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滄海変じて蒼森となる(その1)

本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

なおタイトルは青森ではありません。念のため。

「お帰りなさりませ。首尾はようございましたかな」

〔お疲れさまです、ボニーさん。……で、どうしたんですかその巨大マリモ?〕


 翌日の朝、野営のドームに戻ったあたしを真っ先に出迎えてくれたのはグラミィだった。

 心話と口調が相変わらず別物なのはさておき。巨大マリモってなにさ。


〔自分でわかんないんですか?首のところ、ワンポイントっぽくなってますよ〕


 ちょいちょいと自分の首を差しながらグラミィが心話で見せてくれたのは、あたしの頸骨と鎖骨の間からのぞいていた、ラームスの(こぶ)だった。

 というか、瘤だったはずのものだ。


 ……うーむ。存在感が違いすぎ。

 昨日まではゴルフボールぐらいのサイズしかない上、葉っぱだってちょろちょろとしか伸びてなかったはずなんだけどなあ。

 あたしの拳骨ぐらいの大きさにまで葉がにょきにょき伸びているのに気づかなかったとは。そりゃ鈍いと言われてもしょうがないか。


 今、あたしのお骨に絡み残っている樹の魔物、ラームスの欠片たちは、幹から切り落とされた後も、何度も枝葉を分けてもらったりしたせいで、今じゃいくつもの瘤と、それから伸びるひょろひょろした細枝と気根の塊になっている。

 グラミィが見せてくれたのはそのうちの一つだ。

 てことは、他の瘤もこんなになってるということか。


〔そんなになるまで、なにやってたんですか?〕


 まあ、いろいろ?


〔またごまかす気ですか〕


 ジト目で見られたが、んなことはない。

 アロイスたちにも同じ説明をするなら、一度で済ませた方がいいってだけですよ。


 あたしは夢織草(ゆめおりそう)で燻した『兜職人』に、一晩付き添った。

 正直な話、ここまで重篤な状態の人間に夢織草を使ったことは、アロイスもタクススさんもない。あたしはなおのことだ。

 最悪の場合、その寿命を縮めることになるかもしれない。そう思いながらもあたしは夢織草を『兜職人』に使うことを提案し、それは了承され、あたしが実行した。彼を生かすために。


 昨日の話し合いでは、『兜職人』に何もさせるべきではない、というところで意見が一致した。

 ならばいっそのこと、とっとと始末()してしまった方が後腐れがなくていいと主張したのは、尋問にあたったアロイスだ。彼はよほど『兜職人』の異質さに閉口したらしい。

 接した時間はアロイスよりよほど短かったはずのトルクプッパさんやラミナちゃんからも、反対の声は出なかったのも、同じ理由からだろうか。

 

 それを夢織草で燻すだけにしたのは、あたしが『兜職人』を生かしておくよう主張したからだ。それも強硬に。

 しぶしぶアロイスたちが説得されてくれたのは、主に、一回の尋問だけでは取りはぐれた情報があるかもしれないという理由による。

 ただし彼らは説得されてくれはしたが、納得はしていない。


 それはそうだろう。

騎士として、そして国の暗部に身を沈めた者として、命のやりとりも数多経験してきたアロイスにも――いや、そのように命の重さを、身に刻んできた彼だからこそ、なのかもしれないが――、人をモノとしか見ていない『兜職人』と会話することは、その価値観を共有するかのように振る舞うことは、精神的に消耗を招くものだったんだろうし。

 より長く深く接すれば接するほど、『兜職人』の異質さ、相容れなさに、その影響を受けることを反射的に嫌悪し、拒絶しようとすることも理解はできる。


 グラミィも複雑な表情だった。生かして話を聞き出すにしても、ミイラ取りがミイラにならないでくださいよと心話でつっこんできてたくらいには、『兜職人』に警戒もしている。


 彼女も基本はあたしと同じ、人命は惑星よりも重い世界の住人だ。

 でも、だからこそというべきか。『兜職人』への忌避感は強かったんだろう。矛盾を自覚しながらもアロイスたちの判断に、消極的にでも同調するくらいには。

 だけどミイラ取りがミイラって。その前にあたしゃお骨ですが。


〔それは重々承知してますけど!茶化さないでくださいよ〕


 真顔になったグラミィは、じっくり釘を刺してきた。


〔染まんないでくださいね。ボニーさんてば案外周りの影響受けやすいんですから。アロイスさんがしぶったのも、波風立てないよう『兜職人』の考えにあわせた会話を指示されたからってのが大きいみたいですし〕


 ……深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだってか。ニーチェかな。


 確かにあたしは存在における物理依存度が低いせいか、精神面が実在を与える影響はかなりでかい。そして周囲の言動に思考も感情も左右される。

 アーノセノウスさんにちょっと拒絶されたからって、激しくへこみもしましたし。コールナーがよりそってくれたからこそ、なんとか回復もできてきた。

 グラミィの懸念を否定はできない。


 加えて、この施設の危険性もはっきりしている。その管理権限を持った人間を生かしたままにしておくのは、不安材料にしかならない。

 しかも『兜職人』は、この世界の人命に価値を認めていない。ひょっとしたら星屑(異世界人格者)たちのそれにも。

 ということは、同じ『運営』――ラドゥーンの一員のふりをしているアロイスはまだしも、それ以外のあたしたちについては、いつ殺そうとしてくるかわからない、ということでもある。

 危険な敵を生かしておくなど、甘いと思われていてもしかたはない。むしろ不審がられてもしょうがないことも、十分理解している。


 それでも、あたしは敵意を見せてもいない相手を殺すのはイヤだった。

 たとえそれが、蟻の巣に熱湯を注ぐ幼児が個別の蟻に敵意も殺意も感じていないようなものであってもだ。

 相手の異質さ、理解のできなさに怯えて殺害を選ぶのは、絶対の拒絶を断行するのは、負けてしまったような気がしてならないからだ。

 それは相手に価値を認めず、それゆえにたやすく人命を消費する『兜職人』の、『運営』――ラドゥーンのやり方と同じだ。


 ……畢竟(ひっきょう)、あたしが人の命を惜しむのは、その重さ尊さを理解しているからじゃない。ただ、死なれるのがイヤだという私利私欲、我が(まま)ゆえなのだろう。


 生身組が朝食を摂り終わったところで、あたしは説明を始めた。


(あの者はまだ眠り込んでいる。昨晩夢織草を焚いてから、あの部屋にも多少手を加えておいた。目覚めたとしても、あの者にできることはほとんどないだろう)


 そう伝えると、アロイスたちは微妙に引きつった顔で頷いた。


 なお、『兜職人』を生かしておくのにアロイスたちが同意してくれたのには、他の理由もある。

 一つは、彼の病状が、あたしたちの見てきたウィキア豆中毒の症状の中でも、かなり重篤なものであるということ。

 重病人なら施設の操作権限を取り上げ、周囲にある仕掛けをすべて取り除くか、利用できない状態にしてしまえば無力化できるんじゃないかと伝えたら、アロイスはかすかに頷いたものだ。

 だけどそれは『兜職人』を生かしておくデメリットを抑制はできるが、メリットにはならない。

 尋問であらかた情報を抜いたのだから、絞りかすをこれ以上生かしておく必要はないじゃないかというアロイスの主張を抑えるには、それ相応の理由が必要だった。

 だからメリットとしてもう一つの理由を提示した。

 それが、あたしの研究対象としての有用性、だった。


 あたしだって何も考えてないわけでも、むやみに甘いだけじゃないんですよ、というところも見せておきたくて伝えたんだけどなあ。

 アロイスたちには一斉に引かれるというヲチがついた。今の微妙な反応もそのせいだろう。

 何も人体実験とか、非人道的なことをやらかす気は欠片もないんですが。


〔ボニーさんはナチュラルに突拍子もないことしますからねえ……〕


 昨晩もグラミィに生ぬるい笑顔でしみじみ言われたもんな。

 あたしをどんな目で見てるんだみんなと心話で愚痴ったら、前例がありすぎますからと言い返される始末ですよ。

 しまいにゃいぢけるぞ?


「『夢織草の煙はおおかた散った。地上階ならば出入りしても害はないと思うが、用心してもらいたい』とのことですじゃ」

「重々承知しております」


 アロイスが頷いた。彼はあたしや毒薬師のタクススさんとともに、夢織草を扱った経験がある。だけどグラミィも気をつけてね?


〔最初に魔術で風を起こして換気すること。その後もちょくちょく換気はすること。なるべく一度の作業は短めに、ですね?〕


 そうそう。


 トルクプッパさんやラミナちゃんにも、戸外での警戒と地上階の備蓄庫の確認作業を交代でしてもらうことになった。

 備蓄庫の食糧その他は、基本的にゾンビさんたちのためのものだ。

 ということは、現在進行形で利用されている以上、ある程度は安全性が保証されているということになる。

 それこそ船団の食糧としても確保してもいいのだが、念のため、グラミィには、樹の魔物たちに毒を確認してもらうようお願いしようということも伝えておいた。


 一方、あたしは一人で何をするのかといえば、施設の深層に潜っての探索である。

 いくら短時間しかやってないとはいえ、『兜職人』を夢織草の煙で燻しちゃったせいで、深層階に生身組を入れるのは、まだ少しためらうんだよねー。

 幻惑狐たちが(におうー)という間は立ち入り禁止でいいと思うの。『兜職人』たちが用意した換気システムも信用しきれないから。


なお、あたしが一人でいることにもメリットも多い。

そもそも敵の危険はほぼなく、人目もなければやれることが増えるとあれば、やらないわけがないでしょうよ。


 ゴンドラで降りると、あたしは『兜職人』の枕元に立った。

 ……うん、転写はほぼ完全に終わったみたいだな。


 スクトゥムの中でも東方より特徴が多い外見からして、『兜職人』もまた、この世界の人の身体に異世界人の人格を搭載した星屑の一人であるだろうと思われる。

リトスで遭遇したマグヌス=オプスのような、落ちし星(異世界転移者)ではない。

 ならば精査しておくべきだろう。その魔術陣を。

 そう考えたあたしは、昨晩『兜職人』を夢織草で燻した後、まだお骨に絡んでいるラームスたちに協力してもらい、その額に刻まれた魔術陣を写し取ることにしたのだ。


 あたしが星屑と遭遇したことは数知れない。スクトゥム国内では特に。

 だけど、その額の魔術陣を完全に確認できた回数は、意外と少なかったりする。

 最初にのした星屑三人組はともかく、グラディウスの船乗りさんたちは、例の地獄門術式のことがあったから、そんな暇はなかった。

 ゲラーデのプーギオの二の舞なんてさせたくなかったから、リスポン狙いの自決なんてさせないようにと無効化するのが先決だったのだ。あのときは。

 

 ……そう考えてみると、ゾンビ化されたクラーワの行商人さんたちやゾンビ化された人たちの魔術陣は確認できてるけど、異世界人格を搭載した状態の魔術陣って、あんまりしっかり確認できてないかも?と思ったわけですよ。

 星屑たちを預かってくれているあちこちの森精たちは、各自で研究をしているのかもしれない。

 だけど、あたしはあたしで進めてたって、何も問題はないよねえ?


 そっと『兜職人』の額を覆っていたラームスたちの葉を取り除く。

 解析に協力してくれるラームスは、その大部分をイークト大湿原の向こうに置いてきた。

 今、あたしのお骨についてきてくれてる欠片たちがローカルネットにしか繋がらないスマホなら、フェルウィーバスに根付いた方はといえば、超巨大スパコンに直結したハイスペックゲーミングパソ、いやそれ以上の処理能力持ちの端末だ。ご本尊の闇森も近いし。

 それでもあたしが直接魔力を見るより、彼らが知覚してくれる方がより精密に把握ができる。

 これは放出魔力の量と、出力や性質の違いからきているものらしい。

 おかげでゾンビ化に使われている人格抑制陣以外、異世界人格を搭載させる人格召喚陣ともいえるものは、かなり鮮明に転写することができた。

 あとはこれを解読するだけのことだ。


 ついでに『兜職人』の胃袋へ、チューブ状に構築した結界を使って生身組の朝食のお粥や水分を送り込んでおいたのは、死なせないための最低限の延命措置だ。

 部屋に出しっぱなしになっていた使用済のお皿を洗ったり、ざっくり掃除をしたりしたのは、まあ、死なせないためには衛生環境の維持も大事だからということにしとこう。


 ラームスの細枝に、『兜職人』の意識が戻ったり、様態が急変したら知らせてねとお願いをして、岩石を構築する術式で作った一輪挿しに活けると、あたしは部屋を出た。

 『兜職人』からかっぱらった認証システムのおかげで、どこもかしこも立ち入り自由になったのはありがたいが、やらなきゃいけないことも山積みだ。

 まずはゾンビさんたちの世話をしなければ。


 あたしたちはわりと好き放題させてもらっているが、あくまでも軍団の中の一偵察部隊にすぎない。

 それも、大帝国に無謀な侵攻をしてきた僅かな軍勢のだ。


 後方支援の本陣は、はるか千ミーレペデースは離れた北方、イークト大湿原の向こう。

 捕虜のたぐいも負傷兵も、近代戦なら後方移送が基本だとは思うが、絶対安静に近い負傷兵の身柄すら送れないのが現状だ。

 

 もっとも、アロイスに戦いでの捕虜の扱いを聞いてみたらだいぶひどかった。

 身代金が取れそうな高位貴族は身ぐるみ剥いだ上に、簡素な衣服を着せられ、手足の自由を奪ってとはいえ、丁重に監獄となる城へと運ばれるんだそう。服も一財産だからね。

 だがこれはまだいい方なのだ。


 騎士ならばさほど高額な身代金を取れる見込みがないので、なけなしの財産とも言える鎧甲冑一式をひっぺがし、剣と馬も奪って下着で放り出す。

 従士の中でも高位貴族の子弟ではないものは、下着すら全部ひっぺがして殺される。捕虜にさえしてもらえないのが当たり前と言うね。

 なんでこう、人権のなさっぷりは向こうの世界の中世ヨーロッパっぽいんだろうか。まあそれだけ余裕がないんだろうけど。


 だけど余裕のなさでいうなら、あたしたちはもっと悪い。ゾンビさんたちを捕虜にするのはまず不可能だ。

 あたしたちだってなるべく早く船団と合流しなければならない。ゾンビさんたちの世話をずっとここでし続けるわけにもいかない。

 後方移送もムリだし、そうかといって船団の少人数で面倒を見ることもできない。やったらたぶん機能的にはパンクする。


 そもそも、あたしたちは少人数だからこそ、敵国の首都周辺で大軍をひたすら避けながら逃げ回るという行動ができている。遅滞戦闘にもならぬ遅滞行動がコンセプトです。

 この状態で移動速度の優秀さを下げることになっちゃうような真似、自殺行為にしかならないんですよ。


 もちろん、ゾンビさんたちを放置することもできる。できるが、その後どうするってなもんですよ。

 この施設にいつまでも留まらせておくわけにもいかない。備蓄はいつか尽きる。そもそも、周囲から魔力を収奪して、彼らの生活環境を維持しているとはいえ、それは本当に最低限度なのだ。

 解放するにしても、全員に覚醒陣を施すとしたら……時間も魔力も一日二日じゃ足りません。


 かといって、ゾンビのまんま、解放したらどうなるか?

 おそらくは、あのベッドの棚で身動きもせず、餓死か凍死ということになるだろう。

 なにせゾンビ化された人間は、他の命令がない限り動かない、という命令を守っているようなのだ。

 おまけにあの部屋は、食事の提供や照明だけでなく、室温も魔術具で保たれている。

 魔力吸収陣を使って蓄えられていた魔力がいくら膨大だったとしても、限度というものがある。

 さらに言うなら、彼らゾンビ化された人たちが着させられているのは、通常の布で作られた服ではなかったのだ。

 正確には、織物ではなかったというべきか。


 彼らの服、敷布の備蓄は地上階にあった。加えて居室からそれらが投げ込まれたダストシュートは地下三階、魔力吸収陣のある部屋に通じていた。

 おかげで幻惑狐たちの視界越しではない状態で確認することができたのだが、そこでようやくそれらが不織布だということがわかった。

 作りとしては長い繊維で作られた和紙に近い。

 紙で作られた布というのは、たしかにむこうの世界にもあったはずだ。それで作られた紙衣とかいう着物の存在も聞いたことがあるが、あれはたしか紙縒(こよ)りを糸と一緒に織り込んで作るものだったはずだ。


 ひょっとしたらと思うのは、以前アエスで見た夢織草で作られた紙の存在だ。

 あれは陣符の材料になっていたようだが、繊維の取り出し方、繊維同士をくっつけあう定着剤や、繊維同士を絡め合いほどけないよう、均一なシート状に()く方法などは応用が利く。

 その厚みを変えれば、不織布めいたものが作れなくはないだろう。

 

 最初に見たときは唖然とはしたが、紡ぎと織りという、時間と手間のかかる作業が不要なぶん、布としては作りやすくなるのだろう。

 なにせスクトゥムでも、機械式の紡績機や織機というものにはお目にかかったことがない。ということは、この世界の布は糸からすべて手仕事で作られているということになる。

 『運営』だの星屑たちだのが持ち込んだ技術でも機械織りが実現していないのであれば、布は超貴重品になって当然ですとも。

 そんなものを片っ端から魔力還元(使い捨て)なんてできないでしょうよ。いくら衛生環境の維持とかでも。

しかし、そんな植物紙とどっこいな服に暖かさなど求められるわけがない。


 たとえ、同じ備蓄庫にあった、初期装備一式を身につけるよう指示するってことで、服の問題をクリアしてもだ。今のゾンビ状態では指示を出さない限り、あの犠牲者たちはこの施設から移動すらできないのだ。

 たとえ移動するよう指示をしてやるにしても、街道に向かえと、街道に出たら街道に沿って移動しろと、細かく指示を出し続けない限り、いいとこ湿地で集団野垂れ死にが発生するだけだ。


 たとえ街道沿いに移動させても、幾分かのタイムラグを経てレジナに異変が伝わるだろう。

 それも、ただ警戒を引き起こすだけならいい。ラドゥーンたちにここカッシウスの異変が、『兜職人』の身に何かがあったと伝わったとしても、許容範囲だ。

 問題は、向こうにこのゾンビ化技術のおおもとがある以上、送りつけたゾンビさんたちを、即座に向こうの戦力にされかねないというところだ。

 それはゾンビ状態であろうと、自我を取り戻させても同じこと。

 こちらから敵に戦力を贈呈するわけにもいかない。


だったら向こうに利用されるより前に、いっそのことゾンビ状態のまんま、こちらの手駒としてしまえばいいのでは?

 レジナめがけて突っ込め、というほぼ嫌がらせのような命令をすることも、確かにできなくはない。ないのだが。

……たぶん、そんなことしたら、レジナの連中、本気でゾンビの襲来と考えて殺しにかかるだろうな。

 この世界をゲームの舞台と思っている星屑たちからしてみれば、MMORPG要素にちょっとホラー混じりましたー、てなものだろうし。タワーディフェンスやるぞとか盛り上がりそうだな。


 だけど、それは、せっかく救ったはずの命を浪費させるだけの行為だ。

 ……そうかといって、ゾンビさんたちを今、ここで、あたしたちが始末する(手に掛ける)、というのも違う。間違っている。それは絶対だ。

 『兜職人』のやり方、ラドゥーンたちのやり方を拒絶しておいてその同類に堕すのはあまりにも耐えがたい。


(おい)


 悩みながらホールまで出ると、上から心話が降ってきた。

 見上げれば一角獣の枝角が、入口から差し込む光にうっすらと光っている。


(何かあったのか、コールナー)

(ああ。森が来ている。上がってきてくれ)


 森精が?!

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