兜の意味(その6)
本日も拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。
〔……なにする気ですか、ボニーさん。遊んでる暇はないんでしょ?〕
わかってますとも。これは念のためだ。
〔念のため?〕
いぶかしげにグラミィは眉をひそめた。だけどこれは大事なことだと思うのよ。
地下二階では、ゾンビさんたちの生活環境を維持するためだけに、あれだけの魔術具が使われていた。
ということは、魔力の供給源が、この施設のどこかにあるということになる。
だって魔術具が何種類もあるのはともかく、数もはんぱじゃないのだよ。
明かりの魔術具なんて、たぶん全部の寝床にしかけてあったんじゃなかろうか。
当然、消費される魔力量も、相当なものになるはずだ。
魔術学院でだったか、前に教えてもらったことだが。
この世界の魔術具は、大まかに二種類に分けられる。
異能ある魔物の身体の一部――体毛や羽根は言うに及ばず、尻尾や毛皮、あるいは骨といったものもだ――を組み込み、その異能を小規模で発揮させるタイプのものと、記述した魔術陣を発動させるタイプのものがあると。
そしてそのどちらも、使うのには魔力が必要になるのだと。
だから、魔術具を使用できるのは、基本的に魔術師に限られる、ということになっている。
〔魔晶でも備蓄してあるってことですか?〕
あれだけの魔術具に必要な魔力すべてをまかなえるだけの魔晶って、相当な量になると思うんだ。
それも一日二日とは思えない。長期になればなるほど必要量は倍増する。
魔晶なんてもんが、しかも膨大な量保管してあったら、よほど厳重に封印でもしてない限り、魔力に敏感な幻惑狐たちが気づけると思うの。
それよりあたしが警戒しているのは、魔術陣が設置されている可能性だ。
カプシカムのように、イークト大湿原に棲息していた魔物ぐらいはあたしも知ってる。だけどスクトゥム全土にどれだけどんな魔物が棲息しているか、詳しいことは知らない。
けれど幻惑狐たちの鼻ならば、魔物素材の匂いぐらいは嗅ぎ分けられると思うのよ。
だけど、あたしたちと一緒に降りていくとき、彼らは何も感知しなかった。
ということは、魔物素材を利用するタイプの魔術具は設置されていないか、もしくはあったとしてもほんの僅かなものだろうと推測できる。
だけど、スクトゥムに魔力吸収陣の知識があることは確実だ。アエギスの戦いで持ち出してきた槍にだって、かなり強力なものが実装されていたからなあ。
あれ、魔術に依存する方式はもちろん、魔術に頼らない、術式破壊して魔力吸うたろか方式に比べても、あたしがやらかす魔力吸収と同等か、それ以上に強力だったからね。
〔ってことは……〕
そう、あたしは魔力の供給源として、魔力吸収陣がここのどこかに設置されているんだろうと考えている。
幻惑狐たちを送り込んだのは、人感センサーつきの魔術陣で、人間がいると判明した地下二階と地下四階のみ。
無人と判断した階を飛ばしたのは、時間を掛けすぎるのがまずいという判断による。
だけど、人の気配がないからとスルーした地下一階、そして地下三階も、このまま通り過ぎるのは危険だ。危険というよりむしろ無謀なレベルに思えてきたのよ。
魔術具なり、魔術陣なりがしかけてあるのだとしたら、無人イコールあたしたちに無害なエリアとは……考えにくい。
単に魔力吸収陣が設置されているだけでも、けっこうな問題だ。
魔術具への魔力供給源になるということは――供給対象である魔術具がどのようなものかによるが――、家電や便利グッズレベルの機能すら、あたしたちへの攻撃手段とされかねないってことでもある。
明かりは目潰しに。
風は行動の阻害に。
推定自走式掃除機だって、乱戦状態であんなものが足元にまとわりついてきたら、危険極まりないでしょうが。
魔術師の一人もいれば、供給される限り魔力量が無限になったようなもんでしょう。施設の中ってことも考えずにガンガン魔術をぶっ放してこられたら、あたしたちどころか向こうだって危険になるというね。
ま、その場合はあたしが術式破壊で魔力吸収しちゃえばいいだけのことですけど。
しかし、魔力吸収陣というのは、陣に接触したものから魔力を吸い出す。
結果、魔力を吸い出されたものは一気に劣化するのだ。
地は荒れ、水は凍り、風は凪ぎ、火は消える。魔喰ライにやられた犠牲者はミイラ化して、甲冑や服すらボロボロになるが、あたしが芋刺しにされた槍だって、あの吸収強度を考えれば、それに似たことを起こせても不思議ではない。
そういう意味でも、あの槍はあたしから見れば不良品ですよ。
持ち主すら、手入れの最中にうっっかり怪我でもしちゃったら、死亡事故の起きかねないブツとか。あかんでしょうが。
あたしならば持ち主の登録認証システム組んだ上に、たとえ生体に刺したとしても、戦闘不能になるレベルまでしか魔力を吸わないよう、セーフティをつけるね。絶対。
〔わぁ……〕
グラミィの顔が引きつった。魔喰ライの犠牲者を、そして魔喰ライの最期の痕跡を間近で見た記憶が蘇ったんだろう。
真面目な話、あたしが想定しているように、超強力な魔力吸収陣が仕掛けられ、この施設の周辺から魔力を吸収していたとすれば。
外に広がる湿地だって魔力をカラッカラになるまで吸い出され、表面に土埃の舞う、生命の痕跡の全く感じられない荒野になってた可能性はゼロじゃないと思うのだ。
その前に制御を誤れば、巨大なガラスのクレーターになってた可能性もあるが。
だけど外の湿地は見たところ、大量の魔力を吸収されているような気配はなかった。
この建物自体の深さを考えると、湿地の地中深くから魔力を吸収してるせいで、地表にはまだ目に見えるような影響が出ていないからかもしれないが。
〔やっぱり魔晶を集めてるってことは……ないですか。ないですよね〕
ないでしょうね。
繰り返すが、魔晶は、貴重品なんです。
ゾンビさんたちの生活環境維持のためだけに、電化製品モドキの動力源に消尽しつくすのは、あまりにももったいないんですよ。
それに幻惑狐たちが寒さを感知していた以上、物理的な冷えばかりでなく、魔力の減少も、あたしが感知できてないだけで、もうすでにかなり進行しているのかもしれない。
魔力をどこから集めてくるんだ問題が解決するとはいえ、魔力吸収陣だけでも十分な脅威だ。
だがあたしがさらに警戒しているのはは、スクトゥムは魔力吸収陣以外の魔術陣についての知識も豊富に蓄積しているだろうと思われることだ。
あのド外道転移術式とか。
〔…………〕
豊富な魔術具をゾンビさんたちのメンテに使えるぐらい、潤沢な魔力がここにはある。
ならば、他の魔術陣だって発動可能と考えるべきでしょう。
ただ、あの地獄門は、陣を彫り込まれた生贄――人間の血肉や精神すらも、術式の維持に消費されていた。
そのことを考えると、単純に魔力量が足りてても、知らないうちに陣を発動されて、いきなり大軍を送り込まれ、多勢に無勢状態でボコボコにされるって可能性は、低いと思う。
〔朗報ですね、それは〕
それが文字通り人間をすりつぶして得られるリソースが不足しているから、というのは皮肉がすぎる。
だけどね、地獄門より術式の維持にリソースの入らない魔術をスクトゥムが実用化してないかっつーと……そんなわけはないのだよ。
星屑が搭載されていた、グラディウス地方の船乗りさんたちの胸には、人間一人なら転移できる陣が刻まれていたし。
その船乗りさんの心臓とひきかえに、だけど。
〔……それ考えると、まーたボニーさんの心配性ですか、と言えないのがイヤですねー…〕
半目のグラミィが、ラームスたち越しにぼやいてきたが、しょーがないでしょうが。
あたし一人ならば、そりゃ多少の無理無茶もごり押すけどさあ。生身のあんたたちがいっしょだと、生存にはどれだけ気を配っても配りきれん。
だったら直に触れ得た情報をもとに、ありとあらゆる状況と可能性について考え、より危険を回避できるような対策を立てつつ進みますともさ。
〔いや、ボニーさん一人の時でも、そこは気をつけてほしいんですけどー〕
あたしゃ、生身で言うなら心臓やら動脈やら破壊されるレベルの負傷を、この世界で、もう三回はしてるんですよ。それでぴんぴんしてられるの。
あんたたち生身の人間としての生命の危機と、存在はするが概念体というか、この物理依存度が低下している状態の、あたしの存在消滅の危機を同レベルで扱おうってのが間違ってるでしょうが。
それに、あたしだって安全マージンは取ってますとも。一応。
〔その副詞が不穏なんですが!〕
つっこみながらも、グラミィはみんなに手早く心話の内容を伝えてくれた。
そのおかげで、ようやく真面目な相談ができた……わけではない。
この状態で、これ以上あたしたちに割ける時間はおろか、人手もないのだ。
魔術師であるトルクプッパさんが、魔術陣対策としては有効でしょうと全面的に賛同してくれたこともあり、結果的にはあたしの提案がまるっと通ることになった。
ではよろしく。
あたしはラミナちゃんとアロイスに、小さい礫にした魔術陣をざらりと渡した。
やることは簡単である。これを彼らに無人階へと撒いてもらうだのだ。
魔力吸収陣は、複数個が効果範囲内にある場合、お互いにその効果を食い合う。
つまり、AとBとCが互いの効果範囲内にあった場合、Aが満タンになったら次はBに、そしてCにというように、順番に魔力が貯まってくわけではない。
じりじり拮抗状態が続くのだが、その際には互いが蓄積した魔力すら吸収しあうというね。
しかもこれ、同じ魔力吸収陣同士だけでなく、別の種類の魔術陣が対象でも発生するのだ。
結果、どういうことが起きるかというと。
魔力吸収陣が魔力を吸うのをやめない限り、その効果範囲内にある魔術陣には発動に必要な魔力が回らなくなるんである。
上手く使えば、他の魔術陣の発動阻害にも使えるというわけだ。
正直、魔術陣以外の何かが仕掛けてある可能性だってある。
だけど魔力を必要とするしかけならば、なんだって妨害できるんですよ、これで。
魔物素材の魔術具だって、回る魔力がなくなれば当然発動しなくなる。隠れ潜んでた魔術師がいたとしても、魔術を顕界する前に、術式からはぷすぷす魔力が抜けていくということになるだろう。
地下一階につき、ラミナちゃんとアロイスがアンダースローで床面近くを投げた魔術陣は、注文通りその通路の中間ほどで止まっていく。
あんまり奥へ投げちゃうとね。前に投げた換気用魔術陣と魔力を食い合ってしまうので、換気陣が動作不能に陥ってしまうのだ。
〔さすがに窒息はしたくないですー〕
そりゃそうだろう。あたしは呼吸してないから無関係だけどな!
なお、今投げてもらった魔力吸収陣には、通常の魔力を含む無機物、及び人間や魔物などの生物からは魔力を吸収できないよう、条件をつけておいた。
さすがにここの設備を劣化させたり、近づいた幻惑狐たちを衰弱させたりするわけにもいかないので。
ただし、これだけではあたしが近づくこともできない。後処理ができなくなると困るので、ある特定のリズムで振動を与えると止まるような条件式もつけておいた。
同様に地下三階でも、アロイスたちに魔術陣を撒いてもらう。
……これで、実は大穴、魔晶の貯蔵庫があって、それで消費した魔力をまかなってましたとか言ったら……貴重品を無駄に溶かすことになるだろう。
まあいいか。
その場合も、多少のロスはあるだろうけれど、魔晶に貯められてた魔力は、すっぱり魔力吸収陣に納まるだけだし。
あたしの懐が痛むわけでもなし。
そこまで小細工をすませたところで、あたしは思い立ったことがあったのでコールナーに心話を向けた。
(なんだ?)
(頼みがある)
……ゴンドラに戻ってきてからこっち、コールナーってば、またもやあたしの頭蓋骨をはぶはぶとはみ続けてるんだよね。
困ったもんだが、頼みってのは、そのはみはみをやめておくれってことではない。
たぶんコールナーにとって、あたしはライナスの毛布になってるんだろう。
ちょっと離れただけで、こうも執着というか、分離不安じみた行動を見せるようになったのは予想外だったけれども。
当のコールナーの決めたことではあるが、彼は自分の縄張りを離れてまで、あたしのそばに行きたいと望んでくれた。
ならば、代理母モドキというか、安心の基地がわりになるぐらいは引き受けますとも。はみはみぐらい甘んじて受けましょう。
いざ状況が緊迫でもすれば、ちゃんとできる子ですよ。コールナーは。
(今、わたしたちは敵が確実にいるところへ向かっている)
(戦いになるのか。前に出ろというのだな!)
一角獣は勇み立ったように枝角を揺すったが、お願いしたいのはそれでもないんだよねー。
(敵の前で、喋らないでほしい)
(なぜだ?)
予想外の要望だったのだろう。グラミィまで寄ってこようとして、コールナーの枝角にぶつかりそうになり、慌てて手で角を抑えてたくらいだ。
狭いゴンドラの中で詰めてくるのはよしなさい。理由は簡単だし、今教えようとしてたとこなんだから。
(やつらに、コールナーの『声』を聞かせたくない)
だけどそう心話を発した途端、グラミィがみるみる残念な人を見る目つきになった。
やめなさい、グラミィから話を聞いたトルクプッパさんやアロイスどころか、ラミナちゃんまで同じ目つきになるのは。
有象無象に聞かせたら、コールナーが減る的発想をあたしがしてると思ってるでしょあんたら。その溺愛設定は間違いだから。
いや、コールナーのことはもちろん大好きですよ?
あたしがこんなお願いをしたのにも、もちろん理由がある。
コールナーの心話は、なんというかレンジが広い上に、出力自体も大きいのだ。
そのせいであたしと会話しているときでも、意図して小声に調節しないと、アロイスのように魔術師じゃない相手にすら聞こえてしまうのだ。
条件はあるらしいのだけれど。
コールナーに比べ、幻惑狐たちの心話は、レンジも狭く、出力もさほど大きくはない。
たとえば、アロイスの連れている黒毛の幻惑狐は、イークト大湿原を渡ってスクトゥムに入る前から、ずっと世話をし、ノクスという名前までつけている一匹だ。
だが、今もってアロイスにノクスの『声』は聞き取れていない。
ノクスもそう無口な方でもないで、(あかげー)とか、アロイスには頻繁に話しかけてはいるのだが、当のアロイスはそのコミュニケーションを単純に懐いたりじゃれたりしているだけ、としか解釈していないようだというね。
一応、ノクスには必要なときには通訳したげるから、話が通じなくてもがっかりすんなとは言ってあげたんだけど。
ノクス本狐があんまり気にしていなかったというオチがついたりもしたっけ。
だけどこれは、何もノクスとアロイスだけに限ったことじゃない。
というか、そもそも人間が魔物と話ができることの方が珍しいのだ。
魔術師のトルクプッパさんですら、基本的に幻惑狐たちの『声』を聞くことはできてないしね。
いや、もちろん幻惑狐たちの『声』を、あたしが利用したこともある。化かしてもらった人に、あたしが心話ではなく、肉声で話しているように知覚をごまかしてもらうという形でだ。
だけど、あれはあたしが魔力を彼らに与えることで、強引になんというか、出力を上げたからできたことなんですよ。
レンジが狭くても、そこそこ強い電波であれば受信は可能ってことなのかもしんない。
前に幻惑狐たちがあたしの身柄を引き取ろうと。人間に対して心話を使い、団体交渉に出たというのも、おそらくは彼らが群体として束ねた魔力を使い、同じ要領でやらかしたことなんじゃなかろうか。
そう、あたしたちについてきてくれてる魔物たちの心話って、傍聴される危険というのは意外と低いのだ。
だが、コールナーは、今あたしが知る限り唯一の、魔術師ではない人間にも、その『声』を認識させることができるほと、強くて広い心話の持ち主だ。傍聴される危険が最も高い。
〔いやでもボニーさん。いくらコールナーとボニーさんの心話が傍受されたとしても、コールナーの『声』しか聞こえないはずでしょ?〕
グラミィが言うように、確かにあたしやグラミィの心話は、ほとんど傍受される危険はないと言えよう。
というか、コールナーより遙かにレンジも狭く出力も弱いため、人間の心話というのは、すぐ近くにいる受信者にしか聞き取れないもののようだ。
その上あたしとグラミィは、用心に用心を重ねて、ラームスたち樹の魔物越しにやりとりをしたり、相手の身体のどこかに接触し、そこから心話を送り込む接触心話をするのが現在のデフォルトになっていたりもする。
なお、心話が行われていること自体は、魔術師にならわかるものらしい。
アーノセノウスさんには、初っぱなから感知されまくってたもんなー。
心話についての知識を、スクトゥム側がどれだけ持っているかはわからない。けれどわざわざこちらから情報を公開してやる義理もない。
だったら、魔物たちに心話が使えるなんて情報も与えてやる必要がないでしょうが。
むしろ秘匿扱いでもいいくらいだ。
〔そこまで極秘ですか?!〕
『心話ができる』というのは『言葉が通じる』と同義であり、言い換えるなら『人間の意思を理解できる』ということでもある。
つまりそれは、魔物が『わけのわからない敵対存在』ではなく、『人間が従順にしつけられる有用動物』扱いされてもおかしくないってことになるんですよ。
(馬鹿馬鹿しい)
心話で説明してあげると、コールナーが勢いよく鼻息を噴いた。
いやだから。はみはみしながらそれはやめて。
頭蓋骨のつなぎ目から鼻息が入ると、眼窩の骨に当たって、えらいすーすーするんです。
(なぜ会話ができるからと言って、従ってやらねばならん?!)
だけどコールナーが憤慨するのも当然のことだろう。彼ら魔物は飼い慣らされた家畜じゃない。
あたしだって、コールナーには命令なぞしたことがない。初めて会ったときからずっとだ。
代わりに、お願いはけっこうしている。彼の塒だったマレアキュリス廃砦で、一晩過ごさせてもらえないか、とかね。
幻惑狐たち相手にだってそうだ。あたしは基本的に提案とお願いしかしていない。
いろいろ便利に動いてもらっちゃいるが、それはあくまでも彼らの自由意志による。誓約によって縛っている四脚鷲のグリグとは違う。
イヤだといわれたら、じゃあしょうがないと諦めて別の手段を探しますとも。
〔だいたいその別の手段ってのが、ボニーさんが直接動くってことになるんですけどねー〕
グラミィが溜息をついた。
〔でもまあ、動物認識でも、魔物だと理解できてても、星屑たちならきっと、テイミングとか考えそうではありますよね〕
まーね。
異世界もののテンプレってやつに脳内汚染されていれば、たとえ小山サイズのドラゴンだって、孤剣一本で倒すことも従えることも可能と思いかねん。
まして星屑たちはこの世界をゲームの舞台としか認識していない。
だったら、テイマーにジョブチェンジしよう、とかアホなことを考えないやつが出てこないとも限らない。
むしろ、とっくに野生のフェルデリンクスなぞに手を出して、痛い目を見てるのもいそうなくらいだ。
そんな連中に『魔物たちは人間の言葉が通じる』なんていう情報を与えてみろ。
ただでさえ『自分ならば大丈夫』と何の根拠もなく、物語の主人公気取りでいる連中だ。どんな悲惨なことになるかわかったもんじゃない。
〔ボニーさんたちに突っかかってきそうですよねー、そういう人〕
というか、いたよ。リトスまで潜入したときは、幻惑狐たちがペット扱いで狙われてたし。
〔うわー……〕
グラミィがうんざりと顔をしかめたところで、ゴンドラが止まり、カロルとターレムたちが駆け寄ってきた。
最下層に着いたのだ。
(まってたー)
ありがと、カロル、ターレム。
……さて、いよいよここの主と、ご対面といこうか。




