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第一村人発見

 あたしが周囲を認識できてる理由はどうあれ、暗くても困らないというのはありがたい。

 こんな傾斜のきつい、道ってなんですかおいしいですかそれ、みたいなところですっころんだら、生身だって全身紅葉おろし的なダメージをくらいそうだ。

 ましてや、骨格標本に布巻いてみましたな今の案山子状態じゃ、衝撃でバラバラになりかねんものね。

 いやあ、杖借りてきて正解だったわ。


 足元があまりにゴロゴロした岩だらけなんで、ひょっとしてと見上げてみたら、案の定だ。

 どうやらこの山、全部が岩のようだ。

 崖というか事故現場の周辺もそうだったんだけど、全体的に樹木が少ない。ハゲ山というほどではないがウスラハゲレベルではあるのも、岩盤に根を張りきれてないからなんだろう。

 反対に、麓から平地にかけては遠目にも黒々として見える。

 かなり鬱蒼とした森のようだ。さすがにこの距離じゃ木の種類まではわからないけど。

 で、その岩山と森をつなぐように、あたしの脇を谷川が流れている。

 かすかな月の光を反射しながら流れる水は綺麗だ。

 下流の水源になってたりするのかな。源流っぽいのはまだ幾筋かあるのかもしれないけど、なるべく汚さないようにしとこう。森も潤してるんだろうし。


 さらに歩く。

 川沿いをルートに選んだのは、視界を遮るものが少ないから、何かがやってきたらすぐに見えるだろうという思惑もあってのことだった。

 けれど、野生動物との遭遇という、うっすら脳のない頭蓋骨の裏側をかすめていた事態は、今のところ起きてない。

 この場合運がいい、っていっていいのかなぁ。

 骨になっている時点で運はあってないようなものだと思うんだが。


 今後注意すべきはともかく、身の危険の回避だろう。

 生身の時より慎重にならねば。

 だってライフはゼロどころかマイナスレベルのこの状態。

 それでも生きてる、と、あたしは思っているし、これからも思いたい。

 だけど、だからといってどこまで骨が砕けたら、あたしのこの意識は消失するのか、なんて人体実験はやりたくない。


 人体ていうよりその一部だけど。骨格しかないけど!


 川を挟んだ向こう側の方が、森が深いようだ。

 こっちを歩けないような状況にでもならん限り、そっちには渡らないでおこう。いのちたいせつ。あるかないかもわからないけどさ。


 二つの月がゆっくりと傾いていく。

 気がついた時は、寝転んだ状態でほぼ真上に見えていた。

 それが目測で45度くらいまで沈んできた。

 と、いうことは、この世界でも天体が球形で自転と公転が存在してると仮定した上での話だが、夜明けも近いのかな。

 ……うーむ、我ながら前提と仮説が長すぎる。

 早いところこの世界の知識が欲しいもんだ。そうすればすぱっとこう、物事も断定しやすいし、あたしがどう行動すべきかも判断つけやすくなるんだろう。

 でてこい、情報提供者ー!

 この状態をしでかした責任者でもいいぞー!一発どつかせろー!


 さらにてくてくと下っていううちに、月も見えなくなってしまった。

 木々の密度が上がって広葉樹の割合が増えてきたからだ。

 見下ろしていた森につっこんだんだろうな。

 ちょっと斜度も緩やかになった感じがする。


 あ、木の実発見。食べられるのかな。

 骨には食べられないけどね。


 食用になるような実なら……。

 このまま平野を目指す、という方向性はまちがってないらしいが、野生動物や人間との遭遇率は急上昇ってことになりそうだな。

 リス程度の小動物なら見つけてみたい気もするけど。

 ……いやいやいやいや。

 危険は回避なんだ、回避。


 足元も岩から土へとだいぶ良くなってきたことだし、なるべく早く森を抜けることにしよう。

 まだ暗いうちの方が、変装ともいえないこの怪しい格好をごまかせそうな気がするし。

 あたしは足を早めた。

 それでも息が切れないってラクなんだけど、切れる息がないのがちょびっとせつない。

 やっぱり、息してないんだなー、あたし。


 不意に、木下闇が薄れた。


 森を抜けた……わけではないらしい。円形状にひらけた場所に出ただけだ。

 でも、ようやく人造物を見つけた。

 それもけっこう大きい家だ!

 てゆーか、屋敷っぽい!


 ごくり、と息を呑んだ気分になる。どきどきするような心臓もないけどね!


(あの~、すいませ~ん)


(もしもし~)


(どなたかいませんか~?)


 一歩ごとになんて言おうか、ファーストコンタクトのテンプレートを考えながら屋敷に近づいていたあたしの前で、急に扉が開いて黒づくめのばーちゃんが出てきた。


 おおう、待望の人間だ!

 

(あのう、こんな早朝にすみません~)


「え……」


 なんか急にばーちゃんが固まる。


「に、日本語だぁあああ!」


 え?え?


「よかったぁ、日本語が通じる人だぁ!」


 皺だらけの顔をさらにくちゃくちゃにして、お年の割に結構な速度でつっこんでくる。

 だが断る。

 そっちがお年寄りなら、こっちは骨だ。

 衝撃を加えられるたらどうなることやら。

 試す気にはなれんので、とりあえずタックル回避。


 あ。フードがはずれた。


「って、ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ?!」


 ……えとあの。いきなり日本語で絶叫された上に気絶されても困るんですが。聞いてる?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] (カッコない)の文章は主人公の思考かと思ってたけど、 他の人に聞こえてるってことは、喋ってるの? 「カギカッコ」とどう違うのかな
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