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猛(?)追

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

(では頼むぞ、コールナー)

(任せておけ)


 頼もしい返事で走り出した一角獣(ウニコルレノ)の足には、戦闘後の翳りも見えなかった。お骨なあたしだけでなく、生身のグラミィも乗せているのにだ。

むしろ機嫌がいいまである。なんでだろう。


 一方、あたしたちが動き始めたとたん、すごい勢いで逃げ出していったのは、まだテストゥド平原と街道の端境あたりに、ごま粒をこぼしたように散らばっていたスクトゥム軍の残党たちだった。

 それも背中に担いでいた火事場泥棒、戦場漁りの成果すら投げ捨てて行くやつまでいるというね。

 大半が街道沿いに逃げ出してった後だというのに、それでもわざわざ踏みとどまって平原の様子をうかがってたくらいにはずぶとい連中だったんだけど。


〔いやー、だってボニーさんですから〕


 骸骨(あたし)の前に平然と乗ってる妖婆(あんた)が言えたことかグラミィ。


〔よ、妖婆って……〕


 いや十分怪しいから。


 まあ、大鎌持った死神が自分たちの方へ近づいてくる、というのは確かに恐怖だろう。

 威圧感の出る騎乗状態のせいもあると思うけど。


〔おまけに、変なスモーク噴いてるように見えますからねぇ……〕


 舌を噛まないようにだろうか、口を閉ざしたまま心話をよこしていたグラミィが、ちらと目をあたしの鎖骨ごしにやった。


 戦闘中もコールナーに乗っけてもらってからこっち、あたしはずっと鎌杖を戦闘中も背骨の後ろに挿しっぱなしにしていた。

 それを、グラミィを乗せるため、鞍を変形するついでにちょいと手を加えたのだ。

 一輪挿し状態にしたあたしの尾骨受け部分に、鎌杖の石突きも挿し込み、しっかり固定できるように。

 おかげで、母衣(ほろ)旗指物(はたさしもの)のように、鎌刃部分がにょきっと頭蓋骨のはるか上へと突き出しているというね。戦国時代の騎馬武者かあたしは。

 それだけでも目立つのだが、今はその鎌刃から、靄めいたものが噴き出している、ように見えている。

 単なる魔力(マナ)回復の副産物なんですがね、これ。


 鎌杖の刃には、もともと静止陣を始めとしたいくつもの魔術陣を仕込んである。魔力吸収陣もその一つだ。

 そこにあたしはカリュプスで得た知識をプラス、いろいろ手を加えておいたんである。

 ラドゥーンたちの魔力吸収陣の描き方よりも、ヴィーリから教えてもらった森精の魔術陣についての知識の方が何倍も役に立ったけれども。


 結果、現在の鎌刃は『半径50センチ程度の球形空間より、大気中の含有魔力を吸い上げる』基点となっている。

 この術式、発動して一カ所に留まり続けていれば、あっと言う間に局地的な魔力欠乏空間を作り出してしまう。だけどあたしはぺんぺん草の芽さえ出ないような、不毛な土地を作り出す気などない。

 留まっていれば不都合というのなら、コールナーに走り続けてもらえばいいだけのこと。

 もともと隠し森も迷い森も、樹の魔物たちには戦闘中魔力をたっぷり放出してもらうように頼んでいたのだ。魔力過多なせいで、最恐お化け屋敷のような、なんとも言えぬ人を萎縮させる空気が今は漂っているが、それもやがて魔力の拡散により、元に戻るはず。

 だったら、それを加速してやったって、不都合など起こらないでしょうよ。


 と、思っていたのだが。


 含有魔力が減少した水は凍る。とはいえまさか魔力吸収陣を改良したせいで、ここまで魔力吸収した大気中の水分が凍って靄になるとは思わなかった。

 スモークというより、飛行機雲かな?

 だが後悔なんざしてませんとも!


〔どうしよう、止める言葉がでてきません。あたしも恩恵受けてますし……〕


 あたしもグラミィも落ちし星(異世界人)である以上、魔力の保有量が半端ではない。

 それはつまり、減少した魔力を回復させようとすると、なみの魔術師が数人回復できる程度の魔力を得ても、完全には回復できないということでもある。

 そしてただ休養するより、周囲から積極的に魔力を吸収した方が回復が早いのだが、あたしとグラミィが近くにいて、そんなことをしても効率が悪い。複数の魔力吸収陣を集めて同時発動するのと同じ理屈だ。

 そんなわけで、鎌刃で吸収した魔力はあたしだけでなく、グラミィやコールナーたちの回復にも役立ててたりする。


(ほーねー)


 ついでとばかり、ちゃっかりと魔力をおいしくいただいていた幻惑狐(アパトウルペース)のフームスが、あたしの懐からぴょっこり顔を出した。

 平原とはいえ戦闘後の荒れた足場に頓着することもなく、たなびく飛行機雲モドキを置き去りに、ごっつい蹄の音を立てて走るコールナーを認めたのだろう。戦場に散らばっていた幻惑狐たちがぴょこぴょこと寄ってきたのだ。


(えものー)


 同族と情報を素早く共有したのだろう。フームスがきゅうと鳴いて鼻を向けたのは、スクトゥム軍が隊列を揃えていたあたりだった。

 ……持って行けなかった荷車なぞが転がっているのはまだしも、荷馬がもがいているのはなんでだ。なぜ逃げられない?


(あしどめー)


 足をわずかに緩めたコールナーの背中の上にまで、ぴょいと飛び上がってきたのは白銀の毛並み。

 ニクスと呼んでいる幻惑狐の一頭だ。


〔幻惑狐たちの足止めって、物理ですよね……〕


 見れば荷馬たちの足は、べっとり泥にまみれていた。乾ききっているように見えるのに、剥がれる様子もない。

 って、重石つき足枷かい。

 だけど、そのままにしてほっとくわけにはいかない。もがけばもがくほど馬たちは消耗する一方だ。

 だがあたしが意識を向けると、いっそう馬たちのいななきは激しくなった。


〔お、怯えられてますよ?〕


 ……あー、魔力吸収陣のせいかな。完全にパニックになってる。

 魔力吸収を止めてなだめようにも、下手に近づいたら、暴れそうだ。

 あたしが蹴られる危険はともかく、馬たちが足でも折っちゃったらおおごとだ。

 逡巡していると、コールナーがじろりと馬たちを一瞥した。


(おちつけ)


 ぴっと馬たちは暴れるのを止めたが……。


〔居竦んでるっていいません、あれ〕


 ま、まあ、落ち着いたというより硬直だよね。だけど怪我する危険がなくなっただけまだましだろう。

 幻惑狐たちにもお願いしとこう。拘束をもう少し緩めてあげてと。


(あしどめー……)


 ニクスたちは不満そうだが、だってほら、水も食料も取れないとか。君らだって、そんな状態困るでしょうが。

 幻惑狐たちがしぶしぶ緩めてやると、だいぶ馬たちは落ち着いた。うまくやればこちらの輸送力になってくれまいか。


〔そのへんやっぱり黒いですねボニーさん!……まあ、食糧ももったいないですし〕


 アロイスたちに伝えるよう、幻惑狐たちに頼んでおこう。

 少しは食料状態も改善できるんじゃないかな。


〔なら、早く片を付けないといけませんね!〕


 こきゅ、とニクスが首を傾げた。


(にげたのおうー?)


 それはあたしたちがする。

 君らは船の方まで戻っててくれないかね?

 そう言いかけたのにグラミィが待ったを掛けた。


〔いやだってボニーさん。幻惑狐たちにも手伝ってもらった方が楽になるんじゃないんですか?〕


(もっとたすけるー)

(ついていくー)


 そう言われましても。

 君ら、コールナーの足についてこれないじゃん。


(当然だな)


 どことなく満足げにコールナーが鼻息を吹いた。彼の機嫌がいいのはいいが、この速度を優先した状況で足並みが揃わないというのは問題でしかない。


 ぐるりとコールナーを取り囲んだ幻惑狐たちは、アロイスたちの手元に残したのを鑑みても十頭はくだらない。

 すでにあたしはフームスを、グラミィはターレムを懐に入れている。

 その上さらに集まってきた幻惑狐たち全部をコールナーに乗っけてもらうというのは……無理でしょ、これ。

 だったら、アロイスたちの方に残して、レジナの南側と、あたしたちの行く北側の連携を取るのに力を貸してもらった方がまだましだと思うのよ。


 問題は、彼ら幻惑狐たちと人間との意思疎通が難しいこと。

 今もノクスにアロイスの袖を噛んで、こっちに注意を向けてもらっているが、ボディランゲージでは、アロイスたちが理解してこちらに向かってくるのに時間がかかるだろう。

 幻惑狐たちの心話を聞き取れてるあたしの方が異常だって話はあるが、彼らの魔力は魔物のなかでもめちゃくちゃ少ない。並の動物レベルなせいもあって、彼ら単体と人間とじゃ、心話はまず通じないだろう。

 以前やらかしたように、人間たちを化かし、集団で心話を束ねて意思疎通を無理矢理に図るか、それともラームスの欠片たちに力を貸してもらい、視覚を共有するか。


〔化かしてのお話し合いは、やめさせといた方がいいと思いますよ。なにせ彼らってばその方式で、ボニーさんはいただくぞ宣言してましたし。〕


 グラミィがツッコんできたが、デスヨネー。

 また犯罪予告状みたいなコミュニケーション取られたら、今度こそアーノセノウスさんがひっくり返りかねん。


 ちょっと考えて、あたしは名刺サイズの石板を顕界した。ざっと状況をまとめて対応よろしくとぶん投げる文面を彫り込んで、と。

 じゃ、これアロイスたちに届けてね。できればそっちにまとまっててくれた方がありがたい。


(わかったー)

(いっしょはいいのー?)


 ニクス以外の幻惑狐たちも訊いてきたが、あたしたちの方にくっついてきてもらうのは、フームスたちだけでもまあなんとかなるだろう。


(むこうにもいるー)


 むこう?

 って。ああ。レジナの中にも、レジナの反対側にも幻惑狐たちがいるわけか。


(もっとー)


 ……もっと?


〔そういえば、アエギスで星屑(異世界人格者)たちを追っかけてもらってましたね……。でもボニーさんの命令なら、この子たちも全部戻ってきたんじゃないんですか?〕


 それはない。

 なにせこちらはあくまで行動の提案とかお願いをしている立場なのですよ、相変わらず。

 言うこと聞いてくれない連中が出るのは、ある程度想定済みだ。

 あのまんまテリトリーを広げに出てった幻惑狐たちがいたのも知ってるし。


 それじゃよろしくとニクスたちに礼を言って、東進してきたあたしたちは北上を始めた。街道もまる無視の方向もざっくりした移動だが、平原なんてそんなもんだ。

 足場が悪い?もともとコールナーは湿原の主ですよ。泥炭地も底なし沼も平地同然。むしろ、敷石なんていらんのだ。


 あたしたちが船を止めていたのは、レジナの南西数キロ圏内ってところだろう。

 対して推定ラドゥーンたちの逃走経路に近いプロテージット門は、レジナの北東にある。

 とうぜん、レジナを回り込まねばあたしたちは追いつけない。

 時計回りに行くには、港地区が邪魔になる。あっち側にバリスタが整備されているのはよく知っている。幻惑狐たちに一度弦は切ってもらったが、まあとっくに修復済みだろうね。

 遠回りしてアビエス河の上を歩くことも、水を操る異能を持つコールナーならできないわけじゃない。

 が、河というのは当然ながら流れている。湿地とは違う。そこを上流めがけ走ろうとすると、エスカレーターとか歩く歩道を逆走するような具合になってしまうというね。


よこごとはさておき。


〔ちょ、ボニーさん!気をつけて!〕


 反時計回りにレジナへと近づくにつれ、ばらばらと矢が飛んできた。

 もともとレジナは城塞都市だ。当然周囲を包囲されたときのことも想定しているのだろう。周囲には攻め手の遮蔽にされてしまうような林はほとんどない。

 水が豊富で木々が自生しやすい西側に木々が茂ってたのは、あれ城壁との距離を考えると、いざという時の木材供給源として、わざと伐採してないんじゃないかって気もする。が、さすがに街道側にはそんなものはない。レジナを襲撃した時は霧に隠れることができたが、ラームスの欠片たち樹の魔物を蒔くときは、けっこう遠巻きにしなきゃいけなかったんですよ。


 ……てゆーか、スクトゥム本国の心臓部ですよ帝都レジナって。

 どんだけ警戒してたとしても、そこが攻められてるって状態は、国として末期な感じだと思うんだけど。

 反乱とか内乱を想定しているのだとしたら、別の意味でも末期だろうに。

 いやだからこそ、示威として警戒を示しているのか?

 などと推測はしていたの、だが。


 近づけば何らかの形で攻撃されるとは思ったが、こう来たか。

 しかし打って出てくるわけでもなく、最低限の遠距離攻撃とか。甘い。


〔いや、攻撃されるかもとはあたしも思いましたけど!甘いってなんですか!〕


 甘いでしょうよ。

 あたしもグラミィも、森の顕現も維持もしてない状態なら、当然魔術は使えるようになってるんですよ。

 レジナ側に向けて回避の魔術陣を刻んだ結界を、コールナーの蹄先から鎌杖のてっぺんまですべてを覆う大楯のように顕界すれば、矢もつるりんと明後日の方に飛んでくし。

 それで防げている以上、甘い上にぬるい。


 防衛用でも攻撃手段ぐらいは持ってて当然。ならば、そもそも相手は、なりふりかまわず自動車モドキも持ち出してきた連中だ。

 レジナを襲撃した時に見たバリスタのたぐいは、戦力を誤認させるためのデコイで、今度は迫撃砲や重機関銃あたりが出てくるかもな、ぐらいにゃ警戒してたんですよ、あたしは。

 それに回避陣つき矢避けの結界は、一度アエギスで見せちゃってる。どれだけ対応されてるかが問題だとね。


〔だから、甘い、ぬるい。ですか〕


 一応、大楯結界の内側には、黒柄の槍なみに魔力吸収陣を刻んだ矢を使われても叩き落とせるよう、暴風エリアと静止陣組み込んだ結界を交互に組み込んで五重ぐらいは顕界してたんだけど。


〔いやそれ鉄壁過ぎぃ!数段構えとか、用意周到通り越して魔力の無駄遣いじゃないですか!〕


 安全策は考えられる限りの手を打っても足りないと見ればちょうどいい。いのちたいせつ。そう言ったでしょ?

……もっとも、安全第一は向こうもらしいね。


〔え〕


 風向きが変わって、鎌刃からたなびく霧というか飛行機雲モドキがレジナに向けて流れていったとたんですよ。斉射というにはばらばらとした矢の雨が止み、慌てて逃げ出す気配がしたのは。


〔毒煙でも振り撒かれたと思ったんでしょうか?〕


 ……そこまで極悪非道に思われてんのかあたしは。


〔いやいや、十分容赦ないでしょボニーさんは。そもそも六千人以上いた軍勢を、死神っぽい格好でさんざん脅して追い散らした人が何を言いますか〕


 グラミィ、こっち見ないで座っているくせに、器用に半目の気配を呆れた感じの心話に乗せてくるんじゃありません。

 あれはハッタリがほとんどだし、そもそもあたしだけの力じゃないし!

 ……それはそれとしてだ。


〔確かに思ったより少ないですね〕


 無人になった城壁を見れば、バリスタのたぐいが備え付けられている様子もない。

 これはおかしい。以前襲撃の時にもアビエスの方に多く設置されていたのは見た。だけど、それでも街道に面したこっち側にも何基か据え付けてあったはず。

 いや、そもそも中世っぽい、数メートルはある石の城壁のてっぺんにバリスタを備え付けるって、どうかと思うけどね?


 そもそもバリスタってのは、投石機同様『攻城兵器』のたぐいだ。それこそ攻城戦になどにおける通常の運用であれば、地上に据え付けてほとんど動かさないのが当然で、射角もあまりいじらない。というかいじれない。

 あたしも一度投石機を塔のてっぺんに据え付けるなんて無茶をやったことがあるが、だからこそわかることもある。それらの無茶はもともとの運用のしかたの理由、『くっそ重たい』『かなりな場所を取る』などの問題点を無視してやらかした無理だったってことを。

 実際、投石機を組み上げる時には、重力軽減使いまくりだったし。

 素人考えではあるけれども、あの塔ががったがたになった理由の一つには、投石機の据え付けと稼働なんて無茶をやったってのもあると思うのよ。いまさら自己申告なんてしないけど。


 加えて武器が重いというのは、頑丈であり、威力も高いってことではあるのだが、同時に取り回しが難しいということでもある。

 そんなもんが、火砲が使われるようになった時代の低く分厚い城壁に備え付けられていたのならまだしも、レジナの外城壁のように、比較的薄くて高い城壁の上に備え付けられていたらどうなるか?


 重心の変動や射出の反動で城壁に負荷がかかり、城壁――悪ければ石を積み上げ、その隙間に魔術で岩石を充填したもの、良くて魔術で作られた巨大な石のブロックを組み合わせただけの代物だ。間違っても鉄筋コンクリート製でも鉄板が入っているわけでもない――が倒れる危険があるってだけじゃない。

 バリスタって離れたところにいる相手には有効なのだが、ぴったり城壁に貼りつかれてしまうと撃てない無用の長物と化してしまうのだよ。


 そう、基本的にバリスタの射角調整って、基本的に仰角にするもんなのよ。発射の反動や重心の変動を考えると、俯角にするのは難しい。

 それを薄い城壁の上という、狭いスペースで、重たい武器のバランスを崩さず、真下が撃てるように設置なんてできない。

 つまり港に面してたくさん並べられていたバリスタも、アビエス河の流れにいたら危険だが、港の奥まで侵入してきた相手にはでくのぼう同然というね。なんという残念ぶり。

 だが、その残念武装でさえもないってどうなのよ。


 もちろん、それらの死角を補うためだろう、レジナの外城壁にもマチコレーション(出し狭間)のように、熱湯や石を投下する迎撃設備があちこちに設けられてはいる。

 が、攻撃力という意味ではバリスタとは比べものにならない。迎撃に使うものの危険性にもよるが、対物レベルから対人レベルに落ちてしまうのだ。それも個人から少人数を相手にするのがやっとというありさまだ。

 射手を伏せておいてフォローしようにも、見ての通り星屑たちは弓が下手くそときているし……。


〔わかんないですけど、向こうの失策はこっちのお得ってことにしません?〕


 だね。

 そうでなくても疑問はいくつも抱えているし。


(ほねー。なかまいるー)


 吹き飛んだ納屋の残骸を通り過ぎようとしたところ、フームスがきゅうと鳴いた。

 それに応えるように、黒っぽい幻惑狐が三頭近づいてきた。アルヴィタージガベルから連れてきた一団だ。

 

(にげたのみたー)


 お、どっちに行ったか教えてくれる?


(こっちー)


 ぴょいとコールナーの背に飛び上がってきたのはアウデンティアだ。

 つんと鼻先を向けたのは……おっと意外な方向だな。

 コールナーにもすまないが、いっしょについてきてもらおう。

 幻惑狐たちが森精同様、かなり自意識を共有しているのは知っているが、やっぱり直接嗅いだ個体の鼻の方が信頼性が高い気がする。


(わかったー)


 アグリスたちはレジナの内部にいる仲間に呼びかけて。集まったら北へ。アエギスから移動してきた群れと合流して。


〔ボニーさん〕


 再びコールナーが走り出すと、グラミィがあたしの袖を掴んできた。

 どうしたん?魔力がまだ足りない?


〔いやかなり回復しましたけれど。そうじゃなくて。ボニーさん、何が『意外』なんです?〕


 いやね、アウデンティアたちが教えてくれた方角ってのが、ペンデラコリウム街道の通る『北』じゃなくって、『北東』だったのよ。

 

 ペンデラコリウム街道は、アビエスの流れに沿い、スクトゥム本国どころか他の属州にもつながる大街道の一つですよ。

 一方北東って、それほどたいした道はなかったはず。

 それもあたしの記憶が正しければ、小高い丘陵地帯へと続いてたと思う。

 ペンデラコリウム街道から伸びた脇街道や間道はあったと思うが、それだって本街道より整備はされてないだろうし。


 で。

 車というのは当然のことながら、車輪がスムーズに回転できるような平坦な道でこそ、もっとも速度が出るわけですよ。

 なんでわざわざスピードの出ないような方へ行くかなあ?

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