の種は枝葉を広げる。

 さあ、『将軍』を裏切ってまで成し遂げようとした『魔術師』のなすことに、そんな意味も価値もないものだとつきつけてやるがいい。


 それに応え、樹の魔物はさらに深く太く根を伸ばし始めた。

 一定の方向に向けて。


「いかん!」


 唖然としていた『魔術師』が血相を変えるのも無理はない。

 樹の魔物は――それを動かす『将軍』の欠片は、崖の根元部分の岩盤へと根を突き立て、砕き、魔力を吸い上げ始めたのだ。

 励起状態になり、まるでどろどろの溶岩のように広範囲で溶融していたベヒモスが瞬時に光を失い、固まり砕け、細かい灰とも砂ともつかぬものになっていくさまは、いっそ壮大ですらあった。

 この状態を維持してやれば、崖の突端部分の魔術陣にこれ以上魔力は流れない。いやそれどころか魔術陣そのものも砕いてしまえる。

 帝都レジナを壊滅させてまで得た膨大な魔力も使いどころを失い、ラドゥーンたちの企みも灰燼に帰す。


「やらせるか!」

「それはこっちの台詞!」


 なんの魔術だろうか。『魔術師』があたしを狙って撃ち放ったのは。

 それをコールナーの背後から飛び出たグラミィが、あたしを――いや、コールナーやグラミィ自身も覆う巨大な結界の盾をもって防いだ。

 結界の表面でばりばりと音を立て、長い間這い回っていた光がはじけ飛ぶ。

 

(くさむらけずれたー)


 ちゃっかりとグラミィの懐に入り込んでいた幻惑狐のターレムが、視覚を共有してくる。

 ……うわ。結界で防御できてたところはともかく、その周辺がめちゃくちゃになってんじゃないの。

 草叢どころか街道の敷石すら、大根おろしも同然とか。どんだけ殺意の高い魔術だ。

 

〔でもこれならこっちはあたしが対応できそうです!ですからそっちはよろしく!〕


 ありがたい。今のあたしは応戦できる余力などない。

 なにせ森精たちの管理する混沌録とは比べものにならないほど浅くて薄いとはいえ、人の心もまた小さな混沌録そのものとも言える。

 それにただ飛び込んだり、情報を得たりするだけでなく、操作しようというのだ。精神感能力者(テレパス)が他人の精神に深層心理まで0距離で接続し、意のままに動かそうとしたら発狂するんじゃないかな、というのが身をもって理解できるレベルですよ。


 それでも、あたしは、より深く『将軍』の記憶に分け入っていた。

 樹の魔物なんて変なデバイスをねじこんだせいでノイズまじりのジャンクが多いが、それでも直近のことは鮮明だ。

 だが転倒事故のことはどうでもいい。裏切られた怒りよりも、あたしが知りたいのは、なぜ彼らがここへ来たのか、大量の魔力をもって、いったい何をどうする気なのかだ。

 魔術陣の発動阻止なんてのは小手先にすぎない。ラドゥーンたちの目的を知らねば、今後も、ここ以外の場所でも、策謀の結実を、レジナのような都市の壊滅を止めることはできないのだ。


〔ボニーさん!〕


 含蝉の魔物が魔力を吸う一方、グラミィたちがやり合う余波で、励起状態のベヒモスも増えていた。激しく波立ち、飛び散った先でさらに融合していたためだ。

 とろけたソフトクリームのようにゆるくなったベヒモスは、泥濘から底なし沼へと変わり、ますます周囲に広がってゆき……。


「わ、きゃぁっ!」

「うぉっ!」


 地面がずるりと動いた。

 樹の魔物が広げた地割れが崖を切り崩したのだ。


 あたしとグラミィは無事だった。

 じわじわと沈んでいく大地の上、幻惑狐たちがあたしたちとコールナーの足元に、薄いウエハースのような岩盤を形成していてくれたからだ。

 だが、『魔術師』は。崖の突端から離れようとはしなかった。

 どろどろとベヒモスが切り崩された突端部分を滑り落としていく。

 その上に『魔術師』を乗せたまま。

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